02-08 図書館と同胞

改定:

本文

次の日、俺はナビーの先導に従って、街中を歩いていた。

行先は図書館だ。始まりの街の施設の中で、まだ立ち寄っていなかった所だな。

「始まりの街 図書館に到着しました。」

「わかった。中に入るから、引き続き先導してくれ。」

そのまま、図書館の建物へと直進すると、杖が木にぶつかる音がした。

入り口は木の扉になっていた。手を出して取っ手を探すと引き戸になっていたので、横に引いて開ける。

中は、紙がたくさん保管されている匂いだった。そう感じながら、ナビーの先導に従い受付へ向かった。

「おや?冒険者ですね。こんにちわ。」

「どうも。俺は盲人なんだが、ここに読むことのできる本はあるだろうか?」

とりあえずストレートに聞いてみる。

「う~ん… 盲人ですか。残念ながら、おひとりで読める本は置いていないですね。」

「つまり、付き添いの人が読む感じか?」

「はい。こちらに訪れる盲人の方は、皆付き添いの人と一緒ですね。」

残念ながら、本を読んでくれる相手が必要であるらしい。まぁゲーム世界の図書館だから仕方ないか。

おまけに、もう一つ問題もあった。

「それと、この図書館は、受付以外での会話ができないようになっているため、盲人の方は本を借りて帰り、家で読んでもらっているんです。」

「会話ができない?そういう魔道具でもあるのか?」

「そういうことですね。ダンジョン産の魔道具でして、この先に入ると、音が小さくなるんですよ。」

まとめウィキにあった「消音魔道具」が設置されているようだ。確かコレ、メニューの音声入力やナビーへのアクセスにも影響したやつだ。

まとめウィキで存在を知った時、「この魔道具がある場所は、盲人は絶対に避けなければならない」とメモしていた。今回の図書館なら脱出はできるから問題無いが、場合によっては詰んでしまうからな。

「わかった。少しだけ入ってみて良いだろうか?その魔道具というのが、どんな感じなのか気になるんだ。」

「えぇ、かまいませんよ。でも、中で武器を振るったりしないでくださいね。」

「助かる。」

せっかくなので、その効果、まとめウィキから予測された内容通りなのかを体験しておくことにした。

ナビーの先導に従い、受付の先の部屋へと入った。ここも引き戸だった。

扉を閉めると、違和感を感じた。

無音ではなかった。空調なのか、件の魔道具なのか、その音は聞こえる。しかし、それ以外の音、例えば、本をめくる音などは聞こえなかった。

試しに声を出してみたが、声がしなかった。杖で床をたたいても、やっぱり音が聞こえなかった。

どうやら、一種のノイズキャンセル効果で、音を減衰させているのだろう。

ナビーに音声で呼びかけてみたが反応なし。やはり、ナビーも呼べないのか…

と思ったが、思考入力したらナビーは返答してくれた。しかも声付きだし、本棚への先導を試したらいつも通り本棚から「こっちです」だった。

どうやら、ナビーの音声は、魔道具の影響を受けないようだ。これなら、ナビーが利用できる場所なら、という前提は付くが、消音魔道具のある部屋に入っても何とかなるかもしれない。リスキーだから、避けられるなら避けるべきではあるけれど。

とりあえず、本棚に先導してもらい、てきとうに本を手に取ってみた。そしてパラパラとめくる。

この行為だけで、本を読んだという判定になってくれるならうれしいのだが…

物語系、歴史系、地理系、娯楽系、攻略系という5ジャンルの本を各1札ずつ読むと習得できる技能に「世界知識」がある。

この技能を持っていると、鑑定の情報がより細かくなったり、採取ポイントが増えたり、ドロップするアイテムの範囲が増えたりする。このためまとめウィキでは、アドベントファンタジアを楽しみつくすなら習得するべき技能の一つとして挙げられていた。

ただし、読む必要のある本の選定には注意が必要だ。例えば、冒険者が最短プレイを目指して、剣術、採取、属性魔法、素材、モンスター図鑑… と読み進めた場合、全て「攻略系」ジャンルに該当するため、条件未達成となってしまう。

幸い、図書館では本棚毎にジャンル分けがされている。なので、内容がわからなくても各本棚から1札ずつ取り出せば良い。ナビーでも、本棚の中身はともかく、本棚そのものにはきっちり先導してもらえるのだ。

しかし、残念ながら技能は生えなかった。

やはり、目視してちゃんと読む、あるいは、誰かに読んでもらうことが必要なのだろう。

「称号 夢見る者 を獲得しました。」

あ…

読めるはずの無い本を読もうとしたことが原因で、称号が生えてしまった。

夢見る者:

効果: 不可能なことを夢見て試みようとした若者へ送る称号。

幸いなのは、今回の称号は無害なことだろう。夢を見て、どうしようもない失敗をやらかすと、もっとヤバい称号に置き換わるのだ。

夢にくらむ者

効果: 失敗を恐れずに不可能なことに挑んだ称号。対応する行動において能力が向上するが、集中力が失われやすくなる。

突撃突貫系の戦闘職であれば、能力向上が美味しいので、あっても良いかもしれない。だが、一人で何とかなるほど甘くはない。そして、生産職の場合は成功率や集中力が下がるのでデメリットしか無い。

