04-08 ソルット観光、エリート職員の道案内

改定:

本文

「ほ~い、ユーさん発見。」

「あぁ、リーネさんか。今日は世話になる。」

「いいよいいよ。モンスターの間引きも終わって、今日はお休みだから、市場を見て回る予定だったんだ。」

海水浴を始めてからゲーム内3日… 俺は技能習得&育成のため、ひたすら同じことを繰り返した。おかげで、今欲しかった技能や技は揃ったし、資金も貯まった。

そこで、ダンジョンへ挑むべく準備を始めることにした。具体的には、食料やポーションの確保である。

今日のお供はナビー… ではなく、鳥素材の買取りで縁を持ったギルド職員だ。リーネと言う元冒険者の女性らしい。

昨晩、ダンジョンに潜るための食材について聞いた所、連れて行ってくれることになった。渡りに船だったので応じた形だ。

なお、そんなことになったのにはもう一つ理由がある。この職員、どうしても俺の能力が知りたいと鑑定をしてしまった所から悲劇が始まったのである。

「え?何これ?看破、識別が失敗?なんで?」

「看破?識別?」

「あ… えっと。ごめんなさい。どうしても気になってさ。」

「あぁ、俺の鑑定か?それなら一言言ってくれればよかったんだが。それと、今なら大丈夫だと思うぞ。」

「え?今なら?あれ?今度は読めた。でも、どういうことかな?看破って、偽装を貫通する技能だったはずなんだけど…」

「それは出ている技能のせいだな。まさか看破… いや、識別か?無効化されるとは思わなかったぞ。」

以前、アヤが俺を鑑定して来た時には普通に鑑定が有効だった。しかし、今回無効だったというと、鑑定とは違う何かを見ようとしたことが原因と思われる。

そこで思い至るのは識別だ。識別は、鑑定よりも詳細、例えば所持技能やステータスまで見ることができる。そして、もし、その開示を相手が拒否していた場合に貫通するのが看破だ。

こうした技能の相乗効果があったために、俺が認識していない状態で能力、弱点などを暴こうとした行為を、「正々堂々」が無効化してしまったのだろう。あるいは、俺自身が、「ただの鑑定なら皆やるもの」「無許可の識別は敵対行為」と考えていた影響かもしれない。

「え?この技能… 不意打ち… そういうことか。ユーさんがはっきり認識してないとアウトなんだ。」

「まぁ言ってしまうと、あんたが一番知りたかったことだろうな。」

「そっか。それで、空からのラッシュバードやヌーンアウルが。そして、近接戦闘を強制してこの能力。これ、ユーさんを倒せる人なんているのかな?」

「投げ技特価なら行けると思うぞ。ん?」

話をしていたら、横から何か触れた気がしたが、それは弱く、少し手を振っただけで払いのけることができた。布でも飛んできたのだろうか?

「あぁ… これ、捕まえるのに制限がかかるみたい。正面から掴もうとしてこの反発は理不尽だよ。」

「ん、なるほど。あんたの手だったのか。つまり、投げ技のつもりで… って、わかると、あっさり持ちあがるんだな。」

「うわぁ~。これはとんでもないことを知ってしまったかもね。申し訳ないから私にお礼をさせてよ。」

「お礼?」

「そう。何か困っていることとかあれば手伝うよ?」

「とりあえず下ろしてもらえるか?」

「あ、そうだね。それで?」

「困っているというか、探している物ならあるぞ。ダンジョン探索に向けて食材や水を準備したいのだが、お薦めの店などの情報はどこで得られるだろうか?と思っていた。」

「あぁ、そういうこと。わかった。それ私が連れて行くよ。」

ということで、識別、看破持ちと推定される冒険者ギルドの職員に店案内をしてもらえることになったのである。

ちなみに、お詫びが足りないと言う理由で俺も鑑定させてもらった。これはこれで、貴重な経験になるだろう。

名前: リーネ

種族: 獣人(狼)

