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メイレンの技能訓練は二日ほど続いた。進化に伴い、扱える技能の幅が増えたのだ。仕方ないことである。
ただ、アヤ自身も、メイレンとの遊びを満喫したようだ。追いかけっこをしたり、海の中でのスケッチを一緒にやったりしたとのこと。
そして、今日だが、まず「始まりの街」の教会へ向かうことにした。メイレンが「聖福」を習得するために、4神の像を一度拝んでおく必要があるからだ。
「この世界の神様か~。神話の本は読んだことあるけれど、言われてみると、教会には行ってなかったよ。」
「まぁ、4神の像が揃っているのは、俺が知る限り、始まりの街と、あの迷宮都市だけだからな。あと、用が無いと、あえて入ることが少ないというのもあるだろう。」
「私は、この前の迷宮都市でユーさんと一緒に入ったけれど、久しぶりだったよ。ソルットの教会は、僧侶出身の職員が担当していたからね。」
アヤにしては珍しく、教会に入った経験が無いらしい。まぁ、立地の問題もあるし、用事が無いと近寄りずらい場所ではあるからな。たぶん、俺が生産職向けの店舗街を避けるのと同じようなものだろう。
「わぁ、ここが教会か。えっと、メイレン召喚。」
「あ、アヤ。ここは、どこ?」
「ここは教会だよ。今日は、私たちがお世話になっている神様の像が祭られているんだ。だから、一緒に挨拶しに行こう。」
「うん。神様、挨拶する。」
そのまま、俺たちは教会へと入った。
「教会へようこそ。おや、あなたは?」
「少し前には世話になった。今日は、お礼参りと、後ろの人たちに見せてやりたくて来たぞ。」
「なるほど。また、像に触れて行きますかな?」
「触れて良いならそうしたい。」
どうやら、また神様の像に触れて良いようだ。
なので、俺たちは順番に神様の像に触れ、参拝していった。なお、メイレンやアヤも触れて良いということだったので、浄水と浄気で清めた上で像に触れてもらった。
「これが、生命神アーレム。植物みたいだね。」
「アヤさんから見てもそう感じるか?」
「うん。さすがに、本物の植物じゃないけれど、大木に宿る神様って感じがするね。」
「大木か。確かに言われてみると、茎というより木みたいだな。」
「もし、この神様が、植物の神様だったら、花を咲かせたりもできるのかな?」
「花を開かせる所までがアーレムの領分なのかはわからない。だが、植物にも命がある世界だから、どこかで花を咲かせているかもしれないな。」
最初に触れたのは生命神アーレムの像。相変わらず、下半身が植物の神様だった。が、アヤが言うように、「入り代としての切株があって、そこから顔を出している」という考え方もあるのかもしれないと思えた。なお切株だと思ったのは、上半身が人の姿のように感じられるからだ。
「ドランザス、かっこいい。」
「戦神、あるいは、技能神と呼ばれているんだ。その姿は竜のように見えるんだけれど、実際には、さまざまな生物の力を祝しているとも聞くね。」
「なんで?」
「あらゆる技能に精通するために、個々の生物の力を祝した、と言われているんだ。私は空を飛ぶことはできない。メイレンちゃんは、重い武器を使うことができない。そんな風に、みんな違うんだよ。」
「みんな、違う。それ、わかる。ドランザス、全部の技能が使えるの?」
「実際に会った人に聞かないとわからないね。西の果てに、ドランザスの血を受け継いだと伝えられている部族がいるらしいから、旅をすれば出会えるかもしれないよ。」
「そっか。旅、がんばる。」
「だな。それにメイレン。技能は手に入れるだけじゃダメだぞ。使いこなさないと。」
次に、ドランザスの像。リーネさんが言っていた、「西の果ての部族」については、まとめウィキにも掲載されている話だ。俺は読んだことが無いが、そういう話が書かれた本が、どこかの街のギルドに所蔵されているそうだ。
「わぁ、これが創造神ファムラか~。凄く人っぽいね。」
「ユー。この像、持っている物が違う。前は、杖じゃなかった。」
「迷宮都市のファムラの像か。俺もあの時は驚いたぞ。持っている物が違うなんてあるのか!ってな。」
「ん。像、みんな違うの?」
「そんなにたくさんの像に触れたわけじゃないからわからないな。だが、ファムラは知恵と創造の神。いつも同じ物を持っているとおかしいと思わないか?」
