04-ex2 ソルット冒険者ギルド談「びっくりな盲人がやってきた」

改定:

本文

私はリーネ。港町ソルットの冒険者ギルドにてサブマスターを務めている。

ただし、実務としては他のギルド職員とほとんど変わらない。街の巡回や素材の選別などを主に対応している。そうしないといけないほどに、ソルットには冒険者が集まることに加え、私の持つ能力や技能が現場作業に有効なものだからだ。

そんなある日、新人の冒険者がやってきた。杖を使っていた中年のヒューマンで、異人、且つ盲人とのことだ。

この街から北にあるミーミを南下してきたようだった。ストロングハードタートルの素材を持ってきたからだ。

その時は、出稼ぎでも始めた盲人の一人かな?くらいにしか思わなかった。彼らは、杖の使い方が特徴的なため目立ちはするが、ギルドを出入りする冒険者は1日で1000人を超えるので、すぐに紛れるからだ。

次の日、彼はまた素材を卸しにきた。しかし、ラッシュバードの素材が異様に多かった。突っ込んできたので撃退していたら、いつの間にかたくさん貯まっていたそうだ。

ただ、その処理方法が、防御で耐えて反撃で倒すというものだった。危険なので、ちゃんと避けて対処することを薦めた。しかし、回避や察知に関する能力の適性が無いため、その選択は取れないと言われた。

さらに、投擲や魔法での対処も推奨したのだが、それも無理と言われた。器用が低過ぎて投擲が役に立たない上、「魔力拳」持ちなため、魔法も遠くには飛ばせないそうだ。

しかし、そんな絶望的な状況でも、彼は死亡することなく、ここに素材を持って戻ってきていた。記録上、そうなっているのだから驚かされた。

次の日の夜… その盲人はやってきた。甲羅ヘルムをかぶったままで…

まぁ、ラッシュバードへの対策として優秀な装備なのは確かだ。かぶっている船乗りもいる。急いで戻ってきたのかもしれないから、装備に対してとやかく言うことは止めよう。

しかし、その後に出てきた素材を見て、別の意味で驚かされた。ヌーンアウルの素材がいくつも入っていたからだ。

ヌーンアウルは、直視した者に幻影を見せてくるのだが、夜になるとその危険度が跳ね上がる。松明の光などにも集まってきて、幻影を見せてくるからだ。

しかし、彼は盲人なため、幻影が効かなかった。そして、ラッシュバードの素材を容易に集められる程度の防御力を備えている。その組み合わせを生かして、ヌーンアウルを釣り狩りしたそうだ。

そこから2日ほど… 彼は昼と夜にギルドにやってきた。昼は薬草の仕分け、夜はヌーンアウル等の素材を卸しに来ていた。

前者は、好んでやる冒険者が少ない中、よくやるものだと感心した。ちゃんと鑑定の技能を持っているようで、処理も問題無かった。

問題は後者だ。平然とラッシュバードやヌーンアウルの素材を持ってくる。しかも、記録によると一人で全部狩っているのだ。

どうしても気になった私は、「看破」、「識別」を用いて彼を鑑定することにした。「不可能」と言われている冒険者証の偽装を実現しているのかもしれない。それ以上に、彼の謎に関心があったからだ。

「鑑定が無効化されました。」

表示された結果に私は唖然とした。初めて見る文面だったからだ。

冒険者の中には、「鑑定妨害」系統の技能を持っている者がいる。そのレベルが、私の「鑑定」技能レベルよりも高い場合には、以下のメッセージが表示される。

「鑑定を拒否されました。」

なお、「鑑定偽装」の場合には、偽装されたステータスなどが表示される。

つまり、「鑑定が無効化されました」というのは、それらとは違う何かの能力になる。

「看破?識別?」

しまった。言葉に出てしまっていたようだ。

幸い、謝罪をすると彼は許してくれたし、その後、普通に鑑定もさせてもらえた。

そして、野道のモンスターを一人で狩れる仕掛けを知った。それは、この世の理を捻じ曲げそうなほどに理不尽なものであった。けれど、投擲、遠距離攻撃、感知など、冒険者の標準技能が使えなくなっているので、妥当な対価なのかもしれない。

しかも彼は、その長所、短所を考慮、選択した上で、技能を使いこなしていた。自身の能力を理解し、向き合うという姿勢は、彼が異人であり知識を豊富に蓄えていることを除いても、好ましいものだと思えた。

