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「N4 試練の門村 ホムク に入りました。」
「お、ユーさんお帰り。能力的に行けると思ってたけど、ちゃんと戻ってきてくれて良かったよ。」
「待たせて悪かったな。」
「いいえ。チャットにて状況の報告を頂いていたので、問題ありませんよ。」
ホムクを倒して戻ってきたら、カナミーもルーウェンも待っていてくれたようだ。
確かに、俺が死に戻りした場合、リスポーン地点である転移ゲートに戻ってくる。つまり、試練洞窟の入口に戻るということは、ちゃんと勝利したということになる。
「完全凍結にはならずに済んだな。膜が張るくらいには凍ったから、耐性か、マフラーががんばってくれたんだと思う。」
「あぁ、それね。完全凍結だと、膜という感覚も感じ取れなくなるから、感じられている時点でレジれていると言えるよ。」
「そうか。凍結体制の習得は難儀しそうだな。アレ、10回は完全凍結されないといけないんだったか。」
「正確には、完全凍結からの復帰を10回だね。あと凍結攻撃を500回だから、けっこう命張ることになるよ。完全凍結したら、モンスターは割りに来るから。」
「はい。私もかつて、耐性習得のために何度か死に戻りしました。今となっては懐かしいですね。」
「そうか。なら、この技能書は、ブレイオに使うべきだな。俺が凍った時はブレイオに露払いしてもらえば良いが、その逆は無理だからな。」
「凍結体制」の習得条件についてだな。これも欲しい技能ではあるが、「完全凍結から強打されると即死する」システムなので、命をかける必要がある。
「おぉ!報酬で凍結体制出たか~。まぁ、ブレイオちゃんに取らせるなら、ありかもね。」
「だな。ちなみに、他の報酬と、ログも出しておくな。」
「う~ん、報酬は知ってるヤツだね。ボスの真理テキストは… へぇ~、なんかロマン感じるね。」
「だな。ちなみに、氷帝いわく、悪魔はダンジョンの側から出てきたらしいぞ。現世の生物がダンジョンで永住するのは無理なのだそうだ。」
「え?マジ?それ、超重要情報?いや、うん、でも、ダンジョンから湧きだしたモンスターが世界に溢れた設定もあるから、妥当ではあるか…」
「記憶に近づく者ですか。私はその称号を持っていないのですよね。真理が無ければ習得できないのか、はたまた違う要因か…」
「まぁ、今の所、フレイバーや世界設定を超えた類が無いから、ユーさんにお任せでいいんじゃないかな?攻略情報が発掘されたら話は変わるだろうけれどね。」
その後、俺はナザ島へ転移し、カイムさんへ解放の儀式の相談を進めた。
「必要な素材が集まったか。」
「あぁ。奉納するのは、この5点だ。」
「ふむ。剣、楽譜、胴衣ね。かなり具体的にイメージできる物を集めてきたか。」
「剣と楽譜がダンジョン産でな。それに合う素材を検討した結果、これになった。」
「なるほど。それと、この種は良いのかい?凍っているぞ?」
俺が今回選んだアイテムは、以下の5つだ。
- 滅び草の種: 今回の起点とするアイテム。
- 氷銀の剣: 人霊と相性が良い素材の一つ。俺もブレイオも適性が無いので、使った方が良いだろう。
- 氷歌の楽譜: これも人霊と相性が良い素材。やはり、俺もブレイオも適性が無いので注いでしまう。
- 霊布の胴衣: 霊布と精霊銀をルーウェンに渡して作ってきてもらった防具。なお、俺が入手したものではないが「氷隕石」も素材として使われている。
- 凍った種: 「滅び草の種」が封入された種。以前購入したが、溶かすのを忘れていた。氷属性素材として有効だし、ダンジョン産素材でもある。
「あぁ。この種には、滅び草の種が封入されていてな。確か、同じアイテムを奉納すると暴走すると聞いたことがある。だから、氷素材として使うことにしたんだ。これがダンジョン素材ということもあるぞ。」
「なるほど。確かに、同じアイテムの奉納は避けるべきだが、こういう抜け道はあり得るか。興味深い。」
「行けるなら問題無いな。それで、儀式の場所なんだが…」
「ヒマラン大草原の東、君が踏み入ったという、獣たちの場所が好ましいかもしれない。こちらとしても確認しておきたい。」
「そうか。氷属性寄りなら、雪原も選択肢に入るかと思ったが。」
「いや、この素材だと、氷属性を帯びるというより、氷属性を祝した力を振るえる、に向かうだろう。」
「なるほどな。それで頼む。」
ということで、次の目的地も決まった。
「うむ。リーネも連れて行くとしよう。予想通りなら、素早い動きと剣の師匠が必要だろう。アレでも索敵能力も優れている。」
「なるほどな。なら、リーネさんには俺から相談すれば良いか?」
「いや、こちらで連れて行こう。一応、ヒマランやイール近辺の調査だから、ギルド案件でもある。」
