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「S3 港町 ソルットに入りました。」
街に到着したら、もう18時を過ぎていた。
とりあえず換金しないと金が無いので、ナビー先導の元、ギルドへ直行する。
「冒険者ギルドに到着しました。入り口はこっちです。」
「おぅ。そういえばナビーは、ギルド内の混雑とかはわかるか?」
「ごめんなさい。私にはわかりません。ただ、受付不可能な状態では無いようです。」
よく意味がわからなかったが、入れないわけではなさそうなので入ってみる。そして、受付に向かった所…
「素材の買取りですね。現在、3番が空いているようなのでご案内しますね。」
「3番が空いてる?というと、ここは複数の買取り受付があるのか?」
「はい。冒険者がとても多いので、素材買取りは4個所あるんですよ。全ていっぱいになった時には、一時的に受付停止しますね。」
つまり、システム的に受付可能状態が処理されていて、ナビーはそっち経由で確認してくれたようだ。ということはまさか…
「ナビー。食堂は利用可能だろうか?」
「はい。ただし、注文可能なメニューが携帯可能な食事に制限されています。」
席は空いていないので通常の食事は不可。ただ、テイクアウト系の食べ物を買って外で食べるのはOK… なんだろう。
「こちら、3番買取りです。あの、こちらの方の素材買取りをお願いします。」
ナビーが何やらやらかし始めたと思っていたら、買取り口に着いたらしい。
「ほ~い。ん、君は昨日、強硬亀素材を持ってきた人だね?」
「あぁ、覚えていたか。今日は、野道のモンスター素材なんだ。頼めるか?」
「あぁ、周辺の素材だね。浜かな?林道かな?」
「え?あぁ、浜の方だな。一番多いのは違うけれど…」
昨日、素材買取りをしてくれた女性と思われる人が担当なようだ。
なお、売り払う予定の素材のリストはこんな感じだった。
突撃鳥の羽 X 21
突撃鳥の嘴 X 12
鶏肉 X 16
スライムの皮 X 4
スライムジェル X 3
豚肉 X 8
海猪の牙 X 4
海猪の皮 X 6
酸蛙の皮 X 4
酸蛙の油 X 5
強酸 X 2
「どれどれ?うわぁ~!ラッシュバード素材ばかり!」
「そうなんだよなぁ。なんであんなに群がってくるのか不思議なくらいだ。」
「あの鳥、けっこう群れてくるんだよ。でも、遠距離魔法で倒すのは消費がきつかったり、突っ込んできたのを避けたら彼方に飛んで行ったりするんだよ。」
「なるほど。それは盲人だけに盲点だったか。ちなみに俺は回復と防御で耐えて接近戦スタイルだぞ。」
「う~ん。そんなことしたら、MPが足りなくなると思うんだ。まぁ、冒険者証は正しいみたいだから、納得するしか無いんだよね。」
どうやらラッシュバードは本来、素材回収の難易度が高いようだ。これについては、無音で突撃してくる鳥が悪いとしか言えない。
「それで、買取りはちゃんとしてくれるのか?」
「あぁ、うん。もちろんだよ。合計、22390pだね。あと、条件満たしたみたいだから、受付に持って行くといいよ。Dランク昇格おめでとう。」
すっかり忘れていたが、俺はEランク冒険者だったな。なお、まとめウィキにあったDランク冒険者の条件は以下の5つだ。
- レベル15以上
- 戦闘職は、レベル10以上のモンスターを50匹討伐
- フィールドボス2匹以上を討伐
- 戦闘以外の依頼を5件以上クリア
- 一定以上のギルド貢献度
Dランク冒険者になると、購入できるアイテムの幅が広がる。ただ装備に関しては、昨日訪れた店のおっちゃんドンゴラさんが、それ以上の代物を出してくれたので更新不要だろう。
「なるほどな。受付に行ってみよう。」
「こちらこそどうも。ところで、明日も狩するのかな?」
「いや。明日からしばらくは、海に通う予定だ。観光用の海の方だけどな。」
「そうなんだ。ラッシュバード素材、今けっこう需要があるから、こんなに集められるなら集めて欲しかったんだよね。」
「ん?なぜだ?」
「今度、海上でのモンスター間引きが予定されていてね。そのために、お肉や遠距離武器の材料が重宝されているんだよ。」
「あぁ、ラッシュバード素材なら風を押しのける力が強いから、って感じか?あと鶏肉な。」
「そうそう。もし集めてきたら高く売れるから頼むね。」
そういえば、この街だと海上戦イベントがあったな。甲板を走り回って、寄ってくるモンスターを遠距離攻撃で撃ち落とすというFPSチックな内容だったはずだ。
なお、モンスターは、なぜか船には登ってこないので、攻撃役になるなら遠距離攻撃手段が必須だ。俺が挑むとしたら、モンスターの遠距離攻撃に対する防波堤だろう。
その後俺は、再度受付に行きDランクへの昇格手続きをした。これで、ここにいる目的の一つ、錬金店に入れるようになった。
そして、ちょうどできた空席で食事をした。なお、今日の食事は「骨まで食べられる魚のから揚げ定食(600p)」だった。
「いらっしゃい!って、あんたかよ?」
「おぉ、ドンゴラさんだったな。」
「合ってるぜ。で、何用だ?」
食後は武具屋にやってきた。
「今日、Dランクに上がったので、装備の更新があるか知りたい。特に無いなら、武具のメンテナンスだな。」
