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「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日はギルドの依頼をこなしていくぞ。依頼の一覧を教えてくれ。」
今日やることは、貢献度稼ぎだ。なので、ギルドの依頼を確認する。
その結果、定番の薬草仕分け、雑草刈りがあった。先日刈ったのと同じような畑がまだまだあるのだそうだ。
その他に面白そうなものとしては、先日のゴブリンの巣の掃討作戦の結果、巣からギルドに持ち込まれた物品を仕分けるクエストも出ていた。薬草仕分けの亜種である。
「おはようございます。こちら、ミーミ村ギルドです。」
「おはよう。薬草の仕分けクエストを受注したい。手続きを頼めるか?」
「承知しました。ユー様は先日も薬草の仕分けを成功させているので、問題無く受理されると思います。」
職員と話をして、薬草の仕分けクエストから先に受けることにした。
少しすると、迎えの人がやってきた。声からして、先日、仕分けをしていた職員で良さそうだ。
「あ、あんたは先日の。薬草の仕分けでいいのかな?」
「そのつもりだ。」
「わかった。一緒に行くよ。」
その職員に連れられて仕分け室に入り、さっそく作業開始。
薬草を触鑑定し、品質に応じて箱に収めていく。
「いやぁ助かった。いい仕分けの腕しているね。」
「鑑定能力が優秀だからな。普段から助かっているよ。」
「だろうね。ゴブリン大発生が収まったのに、みんな巣の持ち帰り品の仕分けに行っちまうから、人が足りないんだ。助かるよ。」
「それは報酬が現物だからだな。ゴブリンの巣にあったアイテムで、良い出物があるかも?となれば、行く人は多かろう。」
そう。ゴブリン大発生の後に発生する期間限定クエスト。それが、巣から持ち込まれたアイテムの仕分け作業だ。
このクエストの特徴は、報酬として、巣の中に存在していたアイテムが手に入る可能性があることだ。ただし、例によって汚染されている場合もあるので、洗浄手段が必要だったりする。
「そこなんだよなぁ。で、本日分の薬草が終わったわけだが、あんたも行くのかい?」
「そうだな。お願いできるか?」
「あんたの腕なら鑑定はOKだな。あと理想は集水が使えることだが、どうだい?」
「汚れを落とすのに必要という話だな。使えるぞ。?」
「そう。なら問題無いね。先に連れて行くから、やっといてよ。受注処理しておくから。」
ということで、職員に連れられ、クエスト会場… ギルドの裏庭にやってきた。そりゃ洗ったりするのだから中でできるわけないよな。
「おぉい、仕分け人を連れて来たよ。」
「ん?あんたは、薬草の。終わったのか?」
「あぁ、この人のおかげで終わったさ。続けて受けてくれるって言うから連れて来た所だよ。」
「なるほど。薬草の仕分けができるなら、こっちも大丈夫そうだな。俺はゴート。ここの仕分けの指揮を担当している。よろしくな。」
薬草仕分けの職員からお墨付きをもらえる形で紹介してくれた。これで、貢献度にブーストが乗るかもしれないな。
では、さらにブーストを積むとしよう。
「俺は冒険者のユーだ。それで、いきなりで悪いのだが、洗う方を担当しようと思う。集水も使えるし、洗いを優先していれば、鑑定だけの人と分担して早くこなせるだろう。」
「おぉ、そいつは助かる。鑑定しか持ってないやつが多くて、困っていた所なんだ。」
いや、単に水洗いが嫌なだけだと思う。錆びた装備やぼろ布でも普通に使っているゴブリンたちの巣で乱雑に放置されていたアイテム群だ。キレイであるはずが無い。
「それで、可能であれば2つ要望がある。1つは、この金で、MPポーションを買えるだけ買ってきて欲しい。魔法を使う人で分けて飲む。」
「おぅ、魔力は無限じゃないからな。でもいいのか?他のやつの分まで。」
「まぁ恩を売るというやつだな。ゴブリン祭りのあぶく銭だし、抵抗がある人は代金を出してくれるだろうから、それで問題無い。」
「違いない。で、もう一つの要望というのは?」
「仕分けたアイテムに、魔法の消費を減らすとか、魔力を増やすとかの効果のある物があれば、仕分け中だけでも借りたい。集水をより長く多く使えるようになれば、ポーションと合わせて処理がスムーズになるだろうからな。」
「ふむ。効率のため、使えるものを活用という感じか。そういうことなら了解だ。」
ということで、さっきまで薬草の仕分けをしていた職員に、クエスト受注手続きと、MPポーション確保を頼んだ。そして、俺は現場に立った。
