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「港町ソルットに入りました。」
「ナビー。先日訪れた錬金術店に行きたい。先導できるか?」
「了解しました。セラ錬金術店ですね。こっちです。」
港町ソルットまで帰ってきた。そして、最初に向かうのは錬金術店だ。
一応、ギルドなどで不要な物を売って資金をより潤沢にすることも考えた。だが、本当は必要だった素材を、知らずに売ってしまうと悲しいことになるだろう。
なお、ナビーがセラさんの錬金術店を検索できたのは、「訪問した錬金術店」の履歴と、その店が正式な店であったおかげだ。無理だったら、聞く相手がナビーからリーネさんに変わっただけだが…
「セラ錬金術店に到着しました。入り口はこっちです。」
ナビーの先導に従い店に入る。先日聞いた通りだったが、こっそり開けたとかでもなく、本当に扉が無いようだ。
「いらっしゃいませ。あら、ユーさんでしたっけ?」
「あぁ、そうだ。今日は作成を依頼したい物が2つあってな。」
「なるほど。奥で話をしたいから、ちょっとこっちへ… じゃないわね。手を借りるわよ」
そのままセラさんに引っ張られて、個室のようなところに連れて行かれた。入り口も中も狭かったので、たぶん合っているだろう。
「ここに座って。それで、依頼をしたいのは何かな?」
「一つは、旅人の鍵だな。これが旅人の印だ。」
「あぁ、まだ持っていなかったのね。加工費として2000p頂くけれど、良いかな?」
「問題無い。」
錬金術師でないと作れないので、加工費は仕方ないだろう。
「じゃ、これは後でさっそく作るわね。まぁ時間遅いから、渡すのは明日になっちゃうかもだけれど。」
「かまわない。それで、2つめだが、これだな。」
「これは!ゴーレムコアじゃない。あなた、一人で最奥まで行ったの?」
「あぁ。これでゴーレムを作ってもらいたい。」
セラさんが驚いているのは、俺がソロで最奥まで到達したこともそうだが、ゴーレムコア自体が貴重だからだろう。1マップ1回限りのダンジョン攻略報酬、しかも必ず出るわけでもないし、他の報酬を選ぶ場合もあるからだ。ゴーレムコアの絶対数が少ないのである。
「う~ん、未経験だけど、作れるとは思うわ。ただ、今は素材が足りないかも。」
「モンスタードロップで、ゴーレムの素体や動力になりそうな素材はあると思う。金属や木材、石材っぽい感じだな。」
「それだけあれば行けるかもしれないわね。ちなみに、どこのダンジョンへ潜ったの?」
「野道に出ている 魔生の荒野 だな。最奥はガーゴイルリーパーだった。」
「え?本当なの!残り時間は?」
「出た時の残り時間が 87:33:19 だったな。」
「おぉ!それは、とても行きたいわね。できれば今すぐにでも…」
「それは、素材か?攻略報酬か?」
「両方ね。私、野道のダンジョンは狩場しか行っていないのよ。」
どうやらセラさん、ゴーレム素材その他に興味津々のようだ。
これは、もう明日中には作ってもらえなくなってしまったか… そう思った時だった。
「セラちゃ~ん、素材配達だよ~。」
「ん?あら、リーネちゃん、こっちこっち。今凄くグッドタイミングだわ!」
あの冒険者ギルドは人材不足なのだろうか?百歩譲って仲良しだとしても、ギルドから一般店への素材配達に上級戦闘技能持ちの職員を使うのは間違っている気がする。
それよりもこの状況、詰んでいる。生産職がダンジョンでの狩りをご所望、正面に俺という人材、個室の中、敏捷ダブルスコア、ついでに筋力も負けているギルド職員接近中…
「ほ~い、って、ユーさん帰ってきたんだね。足は付いてるかな?」
「付いてるぞ。というか、こんな所にゴーストがいたら騒ぎになるだろう?」
「まぁそうだね。それで、ここにいるってことは、何か依頼かな?」
「そう!リーネちゃん!聞いてよ!あとコレ見て!」
「ん?えっと?」
「まぁ、落ち着いてくれ、セラさん。事情を話すから。」
セラさんのテンションが爆発している。詰んでるので、これ以上収集が付かなくなると面倒だ。だからこちらから話してしまうことにした。
「ふ~ん。残り時間が十分の魔法生物系ダンジョン、荒野だから狩もしやすい、最奥のモンスターも含め情報がけっこう出ている… と。」
「そうよ。魔法生物の素材は貴重だし、ゴーレムコアは私だって欲しいの。」
「本音はそっちみたいだね。でも、ゴーレムや人形系は、セラちゃんだとちょっと厳しいと思うよ。」
「ねぇ、リーネちゃん。ギルドに依頼出して、護衛を付けることはできないかな?」
「う~ん。護衛ね~。今からだと厳しいよ。でも、そこにいるユーさんとか適任だと思うな。」
「それよ!」
やはりだった。ダンジョンの最奥まで進むなら、のんびり護衛を募集している暇は無いだろう。また、MPを削る人形や、一撃の重いゴーレムの処理を考えると、求められるのは人数より相性や質になる。
ただ、俺に依頼するなら、以前、アヤと交わしたように、守ってもらうべきことがあるので、それを伝えてみた。
「よくわからないけれど、自分のことは自分で… というのは問題無いわ。守って欲しいわけじゃなくて、早く、たくさん狩るための手が欲しい感じだから。」
「それは仕方ないかな。あと、セラちゃんの護衛は私がやるよ。踊る人形ならこっちで狩れるし。」
「えぇと、リーネさんって、そんな軽く決めてしまっていいのか?2~3日も不在だと、けっこう困ると思うんだ。」
