05-06 農家から冒険者への道

改定:

本文

「ユー様、おはようございます。」

「おはよう、ナビー。今日は雑貨屋と武具屋を巡って、その後は森の探索に行くぞ。」

昨晩は温泉を満喫し、併設の食堂で晩飯を取った。なので、現在は温泉宿にいる。

今日は、まだ行っていない所、雑貨屋と武具屋を周ってみよう。まぁ武具屋については、第2マップなので修復で世話になる程度になるだろうけれど…

「なぁ、あんた冒険者なのか?」

そう考えていたら、真横から話しかけられた。

「ん?俺か?そうだな。」

「ほぉ。ちょっと聞きたいことあるんだがいいか?」

「まぁ、かまわないが、あんたは?」

「俺はルーカス。ここで暮らしているんだが、隣街やダンジョンへ出稼ぎしたいんだ。」

「今まで外に出たことは無いのか?」

「始まりの街とこの村くらいだな。畑仕事や家具作りで生きてきた。」

「そうか。出稼ぎというのは、今の生活が厳しくなったのか?」

「いんや。どっちかと言うと興味だな。畑も家仕事も悪くないが、飽きてきたって所だ。」

どうやら、村の住民、生産系の男なようだ。年齢は俺に近いのだろうか?若いようには思えない。

「なるほどな。それで、聞きたいことって何だ?」

「冒険者の知恵を借りたい。俺はモンスターを追い払ったことはあるが狩に出た経験が無いんだ。始まりの街はそれで何とかなるが、森の方は厳しいだろう?」

「森の方は俺もまだ行っていないが、獰猛なモンスターが多いと聞く。そもそも道も狭いから、追い払うにも限度があるだろう。」

「ん?あんたも始まりの街からの冒険者か?」

「そうだが、ソルットの方には行ったことがあってな。今日は店の確認と森の探索をして、早ければ明日にでもイスタールへ向かう予定だったぞ。」

「ソルットって言うと、始まりの街の南の先にある港町か。それにイスタールが森の東の街だったな。」

「そうだな。それで、ルーカスさんだったか?あんたは、森のモンスターを倒したり、ダンジョンを踏破したりできるようになりたい、そのための知恵や力を身に着けたい、って所でいいか?」

「そう、それだ。さすがに、あんまり遠くまで離れるのはつらいが、近所のモンスターやダンジョンくらいなら何とかしたいぜ。」

どうやらこの男の希望は、冒険者としての心得を身に着ける… といった所だろうか。

「う~ん、それなら冒険者ギルドに相談しても良いんじゃないか?」

「あぁ、俺も昨日登録したんだ。だから、今日から冒険者やって行こうって思った所で、ちょうどお前さんを見つけたんだぜ。」

「なるほどな。だが、俺でいいのか?」

「ん?いいんじゃねぇか?装備は強そうに見えるし、少なくとも俺よりは強いだろ?」

「強さはそうかもしれないが、俺は盲人だぞ?」

「そうなのか?気づかなかったが、まぁここにいるなら大丈夫だと思ってるぜ。」

「ずいぶん買ってくれるな。」

「まぁ、実の所、ここ若いヤツが多くてな。あんたみたいな歳くらいの方が参考になると思ってよ。」

どうやらルーカスという男、冒険者デビューしたばかりなようだ。そして、歳の功ってやつも期待されているのだろう… 俺、旅人歴1ヶ月だけどな。

「突発クエスト 冒険者の手ほどき が発生しました。」

冒険者の手ほどき:

種別: 突発クエスト

依頼主: ルーカス(住民)

内容: ルーカスに、冒険者として活動できるよう、手ほどきを行なう。ルーカスと共に、森のダンジョンの踏破、並びに、E2フィールドボスを討伐する。

報酬: ?

納期: 未定

注意: ルーカスが死亡した場合、ヒッツの村に強制帰還する。

ついにクエストになった。報酬不明だが、失敗条件の類が見られないので、成功はほぼ約束されていると言えよう。

クエストのクリア条件を満たすためには、おそらく、ルーカスのレベル上げの手伝いや、共同でのギルド依頼遂行など、いわゆる育成が必要だろう。俺がやってきたことの繰り返しではないにしても、手間がかからないわけではない。

一方で、得られるメリットは、けっこう良いかもしれない。まとめウィキによると、住民を助けるクエストは狙って起こせるものでないため、好感度が破格であるらしい。また、クエスト内容に、街中や森の散策など、俺がやろうとしている内容もけっこう含まれているので、遠回りでもないだろう。

