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「E2 ヒッツの森に入りました。」
雑貨屋での買い物を終えた俺たちは、そのまま森の入り口までやってきた。俺は思考入力でナビーに確認した。
「ナビー。ここから先は、ずっと木で道ができているのか?」
「はい。道は、多数の木によって作られた天然の迷路であると、冒険者ギルドの書庫で示されています。」
「そうか。ナビーは、東端に続く正しい道は知っているのか?」
「はい。書庫には、森の東端の出口に向かうためのルートが残されているため、地形が変わっていなければ、目的地まで到達できるでしょう。」
「わかった。それと、ダンジョンは見つけられるか?」
「はい。ダンジョンへの先導は可能です。」
天然の迷路ではあるが、ナビーを図書室に入れておけば答えがわかっちゃうのである。だって、システム的に「道」として設定されているのだ。ただし、ギミックの木は対象外だ。
「ユーさん。ここからはどうやって進んでいくんだ?」
「そうだな。今日はモンスター狩が目的だから、左側の道へ進もうか。イスタールに続く道から外れた方が良い。」
「そう言えば、イスタールに続く道にはモンスターが出にくいんだったな。」
「そうだ。俺は後ろから追いかけよう。後方のモンスターは任せてくれ。」
「おぅ。前のモンスターは、俺が狩っちまっていいんだな?」
「かまわないぞ。それと、俺とルーカスとの距離はそれなりに開けよう。鎌は、けっこうリーチがあるから、狭い道で一緒に戦うなんてナンセンスだ。」
森は、始まりの草原よりモンスターが強いので、ルーカスにはちょっと厳しいかもしれない。ただ、二人で固まった所で、お互いに足を引っ張るだけである。
それなら、距離を開けて戦闘し、俺が分かれ道の反対側から来る敵を逃さずに狩る方がマシだろう。
「わかったぜ。ただ、モンスターが群れてきたらどうする?」
「道幅が狭いから、そんなに群れないと思うぞ。それはそれとして、早く倒す方法としては、鎌は中型~大型の獣や植物、それとスライムだ。小さいヤツは槌が良いぞ。」
「使い分けってやつだな。いいねぇ。魔法は?」
「使うなら水や炎だな。ただ、まだ威力が足りないだろうから、今は遠くにいるモンスターを釣り出すのに使うと良いぞ。石を投げるのと同じようなものだ。」
「そっか。まぁ魔法はこれから使い込むしかねぇもんな。」
ルーカスは、魔力、精神が共に低いので、魔法での攻撃にはあまり期待できないだろう。そうなると、直近では攻撃より牽制に使うべきだ。
「あっと、そうだ。この指輪を貸しておくぞ。魔法の扱いを少し助けてくれるから、狩が捗るだろう。」
「おぉ?アルの所で買っていた指輪だな?あれ、でも壊れたって言ってなかったか?」
「2個買っていて、壊れたのはその内の1個だな。ちなみに、壊すことが必要な特殊な指輪だったから、正確に言うなら 壊した になる」
「壊す?なぜだ?もったいないじゃねぇか?」
「壊すと技能が習得できる魔法の指輪だったからだな。そういう指輪は他にもあるぞ。」
「マジか?それも掘り出し物ってやつか?」
「そうだな。魔法のアクセサリーと呼ばれる物だから、たまには武具屋で聞いてみると良いぞ。」
ルーカスに魔力の指輪を与え、俺たちは歩き始めた。もちろん、おくたんは召喚済みで、こうして話している間に伐採を始めているぞ。
そうして歩いていると、何かを踏んだ。懐かしい… とは言えないが、ぷにっとした感覚だ。
当然、しゃがみながら纏炎+パンチ。グリーンスライムだったが、森のモンスター最大レベルは7なので、レベル差は少なくとも13だ。そりゃ一撃だろう。
次にやってきたのは、後ろからの襲撃だった… と思う。ぽふってなってドサっと落ちた何かに、強撃を打ち込んだら一撃だったからな。
「シーフキャットを倒した。」
そういえば猫いたな。強撃の前に掴んだ時の触鑑定は以下の通りだ。
シーフキャット:
種別: モンスター・獣
レベル: 5
HP: 100%
状態: 敵対、真理の枷+1
説明: 深緑色の体毛を持つ猫。保護色の体を生かして奇襲し、食べ物などを奪おうとする。
S2で遭遇した、シーフラットの猫バージョンだ。シーフラットのような異常な隠密性は無いが、保護色なため、盗まれた後の逃亡を阻止しにくい特徴がある。
そういえば、ルーカスにこの猫のこと言ってなかったな。危険感知はあるだろうが、相手が保護色だと厳しいか。
だが、俺はあえて言わないことにした。前情報なしで危険感知に従い行動していくと、直観や反応強化、不意打ち耐性などの技能が生えやすいからだ。俺の場合は要らないが、突撃思考のあるルーカスは持っていた方が良い。
そして、相手がシーフキャットということも良い。携帯食が根こそぎ逝かれるだろうが、ダメージを受けることは無いからな。
「なぁ、ユーさん。あの緑色の猫は何だ?じりじり寄ってくるんだが…」
「ん?見えているのか?」
「あぁ。ありゃ明らかに草でも木でもないからな。」
そういえば、ルーカスは対植物系技能持ちだったな。植物への擬態や緑系の保護色だと看破できてしまうらしい。
残念ながら、食料を使って直観を育てる作戦は適わないようだ。なので、俺は教えることにした。
「あぁ、たぶんシーフキャット。モンスターだな。」
「猫のモンスターか?ヤバいのか?」
「保護色で見えにくいのと、忍び寄って食料を奪うそうだ。」
「あぁ、そういうのもいるのか。泥棒猫ってやつだな。俺が成敗してやる!」
そう言うとルーカスは突撃して行った。過去に、野生の猫に食い荒らされでもしたのだろうか?
