05-15 E2D 妖精の狩場、10分間のサバイバル

改定:

本文

「ふむ。残り10分か… だが、それでいい。行くぞ、ルーカス!」

「お おぅよ。と言っても、作戦って、アレでいいんだよな?」

「そうだ。ここは死んでもかまわないから、全力で抗え。俺にはかまわなくて良いぞ。どうせ、あっちは群だし、逃げ回る時間も無いからな。」

俺たちは、共同浴場で教えてもらったダンジョンに突撃していった。

「ダンジョン 妖精の広場に入りました。」

妖精の広場:

種別: ランダムダンジョン

残り時間: 00:11:03

階層数: 1

なんと、妖精系のモンスターが大量出現するという狩場タイプのダンジョンだ。

妖精系は、第4マップからしかエンカウントしないモンスターカテゴリーな上、出現率もかなり低い。あと、索敵などをしないとアクティブにならない種もいるため、俺の場合、発見すらできないかもしれない。

しかし、そんな妖精の素材が、狩場ならお手軽に集められるのだ。しかも、狩場という特性上、出現と同時に敵対状態になるから、追いかけずとも向かってきてくれる。

ただし、あっちはレベルこそ低いが第4マップ仕様なので、使用する技、魔法は厄介だ。そして、群れで襲ってくるので、囲まれるとHPが一気に溶けるだろう。

まぁ、それも織り込んだ上で、限界まで暴れるのが狩場ダンジョンの醍醐味というもの。何しろ、死んでも何も失わないのだから。

そんなダンジョンに出現する妖精は、まとめウィキ通りなら以下の3系統だ。

プチ系:

拳より少し大きい程度の妖精。見た目は人魂、あるいは鬼火だが、実態があり物理攻撃が通る。基本的に遠くから球や槍系の魔法を浸かってくるが、たまに体当たりもしてくる。

職業系:

ゴブリンのように、職業に覚醒した妖精。人に近い容姿で、対応する武器、防具も付けているが、体は薄くぼやけていて性別などは不定。俺が一番多く戦うであろう相手。

悪戯系:

不意打ちや混乱、歌などを使う妖精。容姿は子供に近く、性別があるように見えるが、実際には無性らしい。なお、「眠り歌」持ちもいて、たぶん今回のヤバいやつ。

「うわっ!大群じゃねぇか。アレ全部が敵でいいんだよな?」

「合っているぞ。じゃ、幸運を祈るな。」

ルーカスは、さっそく横へと駆けていった。彼のビルドだと近接系に囲まれると詰むので、円を描くように走りながら、手近なプチ系、悪戯系を襲撃するように言ってある。

俺は、後方の壁の位置へ戻り、各種バフをかけていった。敏捷の都合で絶対に振り切れないので、壁を背にすることで、攻撃される範囲を絞る作戦だ。

程なくして、横から何かがぽふってなった。強撃で吹き飛ばすと悪戯系、ファニーだった。背後を取ろうとして、後ろが壁でできなかったので… といった所だろう。

ファニーは、攻撃力バフ系の歌や、混乱攻撃を仕掛けてくる。あと、素早く後ろに回り込み、不意打ちやアイテムダッシュまでしてくるぞ。俺には全部通らないけどな。

次は前からだ。たぶん槍っぽいが、弾かれて倒れそうだ。なら放置でいい。槍持ちが前にいると後ろがつかえるので、それだけ包囲が薄くなるとも言える。

ん?横からぽふってなったが… だが、武器や体が触れた感覚でない。魔法か?

そう思っていると、前から何かぶつかってきて、弾けていった。拳系来たか。体当たりなら問題無いが、投げ技は注意だな。

おっと、何か横に突っ込んできた。腕に引っかかったようだが、これはプチ系か。爆拳で吹っ飛ぶがいい!

一方のルーカスは、ひたすら走りながら、見つけたプチ系を狩っていた。

たまに、剣や槍で突っ込んでくる妖精もいて、そいつらは槌で払い飛ばして進んだ。まともに相手している暇は無いからだ。

「いや、ハデだな。なんであいつら、まだ追ってくるんだ!」

この場にはルーカスとユーの2人しかいない。そして、ユーは壁を背にして撃退中。集まれる数が限られるので、必然的にルーカスの方へ向かうことになる。

そろそろしんどくなってきたと思った所、何やら遠くの方で声が聞こえた。あっちは、ユーのいた方だ…

要警戒と言っていた「眠り歌」でないことを祈りつつ、自分は生き残るために全力を出すしかない。結局、助けに行けるか?というと、否なのだ。

一方のユーも、その声をはっきり聞いていた。というか、2メートルくらいの所で歌ってる。

この声は、動画で聞いたことがある。名は悪戯系のサディー。呼び声で周囲のモンスターを引き寄せてきたり、幻聴を与えて来たりするやつだった。

だが、そうか。呼んできてくれるのか。いいぞ、存分に呼んでくれ。幻聴の方は、たぶん効かなくなっているから放置でいいな。

剣、槍、槌、杖、拳… いや、足もか?いろいろな攻撃が飛んできた。なぜか同じ方向から来るんだけど、お前ら、こんな狭い所でローテーションしているの?