「ん。変。だから、像も違う?」
「本人、いや、本神に会わないと答え合わせはできないな。だが、ちょっとずつ違う方が、新しい発見が続くのでわくわくすると思うぞ。」
3対目はファムラの像。迷宮都市では、フラスコのような何かの入れ物っぽい物と、器のような物を持っていた。だが、今早退している像は、何かの本と杖なので、明らかに違っている。
「タラスタの像… 天使みたいだね。かわいい!」
「主人。なぜ、こんなに翼があるのだ?翼が多すぎても不便だと思うのだ。」
「本当に不便かどうかは俺もわからない。だが、この翼は、この世での生を終えた物が集まり、旅立つ先が無数にあるからとも言われているな。まぁ死んだ先の世界というのを俺は知らないし、ちょっと試しに行ってみるというのも難しいだろうけれど。」
「可能性の翼ってこと?つまり、終わりとは、新たな始まりのために必要、っていうことなのかな?」
「運命の神。歩む道が広ければ終わる先も広いか。我は主人と共に歩んでいるが、これもまた一つの道。違う道を歩んだ先というのも気になるものだ。」
「まぁそうだな。だが、結局は、どれか一つしか選べないんだ。だから、自分で選択して突き進むことが大事だぞ。」
時間が有限である以上、生物は常に何か一つを選択し、その道を突き進まなければならない。もちろん、選ばなかった方の選択肢を後から選ぶことはあるだろうが、それは同時に、進んだ先で遭遇していた新たな選択肢を犠牲にしているに過ぎない。なお、「両方を選ぶ」や「全択する」というのも、結局は一つの選択肢なので、この定義が変わることは無い。
それと、まとめウィキによると、このゲームの副題は「選び取る者の物語」だそうだ。というのも、キャラクリエイトが完了したプレイヤーがこの世界に降り立つ時、「選択」という言葉が協調されるからだ。
「メイレンは、これからどうしていきたいの?祝福の力だっけ?覚えたい?」
「うん。キレイな光が好きだから。でも、アヤと、たくさん絵も描きたい。」
「うん。一緒にがんばろうね。」
アヤとメイレンの絆が深まったように感じる。その点では、聖福の条件とは別に、教会に来たことにちゃんと意味があったようだ。
なお、二人は、教会でもしっかりとスケッチをしていた。むしろ、場合によっては神様のミニチュアを作ってもらう必要が出てくるかもしれないから、俺から頼んだのである。幸い、今の所そういう事態にはならずに済んでいるけれど…
そして、教会を出たらお昼だった。さて、これからどうしようか?
「それで、この後はどうする?」
「浄化や洗浄の依頼だっけ?それが受けられる場所に行った方がいいよね?」
「受けるならそうだな。となると、やはりウェビンか…」
「ウェビンって、ニノン洞窟の先だよね?」
メイレンが「聖福」を使えるようにするためには、浄化や洗浄の経験を積ませることも必要である。となると、その手の依頼が受けやすい場所へ向かうべきだ。
そこで候補になるのが、途中で引き返したニノン洞窟の先「商業都市ウェビン」だ。さまざまな物が行き交う街なので、その手の依頼が受けやすいのである。まとめウィキでは、「アイテムの洗浄」が常時依頼に入っていたはずだ。
本当は、ダンジョンのある街で依頼を受けさせたい。特に、イベントの都合で定期的に人材不足になるトマか、出現するモンスターの都合で呪われたアイテムが出土しやすいホムクが有力である。
しかし、出現するアイテムがレベル20相当なのが問題。メイレンはレベル10だし、浄化技能も下級なので、浄化できない可能性がそこそこあるからだ。最悪なケースとして、リビングソード辺りが出てきて、浄化したらぐっさりされるリスクもある。
「ごめん。もっと強くなるよ。」
「いや、強さの問題じゃないからかまわないぞ。それに、今行かないだけで、いずれはそれらの街に行くのも良いだろう。雪原超えもまだだしな。」
「そういえば、雪原って、他にも雪遊びできる場所があるって聞いたんだよ。本当?」
「それは本当だ。坂になっていてそり滑りができる場所とか、氷が張っていてスケートできる場所なんかもあるそうだ。ただし、道中はしっかりモンスターに襲われるぞ。」
「おぉ、それは楽しみ!メイレン、がんばろうね!」
そんなわけで、まずは途中になっていたニノン洞窟を超えることにしたのだった。