11-02 検証と召還石の行方

改定:

本文

「ユー様、おはようございます。」

「おぉ、ユーさん、おはよう!」

「待っていたよ。」

ログインしたら、ナビー以外からも挨拶された。例によって検証班のカナミーと、まとめウィキ住民のアステリアだ。

昨晩、まとめウィキを探したのだが、E6の宝箱一覧に、「人霊の召喚石」が出てこなかったからだ。その件は二人にもフレンドチャットで報告してある。

「カナミーさんは、キトル村以来だな。防衛戦イベントでは合わなかったし。」

「そうだったね~。あのお祭り、トッププレイヤーも敵味方に入っていて、凄い盛り上がったんだよ。それと、もっと重大なニュースだよ。もう公開してるから教えちゃうね。」

続けてカナミーが語ってくれたことは、西と北の第11マップ解放条件が揃った、という報告だった。現在は、レイド級フィールドボスの討伐に向けて、威力偵察が行なわれているらしい。

このゲームがサービス開始してから1年… プレイヤーが解放できたマップは、第10マップまでだった。しかも、南については、まだ第8マップまでだ。

結果、プレイヤーの上限レベルは、 75 で止まっている。これが、 第11マップ 解放によって、さらに上まで伸ばせる可能性が出てきているのだ。そりゃ、前線組は歓喜するだろう。

「それはめでたいな。できれば、第11マップ解放によって、下位マップの生産武具が安くなってくれると助かるな。」

「アハハ。後続にとってはそうだよね。まぁ、第5~第6マップ辺りだと変わらないかもだけれど。」

「まぁそうだろうな。」

前線のマップ開拓が進むのは良いことだと思う。それによって新しいアイテムや戦術、場合によっては職業の運用を変え得る何かが発見されるからだ。また、そこで発見された成果が他マップに持ち込まれることで、後続のプレイヤーに恩恵が齎されることもある。

と、一通り近況を交換し合った所で検証開始だ。

まずは、「イール」から「ヒマラン大草原」に入った場合に通知されるフィールド変更メッセージと、その影響を検証した。

結果、「真理」によって、周辺にあった障害物が消えて、広い敷地のようになることがわかった。ただ、それ以外には変化が無かったため、「フィールドボスと戦闘するのに都合の良いフィールドになる」という解釈をするのが妥当なようだ。

次に、おくたんが見つけた隠し宝箱についてだ。これ自体は、「採集」技能を育てているカナミーでも見つけられるものであり、幻の木を伐採すれば宝箱が見つかることも同様だった。

まとめウィキの情報によると、そこに入っているのは「滅び草の種」であるらしい。つまり、俺が宝箱を開けた時に、内容が変わっていたことになる。これは、「プレイヤー毎に同じ宝箱が用意される」システムと矛盾している。

実際に、アステリアに単独で入って宝箱を開封してもらうと、「滅び草の種」が入っていた。「滅び草の種」は北のマップで入手できる素材なので、アステリアはこの宝箱を無視していたそうだ。それも、彼を検証に誘った理由だった。

そこで、俺とカナミーでパーティを組み、再びアクセスしてみた所… カナミーが「人霊の召喚石」を入手できた。同じく、アステリアともパーティを組んでみた所、同様の結果になった。

「おぉ!出たよ!出たよ!召喚版出たよ!しかも人霊!」

「同じ座標に宝箱が重なっていたら、こういうことがあるのか。厄介だな。俺には種の方が取れないわけだし。」

「そうだね~。他の宝箱にもそういうギミックあるかな?ユーさん、検証、参加しない?」

「切りが無いから断る。」

「とりあえず運営に要望をしてみると良いと思うよ。1プレイヤー1個と決まっている固定の宝箱で、こういう状態になっているのは変だし。」

というわけで、運営に問い合わせをした。その内に何らかの変身をくれるといいな。

「ところでアステリアさん。その種、鑑定させてもらってもいいか?」

「あぁ、かまわないよ。特別な種じゃなかったけどね。」

せっかくなので、アステリアから種を貸してもらい、鑑定をしてみた。その結果…

滅び草の種:

種別: 素材・スポットアイテム

説明: 地面に植えると、範囲内の植物を弱体化させる。

真理: この種は、はるか北の地から運ばれたものである。最悪に飲み込まれた故郷を取り返すために。しかし、その願いを適えるには、持ち主は弱かった。放たれた影の手により、故郷を前に力尽きた。

