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「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。まずはセラ錬金術店で依頼のアイテムを受け取る。先導を頼むな。」
「了解しました。セラ錬金術店はこっちです。」
ゲーム内時刻で翌朝 8:03 にログイン。俺は錬金術店に依頼物の受取に向かった。
港町ソルットには、けっこう長く滞在した気がする。そのせいか、街中の活気や、潮の香にも体が馴染んできたのかもしれない。
「ユーさんね。いらっしゃい。」
「おはようだ。注文していた物を受け取りに来た。」
「えぇ、わかったわ。そこで待っててね。」
錬金術店に到着したら、セラさんも元気そうだった。さっそく依頼の品を受け取った。
「まず、これが旅人の鍵ね。これを持って転移ゲートに近づけば、訪れたことのある街や村へ行けるはずよ。」
「助かる。」
旅人の鍵:
種別: 貴重品
説明: 旅人による渡り歩きを助けるとされる宝石。転移ゲートの近くで使用すると、過去に訪れた地域へ移動できるようになる。
真理: 力ある旅人の活動範囲が広がることで、世界の活性化を望む者によって生み出された特殊金属。持ち主が望めば、街と街を結び、過去に歩んだ地への再訪を適えるだろう。そして、新たな道や、可能性を切り開く助けとなるだろう。
最初に受け取ったのは旅人の鍵だ。これで、街の中央にある転移ゲートが解禁される。
なお、「鍵」と言っているが、セラさんの説明通り、転移ゲートのあるエリアに入ればOKだ。転移ゲートには扉の形をしたレリーフがあるそうだが、押し当てたりしなくても良い、もっと言えば、インベントリーから出す必要すら無い。いわゆるフラグアイテムというやつだな。
旅人の鍵の使い方は、転移ゲートの近くでメニューから選択するか、転移する意思を入力すれば良い。俺の場合は、主に思考入力で使うことになるだろう。
「それと、ゴーレムコントローラーね。希望通りの性能になったわよ。」
次に受け取ったのは、板状に加工された石だった。奥の方が丸くくぼんでいる。
ゴーレムコントローラー おくたん:
種別: 貴重品
説明: ゴーレム おくたん の召喚や送還などの用途で使用する装置。
これがゴーレムの制御に使う装置、いわゆるリモコンである。まとめウィキでは「コントローラー」、「リモコン」、「召喚板」などさまざまな呼ばれ方をしているらしい。俺はリモコンと呼ぶ予定だ。
リモコンの使い方についてもセラに確認した。俺の場合、基本的にインベントリーに入れたまま思考入力すると思うので、あえて使う場面は無いだろうけれど…
召喚: ゴーレムが足元に出現する。通常は視界範囲内3メートル以内で指示できるが、それだと俺が見つけられないので足元限定に設定した。
送還: 召喚中のゴーレムが回収できる。ゴーレムがどこにいても良いし、コントローラーの位置や向きも関係ない。なお環境設定に、「マップ切り替え時に自動送還」という便利機能があるため、これはOnにしておく。
なお、複数のダンジョンでゴーレムコアを入手可能なため、リモコンを結合して1つにしたり、結合されたリモコンを分割したりできるらしい。分割するのは、役割の違うゴーレムでグループ分けしたり、増えすぎてリモコン表示が煩雑になったりすることを防ぐ用途だ。
というわけでさっそくゴーレム召喚だ。「おくたん召喚」と念じてみると、 ボンッ という音が足元から聞こえた。
ゴーレム おくたん:
形状: 蛸型
職業: 採集家
レベル: 20
状態: 正常
HP: 100%
MP: 100%
体力: 30
魔力: 3
筋力: 30
防御: 42
精神: 3
知性: 42
敏捷: 30
器用: 60
技能:
適性: 採集12
技術: 水泳12, 素材探知12
支援: 自動転送, 戦意隠蔽
特質: 魔道人形, 魔道吸収, 多客, 戦闘回避, 再生, 蛸の体
装備:
なし
現在のおくたんのステータスだ。
ゴーレムは、主のレベルに合わせて能力値や技能レベルが設定される。俺が強くなれば、おくたんも一緒に強くなっていく。
「さっそく召喚したのね。わかっていたけれど、その形状で床を這って動くのは奇妙ね。」
「蛸型になったみたいだな。」
俺は召喚されたゴーレムに触れてみた。確かに、ゴーレムなはずなのに、蛸のように柔らかい。だが、これで筋力30もあり、最終具の装備ができるのである。
「能力も良いな。まさか、優先度が低い技能も付けられるとは思わなかったぞ。」
「えぇ。たぶん、素材が良かったんじゃないかしら。あと、蛸型のシナジーもあるかもしれないわね。」
先日、注文した時点では、希望した技能は7個だった。これは、「戦闘回避」と「再生」技能が強力な技能に分類されているため、キャパシティが減ることを想定していたからだ。
しかし実際には、キャパシティには余裕があったため、以下の技能4つの追加を試みてもらった。結果、全部搭載できてしまったのだ。
水泳: 水中を泳いで移動する技術。
素材探知: 素材のありそうな場所が見つけられる技術。
戦意隠蔽: モンスターに敵対されずらくなる。
蛸の体: 軟体動物の特性。隠蔽能力、水中適性が上昇。打撃、投げ技、衝撃に対する耐性が上昇。斬撃、部位欠損に対する耐性が低下。
ここまで揃うと、下手な採集かより活躍できそうだ。敏捷がやや物足りないが、被弾率が低いし、被弾しても高めの防御と再生で耐えられるので、ずっと採集し続けられるだろう。
