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「ヒッツの村に入りました。」
森を歩き始めてから10分ほどで、俺は村に到着した。
道中は、おくたんが動き回っている意外に変化は無かった。E2の西端から村までの道中は、夜にしかモンスターが出現しない、とまとめウィキに掲載されていたからだ。
「ナビー。まずはギルドに向かう。先導できるか?」
「了解しました。冒険者ギルドはこっちです。」
村に着いたら最初にやること… それはギルドだ。ナビーの地図更新が何より優先だからな。
それと、時間帯としては15時を過ぎたくらいなので、残りの時間は村の施設巡りか、村中でできる依頼でもこなそうと考えている。
その村の中だが、ミーミの村と比較すると、森の中にあるためか、草木の匂いが少し強く感じられたり小鳥の声がたまに聞こえたりしていた。それと、建物はやっぱり少なそうで、道幅がとても広いようにも感じた。
「冒険者ギルドに到着しました。」
「わかった。受付に向かうから、そのまま先導してくれ。」
「了解しました。入り口はこっちです。」」
冒険者ギルドに到着したので、そのまま中へ向かう。
すると、杖が何かにぶつかった… のだが、先っぽではなく、軸の部分だった。きっと、足元が開いているタイプの扉なのだろう。
手を伸ばすと、木に触れたが、それだけで扉が少し動いた。いわゆる、両開き、且つ、取っ手の無いタイプの扉、ということもわかった。
ということで、そのまま直進したら、普通に通ることができた。それと、膝より下が開いていたこともわかった。
ナビーの先導に従い、受付に向かう。
「え?い いらっしゃいませ?こちら、冒険者ギルドです。」
「あぁ。西からやってきた異人の旅人だ。これ、冒険者証な。」
「え、あ あぁ、確かに。ようこそ、ヒッツ村ギルドへ…」
ここの職員は男だった。若者の声ではないようだが、盲人が来たので驚いているのだろうか?
とりあえず冒険者証を出して見せたら、少し落ち着いたようだ。
「さっそくだが、素材売却を頼みたい。それと、図書室が利用したい。」
「あ、はい。えぇと… 素材売却は今も受け付けていますので、カウンターへどうぞ。それと、図書室も自由に利用して大丈夫ですよ。」
どうやら、自分で行って良いようだ。俺はナビーへ思考入力で指示、素材売却口へ向かった。
「うわ、あんた、よく真っ直ぐこっち来たな。」
「ん、ここが素材売却でいいんだよな?」
素材担当の人は、受付より若そうな感じの男だった。
「会ってるぜ。だが、あんた盲人だろう?どうやってここがわかるんだ?」
「あぁ、それか。限定的だが、異人が持つ、特定の場所がわかる技能を使っている、といった所だな。」
「異人ってそういう能力あるのかよ?便利だな。」
「俺は便利に使っているが、見た方が早いから使わないという異人は多いぞ。あと基本的に使用者本人にしか見えない能力だから、説明が難しいというのもあるな。」
なおまとめウィキ情報によると、ナビーに関する事項は、住民にはあまり周知されていないらしい。そういう技能があることは伝わっているらしいのだが、住民の前で使うプレイヤーが少ないため、認識されていないのだと思われる。これについては、ナビーの変な制限と、視覚を使う人種の宿命故、仕方ない所ではある。
まず、ナビーはシステム的に設備やスポットとして処理されているものは見つけられるが、人やアイテムを探すことは不可能。今回は、受付や素材受付など、施設を探しているのであって、受付の男の正面に俺が行けたことはただの偶然である。
次に、視覚を使う人種は、自分で探そうとする傾向がある。探すまでもなく見えていることもあるし、今見えていなくても、ちょっと歩いて探してみたり、地図を開いてみたりしようとする。自力で何でもさせようとする社会による教育の成果と、そうやって探した方が手っ取り早い、という合理性から来るものだ。
結果として、村中の冒険者ギルドという大きくもない建物の中でナビーを使う人はいない!ということだ。それどころか、今はネットで探せばたいていのマップの全体図が見つけられるし、ゲーム自体にも歩いた所を表示するミニマップが標準搭載されているらしい。故に、イベントのトリガーになっているとか、現実でナビのお世話になるような人種でなければ、大きな街の裏路地に迷い込んだとしても、「ナビーを使う」という発想にならないかもしれない。
