04-15 S3D 魔生の荒野再び

改定:

本文

俺は、不運なことに錬金術師セラさんの興味を引く情報を持っていた。さらに、敏捷がヤバい冒険者ギルド職員リーネさんまで入ってきたことで、クエストを受注することになった。

そのクエストだが、以下のようになっていた。

錬金術師の頼み事:

種別: 突発クエスト、指名依頼クエスト

依頼主: セラ(錬金術師), リーネ(冒険者ギルド)

内容: セラ、リーネとパーティを組み、ダンジョン「魔生の荒野」を攻略する。ダンジョン内で、モンスター素材を規定数集める。

報酬: ゴーレムコアからの特注ゴーレム作成、NPC好感度上昇、冒険者ギルド好感度上昇

納期: 約3日 (69:23:33)

注意: アイテム「復活の薬」を2個貸与。道中でパーティ内で死亡者が発生した場合、復活手段が無ければ全員が街へ送還される。

このクエストで大事なことは、NPCであるセラさんやリーネさんが死亡した場合の扱いだろう。今回は時間のロスだけで済むようだが、もし、ここに消滅とか再受注できないとか書いてあると、NPC死亡の可能性が出てくるのだ。

ただ、今回は心配する必要が無いだろう。「復活の薬」という超貴重アイテムを保険として借りられたからな。あの二人が死亡するような事故が起こるとも思えないけれど…

「あったあった。確かに 魔生の荒野 と出ているね。」

「そのようね。さっそく向かいましょう。って、ユーさんはどこ?」

「あぁ、まだあっちみたい。またラッシュバードだね。」

「目を疑う光景ね。私、この前あの鳥に後ろから体当たりされて死に戻ったのに。」

「私も実物を見たのは初めてだよ。水晶の洞窟を行き来するタンク系冒険者でも、あの体当たりでノックバックさせられると言っていたはずなんだけど… って、こっちにも来ているよ。」

現在、時刻は 7:33 だ。セラさん、リーネさんの2人は、魔生の荒野ダンジョンの手前まで来ていた。

え?道中?敏捷が数倍もあって、索敵からの速攻で切り刻むリーネさんと、草の中のスライムすら看破して焼き払えるセラさんが、勝手に片づけていたぞ。

いつの間にか二人に置いて行かれたので、俺はナビーの先導に従って目的地に向かっていた。一応、ラッシュバードがかまってくれたから、仕事はしていないが、戦闘はしている。

「ダンジョン 魔生の荒野 に入りました。現在1層です。」

二人はちゃんとダンジョン前で待っていたようで、合流することができた。というわけで中へ突入。

「荒野ね。狩場とは違うけれど、確かに一本道みたいね。」

「あぁ、けっこうあちこちにいるね。ミニゴーレムや、踊る人形っぽいね。」

「そうだな。じゃ、俺は直進しながら近づいてきたモンスターを狩っていく予定だ。リーネさんとセラさんは、踊る人形の処理を頼めるか?もし、厳しければ、黙って俺の方へ誘導してくれ。」

「わかったわ。」

「黙って誘導って、普通はパーティを破滅させる危険行為なんだけどね。」

ということで、さっそくパーティ分裂だ。一緒にいる必要が無いからな。

二人は奥へと駆けていったので、俺もナビーの先導に従い直進していく。

歩いていると、遠くの方で何か爆発したりするような音が聞こえ始めた。もうあんな遠くで狩しているのか…

そんなことを考えながら進んでいると、何かにぶつかった。掴んで爆拳したらミニゴーレムだった。

そういえば、二人が狩りまくるから、リポップも加速するだろう。つまり、普段よりも多くのゴーレムに出会うかもしれない。第3マップ真の上限とされるレベル20に届くとうれしいな。