「あぁ、大丈夫大丈夫。職員はたくさんいるから。」
どうやら、人材不足ではなく人材過剰らしい。まぁ俺はギルドの経営人じゃないから、それ以上のことには突っ込むまい…
結局、翌朝、3人で魔生の荒野へ突撃することになってしまった。そして、リーネさんは仕事の途中だからと帰っていった。
「突発クエスト 錬金術師の頼み事 を受注しました。」
「フフ、明日が楽しみね。」
「それは良かったな。ところで、話を戻すが、このコアからゴーレムを作ってもらえるだろうか?」
「あぁ、うん、そういう話だったわね。それじゃ、今回の依頼報酬で作る形でどうかしら?できるだけ良いグレードにするわよ。」
「なるほど。一応、素材も金も用意する予定だったが、ちゃんと良い物にしてくれるなら、約束はしておきたい所だな。」
「わかったわ。ところで、ユーさんは、ゴーレムをどのようにカスタムしたいの?それによって素材が変わると思うから教えてくれない?」
俺は、以下の性能でゴーレム作成を依頼することに決めていた。それはずばり、採集特価ゴーレムだ。
形状: 蜘蛛型、または、蛸型
職業: 採集家
ベース:
体力: 10
魔力: 1
筋力: 10
防御: 14
精神: 1
知性: 14
敏捷: 10
器用: 20
技能:
魔道人形: 魔道生物としての特性の一つ。呼吸、食用、飲用、治療無効。身体系、精神系状態異常無効。MPを動力源として使用、MP不足時行動不能。
魔道吸収: 空気中の魔力を吸収してMPを自動回復。ただし、魔法攻撃の出力が低下。
戦闘回避: 自身がモンスターに狙われにくくなる。ただし、戦闘に強制参加させた場合に能力低下(極大)。
採集: 素材を適切に選定、収集する技能。最終具の装備、使用が可能になる。
多客: 多客生物の特性。悪路の影響を受けずに移動可能。敏捷が低下する代わりに、足を手として使うことも可能。
再生: HP自然回復速度上昇、欠損部位の自動再生。再生中、被ダメージ増加(大)
自動転送: 採集した素材を主のインベントリーへ転送する。装備以外のアイテムを自らに使用不可。
「これはずいぶん尖ったゴーレムね。ユーさんの周りで勝手に採集することが目的で、そのために必要な構成になっている、ということかしら?」
「そうだ。俺自身には素材が見つけられないからな。採集だけを担当してくれるゴーレムが欲しかった。」
「普通ゴーレムって、戦闘や生産の補助に使うから、魔力多めにするんだけどね。でもこの技能だと、魔力は動力だけだから、魔力1で済んじゃうのね。」
「索敵も隠密も無しだ。モンスターを刺激する必要が無いし、主の近くで活動する以上、こいつだけ隠れても意味が無いからな。」
「なるほどね。それにしても詳しいのね。これが異人の知恵ということかしら?」
「まぁそうだな。どちらかと言うと、先人たちの知恵だ。」
上記のスペックのゴーレムであれば、現状でも作れると思う、とのことだった。
「ところで、作るのにどれくらい時間かかるんだ?」
「あぁ、ゴーレムね。調べたけれど、素材や決め事が揃っていれば2時間もかからないわよ。」
「そうか。それなら、ダンジョンから戻ってきた後、すぐに使えるんだな。」
「あら?今作っても良いわよ?」
「いや、今は明日からの準備が優先だな。セラさんは、テントや食料はあるのか?」
「あぁ、そっか。日帰りが無理だから、その辺がいるのよね?」
「道中のモンスターも狩るなら、一日じゃ最奥まで行けないからな。」
なお、一緒に活動するということで、セラさんの鑑定結果も得ている。
名前: セラ
種族: ヒューマン
職業: 錬金術師
性別: 女
称号: 中級錬金術師, 魔法使い
レベル: 33
体力: 25
魔力: 107
筋力: 21
防御: 12
精神: 81
知性: 73
敏捷: 38
器用: 81
技能:
適性: 中級錬金15, 中級調薬14, 魔法(土27, 水29, 風26, 炎29, 闇25, 木24, 治療20, 付与30), 中級採集11
技術: 鑑定31, 魔力制御15, 危険感知20, 解体15, 魔力感33, 遊泳5, 安定移動17, 投擲15
支援: 視力強化(暗, 魔), 嗅覚強化, 味覚強化, 世界知識, 識別
耐性: 毒耐性, 燃焼耐性, 魔抵抗
こちらは典型的な生産職だった。
錬金以外の能力は、魔法特化だ。多数の属性を習得し、付与、回復までこなせる。まぁこの辺使えないと錬金素材の加工に苦労するので当然でもあるが…
その一方で、自分でも採集活動を行なっているらしい。近接系の能力を切り捨てているのによくやると思う。魔力視があるので、近距離なら隠密も看破できるからだろう…
あと、セラさんも俺を鑑定して、いろいろ突っ込まれた。特に「真理」についてだ。
どうやら、識別を組み合わせると、俺も知らない真理のヤバい性能が見えるらしい。教えてもらえたのは以下の3点だった。
- 「偽装」の対象は、虚偽、偽装、変装、だまし討ち、不意打ちなど。隠密、潜伏などは、隠れているだけならOK。
- 相手にかかっている偽装効果を貫通する。模倣先の能力の一部を得るような偽装も範囲に含まれる。
- 真理による抵抗が生じた時、対象に「真理の枷」と呼ばれる固有デバフを与える。効果は能力値の弱体化。ポーションで治せるかは不明。
つまり、正々堂々が働いた後に出るカウンター技能とも言える。先日のガーゴイルリーパー戦にも影響していたかもしれない。