04-16 S3D 報酬に悩む二人、そして帰還

改定:

本文

「ギャーーーーッ!」

ドシーンという破砕音を受けて、ガーゴイルリーパーが崩れ落ちた。

「ダンジョンボス ガーゴイルリーパーの討伐に成功しました。」

「ダンジョン 魔生の荒野 の再攻略に成功しました。報酬が授与されます。」

戦い方は、はっきり言えば前回よりも楽だった。

俺は、大量ポップしたゴーレムのおかげでレベル20に至った。つまり、ガーゴイルリーパーの鎌に怯える必要が無くなったのである。このゲームに、 100%=255/256 などというインチキは無いからな。

ただ、後ろの方では、けっこう大変だった。理由はガーゴイルリーパーの地震攻撃だ。

地震攻撃使ってくるから、ちゃんとジャンプして交わせよ、と話をしていたのだが、セラさんのジャンプが、ちょっと足りなかったらしい。その一撃で瀕死になってしまい、リーネさんがバタバタしたようだ。

「リーネちゃん、ごめんなさい。そして助かった!」

「ま まぁ、生きて勝てたんだし、良かったんじゃないかな。こっちも、あの時は心臓が止まるかと思ったよ。」

地震攻撃はマップ攻撃なので、浮遊するかジャンプするか、または耐性で耐えるしか無い。ただ、威力が低めだったのは幸いだった。一応ジャンプしたことで、最初の衝撃は回避できていたことも良かっただろう。

なお、俺がセラさんを助ける選択肢は無い。そもそも、セラさんの位置へ正確に最短距離で走れる保証が無いからな。最悪なのは、セラさんをストンピングすることで、本当に殺しかねない。

「おぉ、報酬よ報酬!これは… 迷うわね。」

「おっと、ここ攻略していなかったか。」

どうやら、セラさんだけでなく、リーネさんも初攻略だったようだ。初期のダンジョンは報酬が微妙なこともあるので、他の地域で狩りつくして満足するケースもあるだろう。俺だって、ミーミ平原のダンジョンへの興味は薄い。

「ねぇ、ユーさん。ちょっと相談に乗ってよ?」

「あ、それ面白いかも。ユーさんの考えは独特だから。」

「いや、ダンジョンはたくさんあるのだから、思うがままに委ねて決めた方が良いと思うぞ。」

「それはわかるんだけど、ちょっと内容がね。いいからこっち来てよ。」

先日の採集特価ゴーレムなどの考え方に感じるものがあったのかもしれない。まぁ決めないと終わらないなら手伝うしかない、ということで参加した。

セラさんの選択肢は、「ゴーレムコア」、「精神の種」、「魔力の玉」、「測定の技能書」だった。

「魔力の玉」は、触媒にしたり錬金攻防に設置したりして使うと、出力を飛躍的に高めることができるというアイテムだ。初級錬金術師なら選ぶべきアイテムと言って良い。ただ、セラさんのレベルなら要らないだろう。水晶の洞窟の素材を加工すれば、同じ程度の物を作れるからな。

「測定」は、調査関係の専門職が持つ適性技能だが、生産職でも補正が得られる。育てていくと、距離や分量、温度など、数値で測定できるものを、対応する器具が無くても素早く測れるようになる。処理時間がシビヤな上級アイテムを錬金する時に有効なので、上を目指す錬金術師は習得するべきだ。ただし、既に各種感覚強化が生えているセラさんなら、必要な機材を買い揃えて測定を繰り返していれば自力で習得できるだろう。

「こんな感じだな。今のセラさんの自力は上げられるが、各地で物々交換していけば得られる物ばかりだ。だから、よほど精神が欲しいのでなければ、ゴーレムコア一択で良いと思うぞ。」

「あぁ、なるほど。先輩たちが旅をして回るのは、素材のためかと思っていたけれど、それだけじゃなかったのね。」

「さっきも言ったが、素材や機器類は高いから、金で何とかしようとすると、相応に苦労すると思うぞ。それが厳しいなら、魔力の玉も、測定技能も有効だな。」

「いいえ。今の話でわかったわ。ゴーレムにして、私の作業を手伝わせる方が理になると思う。」

続いてリーネさんの選択肢は、「鋼切の技能書」、「防御の種」、「ゴーレムコア」、「主語の指輪」だった。

「鋼切」は、金属切断系の技を習得できる技術技能だ。リーネのステータスだと物理的にできてしまうことではあるが、手数重視の双剣で金属もスパスパできちゃう、と言うと、なかなかロマンがあるだろう。なお剣や短剣を使うルートなら、序盤の内に、使い捨てナイフを大量に用意し、銅板を刻むことが推奨されていた。

「主語の指輪」は、誰かを護衛している時に、被ダメージ軽減やノックバック耐性などを得られる指輪だ。タンクなどの前衛食向けの装備だ。能力はそれほど高くは無いが、指輪なので状況に応じて付け替えられるのが良い。

