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「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日は雑貨屋と武具屋を巡って、その後は森の探索に行くぞ。」
昨晩は温泉を満喫し、併設の食堂で晩飯を取った。なので、現在は温泉宿にいる。
今日は、まだ行っていない所、雑貨屋と武具屋を周ってみよう。まぁ武具屋については、第2マップなので修復で世話になる程度になるだろうけれど…
「なぁ、あんた冒険者なのか?」
そう考えていたら、真横から話しかけられた。
「ん?俺か?そうだな。」
「ほぉ。ちょっと聞きたいことあるんだがいいか?」
「まぁ、かまわないが、あんたは?」
「俺はルーカス。ここで暮らしているんだが、隣街やダンジョンへ出稼ぎしたいんだ。」
「今まで外に出たことは無いのか?」
「始まりの街とこの村くらいだな。畑仕事や家具作りで生きてきた。」
「そうか。出稼ぎというのは、今の生活が厳しくなったのか?」
「いんや。どっちかと言うと興味だな。畑も家仕事も悪くないが、飽きてきたって所だ。」
どうやら、村の住民、生産系の男なようだ。年齢は俺に近いのだろうか?若いようには思えない。
「なるほどな。それで、聞きたいことって何だ?」
「冒険者の知恵を借りたい。俺はモンスターを追い払ったことはあるが狩に出た経験が無いんだ。始まりの街はそれで何とかなるが、森の方は厳しいだろう?」
「森の方は俺もまだ行っていないが、獰猛なモンスターが多いと聞く。そもそも道も狭いから、追い払うにも限度があるだろう。」
「ん?あんたも始まりの街からの冒険者か?」
「そうだが、ソルットの方には行ったことがあってな。今日は店の確認と森の探索をして、早ければ明日にでもイスタールへ向かう予定だったぞ。」
「ソルットって言うと、始まりの街の南の先にある港町か。それにイスタールが森の東の街だったな。」
「そうだな。それで、ルーカスさんだったか?あんたは、森のモンスターを倒したり、ダンジョンを踏破したりできるようになりたい、そのための知恵や力を身に着けたい、って所でいいか?」
「そう、それだ。さすがに、あんまり遠くまで離れるのはつらいが、近所のモンスターやダンジョンくらいなら何とかしたいぜ。」
どうやらこの男の希望は、冒険者としての心得を身に着ける… といった所だろうか。
「う~ん、それなら冒険者ギルドに相談しても良いんじゃないか?」
「あぁ、俺も昨日登録したんだ。だから、今日から冒険者やって行こうって思った所で、ちょうどお前さんを見つけたんだぜ。」
「なるほどな。だが、俺でいいのか?」
「ん?いいんじゃねぇか?装備は強そうに見えるし、少なくとも俺よりは強いだろ?」
「強さはそうかもしれないが、俺は盲人だぞ?」
「そうなのか?気づかなかったが、まぁここにいるなら大丈夫だと思ってるぜ。」
「ずいぶん買ってくれるな。」
「まぁ、実の所、ここ若いヤツが多くてな。あんたみたいな歳くらいの方が参考になると思ってよ。」
どうやらルーカスという男、冒険者デビューしたばかりなようだ。そして、歳の功ってやつも期待されているのだろう… 俺、旅人歴1ヶ月だけどな。
「突発クエスト 冒険者の手ほどき が発生しました。」
冒険者の手ほどき:
種別: 突発クエスト
依頼主: ルーカス(住民)
内容: ルーカスに、冒険者として活動できるよう、手ほどきを行なう。ルーカスと共に、森のダンジョンの踏破、並びに、E2フィールドボスを討伐する。
報酬: ?
