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◆盲人にとっての真に自由な旅行とは?
これが、小説を思考する始めの一歩でした。2024年5月のことです。
徒歩3分のお出かけなのに、どこからともなく現れる自動車なる物体に脅かされ、側溝や段差、プランターと言われる物体に脅かされ、たった2メートルずれただけで推定迷子の危機に立たされる。
これらは、視覚障碍者が立たされている事実の一部です。盲学校や訓練施設では「乗り越えないと自立できない」と教育されることです。が、そうやって乗り越えようとした人の多くは命を落としたり、ひどい目に会って、でもどうにもならないのであきらめたりしています。
その結果、至った結論は以下の通りでした。
「道に迷わない絶対的な仕組みと、よくわからない物が原因で痛い目に会わないようにした上で、ゲームというやり直しの可能な世界を旅行すれば良いのでは?」
2024年9月、方針が決まったので、世界設定を検討の上で、執筆を始めました。
それから時間がかかりましたが、ここまで書き上げることができました。
◆執筆の心構え
執筆において大事にしたことがいくつかあります。
- 基本的に盲人らしさを出すこと
- ゲームとしての破綻が無いようにすること
まず、この小説は「盲人ゲーマーのMMO旅行記」なので、基本的に主人公の視点を大事にしました。
結果として、普通の小説で常識とされる風景、人物等の描写がほぼ皆無になりました。
盲人にとって「触れられない物」は「存在しない」と同じことです。また、人は触れることはできますが、だからと言って頭から足まで触れて意味があるのか?というと、そんなことはありません。触って個人を識別できるほど、人間の触覚は万能ではないからです。
次に、VRMMORPGはまだ現実には存在していないけれど、実現した時、本当に遊べる可能性があるようにしました。それが、ゲームとしての設計です。
主人公が設定した技能「盲人」「鈍感」「正々堂々」は、作中の運営人が悲鳴を挙げるほど非常識な組み合わせです。しかし、システム的には「リスクに見合った対価」とされています。
ゲーム内で登場する盲人たちは、他のファンタジー小説で登場する盲人のように、聴力やその他の感覚が強化され、まるで健常者のように振る舞っています。第10章で共闘したノンノリアの武具屋に勤めていたモールドワーフ「ザッポ」などはその典型例と言えるでしょう。
そうしたリスクと対価の関係で成り立っている世界であるため、主人公は理想的なビルドを実現し、旅行を楽しむことができたのです。
逆に言うと、それ以外の設定は、ゲームとして普通の範囲に収まるように設計しました。特に数値が出てくる情報は、実際に計算のためのプログラムを組んで出しています。まぁ、細かいドロップだとか熟練度の内部数値みたいなものは冗長になり過ぎるので出していませんが…
主人公であるユーは技能的には堅いですが、ステータスが特別高いか?というと、そんなことはありません。むしろ、通常のプレイヤーや住民が取れる適性、技術、さらに各種耐性技能を取れないため、最終的なベース増分値は劣る可能性すらあります。「五感維持」によるベースの大幅増加には、その辺りの補填が含まれています。
そもそも、ユーのプレイ時間を考えたら、こういう結果になるのは妥当と言えるでしょう。今回の期間中にユーが費やしていたゲームのプレイ時間は、4倍の時間加速を踏まえると2000時間近くになります。これは、週休二日の社会人が平日に4時間、休日&祝日に8時間のペースでゲームを遊んだ場合の約1年分に相当します。
それを、リリースされて1年後の、主要な情報が充実したゲームでやるのです。そりゃ、強くなるし、攻略も進むというものです。それ以上に、「1年分のゲームを1カ月程度」に丸められる未来のVRMMOって凄いですよね。
◆最後に
執筆を終えた感想を一言で言うと、「楽しかった」です。
世界設定、第4章くらいまでの道筋、真理、旅行中にやりたいことなどは最初から決めていたのですが、第4章以降の旅行ルート、細かい登場人物や街滞在中野イベントなどは、思いつくままに書いて行きました。
ただ、「4月~5月のGWという旅行期間で全てを実現する」には、時間が足りなかったようです。
最初に想定していたエンディングは、「W5の街に至り、闘技場でサブマスターのリーネさんと勝負し勝つ」ことでした。能力的につり合うのがそのくらいだろう?と考えていたからです。実際には、ユーが強くなってくれたので、そのイベントは第11章で適ったわけですが…
一方で、「最後を温泉で閉める」という結果になったことは、「旅行記」としては好ましかったとも思っています。ゲームだから戦闘はするけれど、「旅を楽しむ」が目的の小説ですからね。
今後ですが、まだまだ旅行できていない場所があるので、続編はあるかもしれません。ただ、4月1日から始まった旅行記は、いったん終了とします。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。