04-03 港町ソルット

改定:

本文

「ナビー。まずは、冒険者ギルドに行くぞ。先導できるか?」

「はい。ソルットの冒険者ギルドは、中央部にあります。こっちです。」

まずはナビーの更新が大事だ。なので、ギルドへ向かうことにした。

入り口付近は踏み固められた土だったが、途中からコンクリートのような石っぽい地面になった。それも、平らに整えられていた。

杖で地面をたたいた時の反響を聞く限り、道幅は狭い方だろう。日本で言えば、2車線くらいの道幅だ。この構造は、始まりの街にも似ている所を感じる。

それと、けっこう壁が多いように感じる。建物かもしれない。お店だろうか?でも、例の香辛料の匂いが漂っている感じでもない。

そんなことを考えながら、ナビーの先導に従い、ギルドの前までやってきた。

「冒険者ギルドに到着しました。入り口はこっちです。」

ナビーに導かれるままに入り口へ向かうと、杖は木にぶつかった。ここは扉が閉まっているようだ。

手を出して探ると、右側に取っ手を発見。軽く押してみたが開かなかったので、逆に引いてみたら開いた。

どうやら、ギルドもそうだが、扉の規格はバラバラなのかもしれない。港町だと潮風が入るとかもあるので、揃えられないというのもありそうだが…

ギルド内は、レストラン程度の広さがあるようだ。あとけっこう人がいる。昼飯を食べ終えた冒険者たちが、午後の予定でも練っているのだろう…

とりあえず、ナビーに導かれるまま、カウンターへ向かう。

「どうも。」

「あ、はい。えぇと、あなたは?」

「冒険者のユーだ。ミーミを横断して来た所だ。」

「は はぁ。あの、冒険者証を少し見せてもらっても宜しいでしょうか?」

職員と思われる女性の声だったが、ちょっと困っているようだ。盲人だからだろうか?

とりあえず、冒険者証を出して渡す。

「あぁ、本当ですね。失礼しました。ようこそ、ユー様。」

「あぁ。それでだが、素材の売却をしたい。あと、食堂と図書室が利用したい。」

「承知しました。どれも利用可能です。今なら食堂も入れると思いますよ。」

「ん?昼間の食堂はとても混雑するのか?」

「そうですね。冒険者の多くがここを利用しますよ。外の飲食店で食事する冒険者もいますけれど。」

素材換金や依頼処理の都合、あと外よりも安いことなどもあって、冒険者ギルドの食堂は昼や夜が混雑するのだそうだ。

確かに、この街は、第4~第8マップへ繋がる起点になっているので、滞留する冒険者が多いだろう。おまけに、香辛料取引が盛んで、料理人も多いのだ。納得の理由である。

とりあえず食堂へ連れて行ってもらい、空席に座ることができた。食事は、骨まで食べられるという魚の塩焼きにする。

そうそう。ミーミ村でもそうだったが、俺が食べる魚は、基本的に骨が取り除かれているか、骨まで食べられる物を選んでいる。これは、盲人だと骨が見えなくて取るのが大変… ということではなく、取った後の骨の置き場に困ることがあるからだ。

「おや?見ない顔だね。」

横から若そうな男に話しかけられた。

「あぁ、ミーミ村から横断して来たばかりでな」

「あぁ、S2ね。なら君は新人ってことだね。」

「その話だと、あんたはプレイヤーか?」

「あぁ、そうか。S2はゲーム用語だったね。」

どうやら、この街に滞在していたプレイヤーの隣席だったようだ。

「俺はユーだ。ようやくS2を超えて来た所だ。」

「僕はトーラス。明日から、S5に挑もうと思っている所だよ。」

「ソルットの海底洞窟か… 動画でしか知らないが、いつかは行ってみたいものだな。」

「確かに、キレイだったよね。水晶の反射がキレイだから、昼間より夜の方が映えるんだよね。」

ソルットの海底洞窟は、推奨レベル30のマップだ。洞窟の天井に張り付いている水晶群と、その反射で彩られる風景が恐ろしくキレイで映えると言われている。なお、水晶は壁や床にもあるらしいのだが、詳しくは知らない。

一方で、登場するモンスターの火力がヤバいことでも知られている。特にヤバいのは、通称「破壊光線」と呼ばれている攻撃で、無対策だと防具の耐久値を大きく失うのだ。このため、洞窟超えに当たっては、耐性防具や貫通を防ぐアクセサリーの併用が必須、とまとめられていた。