「クエスト 冒険者の手ほどき を受領しました。」

「なるほどな。俺は異人の旅人でユーだ。さすがにずっとというわけにはいかないだろうが、ルーカスさんの助けにはなれると思うぞ。」

「助かるぜ。よろしくな、ユーさん!あと、俺は呼び捨てでいいぜ。」

こうして、俺は住民の育成を始めることになった。

では、まずはルーカスの育成プランを考えるとしよう。

「わかった。それで早速だが、ルーカスは、誰かあこがれの冒険者はいるのか?あとは、力に自信があるとかの得意なことを教えてくれ。」

「あん?それは、どういうことだい?」

「要は将来なりたい自分の姿だな。それによって、装備するべき武具や、身に着ける技能が変わってくるんだ。」

「あぁ、そういうことか。あこがれの冒険者って言うのは、特にはいないぞ。得意なことというか、長年やってきたことは、畑仕事や荷運び、木工だな。」

「なるほどな。あと、能力を鑑定させてもらって良いか?」

「鑑定?能力がわかる技能だったか?いいぜ。」

ルーカスに触れ、鑑定する。同時に、パーティとしてのステータスも確認した結果は以下の通りだった。

名前: ルーカス

種族: ヒューマン

職業: 農家

性別: 男

称号: [農業主], 木工主

レベル: 5

体力: 25

魔力: 7

筋力: 19

防御: 13

精神: 7

知性: 13

敏捷: 15

器用: 24

技能:

適性: 農耕12, 木工12, 鎌術6, 槌術6, 採集6, 細工12

技術: 解体4, 運搬12, 危険感知4

支援: 握力強化, 大地の心

耐性: 空腹耐性, 暑気耐性, 頑強

農耕: 収穫増加, 植物知識, 品質安定

木工: 刻細工, 木材鑑定, 品質安定

鎌術: 伐鎌, 受鎌

槌術: 直打

採集: 採取量増加, 採取品質向上

細工: 素材縫合, 素材加工, 素材分解

装備:

鉄の伐採鎌, 木綿の服, 木綿の帽子, 木綿の膝当て, 木綿の靴下, 革の具足

鑑定した結果としては、力が多少ある農家だった。ビルドとしては、現地の生産職としては妥当な所だろう。

レベルが微妙なのは、扱っている素材のレベル不足が原因だな。とはいえ、装備を整えて、始まりの街で慣らせば、すぐに森での狩が可能になるだろう。森にゴーストは出ないからな。

戦闘技能としては、鎌と槌は使えるが、農具や木工具として使っているため、そちらに特化した技が生えている。

面白い所では、土いじりを続けた努力が実り、「大地の心」が生えていることだ。本人に魔力系の適性は無いが、この心があれば土属性魔法はすぐに習得できるだろう。このルートなら、確か魔力操作も一緒に付いて来るはずだ。

あとは、頑強、空腹耐性、そして暑気耐性を持っていた。頑強は身体系状態異常への耐性と体力上昇、暑気耐性は高温環境への耐性だ。農家として困難なこともあったのだろう。

「なるほどな。濃厚と木工はさすがだな。あと、モンスター相手なら鎌と槌は使えそうだぞ。」

「鎌と槌か。確かによく使っているが、草刈りと細工だぜ?いいのか?」

「そうだな。今は農具として持っているが、武具屋で戦闘用の鎌や槌を揃えれば、モンスターと戦えるだろう。」

「あぁ、そういうことか。戦闘用の武器は持ってなかったぜ。」

「農具を無理やり戦闘で使うと壊れやすくなるから、農具と武器は分けるべきだぞ。特にダンジョンに潜るなら、道中で壊れたなんて言っていられないからな。」

「なるほどなぁ。日帰りできないってことは、そういうの考えないといけないのか。」

「あとは防具だな。モンスターは群れたり後ろから襲ってきたりもするから、守るべき所はしっかり守る必要があるぞ。」

「おぅ。ということは、これから武具屋か?」

「そうだな。さっそく行くとしよう。」

俺は、ルーカスさんと一緒に武具屋へ向かった。もちろん、俺は思考入力でナビーに先導してもらう。

「なぁ、ユーさん。あんたの武器は、その杖なのか?」

「いや、違うぞ。これは歩くための道具で、武器はナックルだな。」

「あぁ、それで武道着を着ているのか?だが、俺が知っているのより上等そうだ。」

「ソルットで買ったり、先輩冒険者からもらったりしたな。確か武道着は、ソルットの先、海の向こう側で買ったそうだぞ。」

「あぁ、そりゃ見たことないわけだぜ。外には、そんなすげぇ物もあるんだな。」

「そうだな。俺もそういった知らないものに触れて回るため、こうして旅をしている。」

「いいなぁ。俺も外に出て行きたいぜ。でも、畑もあるんだよな~。」

こんなこと言っているが、ダンジョンに潜るなら解決できるようになるぞ。転移ゲート解放イベントはNPCでもちゃんと起こることだからだ。

そういえば… 木工技能と細工技術があるなら、木製の装備を自作することも選択肢になるかもしれない。木材装備は、属性を持つものもけっこうあるので、魔法なしでもゴースト処理できるか…

「あっと。そうだ、ルーカスさんは木工で武具は作れるか?」

「木工でか?作ったことが無いからわからねぇな。」

「なるほど。木工で作れそうなら、店で武具を確認した後、チャレンジしてみるのは良いと思うぞ。安くて強い装備が手に入るかもしれないからな。」

「そういえば金かかるんだったな。5000pしか持ってなかったし、考え特ぜ。」

そんな話をしながら、俺たちは武具屋へやってきた。