「なるほどなぁ。それで、ここに来たということは、素材なんだよな?何があるんだ?」
「あぁ、今回卸したいのは、始まりの街からの道中で採取してきた物だな。」
そうやって、俺は、おくたんが採集した素材をいくつか卸した。今回の釣果は以下の通りだったぞ。
薬草 X 7
毒消し草 X 4
毒草 X 3
魔力草 X 5
安定草 X 3
水〃草 X 2
野生麦 X 3
香草 X 7
銅鉱石 X 5
樫の木 X 2
杉の木 X 4
綿花 X 6
打下兎の皮 X 3
打下兎の毛玉 X 5
打下兎の肉 X 2
「いろいろあるな。4990pって所だ。草類は安いからな。」
「問題無い。」
「あと、香草5本と魔力草5本、それから打下兎の毛玉5個は採取クエスト出ているから、そっちで処理しておくな。金額は変わらないが、貢献度が付くぜ。」
「助かる。」
半分はスマッシュラビットの素材とはいえ、けっこう良い収入になったし、偶然だが採取クエストで貢献度も少し稼げた。これこそ、おくたんのおかげだな。
続いて向かったのは図書室だ。
入り口に入り、ナビーのアップデートを進める。
いくつか置いてある本も手に取ってみたが、やはりただの紙束だった。真理を得たので、何か面白い情報が出てくれば… と思ったのだが、さすがにギルド貯蔵の本で、そんな隠された物は…
召喚技能の基本
種別: 蔵書
説明: 召喚技能に関する知識や考え方が描かれた本。初心者向けの書籍として各街に所蔵されている。
真理: ヒッツの村に貯蔵された本では、得点として、小物を運ぶ鳥を操る魔法陣に関する情報が記載されている。
出て来た。が、これ自体は既知の情報だった。
ほとんどの街や村の書籍には、召喚などで使える魔法の情報が描かれている。このため、関連する技能を持っているプレイヤーは、街に着いたら図書室へ直行すべし、とまとめウィキでも推奨されていた。
ただ、真理を持っていると、本に該当する特典があるかどうかを知ることができるのかもしれない。おそらく、どこの図書室にも同盟の書籍「召喚技能の基本」があるため、偽装している扱いなのだろう…
ということで、棚を巡回して、手に取ることの可能な一通りの本に触鑑定を施しておくことにした。
すると、いくつかの本で、既知の情報だが本のタイトルからはわからない情報を得ることができた。真理がうそ発見器を兼ねていることがわかったのは良いが、これ、けっこうヤバいことだ。なぜかウィキには載っていないんだよな。
まぁいい。ナビーに必要な情報を取り込ませることができたので、ここでやることを考えよう。
「ナビー、この村にはどんな施設があるんだ?」
「村には冒険者ギルド、転移ゲート、森の温泉宿、武具屋、雑貨屋があります。」
「温泉宿か。それは盲人… いや、異人でも利用できるのか?」
「はい。入浴や宿泊が可能です。また異人でも、ログイン制限時間に抵触しなければ、眠ることが可能です。盲人のユー様でも利用可能と思われます。」
「なるほどな。次だが、森について、何か冒険者ギルドで特別な告知はあるか?」
「いいえ、ありません。」
「最後だが、冒険者ギルドに掲載されている依頼を教えてくれ。」
そうして、ナビーとの会話から得られた結果を元に、やることリストを作った。
- 店で購入できる物の確認。装備系はもう十分なので掘り出し物を探す。
- ギルドでいくつか依頼をこなす。ランク上げの条件に、複数の街や村での規定数の依頼達成が含まれているため必須。
- ギルドの依頼をこなしつつ森を観光。モンスターはレベル帯が違うので問題無いと思われる。
- ダンジョンを探してみて、条件が有用なら踏破する。報酬が微妙なので、優先度は低め。
- 温泉宿で入浴や宿泊を体験する。そういえば、ソルットの「海の宿」を忘れていた。
- E2 フィールドボスを討伐し、E3へ。これは最後。
とりあえずこの6つで良いだろう。
その後俺は、掲載されていた薬草の仕分け依頼をこなし、ギルドの食堂で夕食、そしてログアウトした。
未処理の畑の雑草を刈り尽くすクエストもあるようだったので、まとめウィキで紹介されていた「ダブルブレード」をやってみよう。