05-04 雑草刈り、そして温泉へ

改定:

本文

「ユー様、おはようございます。」

「おはよう、ナビー。さっそくだが、畑の雑草刈りクエストについて、詳細を教えてくれ。」

「了解しました。現在もクエストは受注可能です。対象は未開拓の畑1面、生えている全ての草を刈り取ることが求められています。報酬は400p、期限はあと4日です。」

「畑の大きさに関する情報はあるか?1面はどのくらいの大きさだ?」

「クエストボードに情報がありません。詳細は職員、または依頼主への確認が必要です。」

ログインしたら、朝6時を少し過ぎた頃だった。さっそく雑草刈りに臨みたいのだが、畑の大きさがわからないというのはちょっと良くない。

ミーミの村でクエストを受けていた時には、木属性魔法の習得が目的だったので、草をわざわざ握るということをしていた。このため、1haにかかる時間は12時間を超えるボリュームだった。

今回は、腕刃による切断と、おくたんの連携で、より早く処理ができることを期待している。しかし、おそらく3倍速といった所だろう…

「お おはようございます。ユー様ですね。」

「あぁ。この依頼についてなんだが、畑の広さはどのくらいかわかるか?」

ということで、職員に聞いてみた。

「畑の雑草刈りですか?また珍しい物を…」

「珍しい?それはどういうことだ?」

「いや、受けてくれる冒険者が少ないんですよ。それで、畑の大きさでしたね。依頼は1haの畑が9面あります。畑は隣接しているので、可能なら刈れるだけまとめてくれるとうれしい、とのことですよ。」

「なるほど。とりあえず1面分を受けてみよう。もし、順調にいくなら2面目にも着手したいと考えている。」

「承知しました。えぇと、地図… は見えないですよね。依頼主の元へ案内しますよ。」

さすがに地図を見て勝手に行けとは言わないようだ。今回のケースならナビーでも見つけられるんだけどな。

その後、依頼主に挨拶。盲人だったので「あんたできんのか?」と驚かれたが、鎌2本装備のおくたんを出したら黙った。

「ここの畑だ。草はみんな刈っちまってかまわねぇ。俺は近くの畑で作業すっから、なんかあれば声を出してくれ。」

さっそく畑に近づくと、雑草は1.2メートルくらいまで伸びていた。ミーミ村でもそうだったが、この手の雑巾がけクエストは、プレイヤーによる見落とし防止や、技を使ってスムーズにこなせるよう、あえて異常な高さの雑草になっている。

ちなみに、リリース当初はリアル重視、足首から脹脛くらいまでの長さの雑草だったらしい。が、農業系の技能で急速成長させて、通常の武器で刈るというネタ動画が拡散。開発側も「面白そうだから、この手のクエストの雑草は最初から高くしよう」と乗ってきたのだそうだ。当時のインタビュー記事へのリンクと共にまとめウィキにあった。

「おくたんは、俺に随行しながら、手近な雑草を刈ってくれ。無いと思うが、採取できる草があれば採取もしてくれ。あと、俺からは少し離れた所で頼む。」

指示を与えると、さっそく近くでばっさばっさと音がし始めた。これだけ草があれば、そりゃばっさばっさなるだろう。

では俺も刈りを開始しよう。今回使うのは、「腕刃」だ。

右腕に使用すると、二の腕辺りから指先までに何かが巡るのを感じた。そして、雑草の群生地に対し、薙ぐように腕を動かすと、ザックリと切れる感覚。その後、左手で雑草の生えていた辺りを探ってみたが、そこにあった草は、足元までキレイに消滅していた。

動画やまとめウィキで書かれていたので、できるだろうという自信はあった。が、今こうして、腕の一振りで範囲内の雑草が消し飛んだことで、確信が持てた。俺は、左腕にも腕刃をかけ、両手を振りながら雑草の群生地に突撃した。

「おぉ、あんたやるじゃねぇか。時間あるなら、隣の畑も頼めるかい?」

「問題無い。まだ余裕もあるから、もう1畑行ってみよう。」

俺は、両腕を振り回しながら畑内を歩き回った。畑からはみ出ると物理的に草が無くなるので、ただただ草のある場所へ突っ込めばよかった。

さらに今回はおくたんがいる。おくたんは俺の刈り残しを処理してくれるので、雑巾がけで隙間が生じても埋めてくれる。

それと腕刃自体が雑草刈りと相性が良い、というのもある。この技は、一度使用すると、刃に設定された耐久値が失われるか、手動で解除するまでずっと持続するのだ。

腕刃の耐久力は、対象を切るほど減少していくのだが、そこで参照されるのは切られる側の防御力。雑草はこれが低めに設定されているため、刃の耐久値がなかなか減らないのである。

ということで、2時間かからずに1面まっさらな畑ができてしまった。そしてMPに余裕があったので、2面目に突入!