その後、俺たちは、順調にモンスターを狩っていった。
この森で出てくるのは、狼、グリーンスライム、シーフキャット、大転がり虫、ポイズンスパイダー、地を這う茂み、トゲトゲネズミの7種だ。
大転がり虫は、50cmほどある虫で、転がって体当たりしてくる。俺も後ろからぶつかられて、ぼい~んってなったが、引っかかって止まった所を投落で倒した。
ポイズンスパイダーは、毒を持つ蜘蛛で、近づくと噛みつかれる。ルーカスが2回ほど毒になった。なお、俺は道の中心部を歩いていたため、蜘蛛の巣自体が見つからなかった。
地を這う茂みは、これでも植物系モンスター。茂みがゆっくりわさわさと動いてきて、接触すると葉っぱなどで切られる。だが、ルーカスがあっという間に伐採してしまった。農家や採集家だと特効入るんだよな。
「な なぁ、ユーさん。あのハリネズミみたいなのもモンスターでいいんだよな?あれ、どうやって倒したらいいんだ?」
「たぶんトゲトゲネズミだな。直接触れなければどうということは無いが、槌が有効だぞ。」
「そうか。行ってくるぜ!」
結局、ルーカスは問題無く倒していた。いや、一度失敗したようで、「いって~!」とシャウトしていたな。
そうやって狩をしていると、ある場所に着いた。いや、ナビーに先導してもらっていたんだけどな。
「な なぁ、ユーさん。なんだ、この入り口?向こう側が森じゃねぇぞ?イスタールの入り口か?」
「いや、違うな。ちょっと待ってな。」
俺は、入り口の横にある壁に触れて鑑定した。その結果は…
魂の海底
種別: ランダムダンジョン
残り時間: 48:39:13
階層数: 6
今行くと、確実に死ぬダンジョンの一つだった。
「ルーカス。これがダンジョンの入り口だな。」
「おぉ、マジか?ここが…」
「あ、待て。入り口を見るだけにしろ。ここに入ると秒で死ぬからな。」
「秒で死ぬ?ダンジョンの中、そんなにヤバいのか?」
「ここは 魂の海底 というそうだ。ダンジョンの名前には意味があってな。ここの場合、ゴーストが徘徊する水没したダンジョンなんだ。」
「あん?ゴースト、しかも水没?どういうことだよ?ここは地上だろ?」
「ダンジョンの中は違世界みたいなものだからな。こういうことがたまにあるんだ。で、ここに入ると、脱出もできずに溺死するぞ。」
今回の大問題は、「海底」なことだ。
単純に水没しているため、酸素の問題が付きまとう。そして、実はもっとヤバい問題として水圧がある。まとめウィキの情報では水深100メートルくらいはあるらしく、水着や専用技能が必須。最悪、装備とHPが秒間10%超の速さですり潰されるらしい。
そんなヤバい環境なのに、出てくるモンスターは機動力に優れ、水中でも平然と活動できるゴーストだ。水着って、水属性耐性はあるが、それ以外の魔法にはあんまり強くないんだよな。
「ちなみに、このダンジョンはあと2日はここに残るそうだ。それが過ぎると新しいダンジョンになるから、安心して良いぞ。」
「そ そうか。さすがの俺も海底でゴーストと戦うなんて考えたくなかったから助かるぜ。」
「それじゃ、森の探索を再開しよう。他にもダンジョンの入り口が見つかるかもな。」
「マジか?そいつはいいな。」
ルーカスのあきらめが良くて良かった。まぁ、一人で突っ込んでも普通に村に死に戻るだけだろうけれど。
その後、昼を過ぎた辺りで引き返し、17時頃には村に戻ってきた。
成果としては、ルーカスはレベル10に上がった。モンスターも300匹ほど狩り、おくたんブーストも合わさり、二人で30000pほどの稼ぎになった。