職業: 双剣士, 拳士

性別: 女

称号: [冒険者ギルド職員], [上級双剣士]

レベル: 35

体力: 103

魔力: 45

筋力: 103

防御: 45

精神: 63

知性: 48

敏捷: 138

器用: 99

技能:

適性: 中級剣術18, 体術15, 気放術12, 魔法(土18, 水15, 風27, 炎11, 闇22), 中級採集16

技術: 狼武術37, 上級双剣4, 高速投擲14, 広域索敵18, 直感42, 危険感知36, 上位高速解体3, 受身29, 魔力制御8, 縮地6, 特効看破17, 多段跳躍17, 安定動作19, 水中活動4, 中級並列思考12, 鑑定48, 冒険者指導36

支援: 嗅覚強化, 握力強化, 味覚強化, 視力強化(暗,遠), 超反応, 森の心, 獣の心, 剛体, 俊足, 世界知識, 看破, 識別

耐性: 柔軟, 毒耐性, 睡眠抵抗, マヒ耐性, 気絶抵抗, 精神異常抵抗, 燃焼抵抗, 即死抵抗

特質: 森の狩人

第5マップ以降に通じている街だけあり、レベル帯は予想通りだった。ステータスも高い。これは、能力値を底上げする技能をいくつも所有しているためだ。

また、二次職も設定されていた。2つめの職業であるこぶし士は、そんなに育っている感じではなさそうだが、ベースが高いので、そこら辺のモンスターを素手で殴り倒せるだろう。

あと、推定した通り看破、識別、ついでに世界知識も持っている。看破があれば偽装した表示は見破れるし、識別があれば詳細もわかる。それで足りない知識は世界知識が何とかしてくれる。

そして、戦闘技能もヤバい。特に「双剣」と「疾走」が2段階も進化して、「上級双剣」と「縮地」になっている。他の技能も、1段階進化しているものが目立つ。

というわけで、豪華過ぎる護衛に引っ張られる形で、俺は市場へとやってきていた。

「着いた着いた。目的は、ダンジョン内で食べる物だったよね?」

「あぁ、そうだ。インベントリーはあるから携帯食にはこだわらなくてもいいが、旅中に食べにくい物は避けたいな。」

「う~ん。テントの中で食べればいいと思うから、けっこう何でも食べられると思うけどね。他に要望はあるかな?」

「そうだな。骨が無い方がいいな。モンスターを強く引き付けると聞く。動物や鳥なら良いが、スライムは勘弁願いたいからな。」

「あぁ、体術だとスライムが厳しいのか。核を知るために触る必要あるんだし。魔力で何とかなるとしても、浪費はするべきでないね。」

「そうだな。スライムの弱点を探るためだけに触鑑定するのはリスクの方が大きいだろう。それなら、魔力拳で爆砕だからな。」

「私も冒険者時代はそうだったし、今でもそうするべき。ビッグスライムのように体が大きい場合は弱点を探るべきだけど、小さいスライムは爆砕した方が消耗を減らせるよ。」

さすが元冒険者だ。尤も、俺の場合、スライムがビッグかどうかは触るまでわからないだろうけれど。

「あ、このお店なんてどうかな?」

「どうかなと言われてもな。説明してくれるか?」

「あぁ、そうだったね。ボアや鳥、魚の串焼きだよ。骨は抜いてあるから食べやすいし、野菜も一緒に刺してもらえるから、1本で良い感じの食事になるよ。」

「なるほど。食べやすく美味しいのは良いな。」

最初に紹介されたのは、串焼きだった。肉も魚も串で出てくる。骨が無いので食べやすく、回復効果も優秀だった。

「う~ん、このパンは良さそうだね。MP回復促進が付いてるよ。」

「MP回復は貴重だな。魔力草を粉にして練り込んであるのだろうか?」

「たぶんね。はい、これ試食用。」

「おぉ、助かる。」

「う~ん、レストランで食べるパンと比べると劣るけれど、旅で食べるなら十分な味だね。」

「リーネさんは、レストランも行くのか?」

「まぁね。ギルドの食堂は混雑するし、いろいろ食べないと飽きちゃうから。」

次に紹介されたのはパン屋だ。MP回復促進のパンがあった。

俺の場合、空腹耐性があるので、食事は夜、ログアウト前に行なうことが多い。基本的にMPを消耗した状態なので、MP回復を促す効果はうれしい。ログアウトだけだとMP回復しないからな。