「そういえばユー君だったか。君は、ストロングハードタートルを倒して来たんだよね。もし、強硬亀の地水晶があったら、譲ってくれないだろうか?」

「強硬亀の地水晶か… 確か、1つあるな。」

「強硬亀の地水晶」は、S2のフィールドボス、ボス亀ことストロングハードタートルのレア素材の一つだ。確か、確率で壊れる貫通無効のアクセサリーに使えたはずである。

「本当かい。あ、でも、君も使う予定だというなら、強要はしないよ。6つはあるけど、多い方が安全だから、っていう感じだからね。」

「あぁ、いいよ。俺はまだ転移ゲートも解放できていないから、S5は凄く先になると思う。だから、今は売って装備の足しにする予定だったんだ。」

「あぁ、そのレベルだったか。よく見たら、始まりの街っぽい装備だね。なら、強硬亀の地水晶の代わりに、これなんてどうかな?」

そう言いながら、トーラスはアイテムの譲渡申請をしてきた。そこで通知されたアイテムはコレだった。

中級武道着:

種別: 防具・軽装

説明: 銀糸と魔糸から作成された拳士用の胴衣。獣革以上の頑丈さとしなやかさを有する。また、着用者の体術の効果を増幅する。

性能: 物理防御20, 魔法防御12, 耐久値: 450/450, 体術補助(小)

品質: 4/10

「中級武道着か。これ、他の第5マップで使えるんじゃないのか?」

「パーティメンバーのお古さ。実は上位五感の装備がダンジョンで出てね。正直、ユー君の服を見て思い出したくらいなんだよ。」

「わかった。なら、ありがたく活用させてもらうよ。これがあれば、S3のダンジョンで戦えそうだからな。」

「こちらこそ、不良在庫になっちゃう所だったから助かるよ。きっと下取りに出しても微妙な額になりそうだしね。」

俺は、トーラスに強硬亀の地水晶を譲渡し、中級武道着を受け取った。

この装備、第4マップ産の防具なのだ。物理、魔法に対しバランスの良い防御力を誇り、さらに体術系技能を強化してくれる。

「じゃ、僕は行くとするよ。さっそくアクセに加工しないといけないからね。ユー君、ダンジョン攻略がんばってね。」

「あぁ、トーラスさんも、幸運を祈ってるよ。特に、作ったアクセが、しぶとく生き残ることを。」

「アハハ、そうなんだよね。またね。」

トーラスは、そう言って去っていった。

彼が海底洞窟を抜けて、先に進めることはしっかりお祈りしておこう。特に、実況者が動画内で悲鳴を挙げていた、貫通持ちゴーレムの集団登場や、貫通レーザーが水晶で反射しまくって弾幕になる悲劇が起こらないことをだ。

俺も食事を終えたので、その後、予定していた素材換金、そして、ナビーと図書室に入った。

食堂へ連れて行ってくれた職員は、さすがに受付に戻っていたようなので、ナビーの案内に沿って一人で移動した。途中で、慌ててやってきて、強制連行されたけれど。

素材売却では、14000pほどの稼ぎになった。3日近くかかった道中のモンスター素材なので、まぁそんなものだろう。ボス亀素材が1匹で3000pほどになった。

ちなみに、けっこうな稼ぎになったのは、シーフラットのドロップだ。旅人の持ち物を盗むだけに、こいつのドロップは金になるものが多いのだ。

それと図書室だが、やっぱり、置いてあったのは紙束ばかりだった。ナビーのアップデートが目的なので、紙束で問題無いと言えばそうだが…

なぜか職員はここにもついてきた。「盲人がなぜ図書室に?」とつぶやいていたような気がした。まぁ俺だって、システムの都合という理由が無いなら近づかないだろう。

とりあえずナビーのアップデートは終了。今後の予定を考える。

この街でやりたいことは以下の通りだ。

  1. 装備の更新。ダンジョン突入の為に必須
  2. レベル上げ。S3のダンジョン、または、街の近辺で狩る。
  3. S3 ダンジョンで転移ゲートのキーアイテム取得。できれば攻略もしたい。
  4. 錬金術師の所に行く。転移の鍵を作成してもらう。
  5. 海水浴。水泳などの技能習得を目指す。
  6. 木属性魔法の育成。最近習得したので他の2魔法ほど育っていない。また、砂浜エリアのモンスターにかなり有効。
  7. 持ち歩く食料のランクアップ。これは街から転移する直前で良いだろう。

今思い浮かぶのは、この辺りだろう。

「ナビー。次は武具屋へ行きたい。先導してくれるか?」

「わかりました。武具屋はこっちです。」

ギルドでの用事が終わったので武具屋へ向かう。胴体装備は手に入れたが、更新したい装備は他にもある。特に頭だ。

途中で、何かを焼いている音などが聞こえて来た。近くに屋台でもあるのだろうか?潮ではない匂いも混じってきている。

あとで、何とかして行ってみることも考えよう。尤も、お金が余ればの話だが…