13-18 W2フィールドボス ホワイトガスト

改定:

本文

教会を出た後、俺たちはニノンの村へ移動、洞窟へと直行した。

目的は、メイレンの育成をしながら、洞窟を抜けてしまうことだ。先日は、進化で体つきが変わったため、装備の買い出し他のため、脱出することになった。今度こそ、しっかり抜けたい所。

「コウモリと… 蟻かな?メイレン、見えてる?」

「うん。魔法、どんどん使っていいのかな?」

「いいよ。どんどん使って。」

メイレンは、進化に伴い、闇、水、風、土、木という5つの属性魔法を習得した。どれも、まだレベルが低いため、球と槍しか出せないが、クールタイムは魔法毎に存在しているため、詠唱という名のチャージタイムを終えれば、次々と打ち出すことが可能だ。まぁ、初期の魔法はチャージタイムが短いので、3つ程度の属性があれば、絶えず打ち出せるんだけれど。

「う~ん、魔法をたくさん打てるのはいいけれど、まだちょっと制御が甘いね。見当違いな方向に飛んでいるよ。」

「ごめん。練習、がんばる。」

「仕方ないよ。洞窟って暗いんだし。」

「いや、メイレンは暗視を持っているからな。それよりは、幼い妖精種の特性みたいだから、練習が必要っぽいぞ。」

「あ、そっか。そういえば、メイレンを鑑定した時、そんなの出ていたね。うん、一緒にがんばろう!」

アヤは、印術より魔法のレベルが高いのだから、魔法をがんばる必要は無いのでは?と思うのだが… まぁいいか。

そんな話をしながらも、洞窟超えは順調だった。メイレンが魔法で攻撃、それで倒し切れなければブレイオやラフィが処理… といった感じで進んでいる。なお、ブレイオやラフィに支援をさせているのは、技能レベルの都合だ。

「間もなく、ニノン洞窟 西出口に到着します。」

「あ、ストップ。この先、やっぱりいるね。」

もうすぐ夜になるという頃、俺たちはニノン洞窟の終点付近までやってきた。そして、リーネさんの索敵か、直観辺りでこの先のフィールドボスを捉えたのだろう。なお、彼女が話す前の声は、俺だけが聞こえているナビーの声だ。

「えっと、この先、何かいるんだっけ?」

「たぶん、ホワイトガストだな。出口を抜けてきた物を追い返す迷惑なゴーストだ。」

W2のフィールドボス、それは「ホワイトガスト」だ。見た目は白いガス状のゴーストであり、光や炎で攻撃してくるらしい。なお、霊体系のボスなので、ただの物理攻撃は通らない。

「メイレン。行ける?」

「いや、さすがに一対一は無理だと思うぞ。もう夜だし、俺たちも加勢して、抜けてしまおう。」

「確かにそうだね。で、どんな風に戦うのかな?」

「アヤさん、主人の力を見せてやったらどうだ?弱点は風な。」

「え?わかった。じゃ、メイレンちゃん、見ててね!」

ということで、今回はアヤに前に出てもらって戦闘フィールドへ突入…

「オォォォォォ!」

「わ!大きいよ!フリーン、分身からの、ウィンドストーム!エアロショック!」

「え!いや、待て!結界の古祈!ブレイオ、ラフィ、風壁だ!」

「ぬ!心得た!」

「わ!風!強い!」

アヤがやったことは、指定した地点から竜巻が起こる「突風」、さらに、単体に対し空気の衝撃波をたたきつける「衝風」だった。フィールドボスのサイズにびっくりして、全力になっちゃったようだ。

「え?あ!風、強い!ひゃ~~!」

洞窟という密閉空間の中で、フリーンまで使ってぶっ放したのだ。その影響は、術者であるアヤが「ヒャ~~!」って言うほどのものだった。なお、急いで結界を張ったため、俺たちは無事である。メイレンやラフィが吹っ飛びかねないからな。

「フィールドボス ホワイトガスト の討伐に成功しました。 W3 のマップが解放されます。」

「称号 第2マップ制覇者 を獲得しました。」

そして、そんな魔法の暴力をレベル10程度のモンスターが耐えられるわけもなく、戦闘はあっさり終わった。むしろ、アレで耐えていたら大変である。

「アヤ!すごい!魔法、凄い!」

「あ、うん。そうだね。すごかったね。術者が吹っ飛んだけれど…」

「そりゃな。で、他には誰も吹っ飛んでないか?」

「ん?おくたん、いない…」

「あぁ、送還を忘れていたな。幸い、大破はしていないみたいだが…」

おくたんを送還するのを忘れていた。そして、不運にも結界の外にいたらしく、どこかへ吹っ飛んでしまったようだ。

幸い、メニューのステータスから確認した限り、おくたんもダメージは受けていたが、残りHPは70%を超えていた。最初の風で吹っ飛んでダメージは受けたが、中心地にいたわけではないので助かったのだろう。

