04-12 S3D ダンジョン後半戦

改定:

本文

転移ゲート解放のために挑んだダンジョンにて、俺は目的のアイテム「旅人の印」を手に入れることができた。

ただ、まさかセルフサービスだとは思っていなかったので、見つけるのにすごく苦労した。ナビーに数えてもらった数は500を超えていたからな。

はっきり言えば、必須アイテムが無音で浮いているなんてこと、俺としては許容できない。これは後で要望しておこうと思う。

今回、俺はランダムダンジョンでこのイベントを起こしたが、第4マップに進めば皆やることになる。例えば、種族特性で盲人になる土竜人なんかは、同じことに苦しむだろう。普通はパーティメンバーが助けてくれるとは思うけれど…

それはそれとして、今回「真理」という聞いたことのない技能を習得した。説明文を確認した限り、偽装された情報がわかるのだと思う。

技能を手に入れる時には、その原因になる何かの行動をしているはずだ。つまり、あのイベントの鍵は、何かを偽装していたのかもしれない。

だが、そうであったとしても、入手したアイテムはまとめウィキにあるアイテムそのままだった。念のため、俺は手に入れたアイテムを触鑑定した。

旅人の印:

種別: 貴重品

説明: ダンジョンで入手した謎の物体。特殊な魔力で加工することで、鍵を作ることができる。

真理: 力ある旅人の活動範囲が広がることで、世界の活性化を望む者によって生み出された特殊金属。錬金術で加工することで、転移による街への移動を可能にする。

うん。何やらメタテキストっぽいものが出て来た。

でも、錬金して転移ゲート解放できることは事実だ。それによってマップ開拓が進んだことも事実だ。あと、イベントで妖精と思われる者がしていた話も、そんな感じのことを言っていた。

つまり、このアイテムに限って言えば、アイテムに隠された目的も、込められた願いも、プレイヤーたちはしっかり熟していると言えるだろう。

まとめると、「真理」技能は、隠された目的や効果を知る、鑑定の上位技能ということになるか。でも、それなら識別や看破で良くない?ということにもなる。

一方でデメリットは、人によっては厳しいものになるだろう。テキスト通りなら、鑑定偽装、変装などが習得できなくなる。場合によっては隠密や不意打ちにも影響する可能性がある。

幸いなのは、俺の場合はほとんど関係ないことだろうか。隠密も不意打ちもできないし、先日のリーネさんの状況を考えると、鑑定偽装も必要無い。変装は… たぶん不要だと思う。

気になったので、手持ちのアイテムのいくつかも鑑定してみた。その結果、ほとんどのアイテムには特殊な情報は無かったが、1つだけ、隠された情報が出て来た。

性銀の小手

種別: 腕部・小手

説明: 銀板を加工し、聖なる気で清められた小手。軽く、硬く、そして丈夫。気を扱う技能を強化(小)

真理: 引退した神殿騎士が生前に身に着けていた装備の一つ。騎士として主を守るという思いを継承してきたが、長期間使用されなかったことが原因で、主を離さないという呪いに変貌した。現在は新たな主を守るという残滓のみとなっている。

例のゴブリン祭りの時、巣から回収された一品だが、呪いを得た経緯を知ることができた。件の神殿騎士とやらに関わるかはわからないが、ひとまず、今は完全に無害と言って良いようだ。

ただ、それはそれとして、なぜ、この小手だけが真理の対象になるのだろうか?呪われたり、浄化したりして、いろいろ変質したことで、本来の情報が変わった… といった所だろうか?

まぁ良い。今は真理より本来の目的だ。

旅人の証があれば、転移ゲートは解放できる。残り時間もまだまだ余裕だ。なので、攻略を目指して奥へ進むとしよう。

「ナビー。用事も済んだし、奥へ向かう。先導できるか?」

「了解しました。道はこっちです。」

5層からは、モンスターの数が増えるはず… だった。だが、増えた感じがしなかった。

たぶん、「踊る人形」が増えたのだと思う。何もできずに逃げるなら、増えないで欲しい。ミニゴーレムやゴーレムの方が、ちゃんと倒せるから経験値その他が美味しいんだ。

そうして、特に問題もなく、5層の終点に到着した。

「ユー様、6層へ続く扉を発見しました。」

「わかった。今日はここで休もう。明日、残りを進むぞ。」

攻略のペースは、とても順調だ。荒野なため道がわかりやすいこともあるし、相性が良過ぎて、モンスターが1~2発のパンチで処理できることもあるだろう。

現在のペースなら、10層まで到達できるはずだ。時間に問題無ければ、明日中に攻略しよう。そう考えながら、俺は食事を取り、ログアウトした。

翌日からも、攻略は順調だった。が、7層で新モンスターに出会った。

まず、歩いていたら、ゴーレムでもないのに上から何かがぽふった。棒のような物を掴むことができたので、引き寄せて掴撃を打ち込んだ。

ハンマードール:

種別: モンスター・魔法生物

レベル: 13

HP: 38%

状態: 敵対

説明: 身体より目立つハンマーを持った人形型ゴーレム。下部が車輪となっており、遠心力を使って突撃しながらハンマーを振るうことができる。

どうやら、上からぽふっとされたのはハンマーだったようだ。俺が受けた衝撃は、棒風船を押し付けられた感じだったけれど。

それにしても、車輪に乗ってハンマーをぶん回すとは器用なヤツだ。殴ると後ろに受け流すことができるのだろう。

とはいえ、レベルも低いし、打撃には弱かった。再度ハンマーがぽふるまで待って、そこを捕まえて足払い、横倒しになったので強撃を打ち下ろして倒した。

その次に出会ったのは、横から飛んできた物体だった。

脇腹辺りの直撃コースだったと思われるが、弾かれて地面に落ちた。その音で、飛んできたものが判明したので、掴んで伝衝を打ち込んだら、あっさり倒せた。

「リビングソードを倒した。経験値を28獲得しました。」

リビングソード:

種別: モンスター・魔法生物

レベル: 14

HP: 100%

状態: 敵対、怯み

説明: 自在に動き回る剣型のゴーレム。魔法の剣として生み出されたが、その後暴走したことで、動くものに襲い掛かるようになったとされている。

人によっては「ゴースト」に分類しそうだが、このゲームでは「魔法生物」に分類されているようだ。俺も、どっちかと言われると魔法生物派だ。

剣だけだったので、ラッシュバードのように突っ込んできて、ボイーンとなって落ちたんだと思う。そして重量のため落ちた時の音で位置がばれてしまったと…

なお、レベルが第3マップ使用にされているが、本来の生息地は第4マップだ。防御力は高かったと思うが、金属の定めか、衝撃属性が特効だった様子…

ようやく、モンスターと出会う頻度が増えた気がする。新モンスターが増えたことで、リポップするモンスターとして「踊る人形」が選ばれる確率が減ったのだと思う。

あと、途中で何回かトラップを踏んづけた。歩いていたら、足元に何か落ちたことで気づいた。拾ったら矢だったので、アロー系トラップだったと思う。魔法生物のアーチャーは、確か第5マップだっただろうか…

それとガスについても2回ほど体験した。両方とも、吹き出し地点からプシューという大きな音の出るガスだった上、量も多かったようで、毒を受けてしまった。すぐに解毒ポーションを飲んで治した。

「ユー様。10層に続く扉を発見しました。誘導可能です。」

そうして、とうとう10層の入り口に到着した。時刻は19時を過ぎていたので、今日はここで休むことにした。

ダンジョンの最下層はボス部屋となっており、入るとボス戦に突入する。なので、休むなら前の階層で… というのがセオリーだ。

晩飯を食べながら、ナビーと会話することにした。

「ナビー。ダンジョンは、なぜ出たり消えたりするか、知っているか?」

「ギルドの図書では、別の世界の魔力がこの世界に溢れて実態を成したのがダンジョンであるという仮説が挙げられています。さらに、その仮説では、この世界、あるいはその地域に住む精霊が魔力の流れを鎮静化しようとするため、ダンジョンの入り口はやがて消えてしまう、と続けられています。」

「そういう考え方もありそうだな。ダンジョンを作ったとされるのは、最奥にいるモンスターなのだろうか?」

「いいえ。最奥のボスではないとされています。最奥に生息するモンスターは、ダンジョンと一緒に生み出されたことが、モンスターとの対話を試みた冒険者によって報告されています。」

ダンジョンが異世界の何かである、ということはまとめウィキでも考察を整理した結果として掲載されている。その最たる原因は、攻略報酬の特殊性だ。

なんと、攻略報酬の中に、ナビーの技能解放に関わる項目があるのだ。ゲームシステムに干渉できる以上、住民のいるこの世界とは違う何かと言うしか無いだろう。

それと、いわゆるダンジョンマスターと呼ばれる存在は、見つかっていない。未開放マップにいるのかもわからない。ただ、ダンジョン最奥のモンスターではないだろう、ということは考察されている。

さて、話に出たナビーの技能解放だが、俺は、やりたい項目もある。だが全てではない。他にも欲しいものもあるし、例えばモンスターの索敵など、ナビーに取らせると俺のシナジーが崩れるものもあるからだ。

「ユー様、おはようございます。」

「おはよう、ナビー。今日は最奥ボスに挑むぞ。」

翌朝、準備を整えた俺は、10層へ続く扉に杖を当てて開いた。