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「ゴートさん。ちょっといいか?」
「おぅ、どうした?ユーさん。」
「呪われた銀の小手が出てきた。鑑定済だ。」
「マジか。呪いは… あんたには向いていないようだな。」
「あぁ。で、浄化はできるがどうするか?」
「なるほど。なら、そいつはあんたへの報酬でいいから浄化してくれ。持つと危険なら、今すぐに浄化するしか無いしな。」
「わかった。それと、もし、他にも似たようなのが出てきたらどうする?」
「そうだな。浄化はしてくれ。報酬については、後で上乗せするなり、該当のアイテムを渡すなり取り決めるから。」
まさかの報酬確定だ。ということで、小手を手に持ち、浄気を使用。呪いを削り取るように浄化の気を纏わせていく。
なお、浄気は、実は中級の浄化技能である。これは、「気留術」技能自体が、気を扱う技能の中では特化系の技能に当たるものだからだ。
「銀の小手の呪いが洗浄されました。効果が変更されます。」
通知が来たので成功だ。
性銀の小手
種別: 防具・小手
説明: 銀板を加工し、聖なる気で清められた小手。軽く、硬く、そして丈夫。気を扱う技能を強化(小)
呪われた武具を浄化すると、このように効果が変わることがある。銀装備の場合は聖銀、世に言うミスリルと呼ばれるものとなることが多い。
なおミスリル装備は、本来なら第5~第6マップで登場する。故に、この小手、現時点では強装備だ。
しかも、追加効果が優秀だ。気を扱う技能の強化だから、気留術がさらに強くなる。
「だ 誰か、浄化できる人はいませんかっ!」
思わぬ報酬にニヤニヤしていたら、呪いの装備を握ってしまった人がいたらしい。
「ユーさん、あんたは、まだ浄化はできるのか?」
ゴートさんがやってきて俺に問う。
「装備で付く呪いなら中級までなら行けるぞ。」
「あぁ、わかった。とりあえず見てもらえるか?」
「わかった。連れていってくれ。」
ということで現場に急行。なんと僧侶さんが呪いの杖を握ってしまったらしい。しかも、付いている呪いの効果が、魔法阻害(大)のため、自力で治せないとのこと。
「呪われた杖か。地面に置くことはできるか?」
「え、あ、はい。持っている手ごとであれば…」
「わかった。置いてくれ。浄化するぞ。」
俺は、再び浄気を手に纏わせて、地面を探った。すると、件の杖と思われる棒状の物体を発見。確かに、呪われているという通知があった。
ただ、ちゃんと浄化はできているようなので、杖のあちこちに触れてみた。結果、洗浄されたという通知が出た。
白木の杖:
種別: 武器・杖
説明: 白木製の戦闘杖。帯びている魔力により衝撃を弾く性質がある。受杖技能の効果が向上(微)、光、木属性魔法の効果が上昇(微)
防御に使えて、魔法強化も見込める杖だった。「白杖」と言える類かもしれないが、戦闘杖なら俺には要らないな。
白木は、確か第3マップ産だったと思う。S3の雑貨屋で聞いてみても良いかもな。
「あ ありがとうございます。僧侶なのに面目ない。」
「鑑定はちゃんとやるべき、ということだな。まぁ無事なんだし、まだまだ洗い物も残っているし、続きやろうぜ。」
「あ、そうですね。がんばりましょう。」
その後、夕方になるまで仕分け作業が続いた…
「今日はお疲れ様。」
ゴブリンの巣の素材仕分けが終わった。
そして今は、洗浄戦隊シックスマスク、いや、もうみんなマスク外しているな。とにかく、6人で慰労会をしている所だ。
「いやぁ、ユーさんのおかげで助かったよ。マスクとポーション、魔法具レンタルまでいろいろ手配してくれたおかげで、あの山がちゃんと終わったんだよ。」
「ゴブリンの巣のアイテムが大量という話を聞いていたし、狩をしていた時に、予想できたことだったからな。」
「でもユーさん、マスク10枚なんて用意周到だよ。予め武具屋に作らせるくらいしないと無理だと思うんだ。」
「水属性魔法を使う人って、あんがい少なかったよね。もっといっぱいいると思ったんだけどなぁ。」
「それは仕方ないんじゃないかな。他の属性の魔法だって同じく必要なんだから、そっちを優先した人もいるんだろうさ。」
「私たちのパーティが特殊なだけなのかな?みんな水属性魔法使えるなんてさ。」
「全員ではないと思うが、洗浄をしたくなかった人もいると思うぞ。何しろあの臭いだからな。」
「マジか。甘ったれたやつだぜ。たかだかゴブリンの臭いにひるんでたら、冒険者として生きていけねぇと思うんだ。」
「まぁ、臭いことが嫌というのには全面的に賛成するけどな。だから、マスクを用意したんだし。」
「アハハ。うん、そうだね。マスク無かったら、私たちもリタイアしてたよ。」
