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「ナビー。ここに突入する。道の先導は頼むな。」
「了解しました。ご武運を。」
俺は今、1つのダンジョンの前に到着していた。
魔生の荒野
種別: ランダムダンジョン
残り時間: 147:21:33
階層数: 10
「ダンジョン 魔生の荒野 へ入りました。現在1層です。」
ついにダンジョンに入った。
野道から荒野に入ったためか、空気が乾いているように感じる。草木も少ないのだろうか…
ひとまず、ナビーに、先導できるかを確認してみよう。
「ナビー。2層の入り口はわかるか?」
「ごめんなさい。歩いたことのある地域しかわかりません。なお、この近辺には存在していないようです。」
「そうか。では、この層全体はどうなっている?」
「まっすぐな道が続いています。」
「わかった。では、奥まで直進だ。先導してくれ。」
うん。実は知っていた。
荒野系ダンジョンは見晴らしが良く、隠れる場所が無いためエンカウントの回避が難しい。その代わりに、終点まで道はまっすぐに続いているのだ。
ただし、ギミック自体はある。近くまで来ると、道に空いた穴からピンポイントにガスが噴き出してきたり、どこからともなく檻が降ってきて、モンスターと一緒に閉じ込められたりする。
というわけで、ナビーの先導に従って前進…
そうやって歩いていると、手に何かがぽふった。俺は杖をパージすると、その物体を掴み、強撃をたたき込んだ。
ミニゴーレム:
種別: モンスター・魔法生物
レベル: 10
HP: 7%
状態: 敵対
説明: 小型の魔法生物。動きはとても遅いが、その拳は石でも砕けるほど。
バッターン!
どうやら、ミニゴーレムにぶつかったらしい。そして、ミニゴーレム自体は見計らったようにパンチしたらしいが、俺が気づいていなかったため不意打ち扱いになったようだ。
その後、地面に倒れたところに近づいてパンチで倒した。第2マップ級ということもあり、弱かった。
そのまま歩いていくと、次のモンスターに杖先がコツンと当たった。しかし、掴もうとすると、モンスターはいなくなっていた。
たぶん、俺が近くに来るまでは、何かをやっていたと思う。だが、俺がそれを全て踏み倒して正面まで来てしまったので、逃げ出したのだろう。
ちなみにこのゲーム、逃げ出したモンスターがプレイヤーの追跡範囲外に出ると、データのあちらへ消えてしまうらしい。このため、逃げ出したモンスターが、通路の隅などに貯まることは少ないようだ。なお、適切な距離で追跡を続ければ、追い詰めて一網打尽にできるぞ。
その後、ミニゴーレム2匹を倒しながら歩いていると、終点までやってきた。
「ユー様。次階層の入り口を見つけました。入場可能です。」
「わかった。引き続き先導してくれ。」
俺は、2層への入り口に向かって歩いていった。すると、杖は扉をたたいた。
2層への入り口は、扉になっていた。ダンジョンによって、階段だったり扉だったり、転移ゲートのような物体だったりするらしい。
俺が扉に手を触れると、扉は勝手に開いていった。自動ドアだったらしい。
「ダンジョン 魔生の荒野 2層 に入りました。」
進んだ先は、正直、違いがわからなかった。荒野だから当然だ。進み方も変わらない。よって、俺はそのまま進んでいった。
2層で出て来たモンスターには、特に変化は感じなかった。罠の類も無かったし、まだゴーレムが2匹出る感じでもなかった。
そんな調子で進み、3層の途中まで来た時、変化があった。俺の前で、何か大きな機械音がしたのだ。
とりあえず杖をパージした上で、筋力を強化して構えを取った。
そうしていると、ドシーン、ドシーンと、足音が迫ってくる。あと3歩で俺の手が届く所まで来るだろう。
そして、俺の正面に足と思われる何かが下りて来た。俺はそれを片手で掴み、伝衝を打ち込んだ。
ドッゴーン!という破砕音、そして、その巨大生物、ゴーレムは後ろへと倒れた。
俺は、接近し、続いて爆拳をたたき込んだ。
「ゴーレムを倒した。経験値60を獲得しました。」
さっき鑑定もしたのだが、うまくいったようだ。
ゴーレム:
種別: モンスター・魔法生物
レベル: 15
HP: 36%
状態: 敵対・怯み
説明: 大型の魔法生物。鈍重だが力が強いため、労働力とされることもある。なおモンスターとして遭遇するこれらは、長時間、魔の力に汚染された影響で制御不能になったもの。
ゴーレムは第4マップ相当のモンスターだ。とあるダンジョンで普通に徘徊している。
そんなゴーレムを、俺はあっさり倒すことができた。これは、足音がはっきりしていた故、攻撃準備が可能だったこともあるが、そもそも、俺がこのダンジョンに迷わず飛び込んだ理由でもある。
実の所このダンジョン、俺にとっては大当たりなのだ。その理由は以下の3つだ。