数日後… 巡回兼配達の途中で立ち寄ったセラちゃんの錬金術店にて、彼と再会した。なんと彼は、理想的なダンジョンを引き当て、単独で攻略して帰ってきたそうだ。

そして、セラちゃん… ではなく、彼から現状を聴取した結果、そのダンジョンへ向かうことになった。彼の能力の一端を直接見られるかもしれないと考えた私は、セラちゃんの護衛を担当することにした。彼は、同行者を守ることに使える技能や技、魔法を使用できなかったことが幸いだった。

翌日から、「魔生の荒野」での素材収集が始まった。そこで、私は彼を観察した。

それは、規模は小さいが、間違いなく蹂躙と言って良い有様だった。正面からのゴーレムの拳でさえ、ひるむことなく、なぎ倒していたからだ。今は後ろから迫られているが、それでも彼が死ぬ気はしなかった。

おかげで、魔法生物の素材はたっぷりと稼ぐことができた。友達のセラちゃんが満足していたし、私も見たい物が見られて満足だ。

「あ!ネズミ罠よ!」

「あ~、もう降ってきてるね。殲滅行くよ!」

よそ見をしている間に、セラちゃんがネズミ罠を起動してしまった。シーフラットの群れが出てきて、いくつかの食料を奪われるものだ。

しかし、今回は問題無かった。なぜなら、彼が「盗難防止の指輪」を装備していたからだ。あれだけの群れに密着されると、無対策でも被害が出てしまうから、と言うことだった。

このように、隙だらけにしか見えない外見に反し、彼には隙が無い。必要な能力や避けるべきリスクを理解し、取れる対策をしっかり取っている。そのために、異人たちの知識を調べているそうだし、薬草の仕分け中などによく話しかけてもいるようだった。

そして、ダンジョン探索をこなして得た成果を使って、彼はゴーレムを手に入れた。きっと、モンスターの発見や、罠の探知のように、自身の持っている弱点を克服するために活躍させるのだろう。

そして、「テスト運用の成果物」として彼が持ってきた物は、野道で採集できる草や木材、鉱物類だった。言われてみると、彼は採集系の技能を持っていない。素材を探すことができないのだから当然だ。

「これが作ったゴーレムだな。」

「え?何これ?採集具を持った蛸に見えるよ?」

「悪路での活動、複数採集具の装備、多少の登坂能力、そして、襲撃された際の防御力を考慮したら、凧型が最良だった。」

「つまり、ユーさんの代わりに単独で採集するために必要な能力を持たせたゴーレムか。えっと、鑑定しても大丈夫かな?」

「大丈夫だぞ。鑑定に対する反撃能力は持ってないからな。」

、採集特化ゴーレム「おくたん」との遭遇だった。そして、持っていた能力が、また非常識なものだった。

おくたんは、「単独で周辺を採集する」ための能力と、戦闘を回避するための能力を備えていた。実際、動いているおくたんからは、先日の「魔生の荒野」で倒したゴーレム達と早退した時に感じた危険性、戦意といったものを感じなかった。

その効果は、野道のモンスターがおくたんを無視して横を通り過ぎるほどだったそうだ。野生のモンスターは、探知や感応能力を用いて、危険な物や敵対者、獲物等を見つけようとする。その能力は、逆に言うと、そうした気配を持たない物、例えばその辺に生えている草などを切り捨てる能力であり、おくたんもそこに含まれてしまうようだ。

何より驚愕したのは、これが「ダンジョン探索の結果生まれたゴーレムの能力」であったことだ。つまり、誰でも同様のゴーレムを作り、運用することができる。冒険者ギルド的には、放置して良い案件ではない気がすると共に、私はダンジョンに同行したため、間接的ではあるが支援者ということになってしまった。

ただ、彼はいくつかの助け舟を出してくれた。例えば、このゴーレムの作成法は過去に異人達によって発見された物であることだ。つまり、採集の在り方が換わるほどの存在なら、既に量産されているはずである。逆に言えば、そうなっていないという事は、「一つの運用法」の範疇で止めて良いと言えるだろう。

気づいたら、ずいぶん彼と語り合うようになってしまった。この街での生活は楽しいけれど、彼といると、もっと面白いことがあるのかもしれない。

おっと。「次は始まりの街へ転移して、別の地域へ行ってみる」と言っていた。それなら、甲羅ヘルムの替えになる物でも見繕っておこう。