今話をしている5人だが、どうやらNPC冒険者パーティのようだ。皆でゴブリン祭りを堪能、最後に巣のおこぼれを求めて参加したとのこと。
自己紹介も受けた。剣士アルカ(女)、拳士ダナンド(男)、僧侶ミュオン(男)、魔法使いロティ(男)、弓士ユシル(女) というパーティだ。同郷の出らしい。
「それにしてもユーさん、あんたが盲人だとは、ぜんぜんわからなかったぞ。」
「そう。普通に仕分けをしていたし、洗浄も浄化もしていたから、さっきまでわからなかったんだよ。」
「私たち、目の前の仕分けに集中していたから、まともに見てなかっただけかもだけどね。」
「そうだよな。でもユーさん、鑑定って、見ないと無理だろう?」
「あぁ、それか。触鑑定という技能だな。手に取れば鑑定できる。あと、普段からそんなだから、呪い耐性みたいなものはちゃんと持っているぞ。」
「あの呪いか~。もうダメかと思ったよね~。」
「そう。私も笑えない。鑑定って、どうして忘れちゃうんだろうね?」
あの後、さらに呪われたアイテムが4つも出てきた。まさかの呪われたポーションまであって、アルカが引っかかった。
MPポーション(呪)
種別: 薬品・回復
説明: 飲用することで、対象者のMPを回復する。
呪い: 装備解除不可。飲用時に「○○○○」技能を習得。
薬効増加の呪い:
説明: 薬品使用時の効果、副作用が増加。増加量は、使用した薬品の数に応じて増していく。
このポーションを手に取ると、まず呪い効果により、手から離れなくなる。次に、飲用で消費しない限り壊れなくなるため、ずっと手が塞がった状態になる。最後に、飲用すると副次にされた技能という名の恒久的なリスクを負ってしまうのだ。
で、浄気をしていくとポーションは普通のmPポーションに戻ったのだが、呪いが消える直前に、伏字の中身が読み取れてしまった。その結果が上記の呪われた技能だった。
ただの「薬効増加」なら、効果が固定値で1.5倍程度に増幅するだけなので、必要な薬品を節約できるという有意義な技能で終わる。だが、上記の呪いは、薬品を使うほど効果が増してしまうため、いずれはポーション一本で身体が壊れるだろう。
「人は間違えるもの、忘れるものだから仕方ないさ。ただ、今後もアイテムを手に取る機会を狙うなら、対策は持っておくべき、ということだろうな。」
「本当ですね。あの時、ユーさんがいなかったら、僕は冒険者を引退する所でしたよ。」
「ミュオンさん、それは言い過ぎだと思うぞ。あそこにいたのは俺だったが、解呪できる人を探せば、この村でも見つかるはずだ。例えば魔法医だな。」
「あぁ、確かに、魔法医ならそうかもね。いないと子供の病気を治すのも大変だろうし。」
「あと、医者でも治せるんじゃないかな?確か、ポーション関係の薬効を変えられるって聞いたことあるよ。」
「呪われたポーションだぞ。さすがに無理だと思う?」
「魔法医」とは、魔法を使って人を治療することを得意としている職業だ。僧侶と同じく治療と浄化に関する技能を持つが、僧侶より治療に特化している。その特価は、人にかかっている呪いなら、「治療」扱いで無理やり解決できてしまうほどだ。
一方、「医者」は、魔法を使わない職業だ。こちらは回復系の薬品や施術に特化している。解呪の手段は持たないが、件のポーションであれば、薬品の性質を変えることで、実質的に解呪することもできるだろう。
「ところで、ユーさんは武僧って言っていたな。良ければ、後で練習場で一勝負しないか?拳士としての経験を積みたいんだ。」
「拳士としての経験か。良いぞ。ダナンドさんのお眼鏡に適うかどうかはわからないけどな。」
「ずいぶん謙遜しているけど、ユーさんはゴブリン狩していたんでしょ?いい勝負になるんじゃないかな?」
「ウチのダナンドは強いよ。ゴブリン狩だって、一人で群れをボッコボコにしていたくらいだからね。」
なぜかNPCとスパーリングをすることになってしまった。相手は拳士のダナンドだ。
なおこのゲーム、特定のイベントを除くと、NPCもプレイヤーと同様に死に戻るシステムとなっている。なので、NPC相手に闘技場や決闘で心置きなく本気を出すことが可能だ。
ただし、決闘以外の状況でNPCを殺すことはNGだ。街中で殺したり、モンスターに襲われている所を助けなかったために食われたりした場合、そのNPCは、該当プレイヤー、または所属するパーティから認識できなくなる。もちろん、殺したという事実もしっかり残るので、住民からの好感度が下がったり、ギルドで処分を受けたりする場合もある。
今回の場合は、NPC側から決闘を申し込まれているので、本気で挑んで倒してしまってもOKだ。むしろ、あっちも本気で来るから、ちゃんと戦わないと俺が死に戻るだろう。