予想はしていたが、なかなかの臭いだ。件の腕利き冒険者は、報告に必要だから仕方なく、といった感じでインベントリーに入れて持ち帰ったらしい。もちろん、有益な物は自分たちで洗浄して持ち帰ったであろう。
俺は、先日作ってもらったマスクを着用する。マスクには臭い消しに薬草が刷り込んであるようで、かなりマシになった。
「ん?なぁ、そこのあんた。マスクってまだ残っているか?」
「あぁ、あるぞ。あんた、ここにいるなら、集水が使えるんだよな?なら、貸しておくから、一緒に水洗いしよう。」
「おぉ、これは助かる。臭いに辟易していた所だ。」
「え?何それ!私も欲しい。もっと無いの?」
「こっちだって臭いきついんだ。ぜひ頼むよ。」
「いいぞ。集水係が足りてないらしいからな。臭いにやられてなんていられないだろう。」
こうして、俺を含めた6人がマスクを着用。「洗浄戦隊シックスマスク」が誕生したぞ。
剣士、拳士、僧侶、魔法使い、弓士、部僧なので、バランスもそんなに悪くないだろう。
さらに、そこへMPポーションや補助具が到着。俺も、魔力消費削減の首輪と帽子を借りて、素材の洗浄を進めた。
「いやぁこいつは助かる。正直、魔力が保つ気がしなくて困っていたんだ。」
「ゴブリン狩は俺も出たが、数が多かったからな。それに俺は武僧だから、魔力潤沢とも言えない。だから、こういうのは使わないとな。」
「わかる。私は弓士だから、魔法は使えるけど、そんなに多くは無いんだよね~。」
「僕は僧侶だから、普段から洗浄や浄化の仕事はしているんだ。けれど、この量だとさすがに厳しいよ。」
「先日の巣の討伐だけど、ゴブリンの巣が7つも発見されたんだって。だから、こんな山になっちゃったみたいだよ。」
「それで、平原がゴブリンまみれだったんだな。おかげで狩が捗ったよ。」
「平原のゴブリンかぁ。確かに稼がせてもらったな。」
「稼げるなんていいなぁ。私は群れられたら終わりだから、アレは無理だったよ。」
「この山を考えると、ゴブリンの巣って、どれくらいのゴブリンがいたんだろうね?100や200なんてものじゃなかったのかな?」
「いや、巣から持ち出されたものであって、巣のゴブリンの数には比例しないと思うぞ。まぁ、強い指揮官はいたと思うが。」
一緒に洗浄をしていた冒険者たちと話をした。
見な、目の前のアイテムを洗浄して、後ろに置くという作業なので、お互いに見ちゃいない。つまり、盲人だろうとそうでなかろうと変わらないのだ。
一応、俺は触鑑定も織り交ぜている。これは、ゴブリンの巣のような場所にあったアイテムの中には、取扱注意な物品もあるからだ。
あと、鑑定もそうだが、これらの技能は使い込むと成長する。いろいろな種類のアイテムを鑑定すると、より使い勝手が良くなるのだ。
「触鑑定が成長しました。復元鑑定が可能になりました。」
こんな風にだ。復元鑑定は、直近30秒程度の間に手で触れたことのある物なら、今触れていなくても鑑定できる便利技だ。殴った後で鑑定できるので、鑑定するためだけに触る必要がなくなる。
「気留術 浄気 が解放されました」
と思ったら、浄化の気を纏う技まで習得してしまった。通常は、呪いや沈黙など魔法系状態異常を回復する技だが、汚染されたアイテムの洗浄にも使えるはずだ。
ただ、今日は引き続き集水での洗浄にする。浄気の方がキレイにはなるのだが、MP消費も増えてしまうのだ。
そうやって、水洗いと鑑定、そして仕分けを続けていたのだが…
「呪われたアイテムを手に取りました。!」
ジャストタイミングと言うべきか、使い時が来てしまったようだ。
とりあえず通知が来たので掴んだものを離す。幸い、呪われたアイテムが及ぼす効果にも、正々堂々は機能する。今まで認識していなかったため、呪いの効果が及ぶまでに遅延が生じるので、通知を受けてから手放すまでの時間が確保できた。
そして、手に取ったことがあるので、復元鑑定が可能だ。確認した結果、なかなかヤバいものだった。
銀の小手(呪):
種別: 防具・小手
説明: 銀板を加工して作成された小手。軽く、硬く、そして丈夫。
呪い: 装着後解除不可。知性低下(大)。
呪われた装備だと、解除負荷というケースが、けっこうある。そして、魔法への抵抗を弱める知性低下が大補正で付いている。知性は僧侶などの回復系技能に影響するので、最悪、呪われたら自力で浄化できなくなるかもしれない。
とりあえず、この小手をどうするか… ゴートさんに聞いてみよう。
いや、放置なんてしないぞ。浄化しないと、誰かが手に取った時に悲惨なことになるからな。
ただ、浄化をすると、物品の性質が変わることが多いのだ。そして、今依頼として受けているのは仕分けであって、浄化ではない。その辺りの判断ははっきりさせておくべきなのだ。