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「おはようございます、ユー様。」
「おはよう、ナビー。今日は、野道に出現しているダンジョンへ向かうぞ。先導を頼めるか?」
「了解しました。まずは S3 、港町へ続く野道 へ向かいます。こっちです。」
今日からはダンジョン攻略だ。ひとまず、野道まで戻ってくる。
「S3 港町へ続く野道 に入りました。」
「よし。近場にあるランダムダンジョンは見つけられるか?」
「マップ内のランダムダンジョンですね。入り口まで先導できます。」
「それでいい。中は入り口に触れないとわからないからな。先導を頼む。」
「了解しました。交通路から外れるため、モンスターと遭遇する危険が増し増す。ご武運を。」
ここで、ダンジョンのシステムについて触れておく。
この世界には、特定のマップに固定されたダンジョンと、マップ内に一定周期で出現するランダムダンジョンの2種がある。
前者は、例えば四方の第4マップにあるダンジョンや、特定の街の中に設置されたダンジョンなどが該当する。基本的にフィールドボスがいたり、重要なイベントの場所であったりするため、プレイヤーは攻略する必要がある。
一方、今回挑むランダムダンジョンは、第2マップから出現し始める。出現場所、ダンジョンの内容、出現モンスターなどは様々であり、入り口で鑑定することで、ヒントが得られるようになっている。
ランダムダンジョンは、固定のダンジョンと違い、クリアしてもイベント振興に影響しない。しかし、ゲーム攻略を有利にするアイテムや、現在のマップでは入手できない貴重なアイテムが入手できることもある。
なお、出現するダンジョンの難易度、得られる報酬などは、出現したマップの影響を受ける。例えば第3マップのダンジョンであれば、モンスターや報酬のグレードは、ほぼ第3マップ相当、時より第2、第4マップが混じる… といった感じになる。
ただし、一部で例外もある。ダンジョンの5層で転移のキーアイテムが手に入るイベントもこの一つだ。
あと、今回は対象外だが、第6マップからは、上限を飛び越えた強敵に遭遇する場合がある。レベル60オーバーのモンスターが出たりするためとても危険だが、倒せれば経験値が美味しい。このため、一部のプレイヤーは、上限レベル以上の育成を目指して、こいつらを探しているそうだ。
「ランダムダンジョンの入り口に到着しました。」
「わかった。入り口の壁はどこだ?」
「入り口の壁はこっちです。」
街から離れること1時間… ようやく最初の入り口を見つけた。
ダンジョンへ続く入り口が、草むらを挟んだ反対側にあっ影響か、ここに来る過程でスライムを6匹も踏んづけた。まぁ、それ以上にラッシュバードが突っ込んできたけどな。どこからこんなに沸いてくるのやら…
ナビーの先導に従いダンジョンへ近づき、壁に触れる。ダンジョンの見た目は洞窟だったり、木に穴が開いていたりするらしいが、今俺が触れた入り口は洞窟の壁のような岩だった。こんなのが突然現れるのだから不思議なものだ。
粘体と植物の洞窟
種別: ランダムダンジョン
残り時間: 27:21:48
階層数: 9
ここは止めよう。相性が良くないし、それ以前に残り時間が厳しそうだ。
まず名称。ここは、スライムと植物、及び、それを混血する系統のモンスターが多いダンジョンということになる。
俺の場合、主武器が体術であるため、スライムが多いとMP消耗が厳しくなる。それと植物も、遠くから弦を伸ばして来たり、絡みついてきたりする系統が予想されるため、対処が面倒だ。群れ方によっては間に合わなくなるかもしれない。
次に残り時間。ランダムダンジョンは一定周期で消えてしまうが、ダンジョン内でタイムオーバーになると強制死に戻りとなる。
冒険者ギルドの情報では、そのマップで問題無く活動できる冒険者パーティがダンジョンの階層を通過するのに想定される時間は2~3時間とされている。このため、9階層のダンジョンを抜けるなら、寝泊まり込みで2日は見ておく必要がある。
寝泊まり込みというのは、ある意味ではプレイヤーにも当てはまる。16時間という連続ログイン時間の制限があるからだ。ログアウトした時に休息や食事も取るので、だいたい住民と似たような活動サイクルになるだろう。
「ナビー。他のダンジョンへ向かう。先導してくれ。」
「わかりました。現在地から近い別のランダムダンジョンへ案内します。こっちです。」