いや、それよりアヤ自身が瀕死だ。まぁ防御力低いから仕方ないんだろうけれど、自分が使った魔法の余波を自分で受けてしまったのがちょっと心配だ。

「回復の古祈。で、アヤさん、動けるか?」

「あぁ、うん。大丈夫~。あちこち痛いけれど~。」

「あぁ、そんな感じか。アヤさん、動かない方が良いぞ。今日はテントで寝るか…」

「いや、私が負ぶって行くよ。街は近いから、宿でゆっくりするのが良いと思う。」

「わかった。だが、慎重に頼むぞ。最悪、砕けた前進になるかもしれない。」

「え?あぁ!そこまであり得るか~。とりあえず、心身安定はあるから大丈夫だと思う。」

ということで、俺たちはそのまま洞窟を抜けたのだった。

「商業都市ウェビン に入りました。」

「わ!夜なのに明るい!」

「ここは、行商で栄えた街だから、夜でも賑やかなんだよ。宿は… どうしようか?」

「そうだな。確か、 渡り人のベッド邸 という宿があったか。個室が取れると聞いているぞ。」

「あぁ、あそこね。いいんじゃないかな?アヤさんも、ベッドで休めば回復するだろうし。」

「そうか。リーネさんは場所を知っているか?俺が知っているのは名前だけでな。」

「大丈夫だよ。ブレイオちゃん、ユーさんを連れて来て。」

「心得た。」

商業都市ウェビンには、いろいろな宿がある。その中で俺が示した「渡り人のベッド邸」は、ベッド付個室がたくさんあるというカプセルホテルのような宿だ。まとめウィキにそう書いてあった。

なお、宿で一定時間ログアウトをすると、再ログインした時に「宿で眠った」という判定になり、HP/MPが全回復したり、大半の状態異常が回復したりする。また、利用した宿のオプションによっては、満腹度が回復したり、指定の技能の経験値が貯まったりもする。

ということで、リーネさんの先導に従い、ブレイオに引っ張られる形で件の宿屋へ突入し、部屋を確保した。

「ん?ユーの部屋、あった。」

「主人、ここだ。」

「ブレイオ、ラフィ、助かった。」

俺は、まだこの街の冒険者ギルドにある図書室に入っていない。このため、細かい宿の情報がナビーに登録されていないのだ。

幸い、ブレイオやラフィがいたおかげで、リーネさんの後を追ったり、部屋を探して入ったりすることはできた。とりあえず、今日はここでログアウトして、明日は冒険者ギルドに向かおう。

一方、こちらはアヤ…

リーネさんに運ばれる形で、宿の個室までやってきた。

そこは、ベッドが置いてあるだけの個室だった。ユーさんから、カプセルホテルみたいな… と聞いていたが、ゲームの世界でもそのまんまだったことに驚かされた。

「ほ~い、着いたよ。アヤさん、ここに寝て。」

「あ、はい。えっと、ありがとうございます。」

何はともあれ、体のあちこちがまだ痛い。いや、だいぶ引いたけれど、今日はゆっくり休むべき、ということはわかる。ユーさんの話では、我慢して鞭うっていたら、取り返しのつかないことになるらしい。

「どうかな?体の調子は?」

「あ、はい。まだちょっと痛いけれど、ふわふわしていて気持ち良いです。」

そして寝転がったベッドだが、本当に気持ちが良かった。ほどよく弾力があって、体が包み込まれる気がする。

残念なのは、ベッドの幅がそれほど広くないので、メイレンを出してあげるのは難しそうなことだ。

「今日は大人しく寝ていなよ。じゃないと、アヤさんが、一緒に旅できなくなっちゃうかもしれないからね。」

「え?そんなに危険だったんですか?」

「自分の魔法で自分を傷つけてはいけないって、覚えているかな?あるいは、過ぎた力を振るった人の話でもいいよ。」

「え?それは、本で読んだことが…」

その後聞かされたことは、ユーさんが言っていた「取り返しのつかないこと」の内容だった。最悪の場合、全身の骨が砕けて、元に戻らなくなるらしい。

「ひぇ!そんなことあるんだ~。私も、おくたんちゃんみたいになっちゃうのかな?」

「そういえばアレ、骨が無いのに動き回っていたか~。って、笑いごとじゃないからね。全身の骨が砕けたら、まともに歩けなくなるから。」

「あぁ、うん。そっか。そんなに危なかったのか~。」

なお、もしアヤが本当に「砕けた前進」技能を得てしまったら、ユーはこう言っただろう。

「選択肢は3つほどあるぞ。一つめは、ルナーを運搬用ゴーレムに改造して運んでもらうこと、2つめは機械の体に改造してもらうこと、3つめは、蛸かスライムの体にしてもらうことな。ちなみに、これからも自由に描きたいなら蛸やスライムがお勧めだぞ。」

「うん。ユーさんには感謝しないと。」

「そうだね。まぁ、明日には元気になるだろうし、そしたら、もっと大きな宿に入ろうよ。メイレンちゃんも出してあげられるしね。」

「え?あ、はい。」

どうやら、私の考えを見透かされていたようだ。それとも、私の顔に、そんな風に書いてあったのかな?

うん。今日はゆっくり休んで、明日は街を周ってみよう。