「そんな感じだな。普段のお仕事しだいだが、前衛で戦うなら鋼切か主語の指輪が良いと思うぞ。」

「ん?鋼切が選択肢に残るなんて、どういうことかな?さっき、銅板にナイフたたき付けていれば習得できるって言ったよね?」

「確かにそうなんだが、剣術や筋力が育っていると難易度が跳ね上がるらしいんだ。銅板が耐えられないので、鉄板以上を使う必要があると聞いたぞ。」

「銅だと使い捨てのナイフでも切れちゃうってことかな?確かに、ミニゴーレムくらいなら私でも簡単に切れるね。」

「それで使うのが鉄以上になるんだが、ちゃんと切る必要があるから、金属にぶつかった後抵抗しないといけないそうだ。だから、手が痛くなるらしいぞ。」

「え?あぁ、うん。でも、それだけなら、我慢すれば何とかなるんじゃ…」

「手が痛いのを我慢していると骨が逝かれるそうだ。下手をすれば 砕けた腕 になる。」

「あぁ、それはまずいね。それで、ここで習得する意味があるのか~。じゃ、さっそく…」

「砕けた腕」とは、魔法習得のために腕を焼いて得られる「爛れた腕」などと同じ狂気系技能だ。精神異常と斬撃に耐性を得られる代わりに、打撃と投げ技が特効になる上、筋力も大きく低下してしまう。

ちなみに、砕けた腕のデメリットを踏み倒す方法は、機械化したり、スライムや蛸の腕などに変えてしまったりすることだ。特に蛸の腕にすると、本来ある「斬撃で切断されると能力低下」のデメリットも踏み倒すという化け物染みたことができるようになる。

ただ、それはそれとして、リーネさんにはちょっと待ってもらう。「習得が大変だから」という理由は確かにあるのだが、それだけで報酬を決定するのは早計だ。

「あぁ、待ってくれ。確かに、今取るのは選択肢にはなる。ただ、リーネさんに必要なのか?は考えるべきだぞ。」

「それは、どういうことかな?この技能、今取らないと、必要な時に苦労するんだよね?」

「いや、リーネさんはこれからも双剣で魔法生物や物質系を狩りまくる予定あるのか?」

「あ…」

「ここに来る時、風魔法や強撃も使っていたと聞いたぞ。双剣の達人を目指すならわかるが、そうでないなら、こだわる必要は無いと思ってな。」

その後、結局、リーネさんは鋼切を選んだ。鎧などにも通るので、あると便利な技能なのは確かだ。あとリーネさんの能力はアタッカー+斥候なので、今回のようなレアケースを除くと、主語の指輪は飾りや換金にしかならなさそう、という理由もあった。

そんな微妙な展開にしてしまったせいなのかわからないが、俺がもらった報酬は、呪われた銀の板が増える、というものだった。とりあえず浄化したぞ。

何はともあれ、これでクエストは完了。2時間後には、俺たちは街まで戻ってきたのだった。

「素材は預かったわ。これで問題無く作れると思うから、明日取に来てね。」

「あぁ、頼む。」

「お疲れ様。私は、今日はもう帰るよ。じゃぁね。」

「クエスト 錬金術師の頼み事 を達成しました。」

2人と別れた後、俺はドンゴラのおっちゃんの所へ向かった。俺には、やるべきことがあるんだ。

「おいおいおい!たったの2日でハデに暴れてるじゃねぇか!」

「魔生の荒野にいたからな。かなりのゴーレムに群れられたぞ。」

「あん、荒野ってそんなに群れるタイプのダンジョンじゃねぇだろ?」

「同行者が前に飛び出して、踊る人形を乱獲したらしい。俺の役割は、残りのゴーレムと、後ろから来たゴーレムたちとのデートだな。」

「お前バカかよ、それ死ぬやつじゃねぇか。」

「おっちゃんの武器防具様々だったな。だから、こうして戻ってこれたぞ。」

今回のダンジョン探索では、正確な数は覚えていないが、400匹くらいのモンスターは倒したと思う。それも、ゴーレムやハンマードールなど打撃が強力なモンスターばかりだった。

そのため、さすがの装備でも、耐久力が30%以下まで落ち込んでいたのだ。その意味では、セラさんが6層から9層までは省エネになってくれて助かった。

「ガハハハ、俺のせいってか?言ってくれるじゃねぇか。装備はしっかり治してやるからな。」

「頼む。」

「あぁ、それとだ、あんた噂になってるぜ。リーネ嬢と一緒だったってな。」

「噂に?リーネさんが有名だからか?」

「それもあるが、あんた自身もだ。まぁ、俺のせいでもあるんだがな。頭に手を置いてみろよ?」

「頭?あ…」

手で頭に触れて、そして気づいた。甲羅ヘルムを外すのを忘れていたことを。

だが、最近、誰も何も言わなくなっていたような気がする。リーネさんもセラさんもそうだった。

いや、俺が気づかなかっただけだろうか?明日にでも、聞いてみるべきかもしれない…

「おっと。噂の方だったな。リーネ嬢と市場で買い物したり、セラの店行ったりしていたそうじゃねぇか。」

「そうだな。ダンジョンに挑む準備と、転移ゲートのために世話になっている所だ。」

「あんた、リーネ嬢がどんな人物か知らないみたいだな。まぁ知ったからどうだってことも無いけどな。」

「どういうことだ?」

「あいつ、あの成りでサブマスなんだぜ。まぁ、現場派だから、知らないやつには知られていないんだがな。」

「まさか… だが、なるほどな。いろいろ理解が深まったぞ。」

あの強さ、知識、責任感、鑑定能力、指導能力、ついでに、職員のくせにフットワーク軽過ぎ疑惑… いろいろ合点が行った。

「おぉ、あんた驚かないんだな。並みのひよっこなら飛び上がって震えるってのによ。」

「リーネさんとは依頼の都合で共闘したからな。あぁいう強さも良いと思えたよ。」

「言うなぁ。あんた大物になりそうだな。」

その後俺は、修復された武具を受け取り、ギルドで食事してからログアウトした。

なお、修復費用は4000pほどかかった。また今夜の飯は、久しぶりに「パン大盛&シチューセット」にした。