ただし、この称号には2ルートの続きがある。片方はもっとヤバくなるやつだが、もう1方は別の意味でヤバい。

常識破り

効果: 不可能とされていたことを自らの力で捻じ曲げる胆力を示す称号。行動に特殊判定が生じるようになる。

例えば俺がこの称号をセットすると、打撃がスライムやゴーストにも等倍で通るようになったり、気留術の気が地面を伝って離れた相手に届くようになったりする。

ただし、この称号をセットしている間は、技能の成長が鈍くなるというデメリットがある。また称号はセットした1つしか効果が無いので、自分の職業に関する称号など、適性を伸ばす系統の称号をセットする方が強くなる。総じて、遊び称号という評価に落ち着いている。

とりあえず、「夢を見る者」はセットしなくてもいい。本が読めないことも確認できた。なので、もうここを出よう。

俺は、ナビーの先導に従い、音の無い空間を脱出した。

図書館の受付に戻ると、音が迫ってくるような違和感を感じた。やはりあの魔道具の効果は、ノイズキャンセルの類だったように思う。

「おや、その杖の音は?同胞かな?」

近くから老人の声がした。そして、杖をコツコツ…

「ん?俺か?」

「そう。わしも盲人でな。ここ開いとるぞ。」

そう言いながら、老人は椅子の隣席と思われる木をたたいた。

「そうか。座っていいのか?」

「かまわんぞ。一人で来ているからの。」

老人に勧められた席に近づき、手で確認。確かに椅子っぽいので座る。

「俺は冒険者のユーだ。今は、旅支度の最中でな。」

「冒険者か。すると、図書室には、音の修行かな?」

この老人、もしかして、聴力修行系のNPCだろうか?

「いや、違うんだ。中にある魔道具に興味があってな。」

「そうじゃったか。しかし、音の修行ではないというのも珍しいの。」

「特別な力なら、すでにたくさんもらっているからな。俺はこの体で冒険したいと思っているんだ。」

「ふむ。その話だと、心の目でも無いと。そういう同胞もいいの。」

「音でも心の目でもないさ。ちなみに、じいさんは音の修行をこなしたのか?」

老人に尋ねてみよう。

「そうだの。わしもその2つとは違うぞ。、魔力で察するんじゃよ。」

「あぁ、なるほどな。それは思い至らなかったぞ。」

このゲームの設定では、人類、動物、植物、鉱物、水に至るまで、何かしら魔力を宿している。

つまり、魔力の感知技能を鍛えたり、物質が持つ魔力の性質を理解したりすることで、魔力感、いわゆる第7感を育てられるのだろう。

「ほほ、察したか。魔力なら、お主でも身に着けられるかもしれぬぞ。」

「そうだろうが、俺はいいや。俺は、知らずに触れても痛くないようにすれば突っ込んでいける、という考えだな。」

「ふむ。フハハハ。そいつは面白いな。思えば、根本はそうなんじゃろうな。」

このじいさんも察したようだ。

だが、盲人の考え方だって多用なのだ。俺も知らないことがある。それは実に心躍る。

「ここに来てよかった。俺は行くな。」

「そうするといい。あいにく、わしから出せるものは無いが、お主なら何とかなるじゃろ?」

「かまわないよ。また会うことがあれば、よろしくな。」

俺は、じいさんに別れを告げると、図書館を出た。そして、冒険者ギルドに入り食事、そしてログアウトした。

名前: ユー

種族: ヒューマン

職業: 武僧

性別: 男

称号: [異界の旅人], 夢見る者

HP: 100%

MP: 100%

状態: なし

所持金: 2750p

満腹度: 100%

レベル: 7

経験値: 0/400

体力: 25

魔力: 17

筋力: 15

防御: 27

精神: 15

知性: 27

敏捷: 3

器用: 5

技能:

適性: 体術3, 魔力拳3, 気留術3, 魔法(土1, 水1)

技術: 触鑑定3, 精神集中1

支援: 捕獲握力強化, 逆境を超える心

耐性: 空腹耐性

特質: 盲人, 鈍感, 効果変化 欠損, 正々堂々

体術: 強撃, 足払

気留術: 癒気, 瞑想

魔力拳: 魔拳, 魔盾

土: 纏土, 集土

水: 纏水, 集水

装備:

獣革のナックル, 銅編の下級武道着, 銅編の革帽子, 獣革の小手, 獣革の靴, 綿布の靴下, 銅の首飾り

アイテム:

ポーション X 5

携帯食 X 15

テント X 3

煙玉 X 5

虫避け薬 X 5

解毒ポーション X 5

魔力草 X 5

解毒草 X 5

柔木の杖 X 1

樫の杖 X 1