11-05 剣舞の幼魂

改定:

本文

「おぉ、かわいい!」

「なるほど。捧げたアイテムの方向性ですか。」

「あ、ユーさん。連れていくよ。」

どうやら、召喚はできたらしい。「剣舞の幼魂」ということなので、いわゆるソードダンサーということになるだろうか。そして、ブレイオと同じく幼体のようだが、「魂」というのはいったい?

そんなことを考えながら、リーネさんに連れて行かれた。儀式の音がしていた辺りに向かっているはずだ。

ただ、出てきたモンスターは、声を出していない。しゃべらないのだろうか?それとも、何かは発しているが、俺にはわからないのだろうか?

「しゃべれるか?」

「ん?」

正面から声がした。ただ、言葉がわかっているようではない印象だ。

とりあえず、背が低いようなので、たぶん同じくらいの高さになるまでしゃがんでから手を伸ばしてみる。すると、何かが手に乗った。それは、件のモンスターの手だったようだ。

名前: 剣舞の幼魂

種族: 剣舞の幼魂

種別: モンスター・ゴースト

レベル: 0

状態: 正常

説明: 思念によって、肉体に近い実態を得た霊体。剣を持つ幼女の姿を取っている。

真理: 若き女は、失われた故郷を救うため、静止を振り切って旅に出た。しかし、故郷に戻ることは適わず、その魂は眠りについた。長い眠りの中で、当時の思い出を失った彼女は、今は、新しい心のあり方を求めている。

体力: 4

魔力: 6

筋力: 4

防御: 4

精神: 5

知性: 4

敏捷: 6

器用: 5

技能:

適性: 刀剣術1, 舞踊1, 歌唱1, 魔法(氷1), 採集1

技術: 伝信1, 魔力操作1

耐性: 冷気耐性, 凍結無効

特質: 幼魂態, 幼体, 樹木殺し

刀剣術:

受払

舞踊:

誘踊

歌唱:

氷歌(鎮静)

魔法(氷):

纏氷, 冷却

採集:

採取量上昇1

装備:

氷銀の剣, 霊布の胴衣

刀剣術:

説明: 「刀」や「剣」に分類される武器を用いた戦闘の適性。

舞踊:

説明: 魔力を込めた踊りを通じて、魔法を発動する適性。

歌唱:

説明: 魔力を込めた歌を通じて、魔法を発動する適性。

幼魂態:

説明: 実態を持つ幼い霊体の特性。身体以上無効、即死無効、精神異常弱体、光・闇属性弱点、浄化特攻、薬品無効、治療無効、MP自然回復増幅、HP自然回復縮小。

樹木殺し:

説明: 樹木、植物に対する有利特性。敵対した植物に対し干渉力上昇(中)、植物からの干渉力低下(中)。

どうやら幼女であるらしい。転生でもしたのだろうか?

それと、「伝信」は持っているが、幼鬼霊だった頃のブレイオと様子が違う。使い方がわからないのだろうか?それとも、何を伝えたら良いのかわからないのだろうか?

「ブレイオ。この子との話の補助はできるか?」

「心得た。まずは、主人から声をかけてみてくれ。」

ブレイオには「念話」があるので、語り掛けてもらうことは試しても良いと思う。ただ、いわゆるチューニングが必要であるらしい。

「俺の名前はユーだ。」

「ん?」

「今はわからなくてもいい。これから、一緒に知って行こう。いろんな所に行こう。」

「ん。」

俺は、乗っていた手を、軽くニギニギしてみた。

「俺の手はどうだ?ニギニギしていいぞ?」

呼びかけてみると、俺の手もニギニギされた。まぁ筋力が低いようなので、ニギニギというよりふにふにだけど。

少なくとも、ふにふにする手は止まっていないので、嫌ではないのだろう。俺の手を動かそうともしている。

「楽しいか?」

「ん。」

「そのまま遊んで良いぞ。これからも一緒だからな。」

「ん。」

手をふにふにしている印象としては、少なくとも嫌ではなさそうだ。まぁ、言ってもモンスターなので、本当かどうかはわからないけれど。

と思ったら、しがみ付いてきた。俺がしゃがんでいたため、抱きつくような感じになってしまった。

そうして感じたことは、触れている部分が冷たいということと、服を着ていることだった。今は、腕の辺りをふにふにしている。

あと、ブレイオと同様、匂いを感じ取ることができなかった。こっちは霊体にはならないはずなのだけどな。まぁ、ゾンビ系になると臭いが凄いらしいから、鼻が守られたという点では好ましいか。

とりあえず、しゃがんだままだとアレなので、立ち上がってみた。そうしてわかったことは、新調はたぶん100cmくらいということだ。そして、彼女は、俺に抱き着いたまま、あちこち触っている。興味があるのだろうか?