その後、俺は畑4面分の雑草を刈りつくした。収入は合計1600pと微妙な額だったが、貢献度は4回分きっちりもらえたぞ。

それと、おくたんが雑草に混じって少し生えていた草を採取していた。こんな所でも雑草に負けないなんて優秀だな… と思ったら、普通の草じゃなかった。

水〃草:

種別: 素材・草

説明: 表面が湿っている不思議な草。空気中の水分を蓄える性質があり、絞ると水が出てくるが、放置すると少しずつ復活する。

種付草:

種別: 素材・草

説明: 雑草に混じって生えることのある生命力の強い草。表面に触れた生物に種がくっつき、その後、落ちた場所で群生するためこのように呼ばれる。なお、種自体が生物に害を及ぼすことは無い。

これらは、錬金などで使う素材の一つだ。水〃草は第1マップでもたまに採取できる草、種付草は第2マップでは珍しいが、第3マップに群生しているらしい。

まぁ、今の俺にとっては、どっちも換金で良いだろう。いわゆるマップ攻略のために必要な素材や、強い装備に使えそうな素材としてまとめウィキで紹介されていたものは残してあるが、上に挙げた草2種は含まれていない。群生しているし、序盤の素材なため効能も弱いからな。

「ユー様、森の温泉宿に到着しました。入り口はこっちです。」

18時を過ぎた頃、俺は森の温泉宿にやってきた。お泊りはログイン時間の都合で体験できないが、温泉には浸かってみよう… といった所だ。

ナビーの先導に従い進んでいくと、腕の辺りに布が触れた。どうやら、暖簾があるだけで、扉の類は無いようだ。そのまま直進する。

「え?あの、えぇと… こちら、森の温泉宿ですよ?」

入り口から入ると、そう言いながら人が近づいてきた。

「そう聞いている。あんたが、受付でいいのか?」

「え、は は~。それで、どういったご用件でしょうか?」

「冒険者ギルドで入浴できると聞いたのだが、可能か?」

「え?えぇと… 入浴ですね。少々お待ち下さい!」

店員と思われる人は、そう言うと、どこかへ行ってしまった。盲人だったので戸惑っている… といった感じだろうか?

そのまま待っていると、何かが近づいてきた。

「どうも、ウチの者が失礼しました。」

「ん?あんたも、ここの関係者って事でいいのか?」

「はい。私が、この宿の支配人をしております。それで、入浴のみのご希望でしたよね?」

「あぁ、そうだ。ただ、そういうサービスがあるとしか聞いていないから、詳しく教えてもらって良いか?」

「承知しました。入浴ですが…」

どうやら、支配人を召喚してしまったようだ。そして、入浴について詳細に教えてもらえた。要約すると以下の通りだ。

と、いろいろな意味で天国しているようだ。のぼせ関係はまとめウィキでも注意勧告されていた。

お風呂が気持ちよくてスヤスヤ… もそうだが、お酒が会うので持ち込んだら一気に酔いが回って… パーティや冒険者との談話が楽し過ぎて… という事例もあるらしい。このため、温泉に入る前に、貴重品を預けておくことが推奨されている。

それと、説明には含まれていないが、プレイヤーの場合、入浴中にログイン制限時間に引っかかる場合がある。こちらについては、温泉宿が安全地帯内にあるので、単に宿の入り口に戻るだけだ。なお、秘境の湯など、外にある温泉でやると普通に死に戻る。

「以上が入浴のサービスですね。」

「なるほど。では、今回は入浴、個室で行きたい。それと、お風呂セットを借りられるだろうか?」

「承知しました。では、ご案内しますね。」

今回は個室、お風呂セットを希望した。共同浴場にも興味はあるが、まずは温泉というものをじっくり触れて周るためだ。一人なら隅々まで触っても問題無いだろう。

俺は料金を支払った後、支配人について行った。