品質: 5/10

こっちも普通じゃなかった。

「うわ!そんなフレイバー出るの?」

「ふ~ん。このフレイバー、飲み込まれた故郷というのはこの森のFボスなのかな?滅び草の種の効果的に。」

「そうかもしれないな。確か、これを使うと 大いなる自然の恵み も弱体化するんだったか。」

「するね。でも、影というのは、何だろう?大草原のモンスターかな?」

「それには思い当たるフレイバーがあるな。えぇと、確かコレか…」

種の持ち主が力尽きた原因というのは、大草原のモンスターか、または E5 のフィールドボス「草原を統べる獣」の可能性が高い。宝箱が E5 にあったことがそれを示唆していると考えられるからだ。

「その実態は、木々に飲まれた地より放たれた影であり、旅人を推し量ってきた。弱ければ安息地諸共消し去るため、強ければ森に招き、新たな生贄とするため。しかし、入口に配した守りを破り、森に手を伸ばす者が現れた。彼らは抗うだろう。」

「おぉ!コレ本当?Fボスにこんな繋がりがあったんだ~。」

「なんか、チェンクエやっているみたいで気になってきたね。となると、召喚石の方も、無関係ではないかもしれないか。」

ここまで考察した所で、先ほどの問い合わせ結果について運営から返信があった。どうやらバグだったようで、結論は以下の通りになった。

  • 該当フィールドを宝箱2個分のスペースに拡張した上で、条件を満たしていれば宝箱が増えて、両方を開けられるようにした。
  • 報告のお礼として、宝箱が座標的に重なっている場所は他には無い、故に過去の宝箱の前で検証する必要は無い、ということも教えてもらえた。

「って、あ!いつの間にかスペースが広がってる!」

「そういえば、処理したという返事だったな。ということは… お、宝箱が現れてる。」

まさか、プレイヤーがいる空間で宝箱が生えてくるとは思わなかった。もちろん、中身はアステリアが入手したのと同じ「滅び草の種」だった。「真理」のテキストまで含めて完全に一致しているようだ。

「ユーさん、情報ありがとう。これは真理検証チームで共有しとくよ。ところで、この召喚石はどうするの?」

「そうだな。せっかく手に入れたし、とりあえず召喚士に話を聞いてみる予定だ。場合によっては解放して育成するぞ。」

「ブレイオに続いての召喚獣か。ユーさん、またレアモンを引くんじゃないかい?」

「いや、過去イベントで配られたか知らないが、ウィキに同名のアイテムあったし、情報も充実していたと思うぞ。だから、出てくるのはわりと普通なんじゃないか?」

「言われてみればそうか。僕は、もうちょっと調査してみるよ。そして、悪いんだけど、ここで失礼するね。」

「わかった。何か経過があれば報告は」

「カナミーから聞くよ。どうせ検証するんだろうし。そう顔に書いてある。」

そう言い残して、アステリアは去ってしまった。忙しい中来てくれたんだろう。感謝だな。

「あ、行っちゃった。それにしてもひどいよね。あたし、そんなに検証したそうに見えるのかな?」

「さっき、宝箱の重複について検証しよっか?って言っていたけどな。」

「え?あっ!き 記憶にございません!」

「そういうのは、もっと自信を持って発言しような。」

それはそうと、この召喚石の扱いについて検討が必要だろう。

詳しくはカイムさんに聞いてみる必要はあるが、どうせ召喚獣として育てるなら、能力が高くなる上に方向性まで定義できる「古式召喚」を用いるべきだろう。そうなると、ネックになるのが奉納するアイテムだ。

以前、ブレイオを復活させた時には、5つのアイテムを奉納した。もし、同じ方法になるなら、同様に5つのアイテムを確保しなければならない。

一つは間違いなく、「滅び草の種」だろう。同じ所にあったし、「真理」が反応したので、関連のあるアイテムとして扱うべきと考えられる。

ただ、残り4種の素材の心当たりが無い。正直、何が出てくるのかわからないから、今すぐに集める必要は無い。ただ、「滅び草の種」と合わせるなら、持っている素材だと相性が微妙そうだ。ホムクの氷っぽい素材が多少使えるだろうか?

