06-07 冒険者ギルド、ユーに絡んだ男たちの悲劇

改定:

本文

必要な買い物も終わったが、時間はまだ昼前だ。なら、冒険者ギルドで素材売却と、依頼があれば薬草の仕分け辺りを行なおうか。

ナビー先導の元、俺は冒険者ギルドへ向かった。

「冒険者ギルドに到着しました。扉は閉まっています。入り口はこっちです。」

扉に近づき、取っ手を引いて入る。

中は、お昼前ということで、それなりに人がいるようだ。改めて周囲の音を聞いてみると、食堂もあるので相応の広さ、といった印象だ。

「ナビー。素材納品系のクエストを教えてくれ。それと、仕分けや洗浄、浄化系の依頼があれば、それも教えてくれ。」

そしてナビーに聞いた所、森のモンスター素材のいくつかが納品クエストの対象になっていた。一方、ダンジョンで得た素材は普通に卸すだけになりそうだ。まぁ、数は多いのでけっこうな稼ぎになるだろう。

あと、薬草と、ポーションの仕分け依頼が出ていた。薬草は品質の違いらしいが、ポーションについては、仕分けと言うより持ち運びに近そうな内容だった。まぁ種類が多いし瓶だから、そういう仕事が必要になるんだろう。

「ナビー。依頼カウンターへ先導してくれ。クエスト対象のアイテムを卸す。」

「了解しました。現在、カウンターは利用可能です。こっちです。」

「え えぇと?いらっしゃいませ?」

「あぁ、納品依頼が出ている素材をいくつか卸したいんだが、ここで良いだろうか?」

「あぁ、えっと、それでしたら、素材買取りの方へお願いします。」

「そうか。ちなみに依頼対象じゃない普通の素材もあるんだが、それも一緒でいいのか?」

「あ、はい。たぶん大丈夫だと思います。」

女性のようだが、自信が無さそうな印象だ。盲人が相手というのもあるかもしれないが、新人さんかな?

ひとまず、確認したいことはできたので、素材買取りへ向かった。

「あ、こっちこっち。素材買取りでいいかな?」

「あぁ、ここに来た時にあったな。素材の買取りをお願いしたい。それと、納品依頼が出ているものもいくつか納品したい。ここで受け付けていると聞いたぞ。」

「おっと、そんなこと言っちゃったのかぁ。了解。こっちで処理しておくから、まず納品対象の物から出してくれるかな?」

どうやら、あの新人さん、処理を間違えたらしい。まぁ、俺としては、処理してくれるならどっちでもいいから、そのまま進めるとしよう。

言われた通り、まずは納品依頼対象の素材を、個数を揃えて出した。主には茸、羽、毒針、スライムゼリー、木材、薬草類だ。

「確認したよ。対象になっているから、後で処理しておくね。それじゃ、次はその他の素材を頼むよ。」

「あぁ。先日まで出現していたア人と不死の遺跡の素材だ。量が多いが、大丈夫か?」

「なるほど。それだと、代金の支払いが明日になっちゃうかもね。いいかい?」

「それなら問題無いぞ。」

「わかった。ア人の素材は武具系かな?まずはそっちから頼むよ。分けないと、たまに素材が呪われるからね。」

その後、ダンジョン素材もだいたい卸すことができた。この辺は、あっても使わない物ばかりなので、一通り売り払うことにした。

なお、妖精の狩場で得た素材については、残してある物が多かったりする。これらは錬金の素材として使えるものが多いからだ。

では、薬草の仕分けでも受けようか… そう考えた時だった。

「おい、そこの男を捕まえろ!ヤツは偽装持ちだぞ!」

何やら、偽装系の能力を使っている人を摘発しようとしているようだ。何か事件でもあったのだろうか?

「俺たちの獲物を奪ったやつは貴様だな!って、あんただよあんた!」

こんな所で騒ぎとは… と思っていたら、後ろから声をかけられた。あと、腕を掴まれている。力は強くなさそうだけれど。

とりあえず、俺の腕を掴んでいるようなので、聞いてみるとしよう。

「えっと?あんたは誰だ?」

「あん、とぼけるんじゃねぇぞ!ア人と不死の遺跡で、俺らをやってくれたじゃねぇか?」

「いや、あんたのような声を出すヤツとは会ってないな。それとも、ゴブリンかゾンビの真似でもしていたのか?」

「こいつ!言わせておけば!俺たちの獲物を掻っ攫いやがって!」

「獲物?モンスターの取り合いをした覚えは無いな。だいたい、狩りたいヤツがいたなら、隠れてないで出てくれば良かったのに。で、何を探してたんだ?」

「全部だよ全部!この盗賊め!」

どうやら、盗賊、または、その系統のモンスターに死に戻りでもさせられたのだろう。そして、俺がその姿に似ていたのかもしれない。特別、凝ったアバターにしているわけではないのだ、人違いだってあるだろう。