納期: 未定
注意: ルーカスが死亡した場合、ヒッツの村に強制帰還する。
ついにクエストになった。報酬不明だが、失敗条件の類が見られないので、成功はほぼ約束されていると言えよう。
クエストのクリア条件を満たすためには、おそらく、ルーカスのレベル上げの手伝いや、共同でのギルド依頼遂行など、いわゆる育成が必要だろう。俺がやってきたことの繰り返しではないにしても、手間がかからないわけではない。
一方で、得られるメリットは、けっこう良いかもしれない。まとめウィキによると、住民を助けるクエストは狙って起こせるものでないため、好感度が破格であるらしい。また、クエスト内容に、街中や森の散策など、俺がやろうとしている内容もけっこう含まれているので、遠回りでもないだろう。
「クエスト 冒険者の手ほどき を受領しました。」
「なるほどな。俺は異人の旅人でユーだ。さすがにずっとというわけにはいかないだろうが、ルーカスさんの助けにはなれると思うぞ。」
「助かるぜ。よろしくな、ユーさん!あと、俺は呼び捨てでいいぜ。」
こうして、俺は住民の育成を始めることになった。
では、まずはルーカスの育成プランを考えるとしよう。
「わかった。それで早速だが、ルーカスは、誰かあこがれの冒険者はいるのか?あとは、力に自信があるとかの得意なことを教えてくれ。」
「あん?それは、どういうことだい?」
「要は将来なりたい自分の姿だな。それによって、装備するべき武具や、身に着ける技能が変わってくるんだ。」
「あぁ、そういうことか。あこがれの冒険者って言うのは、特にはいないぞ。得意なことというか、長年やってきたことは、畑仕事や荷運び、木工だな。」
「なるほどな。あと、能力を鑑定させてもらって良いか?」
「鑑定?能力がわかる技能だったか?いいぜ。」
ルーカスに触れ、鑑定する。同時に、パーティとしてのステータスも確認した結果は以下の通りだった。
名前: ルーカス
種族: ヒューマン
職業: 農家
性別: 男
称号: [農業主], 木工主
レベル: 5
体力: 25
魔力: 7
筋力: 19
防御: 13
精神: 7
知性: 13
敏捷: 15
器用: 24
技能:
適性: 農耕12, 木工12, 鎌術6, 槌術6, 採集6, 細工12
技術: 解体4, 運搬12, 危険感知4
支援: 握力強化, 大地の心
耐性: 空腹耐性, 暑気耐性, 頑強
農耕: 収穫増加, 植物知識, 品質安定
木工: 刻細工, 木材鑑定, 品質安定
鎌術: 伐鎌, 受鎌
槌術: 直打
採集: 採取量増加, 採取品質向上
細工: 素材縫合, 素材加工, 素材分解
装備:
鉄の伐採鎌, 木綿の服, 木綿の帽子, 木綿の膝当て, 木綿の靴下, 革の具足
鑑定した結果としては、力が多少ある農家だった。ビルドとしては、現地の生産職としては妥当な所だろう。
レベルが微妙なのは、扱っている素材のレベル不足が原因だな。とはいえ、装備を整えて、始まりの街で慣らせば、すぐに森での狩が可能になるだろう。森にゴーストは出ないからな。
戦闘技能としては、鎌と槌は使えるが、農具や木工具として使っているため、そちらに特化した技が生えている。
面白い所では、土いじりを続けた努力が実り、「大地の心」が生えていることだ。本人に魔力系の適性は無いが、この心があれば土属性魔法はすぐに習得できるだろう。このルートなら、確か魔力操作も一緒に付いて来るはずだ。
あとは、頑強、空腹耐性、そして暑気耐性を持っていた。頑強は身体系状態異常への耐性と体力上昇、暑気耐性は高温環境への耐性だ。農家として困難なこともあったのだろう。
「なるほどな。濃厚と木工はさすがだな。あと、モンスター相手なら鎌と槌は使えそうだぞ。」
「鎌と槌か。確かによく使っているが、草刈りと細工だぜ?いいのか?」
「そうだな。今は農具として持っているが、武具屋で戦闘用の鎌や槌を揃えれば、モンスターと戦えるだろう。」
「あぁ、そういうことか。戦闘用の武器は持ってなかったぜ。」
「農具を無理やり戦闘で使うと壊れやすくなるから、農具と武器は分けるべきだぞ。特にダンジョンに潜るなら、道中で壊れたなんて言っていられないからな。」
「なるほどなぁ。日帰りできないってことは、そういうの考えないといけないのか。」
「あとは防具だな。モンスターは群れたり後ろから襲ってきたりもするから、守るべき所はしっかり守る必要があるぞ。」
「おぅ。ということは、これから武具屋か?」
「そうだな。さっそく行くとしよう。」
俺は、ルーカスさんと一緒に武具屋へ向かった。もちろん、俺は思考入力でナビーに先導してもらう。
「なぁ、ユーさん。あんたの武器は、その杖なのか?」
「いや、違うぞ。これは歩くための道具で、武器はナックルだな。」
「あぁ、それで武道着を着ているのか?だが、俺が知っているのより上等そうだ。」
「ソルットで買ったり、先輩冒険者からもらったりしたな。確か武道着は、ソルットの先、海の向こう側で買ったそうだぞ。」
「あぁ、そりゃ見たことないわけだぜ。外には、そんなすげぇ物もあるんだな。」
「そうだな。俺もそういった知らないものに触れて回るため、こうして旅をしている。」
「いいなぁ。俺も外に出て行きたいぜ。でも、畑もあるんだよな~。」
こんなこと言っているが、ダンジョンに潜るなら解決できるようになるぞ。転移ゲート解放イベントはNPCでもちゃんと起こることだからだ。
そういえば… 木工技能と細工技術があるなら、木製の装備を自作することも選択肢になるかもしれない。木材装備は、属性を持つものもけっこうあるので、魔法なしでもゴースト処理できるか…
「あっと。そうだ、ルーカスさんは木工で武具は作れるか?」
「木工でか?作ったことが無いからわからねぇな。」
「なるほど。木工で作れそうなら、店で武具を確認した後、チャレンジしてみるのは良いと思うぞ。安くて強い装備が手に入るかもしれないからな。」
「そういえば金かかるんだったな。5000pしか持ってなかったし、考え特ぜ。」
そんな話をしながら、俺たちは武具屋へやってきた。