ゴーレムの能力値は、合計80というルールは俺たちと変わらない。しかし、能力値を1~20の範囲で設定することができる。
今回は、MPを使わないので魔力方面を切り捨てて、採集に必要な器用さ、採集中の被弾に耐えられる防御を優先した。あと筋力は、装備や採掘で必要になるのでそこそこに割り符った。
名前は、呼びやすさ優先で、「探索する蛸」という意味で設定した。この辺りは違和感が出てくればリネームするかもしれない。戦車蛸は作らないと思うけどな。
「助かった。さっそく試運転してみよう。」
「あ、私も気になるからついて行って良い?」
「俺は問題無いが、野道に行く予定だから、ラッシュバード注意だぞ。索敵も挑発もできないから、自分で何とかしてくれ。」
「わかっているわ。」
その後、俺は再びドンゴラの武具屋へ向かった。余った素材の買取りと、採集具の購入をするためだ。
「おいおい、昨日言っていたゴーレムって、そいつかよ?」
「採集専用のゴーレムに調整してあるぞ。こいつに最終具を装備する。」
「お、おぅ。多客と聞いていたが、ずいぶんな色物だな。採集具は、これだぜ。」
ドンゴラのおっちゃんから受け取ったのは、鉄製のスコップ、草刈り鎌2本、伐採斧、そして採掘用つるはしだ。おくたんは背が低いので、柄を短くする代わりに、重量を増す方向で作ってもらっていた。
俺は受け取った採集具を一度インベントリーへ格納し、オート装備でおくたんに装備させてみた。直接握らせても良いのだが、メニューから選んだ方が確実だ。
「おくたん、どうだ?問題無いなら、地面にスコップとつるはしを突き立ててくれ。」
すると、地面を鉄で叩いたような音、次に、地面に食い込みそうな感じの音がした。どうやら予定通りに装備できたようだ。
「お、おぅ。スコップ、鎌、斧、つるはしを一気に装備できるのか…」
「多客だから、普段はこの4本構成だな。俺と一緒に外に出て、てきとうに採集してもらうのが目的だ。器用も高いので、うまくやるだろう。」
「それはわかるが、これだけ用途の違う道具を扱うには、並列思考系の技能が要るんじゃないのか?」
「持ち運ぶのは4本だが、実際に使うのは1本になるから問題無いと思うぞ。これから野道で試運転だな。」
「ガハハハ、そいつは面白そうじゃねぇか。俺にも見せろよ!」
「ついて来るのはかまわないが、俺には挑発も索敵も無いぞ。群れてくるモンスターは自分で処理してくれ。」
「なんだ、その程度なら問題無いぜ。ここは武具屋だからな。」
「それと、同行者がもう一人いてな。」
「それでセラちゃんか?まぁ問題無いんじゃねぇか。ラッシュバードがぶつかっても死に戻るだけだしな。」
「私、そんな簡単に死んだりしないわよ!」
ということで同行者追加。入り口で合流して野道にやってきた。
ドンゴラのおっちゃんとセラさんは、仲が良いようだった。同じ街で暮らしているし、専門も違うので、相互に取引している関係なんだろう。
武具屋から出る時に送還したおくたんを再召喚する。もちろんフル武装だ。
「おくたん、この辺りで自由に採集してくれ。モンスターが襲ってきたら逃げろ。俺たちは無視していい。OKなら、鎌でスコップを軽くたたいてくれ。」
おくたんは、カンという心地よさそうな金属音を鳴らした。その後、微かに動いている音が聞こえてきたので、仕事を始めたと思われる。ただ、足音を鳴らす機構を付けていないので、その微かな音も、聞こえなくなった。あとで鈴でも作ってもらおう…
「おぉ、採取地点に突っ込んでいくな。アレが採集と素材探知か。」
「さっそく、草を刈り始めているわね。私から見ても問題無さそうな腕前ね。」
そういえば、二人にはおくたんが見えていたな。俺としては、一人で来ててきとうに狩り、その後インベントリーを覗いて結果を確認する予定だった。が、今回はリアルタイムでわかるようだ。
「だが、シーボアが近いぜ。あれは見つかっちまうんじゃないか?」
「でも、獲物を探しているとか、危険を感じているといった雰囲気ではないわね。あの調子だと…」
「おっと、シーボア、こっちに反応してるな。鼻の良いやつだぜ。」
「つまり、おくたんの技能はうまく働いているということだな。」
「そうね。明らかに近いのに無視しているわね。魔法生物だから、襲っても食べられる部分が無いと思っているのかもしれないけれど…」
「どうだろうな。来るぜ。」
その後も、野道のあちこちで検証した。結果、おくたんは壊されることなく、俺のインベントリーに薬草や木などを運び込んでくれた。
- 採集技能を持つセラさんの評価:
- あまり遠くには行っていないことと、動きが遅いことから、採集技能を持つ専門のメンバーを加えたパーティには劣る。ただし、護衛の必要が無く、不運が重なってHP0になっても送還されるだけなのでローリスクに稼げる点は優秀。
- 武具政策で冒険者とやり取りをするドンゴラのおっちゃんの評価:
- 戦闘職のパーティが稼ぐ数倍の素材が入手できている。流れ弾に被弾することはあったようだが、すぐに再生してしまうので、HPが減っている所をほとんど見ない。
- 冒険者ギルドにて素材を卸した時のリーネさんの評価:
- いやいや!スライムやラッシュバードが厄介なので「割に合わない」って言って誰もやらない野道で、こんなに採取するなんて、やっぱりユーさん頭おかしいよ。あと、この辺の物は採取クエストで処理しちゃうからね。