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「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。」
E3のダンジョン攻略を成し遂げた翌日、俺はナビーと街中を観光することにした。
アヤとルーカスとは、夕方、錬金術店の前で合流することになっている。二人とも用事があるのだそうだ。
「ナビー。ギルドの図書室にあった、この街の施設は何だ?」
「イスタールの主要施設は、冒険者ギルド、武具屋、雑貨屋、錬金術店、図書館です。また、昨晩の時点で、料理や雑貨を販売する露店が見られました。」
「おぉ、露店は見ていたのか。売ってあるものもわかるんだな?」
「食材やアイテム類が販売されていたようです。しかし、名称、効果等はわかりません。」
「外から見た感じ… といった所か。わかった。」
視覚制限を解除したことで、外から見える範囲での情報も収集できるようになった。これなら、露店の商品カテゴリーが絞れるので、俺でも立ち寄るべきかどうかがわかるぞ。
それはそれとして、ここでやるべきことも整理しておこう。整理する前に、だいぶやっちゃった節はあるのだが…
- 街中を観光する。
- E3フィールドボスの対策、具体的には「眠り胞子」の対抗手段を探す。
- 冒険者ギルドでいくつか依頼をこなす。いつもの素材納品と仕分けを予定。
- ダンジョンの攻略。達成済み。
- 迷いの森の散策。ほぼ達成しているので、残りはフィールドボスのついでで良い。
- E3フィールドボスを倒して第4マップへ。
E3フィールドボスだが、「マッシブマッシュ」と「茸ゴースト」2匹だ。通称「格闘茸と亡霊トリオ」と呼ばれている。
マッシブマッシュは、植物系だが、手足が生えていて格闘戦を仕掛けてくる。普通に投げ技も使うので、俺でも注意が必要だ。また傘から眠り効果のある胞子を振り撒いてくることもある。
一方の茸ゴーストは、ゴーストなので物理攻撃が通らない以外はただのザコである。攻撃手段は毒ガスと木属性魔法だ。ただし、マッシブマッシュが生きている限り、定期的にボスフィールドに乱入してくる上、育緑で回復させてくる。従って、出てきたゴーストの処理が必須だ。
俺の場合、マッシブマッシュを速攻で倒すプランを考えている。というより、ゴーストが積極的に近づいて来ないようなので、追いかけて処理するのが厳しそうなのだ。ナビーの視覚強化があるから探せそうではあるけれど。
そうなると、対策するべきは眠り胞子だ。それさえ対処できれば、格闘で負ける通りは無いと考えている。
眠り対策だが、アクセサリーか、耐性付与系のポーションがあれば… と考えている。
「眠り耐性」技能を得る方法もあるにはあるが、前提条件として、「眠り」を受けたり抵抗したりする必要がある。該当するモンスターと1対1になれれば良いが、先日の妖精の狩場のように、たいていは厄介なお供がいるので難しいだろう。
一応、E3の森には夜限定のモンスターとして「シングバード」が出現し、眠り歌を使ってくる。ただ、精神干渉計なので無効化してしまうだろうし、そもそもこいつの前で寝ると、仲間を呼んでどっか行ってしまうのだ。だから、数を稼ぐのが難しい。
「ナビー。武具屋に向かう。いつもの通り先導してくれ。」
「了解しました。武具屋はこっちです。」
ということで行動開始。まずは武具屋で掘り出し物チェックと行こう。
「武具屋に到着しました。入り口は開いています。こっちです。」
入り口が開いているかどうかもわかるみたいだ。まぁ扉だもんな。
そのまま中へ入っていった。
「いらっしゃい。あぁ、先日の若い兄ちゃんを連れてきた人だね?」
「あぁ。対マッシブマッシュに向けて準備中でな。できれば眠りか防塵系の装備が欲しいんだ。」
「あぁ、マッシブマッシュか。でも一人で挑む気かね?」
「まだ決まってはいないな。ただ、場合によっては一人で挑まなければと考えている。」
「防塵のクローズヘルムならあるよ。あいつの胞子なら、吸い込まなければOKだろうから、どうかな?」
「なるほどな。クローズヘルムか。他にはどうだ?」
「それ以外だと無いかな。眠り耐性の指輪も入荷はしていないんだよ。」
防塵の鉄製クローズヘルム:
種別: 防具・兜
説明: 顔を覆うことの可能な兜。呼吸器を保護するための機構が取り付けられているため、花粉や胞子を防ぐことができる。打撃にも強いが、やや重い。
価格: 7000p
装着も試したが、まぁ問題は無い、という評価だ。打撃耐性もあるようなので、格闘茸ピンポイントと考えるなら最良だろう。
「うん。良いな。これを買おう。それと、武具の修復確認を頼めるか?」
「はいよ。森超え、がんばってね。」
というわけで買い物&武具修復を済ませた。そこまで消耗はしていなかったけれど、メンテナンスはできる時にやっておくものだ。
「助かった。あと、そうだ。こいつを加工できるか?」
「ん?これかぁ。できるけれど、武器だと投げない不とか串にしかならないよ。」
「俺が作って欲しいのはコレだな。」
「この金属でそんなもの作るのかい?」
「そうだ。できるだけ強度を増しつつ、素材の個性が残るようにして欲しい。」
最後に、不良在庫になっていた素材の活用方法を思い出した。なので、その処理をお願いしておいた。
続いて、雑貨屋に向かうことにした。目的は、森超えに必要な消耗品の確保だ。
「ナビー。雑貨屋に向かう。先導をしてくれ。」
「わかりました。雑貨屋はこっちです。」
そうやって歩いていると、何かを焼いている匂いがしてきた。
「ナビー。近くで何か焼いているのか?」
「露天にて、肉を焼いているようです。ギルド公認の店舗になります。」
「なるほど。立ち寄るから先導してくれ。」
「はい。露店はこっちです。」
こうした寄り道も良いな。そう思いながら露店に向かって行った。
「ん?いらっしゃい。」
「あぁ。何を焼いているんだ?」
「隣街から仕入れてきた牛肉や兎肉の焼き肉さ。1皿300pだよ。どうだい?」
「頂こう。それと、この近くで座れる所はあるだろうか?」
「あいよ。椅子は無いが、この辺の人は石段に腰かけて食べてるよ。」
焼き肉を手に入れた。ただ、肉とは違う匂いもする。味付けの類だろうか?
