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「ユーさんは、ここで待っていてね。モンスターは狩っていいけど、ボスはダメだからね。」
「そうだな。連絡はチャットでくれるんだったな。」
「うん。検討を祈ってるよ。」
ここは、ホムクの試練洞窟の2層。そして時間は夜だ。
ナザ島で召喚石について話を聞いた後、俺はホムクにてカナミーと合流。「N5 キースノーズ雪原」に入り、ブレイオと「評決抵抗」の獲得に励んだ。カナミーが、スノーウルフのトレインと露払いをしてくれたおかげで、安心して技能の獲得ができた。
その後は、ルーウェンにも参加してもらい、3人でホムクの試練洞窟へ突入した。俺が2層で待機、二人が1層、3層、4層のボスを狩ったら、俺が2層のボスを狩る、という手順で条件を満たす予定だ。なお、手順の関係で、一度1層~2層のボスを狩る必要があるため、作戦の決行は明日になる。
ということで、今日は洞窟の中で鍛錬をしたり、リビング系を狩って素材を集めたりして過ごした。召喚の費用は既に支払い済みであるため、ヒマラン大草原の不要素材を売り払った後の手持ち資金が5万pを下回っているためだ。あと、召喚できるモンスターが武装可能なら、俺は武具を装備させたいと考えている。そのためにもやっぱりお金がいるのだ。
翌日の昼… カナミー、ルーウェンよりチャットが入った。1層、3層のデーモンを狩ったとのことだ。
そこで、俺はスモークテントを転回して、ブレイオと入った。無いとは思うが、俺たちが戦闘状態のままカナミー、ルーウェンが脱出した場合に、「パーティメンバーを見捨てた」みたいな良くないものが生えたら困るからだ・。なお、万が一生えた場合は、3人でギルドに行って、俺が事情を説明すれば解けるとは思う。
「4層のデーモンを倒したので、私たちは転移の札で脱出しました。ルーウェンからも対応完了の報告を聞いています。ユーさんの健闘をお祈りします。」
「了解。」
テントに入ってから2時間後、カナミーより予定通り連絡をもらえた。それにしても二人は早いな。まぁ、二人ともレベルの暴力でモンスターを蹴散らせるし、敏捷3桁だし、そんなものか。
その後、俺たちは最奥部へ向かい、2層のブルーレッサーデーモンを2倍くらいボッコボコにして倒した。なお、今回はクールタイムの長い技の使用を避けたため、いつもより通常攻撃を増やしている。2倍のボッコボコというのはこのためだ。
「条件を満たしたため、フィールドが変化します。」
その通知の後、一瞬で周囲が凍り付いたような音がした。この音は動画で聞いた通りだった。特殊な戦闘空間へ移動するための演出らしい。
ただ、音とは別に、空気も急激に冷えたような印象を感じる。確か、周囲が氷の壁に囲まれているんだったか…
「この地に眠る悪魔。それは我が施した封印にして、北に潜む脅威を止めるための守り」
「そして我は、封印を守るために4つの守り手を配した。そして、それでも北の脅威に挑む者へ試練を与えてきた。」
耳に直接響くような声で、年老いた男の声がする。魔道士の爺さん… に近いだろうか。
「しかし、貴様らは、全ての守り手を取り払った。守り手無き今、この地の主語はならない。」
「よって、我は貴様らを裁こう。氷の戒めにて、しばし守り手の代わりとなるが良い!」
「氷と炎の属性耐性付与!真理の守り!ブレイオ、広雷だ?」
「心得た!」
というわけで戦闘開始だ。とりあえず、俺にはヤツがどこにいるかまだわからないので、ブレイオに先行してもらう。
「戒めの氷帝」、通称「氷帝」は、氷属性の魔法使い系なのだが、同時に炎属性魔法も使う。「熱を操作して凍らせる」に近い要素なのと、単純に氷属性の耐性だけ付けて挑んだ愚か者への対応だろう。氷属性耐性装備って、炎に弱いから。
あと、ブレイオに「真理の守り」で幻影無効を付けておく。霧を作ってあちこちを移動するのだが、この霧が幻影に該当するからだ。これで、ブレイオはヤツを見失うことなく追えるだろう。
「凍り付け!」
と、正面から突然声がして、俺に何かが触れた。いきなりのフリーズタッチのようだ。
だが、少し冷たさを感じたが被害なし。しっかり抵抗で防いだようだ。
俺は相手を掴み、滝落!そして、両手に纏水を付けて右手で魔揺拳!左手で破魔!そのタイミングで、触鑑定の結果も得られた。
戒めの氷帝:
種別: モンスター・エクストラボス・精霊
レベル: 30
HP: 93%
状態: 敵対, 魔力不安
説明: ホムクの試練洞窟を主語する精霊の眷属。氷と炎を操ることで、この地に眠る悪魔の封印を維持してきた。
真理: かつては、雪と共に歩み、見守る存在であった。しかし、その平穏は生み出されたダンジョンと悪魔によって消し去られた。生み出された悪魔は、北の地を覆う氷の力を引き入れ、この地を閉ざさんとした。存在は、この地を守るため、悪魔を更なる氷で封印すると共に、北の災いを取り除ける力ある者を招き入れた。
識別:
体力: 1800
魔力: 450
筋力: 30
防御: 90
精神: 75
知性: 75
敏捷: 30
器用: 30
属性: 氷、炎
弱点: 土、水
次の攻撃… と思ったら、触れていたものが溶けていった。どうやら、霧になってどこかへ移動したようだ。
このことから、移動中はスライムのようになるか、もしくは本当に水蒸気になっているのかもしれない。前者だったら、伝衝を試してみよう。
「氷の大地よ!」
「ブレイオ!たたき割れ!」
離れた所から、地面を凍らせてきたので、これはブレイオに割ってもらう。物理的に凍るようなので、地上攻撃で割ってしまえば良い。
俺の足元もいつの間にか凍っていたようで、地面が滑りやすくなっていた。とりあえず、しゃがんで地面に炎波付きのパンチ!パリパリと音がして、その後ちゃんと歩けるようになった。
「氷に閉ざされよ!」
おっと、氷縛か!なら、陣気で内側からはがしてしまおう。
で、近くにいたので、投落、土弾、最後に伝衝だ!
