05-16 E2フィールドボス、解放された中級体術

改定:

本文

妖精の狩場で暴れた翌日… 俺たちは、ヒッツの森の東端手前までやってきた。

「ん?ユーさん。この先、何かいる気配がする。」

「そうか。東端にはボスがいるという話だったから、おそらくそれだろうな。」

ルーカスの危険感知、直観も順調に育っているようだ。驚異となるモンスターに備えられるようになってきた。

そんなルーカスなのだが、今回は俺に譲りたいらしい。

「いいのか?ルーカス。俺の戦いを見ても、たぶん参考にはならないぞ。」

「ダンジョンじゃ見る暇が無かったからな。ぜひ見せてくれよ。」

「そうか。それは良いが、ここのモンスターは、あんたの方にも襲ってくるぞ。棒立ちして吹っ飛ばされないようにな。」

「おぅよ。別に何もしないわけじゃねぇさ。」

俺たちは、回復を済ませてから、奥に広がる広場へ踏み込んだ。

すると、「ドドドドドドド」という足音が聞こえて来た。なんで森の地面でドドドド言ってるんだよ?とか突っ込み所はあるが、とにかく近づいて来ているのは確かだ。

「あれが、例のボアレックスか!」

「そうだ。突進を繰り返してくるから、引かれないように戦うぞ。」

そう。E2フィールドボス ボアレックスだ。

こいつの行動パターンはシンプルだ。ひたすら突進、そのまま草むらへ消える。その後、近くの草むらから再び突進しながら出てくる。以降、HP0になるまで繰り返し。なお、突進中に曲がることは無い。

その代わり、このレベル帯のタンクでは受け止めが不可能なノックバック性能を持っており、しかも基本的に足を止めない。故に、後衛食でもきちんと避けることが必要だ。

なお、突進の時、けっこうな足音を立てるので、俺にも位置がわかる。このため、不意打ちにはならず、ぶつかれば普通に押し負けるだろう。

ドドドドドドドド!

そんなボアレックスは、登場時の勢いそのままに突っ込んできた。なので俺たちは横に避けた。

すると、ボアレックスはそのまま通り抜けて行き、俺たちが通ってきた草むらへと消えた。少しすれば、こっちに出てくるだろう。

ルーカスは、今の内に、フィールドの中央へ移動した。こいつの代表的な攻略法は、「どこから来ても対応しやすい中央で待ち構え、交わしながら攻撃を入れる」だからだ。

一方の俺は、草むらの位置まで移動して待機。あることを確かめる必要があったからだ。

そうして待っていると、俺の少し右からボアレックスが出てきて、ルーカスの方へと突っ込んで行った。

けっこう近い位置でドドドドドドという足音が聞こえたぞ。あと、ブヒーとか言っているようにも聞こえた。足音にかき消されている印象だったけど。

そして、そのままボアレックスは奥へと消えた。次はこっちに来るだろう。

案の定、ボアレックスが奥から出てきて、俺の方に突っ込んできた。ドドドドドドという足音からして、だいたい正面から突っ込んで来ているようだ。

俺は横に避けた。するとボアレックスは、俺がいた位置に近い所を通り抜け、そのまま草むらへと消えた。そうだ、消えた!としか表現できないように音が消えたのだ。

そうして待っていると、ボアレックスが俺の立っていた位置に出現、突進… が、押し込み切れずに停止してしまった。

俺は右拳を振り下ろし、左拳で突いた。その後、掴んで投げ、地面にたたき突けた。さらに接近し拳の連打、最後に爆拳を打ち込んだ。

攻撃を打ち込む度に、「ブヒッ!ブヒッ!」と声を挙げているようにも聞こえた。地面にたたき突けた時には「ブヒーッ!」と痛そうな感じの声は出していた。

うん、さすがの威力だ。1セットでHP30%も溶けている。ついでに触鑑定!

ボアレックス:

種別: モンスター・フィールドボス・・獣

レベル: 12

HP: 68%

状態: 敵対、真理の枷+1、怯み

説明: 一度走り出したら倒れるまで止まらない。唯一の強みである突進力だけで、森の強者を下して来た。なお、体を構成する筋肉はとても美味と評価されている。

その後ボアレックスは起き上がり、再び突進を再開。ただ、行動パターンが同じなので、同じことを2セット繰り返し… そして

「お、あとちょっとじゃねぇか!もう見るものも見たし、閉めるぜ!水槍だ!」

「ブヒーッ!ブヒーッ!ドッシーン!」

というルーカスの魔法でフィニッシュだった。声を挙げていた位置と、倒れた位置がずれているようなので、転がったか、スリップしたようだ。

「E2 フィールドボス ボアレックスの討伐に成功しました。 E3 のマップが解放されます。」

「いや、ユーさん、すげぇな!あのボアを正面から止めちまうなんてよ!」

「まぁ、本当に止まるかどうかはわからなかったから、無理なら大人しく中央で迎撃の予定だったんだよな。」

ボアレックス戦の動画を聴取して疑問に思っていたことがあった。

突進したボアレックスが草むらに入ると、入る時の音はする。だが、あれだけ鳴っていたドドドドドドという足音が消えてしまうのだ。

そこで、俺はあえて草むらに陣取り、観察を試みたのだ。もし、ボアレックスが草むらの出入り時に無音であれば、それは俺にとって不意打ちとなり得るからだ。

結果、さすがに待ち構えていたこともあり、体当たりになる程度のダメージは受けたが、突進による干渉を軽減することに成功。そこから攻めに転じることができたのだ。

そして、今回の俺は一味違う。昨日の狩場のおかげで体術が進化したからだ。

近接体術:

説明: 拳や足を用いた武術を扱う技能。特に、相手に隣接した状態からの戦闘を得意とする。一部の技が変化。

空手:

説明: 拳を用いた体術を拡張する技術。極めると、聖拳、裏拳などを習得できる。

俺は、体術を近接戦闘特価ルートへと進化させた。何しろ、相手に近づいてもらうことが前提の戦闘スタイルだからだ。

また、体術、受け身、疾駆など、各種技能のレベル条件を満たしたことで、「空手」が解放された。

これにより、いくつかの技の習得と、変化もあった。

体術:

下級: 強撃, 足払, 投落, 連撃, 反撃, 掴撃, 回脚, 押撃

中級: 霊掴, 振討

回脚: 飛蹴が変化し、いわゆる回し蹴りになった。隣接範囲攻撃。あと回るので隙も大きめ。

押撃: 突撃が変化し、正面の相手を体で吹き飛ばすだけになった。吹き飛ばし効果は高め。

霊掴: 有効にしている間、ゴーストに触れることが可能になる。また触れている間、対象に体術技が有効になる。

振討: 振り下ろし方のジャブだが、威力は強撃並みにある。技モーションが短かいため次の攻撃につなげやすい。

うれしいのは、準備すればゴーストが触れるし殴れるようになったことだ。何しろ、こちらから触鑑定すらできない状態だったからな。

そして、さすが中級技能だ。火力が倍以上になった。強い。

「よし、ルーカス。イスタールまであと少しだ。」

「お おぅ、そうだな。これで、ようやくイスタールか…」

俺たちは、ヒッツの森を抜け、ついに東の第3マップへ突入した。

「森の安息地 イスタールに入りました。」

東の第3マップは、入り口から街になっている。というのも、街の東側、メインフィールドは「迷いの森」という薄暗い森が広がっているからだ。さすがに、「森を超えたら森だった」ではないようだ。

「おぉ。でかいな。始まりの街もデカかったが、こっちもそうとうデカいぜ!」

「そうか。ルーカスは、こういう街は好きか?」

「ん?そうだな。特に好きも嫌いもねぇな。だいたい、比べるほどあっちこっち行っていねぇし。」

「それもそうか。とりあえず、ギルドに行くとしよう。食事と、ランクアップ手続きしないとな。」

「おぉ、そうだな。腹も減ってきたぜ。」

ということで、ナビーの先導も使いつつギルドへ直行。

ルーカスの後について入った。ここは、取っ手のある扉なようだ。

ギルド内は、今が16時代だったこともあり、やや静かだ。混雑しているより良いだろう。

「おや?隣から来た冒険者かい?」

「あぁ。ヒッツの村から来た。食事にしたいのだが、その前に、この男のランクアップ手続きを頼めるだろうか?」

「ん?そっちのか?冒険者証を見せてみな。」

「あ、これだぜ。」

「ふむ。若干レベルが足りないが、実績としては問題なしか。」

あ、そういえばレベル15からだったな。俺もすっかり忘れていた。

「まぁいいだろう。ダンジョン踏破に、狩場での経験。それにこの貢献度なら実力もあると見える。それに、そっちのあんたが指導役なんだろう?」

「ん?そうだな。一応俺の冒険者証な。」

「確かに。わかった。Dランクとして認定するから、励むように。」

「おぉ、ありがてぇ。」

その後、俺とルーカスは食堂で飯を囲んだ。

そして、いよいよお別れの儀だ。分かれないとクエストが終わらないこともそうだが、いつまでも俺の傍にいてはいられないだろう。

「ルーカス。強くなったな。ボアは俺が倒してしまったが、突進をしっかり避けていられたようだし、狩場であれだけ戦えるなら十分だ。」

「あぁ、ユーさん。世話になった。だが、そうか。お別れになるのか?」

「そうだな。俺は、この後しばらくは森の散策もするが、それが終わったら別の場所へ向かう予定だぞ。」

「俺も当分はこの辺で狩だろうか?まだまだ強くならねぇとな。」

「そうだな。まずは装備を整えて、ボアレックスを一人で狩ってみるといいぞ。肉素材がけっこう売れるみたいだ。」

「なるほどなぁ。だが、一つ頼まれちゃくれねぇか?」

「なんだ?」

「俺の望みに合うゴーレムを考えるのを手伝って欲しい。正直、どうすればいいのかわからねぇんだ。」

「あぁ、かまわないぞ。明日、一緒に行こうな。」

俺たちは、明日の約束を交わしたのだった。