「感謝する。それと、防衛戦や、今回の件で協力してくれている者がいてな。同行させたいのだが、良いか?」
「かまわない。関係者であるなら、知る権利はあるはずだから。」
けっこうな大所帯になりそうだ。あと、リーネさんとカイムさんのセットに遭遇したカナミーが暴走しないかが心配ではある。さすがに、面と向かって非常識なことはしないと思いたいが…
「E6 草木に飲まれた地 イール に入りました。」
「お、ユーさん、来た来た!」
「お待ちしておりました。今回は我々も見学させていただけるとのこと、ありがとうございます。」
「関係者なら知る権利がある、ということだそうだ。あと、ルーウェンさんは、召喚石は手に入れておくか?」
「ぜひお願いします。実際の所、私が活用できるか否かはわかりませんが。」
ということで、ルーウェンと一緒に例の空間へ向かい、無事に条件を満たしてもらった。
ただ、ルーウェンの倉庫には、イベント報酬その他で手に入れた未使用の召喚石がいくつも眠っているらしい。この召喚石も、同様に倉庫送りになるのだろうか…
「待たせたね。おや?そちらは、ルーウェン殿か。」
「お久しぶりですね。ナザ島ではお世話になりました。」
「今回は、ユーの解放の儀式に協力していると聞いた。ルーウェン殿から見て、彼はどう思うかな?」
「この世界には、まだまだ私の知らない未知があることを教えてくれると共に、我々の開拓を助けてくれる存在だと考えています。後続の異人たちは、皆我々とは異なる視点を多く持っているものですが、その中でも彼は特質だと考えていますよ。」
「なるほど。こちらも、ユーの考え方には驚かされるものがある。今後の成長が楽しみだ。だからこそ、今回の儀式に噛ませてもらうことにしたわけだ。」
「俺としては、先輩たちが示してくれたレールを元に、俺なりに楽しむ方法を考えているだけだけどな。」
「おっと。本人の前で語るべきことではなかったね。失礼。」
言いたいことはわからないでもない。ただ、俺はこのゲームを楽しむために必要なことをしているだけに過ぎない。それが特質だと言うなら、もはや盲人と常人は、住んでいる世界、あるいは文化が違う、という類の話だろう。
「ところで、リーネさんの声が聞こえないんだが、一緒に来なかったのか?って、ん?」
「わ、やっぱりダメか!というか、こんなので枷付くの!」
リーネさんがいないと思ったら、後ろから何かが触れてきた。払いのけたら、リーネさんのイタズラだったようだ。そして、「真理の枷」が付いてしまったと…
「あ、えっと、私も今回ユーに協力しているカナミーです。よろしくお願いします。」
「アレ、君はどこかで… あ、思い出した。ソルットのお店情報まとめを納品してくれた異人か~。」
「アハハ、たぶんそうですね。ただ、私は調査が専門なので、お話するのは初めてかもしれません。」
「なるほど。ナザ島でギルドマスターをしているカイムだ。確かに、調査や分析を専門としているようだね。もし、機会があれば、ナザ島やサンバードの調査にも協力して欲しい。」
「え?私ですか?わかりました。詳細は、またギルドへ伺った際にお願いします。」
ということで、自己紹介はわりとスムーズに進んだ。それにしても、プレイヤーによって呼称や態度が変わること、あるんだな。アヤと住民のやり取りはあるが、それ以外のプレイヤーとの掛け合いはちゃんと観察して来なかった。
ルーウェンが「殿」と呼ばれていたのは、きっと何か助ける系のクエストでもこなしたか、あるいは格上であることをカイムさんが知ったんだろう。カイムさんが以前のレベル帯だったなら、ルーウェンには絶対に勝てないだろうからな。
その後、俺たちはヒマラン大草原の東端、俺がフィールドボスと戦ったスポットへ移動した。この変化フィールドは、俺が一人で入ると、カナミーからは見えなくなることが確認できている。だから、秘密の何かをするには都合の良い場所だったりする。
「ふむ。トマの塔でも経験したが、我々が出口だと思っていた通路が、モンスターによって変えられていたのか。」
「そういうことになるね。ちなみに、遠くに草原のモンスターや旅人の反応はあるよ。あっちからは見えていないのかもしれないけれど。」
「そうか。カイムさん、アイテムはコレな。お願いできるか?」
「大丈夫だ。安定もしているから、召喚の妨げにはならないだろう。」
その後、カイムさんによって解放の儀式が発動。ブレイオの時と同じく反応があった。
鋭い金属が突き刺さり、その後帯電した何かがうねうねと動いているような音になった。そして、そのバチバチうねうねしながら、何かが貯まっていく、あるいは次元が歪むような音がした。
その後、音は小さくなって行き、完全に聞こえなくなった。
「召喚石より 剣舞の幼魂 が誕生しました。」