あと、たぶん、時々何か地面に落ちている音もするんだ。きっとアーチャーも2匹くらいいると思うのだが、まぁいつものことだ。ルーカスが狙われるより良いだろう。たまに、上からも矢振ってくるんだが、確か曲射だったか…

おや?ログにフェアリーメイジと出たぞ。ゴブリンの時もそうだったが、どうして魔法使いが前に出てきて杖で殴ってくるのかな?妖精のMP切れって、ちょっと想像できないんだが…

横からも何か伸びてくる。おや、サディーこっち来たか。俺が掴んだ手を掴もうとしているので、拳で爆砕しておく。確か至近距離から絶叫してくるはず。ひるんでなんかいられない。

と思ったら、左からも手… さっきから時よりと思ったら、掴まれた。その動作は足払… いや、投落!お前はボクサーか。なら飛蹴だ。顔面直撃だが悪く思う名!

ちなみに、今戦っている妖精たち、小さく声はあげるのだが、数が多すぎるし、気にしていられる暇も無い。大半はかけ声か魔法、嘲笑、あとは吹っ飛んだか妖精同士でぶつかったかで声を挙げているようだ。

「ダンジョン消滅まで残り2分です。」

ナビーの声が聞こえた気がしたが、今は目の前に集中。何かわからないが、上から大きそうなものが降ってきたからな。たぶんメイスだと思うが…

だが残り2分なら、そろそろ突撃して数を稼ぎたい所… いや、また歌が… 左右から同じものだ。

今度の歌は… スイニーか!しかも動画で聞いた眠り歌だな。さすがに寝たら詰むと思うんだが、ここから動ける状況でもない…

そう考えながら、他の妖精と戦っていたが、結局、何も起こらなかった。一応、元から精神異常に強いので、普通にレジストできた可能性もあるわけだが…

そして、やっぱり不意打ちに入ってきた所を撃退。あと、反対側から手が伸びてきたのでお前も撃退だ。確かくすぐって行動妨害や防御デバフしてきたんだったか…

「ダンジョン消滅まで残り1分です。」

俺は、その後も同じ場所で戦い続けた。

一瞬、疾駆からの突撃で食い破ろうと思ったんだが、それが無理だと悟った。何やら近くで3匹くらい歌っていたし、魔法の密度が増した気がするからだ。たぶん、ルーカスが落ちたと思われる。

そうして戦い続けていたが、途中で処理が間に合わなくて、足払いからの絶叫を直撃。なんとか振り払ったと思ったら途中で脱力。お前、歌ってなかったよな?まさか、握ってるその手か!

だが、幸いなのは、その事故が起こったのが本当に最後の最後だったことだ。

「妖精の広場が消滅します。ダンジョン出現地点へ転移されます。」

「E2 ヒッツの森に入りました。」

「ユーさん、大丈夫か?」

「ん… ん~ん… あ、大丈夫だ。最後の最後に眠りが入ってな。そうか、時間切れ前に眠るとこんな感じになるのか。」

「眠りの歌だったか?俺もたぶんやられたんだろうな。アレはどうにかならないのか?」

「あいつらの歌は近くで聞くとアウトだから、距離を取るのが最善だな。そういう意味でも、走りながら近いヤツを襲撃することが有効だったんだ。」

「あぁ、そうか。あともうちょっとぽかったから挑んだんだが、それが良くなかったか。」

「たぶん違うと思うぞ。」

ログを確認した所、どうも、ルーカスの死因は歌ではなく後ろからの矢や魔法っぽかった。感知系の技能が未熟であったため、矢や魔法のダメージが積もったのだろう。

「あぁ。だが、得難い経験だった。」

「そうだな。それに、素材もたっぷり入った。」

「どれどれ?うぉ!この量すげぇな。たった10分で100個近く貯まってるぜ!」

「ルーカスのゴーレムの素材に使える物もあると思うぞ。あと換金できそうな物もな。」

「おぉ、いいな。で、これからイスタールだよな?」

「もちろん。ここのダンジョンも終わったし、本命に戻るとしよう。」

ということで、俺たちは狩の成果を糧に、森の東端へと歩みを進めたのだった。

なお、途中でログアウトした際にまとめウィキで確認した所、最後の眠りは、予想通りスイニーのスリープタッチだった。横倒しからの復帰戦だったため、デバフなより周囲の処理だ!と放置したのがいけなかったようだ。

今回は生還できたが、一つの情報の齟齬と俺の判断ミスが致命傷を呼び込んだ形。俺もまだまだ精進せねば…

あと、至近距離のモンスターを弾き飛ばせる「陣気」の使い時だったのを忘れていた。普段の戦闘で使わないからと忘れていたら、また足を掬われることになるだろう。