「そのままでいいから聞いてくれ。お前の名前は、 ラフィ だな。どうだ?」

「ん。」

「剣舞の幼魂 の名前が承認されました。」

どうやら、良かったらしい。彼女が自らの意思で肯定したのかどうかはわからないけれど。まぁ今は嫌でなければそれで良いだろう。

なお、「ラフィ」とは、「愛情」を意味する「Love」から付けている。「真理」から読み取れた限り、愛情を求めているように読み取れたからだ。

「ラフィ。ここにいるのは仲間たちだ。挨拶してくるといい。みんな優しいぞ。」

「ん?」

ラフィは、俺に抱き着いたままだったが、しばらくすると自分から離れた。ブレイオ経由での伝信が始まったことで、考えが伝わったのだろうか。

その後、この場へいた人へのラフィの照会が始まった

最初は、ブレイオによる伝信講座になった。ブレイオの声は俺にも感じられるようにしてもらったが、外からは無言のやり取りに見えるかもしれない。

その後、ブレイオの力を狩りつつ、順に話をしていったようだ。ラフィは、「ん」とか「ん?」とかしか言ってないみたいだけれど。

「ラフィちゃん、かわいいね。ユーさん、あんな子を召喚できるなんて、凄い引きだよ。」

カナミーから声をかけられた。

「ん?カナミーさんか。ラフィと遊ばなくて良いのか?」

「さっき話したし、こうやって観察するのも大事だから。でさ、ユーさんは、あのかわいさ、どう思う?」

「かわいいか。まぁ幼女が出てきたんだろうからな。」

「さっき抱き着かれたのに。ユーさんは、女の子のぬいぐるみとか持ってないの?」

「ぬいぐるみか。子供の時には触れたことはあるな。飾り付けやドレスアップのできるタイプだった。」

「たぶん、そのイメージでいいんじゃないかな。まぁ、さっき抱き着いていたし、触っちゃえば?と思うけどね。服も着ているし。」

言われて気づいたが、ブレイオも含めて、温泉に入ってみるのはありかもしれない。ラフィには「冷気耐性」はあるが、熱への弱体は付いてなかった。お湯の深さを調節できるらしいので、水没に注意すれば、一緒にお風呂に入れるだろう。

そんなことをカナミーに話してみたのだが…

「わぁ、ユーさんえっちなこと考えてる?」

「ん?もしかして、そういう状況になりえる容姿なのか?正直、子供がお風呂で遊ぶイメージだと思っていたぞ。」

「今は小1くらいじゃないかな?美形のかわいいではあるよ。でもまぁ、ユーさんがそんな考えでいるなら安全かな。」

「これから戦力にするモンスターに求めるべきことではないと思っているぞ。だが、心を強く保つとしよう。進化して成長するんだろうからな。」

何しろ俺はおっさん族。アバターには精神異常無効があるが、中身が無敵ということではない。盲人であるがために、常人のように「容姿に見とれて云々」は少ないかもしれないが、逆に言えばそれくらいしか違わないからな。

「ところで、魂体の育成、これからどうするの?」

「技能的な話で言えば、言語と世界知識の習得、伝信の熟練を最優先だな。まぁ、それよりも前に、コミュニケーションだろうな。」

「うん。それがベストだね。コミュニケーションを密にしたり、知識習得に励んだりするのをお勧めするよ。」

「そうだな。ついては、図書館に行くとかしたいんだが、強力は得られるだろうか?」

「この後ならいいよ。検証になるし。」

「助かる。カナミーさんなら、良さげな教材を探すのも手馴れていると思うしな。」

「アハハ。ラフィちゃんの系統に近い子の育成検証に立ち会ったことはあるから、行けると思うよ。あたしは記録係だったけどね~。」

ということで、心強い協力者を得ることはできた。

「ユーさ~ん。ちょっといいかな~?」

「ん、リーネさんか?どうした… って、なんだなんだ!」

「ほらほら~!これが大人のお姉さんだよ~。いいでしょう?」

「い いや、今そういうことは望んでないからな!あと、少なくともここには人がいるから止めてくれ!」

リーネさんが俺の手を握ってきた?と思っていたら、いきなり抱き着いてきた… いや、「抱き締められた」に近いだろう。ラフィに感化されたのだと思うが、この場でやるべきことではないと思う。

