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「おーい、無事か!」
考え事をしていたら、さっきの農家さんと思われる人が近づいてきているようだ。
「無事だー。そっちは問題なかったかー!」
とりあえず返答をしておく。農家さん、走っているようなので、こっちに来るのだろう。
「おー、助かったぜ。ありがとな。」
結局、手が届きそうなほどの距離まで近づいてきたようだ。
「まぁ、お互い無事で何よりってヤツだな。」
「そうだな。こいつは迷惑をかけた礼だ。受け取ってくれ。」
「解毒ポーション5つ、虫避け薬5つ、銅帯が譲渡されました。」
クエストの報酬であるらしい。手渡しじゃなく、システムメッセージで勝手にインベントリーに収まった。
虫避け薬、銅帯は出して触鑑定してみる。ついでに、ゴブリンファイターのドロップも確認しておこう。
虫避け薬:
種別: スポットアイテム
説明: 使用中、敵対していない下級のモンスターに襲われにくくなる。近づく虫系モンスターの動きを阻害する効果もある。
銅帯:
種別: 防具・軽装
説明: 腹部に巻き付けて装備する鎖状の装備。軽量、且つ、斬撃への耐性と耐久力に特に優れるが、隙間が多い。
錆びた大斧の断片:
種別: 武器・片手斧
説明: かつて両手斧として用いられていたが、2つに割れてしまったようだ。刃は残っているので、片手斧として使用できるが、修復するべきであろう。
虫避け薬は、モンスターとのエンカウント率を下げるアイテムだ。某ゲームのように完全にカットしたりはできないが、3時間程度持続するので使い勝手は良い。
また、名は体を表すのか、虫系モンスターへの特殊効果がある。近づいた際に「薬毒」という毒体制を無視する毒を与える効果があり、虫モンスターの多い森などを通る時に重宝するだろう。
銅帯は、もしかしたら下級武道着の上か下に装備できるかもしれないな。
例の防具屋に持っていって聞いてみよう。あそこなら、、お金を出せばデザインも整えてくれるだろうし。
「錆びた大斧の断片」は、2つ集めて修復すると、「銅の大斧」になったはずだ。「巨大斧」という特殊なカテゴリーに分類される武器で、巨人族や、筋力の高い種族で無いと装備できない。
巨大斧を振り回すプレイヤーの動画も聴取したが、地面にクレーターができるんじゃないか!というほどの爆音を出したり、大木を横じゃなく縦に真っ二つにしたりと、ロマンの感じられる武器だった。
俺は斧を使用する予定は無いので、断片の状態でも普通に売り払う予定だ。錆びているが、けっこうな金額になったはずだ。
「ありがとうな。じゃ、俺は続きに戻るな。」
「続き?あぁ、例の魔法の訓練だな。がんばれよ。」
ということで、イベントが終わったので、残り時間は魔法の訓練に充てる。
その日の夜、防具屋に銅帯を持ち込んだ所、銅線のように細くした上で下級武道着に編みこんでくれることになった。なお費用は1000pで、デザインも整えてくれるということだ。
これによって、下級武道着の防御力と、耐久値が少し向上することになった。獣皮の鎧程度にはなるだろう、とのことだ。
完成品は、明日の朝にはできているだろう、とのことなので、その日はログアウトした。
翌日、生まれ変わった下級武道着を受け取った。触鑑定の結果は以下の通りだ。
銅編の下級武道着:
種別: 防具・軽装
説明: 網状に編まれた銅線が仕込まれた武道着。見た目以上に防御力、耐久値が高い。体術の効果が僅かに上昇する。
「ユー様。着心地はいかがですか?」
「あぁ、銅線が入っているとは思えないくらいに動かしやすいぞ。それに、防御力はちゃんと増しているな。これなら、森でも戦えそうだ。」
「森というと、ユー様はヒッツの森を超える予定ですか?」
「あぁ、いや、ミーミ平原とどちらにするか検討中なんだ。ただ、先日、畑にゴブリンファイターが出てきたから、今はミーミ平原に行くべきか?と思っている所だな。」
「なるほど。畑というのは、南の畑ですか。となると、ゴブリンの繁殖が進んでいるのかもしれませんね。」
「そういう話は聞いたことがあるな。増えすぎると、こっちまでゴブリンが迫ってくるから、間引きをした方がいいって話だったな。」
「その通りです。今、その予兆があるのかどうかは聞いていません。が、ユー様おひとりでゴブリンファイターと戦えるのなら、覗いてみることは良いかと思いますね。」
ゴブリン繁殖クエスト…
それは、主にS2のミーミ平原から、ゴブリンが沸いてくるというもので、定期的に始まりの街で発生するのだ。
ただ、防衛や、侵略をするような内容ではない。単に、期間中はS1、S2に出現するゴブリンが増えたり、格上げされたりするだけだ。
始まりの街にはしっかりした防衛線があり、ゴブリンは街まで入ってこない。それどころか、放置しているとS2にあるゴブリンの酢が、腕利き冒険者に処理されて、勝手に鎮静化するらしい。
それで、防具屋の人がこんな話を言っているのは、あと数日で、そのクエストに突入しようとしていることを意味している。
クエスト期間はゴブリンがたくさん沸き、格上げされ、S2に関してはゴブリンの巣も増える。それに伴い、獲得経験値やドロップも美味しくなる。つまり、参加できるなら、S1~S2で狩りまくる、場合によっては巣に突入して殲滅、という美味しいイベントである。
さらに、ゴブリンの巣はマップ上に出現する施設・ダンジョン扱いであるため、ナビーに先導してもらえる。つまり、盲人でも巣を探して突撃できるのだ!