というわけで、ナビーの先導を受けて別のダンジョンへ移動した。
ア人と虫の広場
種別: ランダムダンジョン
残り時間: 83:21:33
階層数: 1
次に触鑑定したのは、煉瓦のような壁に開いた入り口だった。が、これは別の理由でNG。
理由は階層数が1となっていることだ。これは、「狩場」と呼ばれている特殊ダンジョンだ。
このダンジョンに入ると閉じ込められ、出現するモンスターとのデスゲームに突入する。死ぬか、アイテムで脱出するか、ログイン制限時間5分前になるまで終わらないのだ。
その代わり、ダンジョン内で死んだ場合のペナルティが存在しない。もちろん、持ち込んだ消費アイテムは戻ってこないし、装備品の損耗もあるだろう。だが、それを差し引いてもメリットが大きいため、狩場と呼ばれているのである。
しかし、今回の目的は転移ゲート解放や、ダンジョン攻略報酬だ。ここに入っても目的のものが得られない。だから入る意味が無いのである。
「残念。別のダンジョンへ向かうから、先導を頼めるか?」
「申し訳ありません。S3 港町に続く野道 に出現しているダンジョンは、現在2つだけです。他のマップへ移動する必要があります。」
残念ながら、今は目的のダンジョンが無いようだ。そうなると、別のマップへ移動するか、ダンジョンが入れ変わるのを待つしかない。
仕方ないので、今日は街へ戻ることにした。幸い、道中で狩ったモンスター素材を売れば、食費は余裕でカバーできるだろう。
「おやおや~?ユーさん、死に戻りかな?それとも、怖くて逃げかえったのかな?教えてよ?」
「出戻りだな。野道のダンジョンを探したが、目的に合うダンジョンが無かった。」
「あぁ、うん。まぁ、アレだけ準備したユーさんが死に戻りなんてあるわけないよね?」
「準備しても死ぬ時は死ぬと思うけどな。まして、俺はまだ初級冒険者の域も出ていないぞ。」
「あのね?初級冒険者って言うのは、日帰りでこんなにスライムやラッシュバードの素材は持ってこないんだよ?スライムにはまって飲まれるとか、ラッシュバードに後ろから突っ込まれて即死、あるいは転んでモンスターに頭からずぼってなっちゃうんだよ?」
「それは俺も気を付けるとしよう。」
「う~ん、まぁいいや。それで、出戻りしたダンジョンは、どんな所だったのかな?」
「一つは粘体と植物の洞窟で、残り時間2日以下。もう一つは、ア人と虫の狩場で、残り3日だな。」
夕方、冒険者ギルドで鳥素材などを卸しに来た。そして、隣が空いていたような気がするのだが、なぜかリーネさんの所に案内されてしまった。
「あらら~、確かにどっちもダメなやつか。あ、狩場の方は需要あるから、ギルドで告知していいかな?」
「かまわないぞ。あ、だが、場所はどう説明したら良いだろうか?」
「あぁ、そっか。どの辺だったとか覚えている範囲でいいよ。」
その後、思考入力で、2つめに訪れたダンジョンの位置をナビーに問い合わせた所、解答を得ることができたので、それを元に説明した。
「野道を5分ほど北に歩いた後、浜の方向へ直進、枯れ木の近くに石積みの入り口がある… と。これだけあれば、何とかなるんじゃないかな?」
「それにしても、現在出現しているダンジョンって、ギルドでわかるのか?」
「報告があれば掲載されるよ。でも、報告があるケースって、狩場が多いかな。普通のダンジョンは、見つけた冒険者が潜っていくから、報告の頃には消えちゃうし。」
「あぁ、そうか。とりあえず、3日は待ちだな。明日から海に行くとしよう。」
「街で時間潰すなら、野道でラッシュバードやヌーンアウル狩ってきてよ。不足気味らしいんだ。」
「さっきまで、遠回しに狩り過ぎって言っていた人の言葉じゃないと思うぞ。それはともかく、まだ足りないのか?」
「今回は素材よりお肉だね。食べつくされたらしいよ。あと、前にも言ったけど狩るのが難しいから、不足しがちなんだ。」
「まぁ、時間はあるし、今後の資金にもなるからかまわないぞ。ただ、ヌーンアウルを狩るなら夜だな。」
「夜のヌーンアウル狩なんて、正気を疑う話なんだけどね~。」
こうして、初めてのダンジョン突入… は、ダンジョンが見つからないという結果に終わった。こればっかりは運なので仕方ない。
そこから2日ほどは、海での訓練をしたり、夜の野道でモンスターを釣り狩りしたりして過ごした。
ちなみに俺が発見した狩場には、その後冒険者が殺到、大量に虫素材や壊れた武具が流れ込んできたらしい。