- 魔法生物は全体的に打撃、あるいは衝撃系の属性に弱い。俺の場合、「爆拳」や「伝衝」がこの属性を内包しているため、大弱点、あるいは特効になる。
- 魔法生物系の攻撃で危険と言われているのは、遠距離からの不思議な踊り、フラッシュなどだ。だが、いずれも俺には効果が無い。
- この世界の魔法生物系は、ゴーレムのように重量のある場合を除き、ほとんど音を立てない。浮遊していたり、錆びと無縁な車輪で動いていたり、兎なんかよりも軽かったりする。故に、俺がやつらに気づくことがほとんどできないため、「正々堂々」が十全に効果を発揮する。
唯一、俺に対してダメージを与えられるのが、先ほどのゴーレムだ。デカい音を立てるからな。だが、密度の問題なのか、衝撃属性が特効なのだ。
ということで、その後も特に問題無く、ミニゴーレムやゴーレムを粉砕していった。
そうそう。5層の手前で、杖が触れると逃げてしまう物体の正体を知ることができた。階層扉の近くだったため、逃げられなかったようだ。
踊る人形:
種別: モンスター・魔法生物
レベル: 11
HP: 100%
状態: 逃亡
説明: 木製の人形のような魔法生物。その踊りを見ていると体を操られたり、魔力を吸い取られたりする。しかし、臆病でもあるため、近づかれると逃げ出してしまう。
どうやら、こいつが、遠くからずっと踊っていたらしい。だが残念なことに、踊りは視認しなければ効果が及ばないので、俺は気づかずに接近、それで逃げてしまっていたようだ。
もちろん、今回は捕まえているのできっちり倒した。まとめウィキで紙耐久と出ていたので、投落したら一撃だった。
ちなみに、マップが進むと、歌唱するモンスターも出てくるようになる。こっちは俺にも効果が及ぶし、耳栓で防ぐわけにはいかないだろう。
さて、それはそれとして、ようやく辿り着いた、ダンジョンの5層だ。これまでと同様、杖で扉に触れると開いたので、そのまま歩いていった。
すると、身動きが取れなくなった。まとめウィキにあったゲーム演出のようだ。
そして、正面で何やらピキピキという音が出始めた。薄い膜のようなものが張られたり割れたりを繰り返すような感じだ。氷に近いのかもしれない。
確か、実況プレイ動画によると、正面に光が集まって、妖精のような何かが形成されていくらしい。輪郭はぼやけていてわからないが、縦長で、羽根があるようにも見えるためなのだそうだ。
そしてしばらく待っていると、声が聞こえた。
ダンジョン。それは、この世界に存在する不思議の一つ。
それは泡沫のように、現れては消えていく。昨日見た姿は形を変える。
しかし、そこに人々は踏み入り、そして持ち帰ることができる。
あなたも、そんな不思議に挑む者。この場に立つことが、その証明。
世界の未知に挑む者よ。新たな道を切り開く者よ。
未開の大地へ赴きなさい。そして、あなたの答えを摘み取りなさい。
そのための鍵の一つを授けましょう。さぁ、鍵を手にしなさい…
その後待っていたのだが、どうやら鍵は自分で探して掴まないといけないらしい。皆速攻で掴んでいたので、自動でやってくれるものと思っていた。
「ナビー。鍵が浮いているらしいんだが、わかるか?」
「ごめんなさい。私にはわかりません。」
あれ?鍵って、自力で探さないといけないのか?
動画だと、鍵は無音だった。実際、今正面からは、それっぽい音はしていない。
これは大変だ。ナビーに見つけられないなら、この辺りを徘徊しないといけないかもしれない。幸い、モンスターは出ないみたいだが…
「ナビー、俺が良いと言うまで、そこで、声に出して数を数えていてくれ。」
「はい。1。2。3。4。」
とりあえず、この近くにはあると思うので、手探りしながら歩き回って探そう。ナビーに声を出しておけば、離れ過ぎることは防げるだろう。
まずは、声がしていた辺りまで行ってみる。しかし、もう声も音も聞こえないので、詳しくはわからないな。
「えぇと、妖精でいいのか?鍵ってどの辺にあるんだ?」
試しに呼び掛けてみたが返事が無い。
とりあえず、もう少し周辺を探してみよう。
そうしてしばらく探していると、何か音が聞こえて来た。先ほどピカピカしていたような何かだ。
もしかして、時間切れで帰ろうとしているのだろうか?そんなイベントは知らないが、これはチャンスでもある。
俺は、その音のもとへ近づいた。先ほど聞こえた、出現演出と思われる音だ。今もはっきり聞こえている。
俺は手を伸ばすと、腕に何かが触れた。それが鍵だと思われるので、位置を調節して掴んだ。鍵だ。
「旅人の印 を手に入れました。」
「技能 真理 を獲得しました。」
え?
何やら聞いたことのない技能が付いてきた。
真理:
説明: 真実を看破し、虚偽を滅する資格を得た。対象の偽装能力に対し抵抗する。
デメリット: 自身も偽装に関わる能力を発揮できなくなる。