とりあえずインベントリーへ収納する。
「ナビー。座ることのできそうな石段へ先導できるか?」
「はい。石段はこっちです。」
ナビーが石段でさえ誘導できるようになったぞ。優秀だ。
先導に従って進むと、杖が石に引っかかった。しゃがみつつ触れてみると、確かに座れそうな石段だった。
俺は石段に腰を下ろし、先ほど収納した焼き肉を取り出した。皿には、肉を刺すための串が1本付いていたので、刺して食べようとした。
が、うまく刺さらなかった。刺さりはするのだが、途中で肉がこぼれる。まぁ盲人だと、都合の良い場所に刺さる保証が無いので当然ではあるが…
仕方が無いので、ソルットで強いれた割り箸を取り出して食べることにした。こちらなら問題無く掴めるぞ。
味は… 甘味はあるが、タレというより果汁っぽい甘さだ。とはいえ、肉汁との相性は良いと感じる程度には美味かった。
触鑑定で調べた満腹度の回復量は、20%らしい。これなら、常備用に8皿くらいあると良いだろう。
「お、食ったみたいだね。どうだったよ?」
「美味かった。できれば、まとめ買いしたいぞ。」
「どのくらい欲しい?」
「できれば8皿だな。どうだ?」
「あぁっと、量は問題無いが、皿の準備があってね。1皿3倍にするから、3皿でどうだい?」
「なるほどな。かまわないぞ。」
そんな感じで、露店で買い物をしながら歩いて行った。
他にも、以下のような掘り出し物が手に入った。
魔除けの葉:
種別: スポットアイテム
説明: 地面に置いて燃やすことで、モンスターの接近を妨げる煙の出る葉。効果時間6時間。
ゴーレム用メモリー FIG1:
種別: 強化パーツ
説明: ゴーレムに装着することで、「体力」のベースが1上昇する。
ゴーレム用メモリー AGI1:
種別: 強化パーツ
説明: ゴーレムに装着することで、「敏捷」のベースが1上昇する。
ゴーレム用メモリー DEX1:
種別: 強化パーツ
説明: ゴーレムに装着することで、「器用」のベースが1上昇する。
基本的にフィールドやダンジョン内で休む時には、煙玉からのテントが鉄板と言われている。では「魔除けの葉」の役割は何か?というと、分かれ道に設置することで、モンスターの侵入経路を制限できることだ。俺が想定している用途は、狩場でモンスターの通行を制限する用途だけどな。
そして、ゴーレム用のメモリーがここで手に入るとは思っていなかった。隣、第4マップから出始めるものだからだ。売られていたのは最低性能だったが、最大8つまで装着でき、ゴーレムの能力を底上げしてくれる。
今回、体力、器用、敏捷が上昇するメモリーを1個ずつ購入することができた。おくたんが少し強化できるだろう。
「雑貨屋に到着しました。入り口は閉まっています。こっちです。」
ようやく雑貨屋に着いた。杖で触れた入り口は、引き戸だった。右側に付いていた取っ手を引っ張って中へ…
「いらっしゃい。おや?盲人か?」
「あぁ。迷いの森の東へ向かうのに必要な物を買い揃えたくてな。」
「ふむ。それで、何がどのくらい必要かな?」
俺は、ポーション、煙玉、テントなど必要な物を買い揃えることとした。
「ほいさ。これが注文のやつだな。代金はもらったから確認してくれよ。」
「わかった。それと、盲人用の杖は扱っているか?」
「あぁ、その杖の替えか?ボロボロだもんなぁ。」
実は、がんばってくれていた柔木の杖だが、さすがに下手ってきている。現実の白杖は、事故が無ければ3年くらい保つのだが、こちらではそうもいかないようだ。まぁ現実のそれよりも過酷な環境で使っている影響もあるだろう。
「白木で作られた杖があるよ。戦闘杖の失敗作だが、頑丈だと評判さ。」
「ん?悪いが、少し試させてもらって良いか?」
「あぁ、もちろんだとも。」
白木の杖:
種別: 武器・杖
説明: 木製の戦闘杖。熱や冷気に強く、魔法使いが攻撃の受けに利用できるよう、頑丈に作られてもいる。ただし、魔力触媒としての効能に欠陥がある。
価格: 5900p
「なるほど。丈夫なのは良いな。長さもちょうど良い。」
「良かったよ。存分に確認したら持ってきてくんな。生産するからさ。」
ということで、本当に白杖持ちになるようだ。まぁ、この世界だと杖の色に意味は無いようだが…