1-1 プロローグ

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3月も後半に差し掛かったある夜、俺はメールを開いていた。

「お、返事来た。どれどれ?」

最新のVRとAI技術が話題になっている某ゲーム会社。1年前に発売されたフルダイブ型VRMMORPGが大ヒットを飾り、乗りに乗っているという。

そんなゲームについて、各種質問をまとめ、問い合わせを出したのが昨日。そして、AIの解答という前置き付きで、返事が返ってきたのだ。

Q. メニューへのアクセス、アイテムの使用に思考入力や音声入力はできるか?

A. 可能。ただし特定のステータス異常では制限される場合あり。 (例: 沈黙状態では声が封じられるので音声入力できないなど)

Q. ゲーム内の通知を表示から音声に切り替えられるとのことだが、通知内容に応じてOn/Offはできるか?例えば、HP、満腹度、装備耐久力、特定エリアへの侵入、時報、ログイン制限、イベントの告知。

A. 例に挙げられている項目は個別に設定が可能。その他の項目については、ワールドアナウンスのような重要な通知、現実のプレイヤーの身体の異常など安全に関わる通知など、無効にできないものはあるが、それ以外は設定可能。

Q. 種族や技能の影響で視力を含めた感覚機能が低下している場合、住民、モンスターを含め相手にはその通知はあるのか?

A. 特別な通知は無い。ただし、相手の状態を鑑定できる技能を通して知ることが可能な場合がある。

Q. パートナーとされるナビーにはどこまで助けてもらえるのか?例えば、町村内の施設の案内、屋内外の道案内、先導、接近するモンスターの案内、戦闘補助、人や素材の探知など

A. 町村内の施設案内や住民が利用する道の先導など、システムとして設定されている物であれば可能。一方で、戦闘をアシストする機能は無い。ナビーとモンスターとは相互に干渉できない。人、モンスター、素材などの探知も不可。

Q. 環境設定の項目が多いようだが、ナビーに問い合わせて、環境設定の変更を試みることは可能か?また、その際に、設定不可能な項目を要求するとどうなるか?

A. ナビー経由での環境設定の変更は可能。変更できない内容に対しては、その旨がフィードバックされる。

Q. 鑑定技能は、相手を視認しなければ使えないのか?

A. 技能「鑑定」は、対象の姿を視認するなどして明確に認識することが必要。なお、視覚以外の方法で鑑定する技能は存在している。 (例: 触鑑定、匂い鑑定、心音鑑定)

Q. 店にあるものに手などが触れた時、購入や窃盗の判定になるか?

A. 店員との交渉結果による。現実で許されている行動は基本的にセーフ。 (例: 商品を鑑定するために手に取る、試着のため店員に指定された商品を着用する など)

Q. 手などが激しく損傷したら、死に戻りや接合、再生治療などをするまで元に戻らないのか?

A. 通常はその通り。なお、低年齢層向けの機能として、該当部位を用いた行為にペナルティが課せられる代わりに、物理的な損傷を追わないようにする機能はある。

Q. 白い杖に特別な意味はあるか?

A. 地域による。住民に聞いてみることを推奨する。

Q. まとめウィキやプレイヤー動画といったユーザーコンテンツが充実しているが、ゲーム内でこれらについて言及できるか?

A. プレイヤー同士の会話においては、規約に抵触する事項でなければ特に制限は無い。住民はそれらのコンテンツを感知していないので、そのままでは通じないと考えられる。

Q. 通知音を聴取できるように、周囲の音の音量を調節することはできるか?

A. BGM、環境音、通知音、ボイス、その他効果音というカテゴリー毎に音量の調整やミュート操作が可能。ただし、通知音別の音量調整は不可。

「よし、改悪も無し。これなら行けるぞ!」

結果を確認し、笑みがこぼれる。やりたかったことができそうだ。

その日の内に、ネットにてハードとソフトを購入。

近場のお店で扱っていたらしく、翌日には宅配便で届けられた。

半年ほど前に、俺はそのゲームに出会った。きっかけは、ニュースサイトで話題になっていた実況動画だった。

動画を聴取した俺は、心から遊んでみたいと思うようになっていった。理由は以下の4つだ。

  1. ゲーム内では、存在している物体にちゃんと触れたり、食事をしたり、住民との対話を楽しんだりできる。
  2. 自然や住民、AIなどが豊かに描かれている。中身が人間と言われてもおかしくないほどらしい。
  3. キャラクリエイト時の制約が少ない。相応のデメリットを背負う覚悟があれば、最初から望む能力を持ったキャラを作れる。
  4. ゲーム内の開拓が進んだことで多様な遊び方ができることがわかってきた。しかも、実況動画、まとめウィキなどで、その一端を知ることができる。

ゲーム自体は、発売から1年が経過したため、キャンペーンイベントの類はだいたい終わってしまった。

だが、サービスは来月からも1年継続されることが決まっているし、キャンペーンだのボーナス特典だのには興味は無い。

今務めている会社は、いわゆる受託企業だ。3月までは、お客様となる企業が、予算消化と称してたくさんの仕事を出してくれた。おかげで、メールも、ゲーム購入も、会社のトイレで済ませている。

一方で、、4月からは仕事がめっきりと減る。新年度になると、世の中でいろいろ変わるものだ。その変化が安定するまでは、予算も自由に使えないのだそうで。

だから、思い切って、4月に年休を突っ込んで、ガッツリとゲームで遊び倒すことにした。なんだかんだ言って、夏や冬は忙しいし、ある意味で新年度の変化というのを堪能できるだろう。

あと、入社が5月であるため、5月になるとまた年休が復活する、というのもある。4月で足りなければ、連休明けもゲーム三昧と行こう。

盲人であるが故に、現実だと命がけになり過ぎてできない自由な冒険旅行…

そのために必要なピースが揃いつつある!