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「E6 草木に飲まれた地 イール に入りました。」
ヒマラン大草原の東端から東へ向かった俺たちは、ついに第6マップに踏み入った。
しかし、聞こえてくるのは鬱蒼とした森の音だ。入口は安全地帯になっているし、転移地点にもなっているのだが、人がいる気配は無い。
「主人。ここは静かだが、森の奥ではモンスターの気配がある。ここは安全なのか?」
「雷探知のような索敵さえしなければ安全だな。だが、森に踏み入れば、モンスターは突っ込んでくるだろう。」
「そうか。では、準備ができたら進むのか?」
「いや。この先に進むのはもう少し先だな。今の俺たちでは能力が足りない。」
東の第6マップの名は「草木に飲まれた地 イール」。かつて、ここには街があったのだが、200年ほど前にモンスターによって滅ぼされたらしい。そこから200年の間に草木による侵食が進み、今では所々に遺跡のような面影が残るような状態になっているそうだ。
そんなマップなので、ここには街も施設も無い。プレイヤーにとっての次の街は、この森を東に超えた先、第7マップなのだ。
当然、先に進むのが冒険者のあるべき姿だろう。プレイヤーもそうやって超えていったのだ。
だが、ここから先のフィールドは、モンスターがガツンと強くなるため、今のレベルでは少し厳しい。
まず、多くのモンスターが、中級でも行為、場合によっては上級の技能を使い始める。また、即死や未了、石化など、受けると致命的な状態異常も使い始める。
例えば、この森の中には、俺が以前「虫の闘技場」で戦った「腐り蜂と停滞の嬢王蜂」がお供付き、場合によっては複数セットで出てくる。闘技場では、単体でのバトルだったので「陣気」で腐り蜂を枯らす戦略が使えたが、お供の出てくる森の中だとちょっと問題がある。
また、北の第6マップでは、その辺のモンスターがデスタッチや完全凍結攻撃をしてくる。さすがに、雨あられという… いや、アレは5匹くらいで群れてくるから集団デスタッチという悪夢もあったな。要は、そんな感じのヤバさなのである。
もちろん、ザコモンスターでそんななので、フィールドボスもガツンと強くなる。基礎能力値は平気で3桁を超えるし、追い込むと「溢気法」のような超強化系の技も使ってくる。
ちなみに、E6のフィールドボスは植物系の精霊だ。秒間1%もHPが回復する技能を持っている上、上級魔法で攻撃も防御もしてくる。一応、炎が弱点ではあるが、レベルが足りない。まとめウィキの情報では、炎魔法レベル35くらいが最低ラインとされていた。
まぁ早い話、そろそろソロプレイの限界が迫っている、とも言える。ルーウェンたちのようなプレイヤーも、基本はパーティで行動し、何かとイベントがあり、一人で事足りる時にソロプレイをしているらしいからな。
なお、この表現は、固定パーティを組むことを意味してはいない。現地のプレイヤーや住民と野良パーティを組む、ということでも良いだろう。それこそ、先日まで共闘していたアヤも選択肢には入る。
「大草原のモンスターよりも一段と強い気配だ。我の力よりも上だと言うのか?」
「1対1ならブレイオでも勝てるとは思うぞ。だが、これが2対1、3対1と増えると厳しいだろう。俺も同様だな。」
あとは、処理能力の問題というなら、「新たに戦闘用のゴーレムを手に入れる」ことも選択肢に入ってくる。強さで言えば、ブレイオのような召喚石系のモンスターに軍配は上がるのだが、育てる手間がネックになる。これに対しゴーレムは、能力や技能レベルがプレイヤーに依存するので、資金を注いで役割を決め手やれば、即戦力になるのだ。
あとはブレイオ共々技能の育成だろう。耐性の充実や、ベースが増える系の支援技能いくつかだ。例えば「森の心」や「山の心」、あと「氷の心」辺りが狙えそうだ。ブレイオにも、「海の心」や「滝の心」を取らせるのも一考の余地があるな。
そこまで考えた時だった。近くで、「カン、カン」という音がした。さっそく放っていたおくたんが何かを見つけたようだ。
俺は、音のする方へと近づいていった。すると、杖が木に触れたので触鑑定。
幻の木:
種別: オブジェクト
説明: 実体があるように見える木。伐採斧を宛がうと消滅し、背後に隠された道を示すだろう。
どうやら、安全地帯から近い所に、隠しポイントがあったようだ。そういえば、おくたんには「偽装看破」を与えておくのは良いかもしれないな。いや、別に要らないか。
俺が木に触れた後、おくたんはそれを伐採。例によって、木が倒れる音を出しながら引っ込んでいった。まとめウィキには、この森にも宝箱や隠し通路がある、とあったな。全部マップ表示だったから、座標は知らないんだけれど。
「E5 ヒマラン大草原に入りました。」
「条件を満たしたため、フィールドが変化しました。」
どうやら、 E5 側に少しはみ出ていたらしい。真理が何か言っているが、さっき「草原を統べる獣」に遭遇した影響だろう。トマの塔でも、3層に入る都度、通知があったから、その類だと思う。
で、杖が宝箱に触れた。少し先も探ってみたが、行き止まりになっており、宝箱の先には行けないようだ。そして、触鑑定した宝箱も普通だった。
人霊の召喚石:
種別: 召喚
説明: 人霊が封印された召喚石。召喚技能を持つ者が適切に使用、契約することで、持ち主を助けてくれる。
いや、中身が普通じゃなかった。入口近くの隠しポイントだから、良くて何かの種、悪ければ次のマップで買えるような素材が入っているものと思っていた。
ただ、以前の「幽鬼の召喚石」ほどのインパクトは感じなかった。というのは、まとめウィキで、「人霊」のモンスターグループの情報を読んだことがあったからだ。
「人霊」とは、人型のゴーストの総称だ。ただし、実体の無いゴーストもいれば、肉体のあるスケルトンやゾンビ系なこともある。人に近い容姿で、言語を話せる場合もあるらしい。
そんな系統の召喚石が出てきた。隠し宝箱から出てきたので、特殊な何かではあるかもしれない。ただ、まとめウィキに載っていたので、既出のモンスターである可能性は高いだろう。
それにしても、ここに来て召喚石か。こいつを解放して育てろ、ということなのだろうか?
今、欲しいのは、少なくとも集団に遭遇した時に1匹以上を受け持ってくれる戦闘能力だ。あと、俺やブレイオは、植物系との相性が良くないので、それらに対し相性の良いものがうれしい。例えば「雷の相性保管」と言われている氷属性だな。
「主人。その召喚石には、何が眠っているのだ?」
「俺もわからないな。久しぶりに、カイムさんに聞いてみるべきだろう。」
「そうか。我には、その石に眠るのは、この地に通じ何かだと思うぞ。」
「それは、あるかもな。となると、今ここは草原だから、旅人の霊か。いや、旅人の霊なんて挙げだしたら切りが無いかもしれないけどな。」
まぁとりあえず、譲渡できないようなので、カイムさんに見てもらうとしよう。もしくは、検証班だろうか?その前にまとめウィキか…
ちょうど、時間も夕方だったので、今日はここでログアウトした。そして、俺はまとめウィキを開き、検索を始めたのだった。