「ねぇ、ユーさんは、N4をクリアしたって言ってたけど、あそこのエクストラはまだなんだよね?」

「そうだな。当時、方向が同じだったプレイヤーと野良パーティは組んでいたが、エクストラを狩れる条件は揃っていなかったからな。」

「それじゃ、今回の情報のお礼に、検証班でバックアップするよ。エクストラの報酬なら、相性が良いと思うんだよね?」

N4のエクストラボス「戒めの氷帝」か。確かに、「滅び草の種」が氷属性素材だから、相性が良さそうなのがわかる。ただし、ヤツを倒すなら、やはり完全凍結がネックになりそうだ。

「呼び出すことに協力してもらえるのはうれしい。だが、まだ凍結への耐性技能が生えてなくてな。」

「えぇ?首に巻いてるの、 凍らぬ花のマフラー でしょ?それと冷感耐性薬があれば、行けると思うんだけどなぁ。それに、その装備とレベルなら、マフラー撒いて、雪原で抵抗取れば良くない?」

「まだ雪原に行ってないんだ。雪原を抜けるまでには抵抗は欲しいから、俺も同じことは考えていたぞ。」

「それなら任せてよ。そこからやっちゃおう。抵抗なんてわりとすぐ生えるし。」

カナミーが言っているのは、耐性系技能の一つ「凍結抵抗」だ。凍結の回復は早まるし、相手とのレベル差によるボーナスもあるので、確かにそれがあれば、エクストラボスで即死という事態も解決できるだろう。

なお、習得条件はわりと簡単だ。モンスターとの戦闘で、「凍結」の付いた攻撃を50回受ければ良い。楽なのは、雪原に出現する「スノーウルフ」が頻繁に使う「コールドブレス」を受け続けることだ。

「カナミーさん、ずいぶん協力的だが、なぜだ?」

「そりゃ、召喚モンスターの情報だよ?検証したいじゃん!」

「あぁ、そういうことか。そこん所はしっかりしてるのな。」

「うん。だから、準備しておくから、まずは古式召喚の話を着けてきてよ。」

「先に召喚石を持ち込んで話を聞くことは了解だ。ただし、あっちも住民だから、すんなり引き受けてくれるかどうかはわからないけどな。」

その後、俺は久しぶりにナザ島へと向かった。

「ユーか。先日、ヒマランの防衛に加わったと聞いているよ。」

「あぁ、防衛戦な。そうか。各町のギルドからも救援が集まっているということだったか。」

「その通り。それにしても、後ろのブレイオはずいぶん成長したようだ。中位精霊の域に達しているか。」

「カイムさんの視点だとそういう判断なんだな。おかげで、ブレイオは強くなったと思っているぞ。」

「解放に携わった者としては喜ばしいことだ。今後も引き続き愛情を持って接して欲しい。」

「そうする。ところで、本題良いか?実は、別に召喚石を手に入れてな。」

ナザ島の冒険者ギルドにてカイムさんへのアポイントを依頼したら、すんなりと会わせてもらうことができた。

そして本題。俺は、召喚石を手に入れた経緯や、草原を統べる獣、滅び草の種などに残されていた真理の話などをした。

「イールか。先日の防衛戦は、犯罪者も関与していたようなので、裏でモンスターを唆した者の存在を疑っていた所だ。ただ、草原を統べる獣が、今も旅人を推し量っているのだとすると、何かはあるのかもしれないか。」

「そうだな。ただ、イールに進むためには俺たち自身がまだ弱いから、他地域で力を付ける予定だ。」

「そうか。それで、この召喚石だな。では、今わかることを伝えよう。また、望むなら、解放の儀式にも協力しよう。」

その後、カイムさんから教えてもらったことは、以下の通りだった。

  • この石板は、アンデッド、ゴースト、妖精など、多様な種族に繋がっている。「古式召喚」で解放する場合、奉納するアイテムによって、最終的に召喚されるモンスターの方向性が決められる。
  • 「滅び草の種」を合わせるなら氷属性、且つ、魔力の強い素材が好ましい。
  • 残りの素材は、方向性を決めるものであれば良い。
  • 人型のモンスターを望むなら、遺品、ゆかりのあるアイテム、あるいは武器防具を奉納することが望ましい。
  • 解放の費用は25万pで良い。