一方、こちらはリーネ。

顔なじみであるセラの護衛ということで、今回ダンジョンに同行した。

そして今は、セラと協力して踊る人形を狩りまくっている。

セラが持つ技能「魔抵抗」は、踊る人形の不思議な踊りにも有効だ。彼女のレベルであれば、まず効かないだろう。

だから、私が索敵し、見つけた踊る人形をセラが魔法で牽制、踊りが止まったら突撃して倒す、という方法を採用している。

ただ、この方法には通常、2つの問題がある。

一つめの問題は、他に出現するミニゴーレムやゴーレムなどだ。あとハンマードール、リビングソードも見かけた。

これらには斬撃や魔法があまり通らないので、ごり押せば倒せるが、苦労もする。武器の耐久値も浪費するので、ダンジョンのようなモンスター底なしの場所とは相性が良くない。

一応、私は「体術」技能も持っているのだが、これは受け身であったり、悪い人を死に戻りさせずに捕まえる用途であったりする。だから、ゴーレム相手に使うのは危険だろう。

もう一つの問題は、前方のモンスターを狩っていると、自分たちよりも後方でモンスターがリポップする可能性が出てくることだ。

特に、後方から魔法で狙撃しているセラが狙われると最悪である。セラは自分よりも軟弱だ。ラッシュバードの突撃で死に戻るのだから、ゴーレムやハンマードールに襲われたら助からないだろう。

そして今回、その防波堤になっているのが、偶然拾った非常識の塊、ユーだ。

彼は盲人であるが、自身の能力、冒険者としての心得などをよく理解している。ちゃんと会話もするし、奢っている様子も見られない、年相応の良さも伺えている。あと、よく薬草も仕分けてくれる。

一方で、彼を非常識と言っているのは、レベル帯では考えられない戦闘能力だ。同レベル隊の冒険者が数多く死に戻る野道を平然と歩き、危険過ぎて素材回収もままならないモンスターを大量に狩ってくる。おまけに今回、魔生の荒野を正面から一人で踏破して来た。

最近は、甲羅ヘルムを外すのを忘れているようで、けっこう目立っている。職員の間で意見が割れたのだが、最近は着けていてくれた方が見つけやすい、という理由で放置している。

そんなユーは、現在も順調にゴーレムを倒している。ゴーレムのパンチも受けているが、怯む様子が見られない。そうならない理由はわかっているけれど、アレが無効だなんて、スライムかゴーストの体なんですと言われた方がよほど理解できる異常さだ。

あと、私たちが狩過ぎたせいもあるのだけれど、20匹ほどのゴーレム達が迫っている。まだ距離は離れているが、その内囲まれるだろう。それでも彼が死ぬ未来が見えないので、防波堤としては極めて優秀である。

「アレ、大丈夫なのかしら?」

「えぇと、この辺りは終わっているね。なら、てきとうに溢れているゴーレムを倒して行こうか。」

「えぇ、そうね。確か、そうすれば早く終わるって言っていたわね。」

「心配する所は違うけれど、早く終わるのは事実だね。」

セラと意見をまとめ、援護に入った。

私は、風球で遠くから牽制したり、隙の見られる後ろから不意打ちをしたりした。

ユーさんから「炎の鉄拳」を借りていたので、時よりこれを装備して強撃を打ち込んだりした。「炎の鉄拳」は、あの武具屋のドンゴラから購入したものと聞いている。さすがドンゴラさん、私の体術でもかなり効いている。

セラちゃんは、爆風や爆炎など、打撃属性を含む魔法で攻撃している。威力はかなり高く、ゴーレムを順調に破壊できていた。

一方のユーは、ゴーレム相手のスパーリングを半ば楽しんでいた。

途中から、後ろから群れが迫っていることに気づいたので、防御を強化しつつ迎撃していた。正直、足音が多くてうるさいと感じるほどになっている。

この世界のゴーレムは攻撃時に叫んだりしないため、腕を振った時の音しか聞こえないことが多い。ただ、繰り返し戦っていると、その癖のようなものがわかるようになってきた。