ゴブリン狩が趣味… というわけではないが、今は経験値と資金が欲しい。こうなったら、狩の準備を進めるとしよう。
ただ、まずは魔法の習得だ。ゴブリンが増量しても、それはスライムがいなくなることを意味しないからだ。
ということで、今日も畑の湧き水の前にいた。
「よぅ、今日もやってるなぁ。」
「あぁ、おっちゃんか。もうちょっとでたぶん行けると思うんだ。」
農家のおっちゃんと軽く挨拶もしつつ、MPが切れるまで湧き水に集中する。
「ハハハ、そうか。あんた、この前のゴブリン退治もばっちりだったからな。隣の村でも十分通じるんじゃねぇかな?」
「まぁ、そのつもりで準備は進めているからな。こいつも、その準備の一つなんだぜ。」
「慎重なんだな。その心意気、大事にしな。」
「そうするさ。」
そんな挨拶を交わして2時間後…
俺は、ギルドの地下室にいた。MP回復を待つ間に、薬草の仕分け依頼を受けたのだ。
「えぇと、ユーさん。本日はよろしくお願いします。」
「おぅ。鑑定技能はあるから、仕分けはできると思う。」
「そ そうですよね。えぇと、こっちに積んでありますので、効能に合わせて仕分けて下さいね。」
依頼元であるギルド職員は、こいつ本当にできるの?といった印象を持っているようだった。まぁ盲人だしな。
手を伸ばすと、草の山に触れることができた。なので、草を上から1つ手に取り、触鑑定した。
薬草:
品質:6/10
別の草を手に取り、同様に触鑑定した。
薬草:
品質:2/10
「こっちは品質6の薬草。こっちは品質2の薬草だな。」
「え?薬草の品質がわかるんですか?」
「わかるぞ。あ、品質は10段階の内の6と2な。」
「わかりました。では、お手数ですが、箱を用意するので、品質毎に分けてもらえますか?」
当初の話では、低品質と高品質で分けるように言われていた。だが、もっと細かいものをご所望とのことだった。
これについては、箱さえきっちり用意してくれるなら問題ない。俺は、草を摘んでは仕分けていった。
作業は、途中で、薬草ではない草も混じってきたので、職員に確認しながら行なった。薬効の無いただの草も混じっていたのだ。
仕分け作業は、予想していた通り2時間ほどで終了した。これ、ある動画では、精霊の力で薬草を爆速仕分けしていた。10秒で終わってしまうため、チートを疑うコメントが多かったが、「薬草の仕分け依頼にチート使う意味が無いだろ」というコメントで鎮化していた。
「ありがとうございます。これ、報酬の薬草です。それと、仕分け依頼はまだまだたくさんありますので、お手すきの時はぜひお願いします。」
ということで、薬草をいろいろもらった。要らないものはその場で金に換えてもらったけれど。
そんな日々を過ごすこと3日目…
「技能 魔法(水), 魔法(土), 精神集中 を獲得しました。」
湧き水が、地下水だった影響のようだ。水属性だけでなく土属性も付いてきた。
土属性については、水という手洗いの手段を得たら、土に手を埋めて習得を目指そうと考えていた。なぜなら、土属性はスライムへの通りが良いのだ。
習得した魔法は2つだった。
通常は、水や土の球を発射する「水球」、「土球」と、周囲の水や土を集めて実態化させる「集水」、「集土」だ。
だが、魔力拳を習得しているため、球体発射の方が、拳にまとわせる「纏水」、「纏土」となっていた。
この辺りは予定通りだ。スライムでも土の拳で殴れば、ちゃんと処理できるのだから。
なお、「精神集中」は、集中力を向上させる技術技能である。主に、魔法の威力を向上させたり、チャージを妨害されにくくしたりする効果がある。
その後、ギルドで換金を行ない、耐久度回復や必要な道具類の購入を行なった。テントなどは、以前杖を購入した雑貨屋でできた。
閉めは、例によって大盛パンとシチューだ。
そして、職員から聞いたぞ。南の村で、ゴブリンが増え始めたと…