とりあえず、突っ込んだら離れてはくれた。

「ユーさんって実は女の子なの?それとも、女性に興味無いの?ってそういう話じゃないか。ごめんごめん。」

「とりあえず、おっさん的に心地よかったのと、驚いたのと、恥ずかしかったのとで、脈がおかしくなった、とは言っておくぞ。」

「あ、ユーさん男だったんだね。プライベートビーチでもあんなんだったから、心配したんだよ?」

「あの時、邪魔はしないでね、と言ったのはあんただったと思うけどな。それで、用件はなんだ?」

「当分はコミュニケーション技能の育成だと思うけれど、武術はどうするのかな?」

「おっと、ちゃんとした用件だったか。俺としては、隣のイールの森の植物なんかがネックでな。だから、ラフィには、剣技や氷魔法を軸にしたアタッカーを期待している。能力的には、リーネさんのように、速さで翻弄しながら刻んでいくタイプになりそうだな。」

リーネさんの用件は、戦闘技術の育成プランの話だった。そのために呼んだのだが、放置してしまったのがまずかったのだろうか…

とはいえ、これでも経験も能力も優秀なサブマスターだ。ちゃんとした話なようなので、俺も対応しよう。

「なるほど~。まぁそんな感じっぽいよね。今は剣一本みたいだけど、二刀流にはするのかな?」

「双剣技術か。ありかもしれないが、体術との併用の方が優先度は高いかもな。武踊術なら、舞踊、歌唱とも組ませやすい。」

「まぁ舞踊を使うなら、体術はシナジーがあると思うよ。でも、育成の方向は、武踊術よりも舞剣術の方が良いんじゃないかな?」

「あぁ、そんな剣術があった気がするな。あとで調べてみるか。」

確か、「刀剣術」、「体術」、「舞踊」を組み合わせて、舞うように戦う武術だったな。文字通りのソードダンサーになるということだ。双剣技術とも相性が良さそうだ。

「ところでリーネさんは、ラフィに対しては何か感じたことはあるか?」

「う~ん、そうだね。今はスキンシップに楽しみを覚えているみたいだから、遊んであげるのが良いと思うよ。」

「言葉を覚えるにも時間かかるだろうからな。でも、ブレイオのおかげもあって、心を開き始めているような印象だ。これだけ人がいても、ちゃんと交流している。」

「お、ユーさん鋭いね。彼女、声はあまり出してないけれど、表情は変わってるよ。今は、興味が湧いている感じかな?」

「なるほどな。ちなみに、他の人にも抱き着いているのか?」

「そうみたい。私も抱っこしたよ。カイムも、あ、今抱いてるね。」

「赤ちゃんみたいな思考か。いや、解放されたばかりで、愛情に飢えている、ということか。」

「そうだね。ユーさんも、ちゃんと抱っこしてあげたらいいんじゃないかな?」

いきなりこれだけの人数に囲まれていたのだ。刺激が強いか?とも思ったが、ラフィはガッツもあるのかもしれないな。

「ユーよ。私は戻るとするよ。」

「お、カイムさん。今回も助かった。」

「解放された子、ラフィの育成、がんばってくれ。」

「そうだな。また何かあれば、報告するぞ。それに、たぶんラフィの育成のために、ナザ島のダンジョンにも挑むかもな。」

「そうか。楽しみにしている。」

こうして、新たな召喚モンスター ラフィの解放は終わった。

結局、一から育成する形にはなってしまったが、これを好機と捉えることにしよう。

第6マップ以降を超えるために足りない技能の確保や育成… そのためには、過去に訪れたマップを巡ることも良いだろう。あと、西マップは未開拓だしな。