「んぐぐ!」
おっと、溶けそうだったので打ち込んでみたら、何やら痛そうな声を出したぞ。ダメージも4%ほど入ったので、溶ける直前の衝撃属性が特効入るのかもしれない。
その後試した結果、霧状になる直前は、特定の属性の攻撃しか通らない代わりにダメージが大きく増えることがわかった。ちょうど、ブレイオが落雷を叩き込んだらHPが5%も溶けていた。
「封印されよ!」
で、残りHPが20%以下になったタイミングで俺の前に出現、完全凍結攻撃を受けた。
結果、体に薄い膜の氷ができたのだが、動ける感覚はしっかり残っていた。なので、陣気で内側から破壊!正面にいたじいさんに、クール明けの滝落、土弾、伝衝を叩き込んだ!
そんな戦いを経て、無事に勝利。部屋中の氷がガシャーンと砕けるような音がした。この音は動画で聞いたことがある。
「我を超える者か。いいだろう。北の地へ赴き、脅威に挑むと良い。」
「そうしよう。あんたは、この地を引き続き見守っていてくれ。まぁ、できちゃったダンジョンが簡単に消えるとは思わないから、形は違うだろうけどな。」
「記憶に近づく者か。見守るにも、違う形がある。道理だな。」
「時間があるなら一つ教えてくれ。悪魔は、ダンジョンから生まれたのか?それとも、後から住み着いたのか?」
「ダンジョンは泡沫の世界。覗くことは適えど、住むことは適わぬ。」
その言葉の後、再び部屋が凍り付くような音がした。
「戒めの氷帝を倒した。経験値を2520獲得しました。」
「ブレイオがレベル33に上がりました。」
「N4 エクストラボスの討伐に成功しました。特別報酬が授与されます。」
「ダンジョン ホムクの試練洞窟 4層に入りました。」
最後に少し対話できた。どうやら、「記憶に近づく者」称号を持っている影響のようだ。あとは、真理で触れられた思い出のようなものを呼び起こしたのも効いたかもしれない。
ただ、エクストラ討伐報酬以外に特に変わった点は無かった。しいて言えば、レベル30のボスを倒して経験値がもらえたことか。
とりあえず、まとめウィキの情報通り、強制的に最奥の手前に移動させられた。カナミーたちによると、「ユーさんの足なら最奥ボスを倒して転移してもらった方が早いと思うよ?」ということだったので、遠慮なく挑むとしよう。氷帝としても、悪魔だけ残して帰られても困るみたいだし。
なお、手に入れたアイテムは以下の4点だった。ここのエクストラは既に狩られまくっているが、報酬が4個ということは、やはりソロ討伐の恩恵なのだろう。
氷隕石:
種別: 素材・隕石
説明: この世界に飛来した隕石の一部。氷の魔力を宿している。
品質: 6/10
氷銀の剣:
種別: 武器・剣
説明: 氷の魔力を宿した魔銀製の長剣。その刃は、氷の力を祝すと共に、氷をも切り裂く力も秘めている。
性能: 攻撃力40(斬), 耐久値: 700/700, 氷属性, 氷属性耐性貫通(中)
品質: 6/10
凍結耐性の技能書:
種別: 技能書
説明: 使用すると、「凍結体制」を獲得できる。
氷歌の楽譜:
種別: 楽譜
説明: 使用することで「氷歌」が習得できる楽譜。
「氷歌」は、詩人や舞踊系の職が使う技だ。氷に纏わる歌がセット化されていて、バフやデバフが揃っていたな。音波で氷を砕くのもあったか。なお当然のことだが、使うと全部を習得できるわけではなく、対応する技能を育てた時に生えていく感じだ。
それはそれとして、「凍結耐性の技能書」は、どうしよう。雪原では、ブレイオが辛そうだったので、ブレイオに習得させるのが良いかもしれないか。条件になっている完全凍結系の攻撃、ブレイオの防御力だと厳しいんだよな。