そうなると、うまく受け止めて反撃することに活用したくなる。幸い、数が多いようなので、接近からの受け、そして反撃といったサイクルを繰り返すことができていた。

そうしてしばらく戦っていると、数が減ってきた。前の処理が終わったらしいリーネさんやセラさんが、離れているゴーレムを魔法で吹き飛ばしているようだ。

「ユーさん、もうその辺にモンスターいないよ。」

「お、そうか。あの様子だと、人形狩は順調なようだな。」

「そうね。こんなに大量に狩るなんて経験は無いわね。」

「それにしても、理不尽さが増している気がするよ。さっき鑑定したら、聞いたこともないカウンターが返ってきたし。」

「ん?真理の枷か?俺も、これに関してはよくわかっていないんだ。」

そんな話をしながら、俺たちは順調に進み、6層の終点までやってきた。

そもそも、皆一人でゴーレム狩ができる実力は持っているし、どうしようもないほどのレベル差でもある。そんな実力者3人で組んでいて、問題なんて起こるはずが無いのだ。

「今日はこの辺にしようか。ここは昼夜が無いからわかりにくいが、夜になるぞ。」

「えぇ、そうね。明日は最奥部まで行きたいわね。」

「お、ユーさんもさすがに食事するんだね。昼に何も食べていなかったから、断食かと思ったよ。」

「空腹耐性でも腹は減るからな。それに、ゴーレム相手に断食して勝てるとは思っていないぞ。」

俺は耐性の都合もあって、基本的に夕方にしか食事しない。

しかし、二人は昼にも食事をする必要があるはずだ。食べている様子を知らないので、たぶん、ゴーレムたちと遊んでいる間に済ませたのだと思う。

「出現モンスターも確定でいいかな。聞いていた意外の新種はいなかったよ。」

「それなら、明日は少しスピードアップしたいわね。無理に追わずに、正面のモンスターだけ倒して行くのはどうかしら?」

「私はいいけど、セラちゃんは、お目当ての素材は集まったのかな?もともと、そういう依頼だったはずだよ?」

「えぇ。それはもうたっぷり。ゴーレムの素材がこんなに集まるなんて、狩場でも経験したこと無いわね。」

「魔生の狩場なんて、普通は遠距離飽和攻撃かゴーレムの群れで圧死するからね。狩場は魅力的なようで、実際にはしっかり対策しないと稼げないんだよ。」

ちなみに、狩場で効率的に稼ぐ方法として、まとめウィキでは4つの方法が紹介されている。

  1. 紙耐久になるがMP回復や魔法威力上昇系の装備で固めて突撃し、広域魔法を打ちまくる。
  2. 特定のスポットアイテムを持ち込んでモンスターの入場を制限し、入ってきたヤツを順に迎撃する。
  3. モンスターを引き寄せるアイテムをフィールド四方に配置し群れを分断、各個撃破する。
  4. 足の速いタンク役がフィールドをグルグル周回してモンスターをトレイン。中央部に集まった群れを範囲攻撃で処理する。

なおいずれの方法でも、リソースさえ準備できれば、ログイン制限時間いっぱいまで狩れる、という検証結果が出ている。ログアウト5分前になると強制排出されるので、ダンジョン前で再ログインして直行すれば、約15時間55分の狩が楽しめるだろう。

「う~ん、こうなると、今後もユーさんを狩り要因として連れて行きたくなるわね。」

「俺は遠慮するぞ。都合の良い素材が手に入る狩場が出現するのを待つよりは、転移を駆使してその素材が出る地域に向かった方が良い。」

「そういえばそうね。目的のダンジョンに出会えるかどうかはわからないんだったわね。」

「戦闘職の中には、目的のダンジョンが出るまで転移で巡回する冒険者もいると聞くな。ただ錬金術師なら、現地で生産して物々交換した方が早いと思うぞ。」

「言われてみればそうね。ソルットは素材が流れてくるから拠点を置くには良いけれど、入ってこない素材もけっこうあるわ。」

そんな話をしながら、俺たちは眠りについた。

そして、翌日も順調に進んだ。昼を過ぎた時には最下層の手前までやってきていた。