「おや、リーネさんか。今日はデートかい?」

「いや、違うよ。この人盲人で、携帯食探しのお手伝い。」

「なるほどね。僕は料理人の餃子饅だよ。よろしくね。」

「俺はユーだ。で、餃子饅?となると、売っているのは、そんな感じなのか?」

「そっか。ユーさんは異人の旅人だよ。餃子饅さんもね。」

「あぁ、君プレイヤーか。名前は乗りさ。でも、餃子饅はちゃんとあるよ?」

最後に、料理人プレイヤー登場。なんと、レベル60オーバーのベテランとのこと。

「これは良い味だ。携帯食でもここまでうまくなるんだな。」

「そりゃそうだよ。携帯食を露店で出している料理人は、みんな、あの不味い携帯食を何とかするために試行錯誤しているからね。」

「う~ん、私が知る限り、ここの携帯食がこの街では一番だと思うよ。処理の仕方が良いし、回復効果もずば抜けて高いし。」

「ギルド職員にそう言ってもらえるとうれしいね。ここを拠点にする人は食堂に行くだろうけど、そうでない人には宣伝してくれるともっとうれしいな。」

「そうだね~。この店の評価はギルド内でも認識されていたと思うから、言っておくよ。でも、悪いことするんじゃないよ?」

「そりゃもちろん。僕も料理を好きなだけやりたいだけだからね。」

ということで、料理プレイヤー餃子饅から携帯食を購入。携帯食なのに、水分入りなので、これだけでも旅ができるとのこと。回復量も倍だったのに、お値段は1個1000p。けっこう良心的だった。

なお、本当に餃子饅も出て来たので購入。しかし、出て来たのは、餃子の皮を重ねることで饅頭みたいな状態になった餃子だった。「皮から肉まで餃子、これこそ100%餃子饅さ!」と言っていたが、「ジャンボ餃子」の方がわかりやすいように感じた。なお、同じコンセプトで揚げ餃子饅や水餃子饅もあるらしい。

「今日は助かった。食料はだいたい集まったな。」

「そうだね。他にも良さそうな店はあるけれど、この辺りのダンジョンへの遠征を考えると、今選んだ3つがあれば十分かな?特にコストパフォーマンスが良かったから。」

「あとは水だな。食堂で樽が早いか…」

「樽もいいけど、ユーさんは浄水筒って知っているかな?」

「ん?売ってあるのか?」

「錬金術店にあるよ。予算しだいだけれど、集水が使えるならコストパフォーマンスが良いと思う。」

浄水筒は、魔法の水筒の一つだ。中に入れた液体を浄化して、飲料水に変える効果がある。

インベントリーに樽が入るのだから水筒なんて要らないのでは?と思うだろう。だが、この水筒、以下に挙げる5つの理由からまとめウィキでも入手すべしと書かれていた一品だ。

  1. ゲームでよくある空間拡張により、最低グレードでも大樽1個分(200l)くらいの水が入る
  2. 形状が水筒なので取り回しが良く、飲む、かけるなど幅広い用途で扱える
  3. 液体であれば、海水、泥水、毒液、はたまた水魔法でさえ飲み込み、飲料水に換えてしまう。しかも、水筒の口を通った瞬間に変化する。
  4. 出来上がる飲料水の品質は並み程度だが、「癖が無く美味しい」と評価されている。
  5. 分類上は「洗浄水」のため、並品質を許容できるなら各種生産技能で使える。

というわけで俺は即答。リーネさんに連れられて錬金術店へ向かったのだった。