「あんた、Dランクじゃなかったのかよ?あんな装備でここまで一人で来るから、Dランクだと思ってたぜ。まぁその実力はあったってことだから問題ねぇか。」
どうやら、先日の装備更新の時、俺は既にD判定されていたようだ。
「そうか。耐久度の回復を依頼できるか?」
「メンテナンスか。あの武具が一日でどうかなるわけねぇぞ。まぁ見せてみな。」
ということで、見てもらったが、確かにドンゴラのおっちゃんの言う通り、耐久値は10%も減っていなかった。一週間使い込んでも余裕だ。
「さすが、良い装備だな。丈夫なのは助かる。」
「Dランクってのは遠征したり、ダンジョンで寝泊まりすることもあるんだぜ。だから、武具は頑丈じゃなきゃ話にならねぇんだ。」
「あぁ、確かにそうか。俺も、もう少し準備したらダンジョンで寝泊まりだな。」
「だろ。むしろ食い物は腐るくらい用意していけよ。ネズミ部屋とか当たると超やべぇかなな。」
ネズミ部屋とは、ダンジョンギミックの一つだ。具体的には、シーフラットが100匹くらい沸いてくる。かじられて死ぬようなことは起こらないが、食料をガッツリ盗まれるため、そっち方面で危険と言える。
なお、シーフラットしかいない、閉じ込められる、数が多いといった条件が重なるため、正々堂々な俺でも被害は出るだろう。ということで、対策アイテムがあるか聞いてみる。
「シーフラットが大量出現する部屋だったな。盗み防ぎのアクセサリーって無いのか?」
「あるぜ。昨日、一人でダンジョンに行くと言っていたヤツがいたからな、用意しといたぜ。3000pだ。」
「ずいぶん気前が良いな。いいのか?」
「あんたなら問題無いさ。こっちは、作れば売れる物を作っただけだからな。」
盗難防止の指輪:
種別: 防具・アクセサリー
説明: 身に着けていると、所持金、所持アイテムの簒奪を防ぐことができる魔法のアクセサリー。
デメリット: 装備中、器用、敏捷が低下(中)
価格: 3000p
これも第4マップ産のアイテムだ。第4マップのフィールドボスは全てダンジョンの最奥にいるため、ダンジョン攻略が必須。故に、ダンジョンギミック対策アイテムが売りに出されるのだ。
なお、今回出て来た指輪は、効果のわりに値段が安い。理由はデメリットが厳しい「器用、敏捷低下」だからだ。
ちなみに、身に着けているとパーティ全体に盗難防止効果が乗る。このため、通常はヒーラーやポーター役のメンバーが戦闘中にパージする前提で装備することになるだろう。ただ、パージするまでが無防備なので、微妙に被害は出ることになる。
そして俺の場合、器用と敏捷は要らないので、常時着用が可能だ。ダンジョンの外で着用する意味は無いが、装備枠は残っているので、あえて外す必要も無いだろう。
そうだ。例の水着について聞いておこう。ギルドで話した職員は、皆女性っぽかったから、海パンの在り所を聞くのは避けたかったのだ。
「ありがとな。あと、海水浴用の装備は売ってるか?明日は観光用の海に行こうと思っているんだ。」
「おいおい、なんで武具屋で観光地の水着を聞いているんだよ?」
「甲羅ヘルムがあったからな。潜水補助や海水防御系の水着ならあるだろう?」
「ガハハハ、そうだったな。希望は何だ?」
「そうだな。今一番欲しいのは海中戦闘補助と、潜水時間延長だな。海水防御もあるとなお良い。」
「おいおい、観光地の海で使うって言ってただろう。でも注文通りの物はあるぜ。」
耐海武術着:
種別: 防具・全身
説明: 海中戦闘用に制作された水着。全身装備として見ると防御力は低いが、海中での武術の使用、長時間の潜水などを助ける力が強い。
価格: 15000p
そうしてドンゴラのおっちゃんが持ってきたのは、まさしく戦闘用の武道着だった。海中戦闘補助、潜水時間延長、海水防御、少しの斬突耐性が付いている。
「海中戦闘補助」は、海中で武具を使用した時の威力減衰を抑える効果がある。これに近い効果がある「水泳」の上位技能「遊泳」の習得を助けてくれるし、併用すればさらに効果が増す。
「潜水時間延長」は、文字通りの効果だ。「潜水」技能を習得して育てていく際に役立つ技能だ。
最後の「海水防御」は、一般の水着にも付いている、海水を落としやすくなる効果だ。海水浴の後の水洗いを少し時短できる効果と、海水を利用した水属性攻撃であれば、ダメージを減少させる効果がある。
「いや、予想していた以上に本格的な水着だな。」
「もうすぐモンスターの間引きもあるからな。水着の注文は入っていたんだぜ。ちなみに、料金は15000pだ。そういえば、耐久度回復もだな。合わせて16000pだ。」
「わかった。あと、タオルになる布はあるか?こっちは海から出る時ようだから、水耐性辺りが付いていればいいんだが?」
「そんな用途のタオルが武具屋にあるわけねぇだろ。端材の布があるから、こいつで我慢しとけ。サービスしとくからよ。」
ということで、16000pを支払う。
観光地で使う水着にしては恐ろしく高額だ。だが、効率的に強くなるための機能が多数付いているのだ。買うしかあるまい。
ちなみにタオルだが、「水中花の綿布」という素材を加工したものだった。ばっちり水耐性は付いているし、耐久値も高かった。
その後、俺はログアウトした。明日は海へ行こう。