なお、俺、ルーカス、アヤは確かにダンジョンで狩をしていた。しかし、こんな声をあげる男には遭遇していないし、PKや住民を殺したというログも無かった。このログは、パーティメンバーが殺した場合にも有効なので、アヤやルーカスがやらかした、ということも無いと思われる。

「そうか。それは気の毒にな。」

「何、俺は関係ないみたいな顔してるんだ?」

「関係ないからだな。少なくとも、俺はあんたと戦ってない。人を倒せば記録が付くはずだ。だよな?買取りの兄ちゃん?」

「あぁ、そうだね。さっき彼の冒険者証を確認したけれど、倒しているのはモンスターだけだったよ。1ヶ月近く前に決闘で冒険者を一人倒しているけれど、それは正当なものと記録されているし、違う街だね。」

「だそうだ。もうダンジョンは消えてしまっただろうから、盗賊探しするか、あきらめた方が良いと思うぞ。」

用も済んだ。だから、依頼を進めよう。

「おい、待て!だがな、貴様は鑑定偽装を持っているだろう!冒険者証だって偽装できるんだぜ?信じられるわけないだろ?」

「偽装は相応の鑑定レベルと看破持ちには効かないぞ。だから、ギルドに来る偽装能力持ちは、よっぽどの実力者か、ただのアホだな。」

「なら、貴様がそのアホだぜ。この偽装野郎!」

「偽装か。ところで、なぜ俺が偽装していることになっているんだ?」

「そりゃ、俺たちの鑑定が効かないからだぜ!」

どうやら、看破か識別を持っていて、無許可鑑定を試みたために真理が抵抗。それを鑑定妨害の類だと判断したようだ。その場合、こいつらは敵対ということになるか…

「堂々と言うのな。それで、結局の所、俺に何の用だ?俺は依頼をこなしたいから、用が無いなら行くぞ。」

「こ こいつ。貴様が売却した素材は俺らのものだ。だから、慰謝料も込みで全額置いてけや!」

「断る。それに、力づくで来るのは止めたがいいぞ。あんたらの言い分が正しいなら、俺に一度倒されているんだろう?」

「この野郎!」

そして、俺に何かがぽふってなった。位置が判明したので掴み、触鑑定しつつ振討を打ち込んだ。

男:

種別: ヒューマン・犯罪者

レベル: 15

HP: 100%

状態: 敵対、真理の枷+7

説明: 冒険者の男性

真理: かつては戦士として高みを目指していたが、金銭欲に巻けて盗賊に転職した。直近では、住民を恫喝し、金銭などを巻き上げて生活している犯罪者。

「グェ!」

掴んだ時の結果がこれだったが、振討だけでHPが6割溶けている。いや、6割で済んだのだから、彼は相応に強いのだろう。

「こ こいつ、よくもやりやがったな!」

続いて、右からも何かがぽふってなった。あ、左もだ。

とりあえず右のやつを足払いで転ばせる。左のやつも、なぜかぼさっとしていたので捕まえて振討!最後に、転んでいた右のやつに、強撃をたたき込んでおいた。

なお、触れたついでに3人とも鑑定したが、職業が違うだけでその他は同じだった。残りHPも危険域だ。

「なぁ、できれば、看破を持っている人を呼んできてくれないか?こいつら、鑑定結果に犯罪者と出ているんだ。」

「え、あ、それなら僕が見ましょう。看破と識別がありますので。」

やはり、素材買取りの兄ちゃんはその辺りを備えているようだ。素材を正しく見極めるのに必要だからだろう。

結局、その後にやってきた応援によって、3人は連行されていった。

「ところで、申し訳ないのですが、あなたについて、識別を含め鑑定させてもらって良いですか?」

「犯罪に関わっているかどうかの確認か?それならかまわないぞ。」

「はい。では失礼… ふむ。犯罪者に該当する情報はありませんね。」

「これで誤解は解けただろうか?」

「はい。ユー様が正論であり、且つ、彼らが先に攻撃を仕掛けてきたこと、あなたに敵対していたことも確認できました。本来なら、こんな場所で武器を使うことは禁止されているのですが、ユー様の行動は正当な防衛でしたので問題ありません。」

どうやら、ギルドとしても丸く収めてくれるようだ。この審判は、システム的に「犯罪者でない」ということを確定させるために大事なことだ。例えば、「犯罪を疑われる者」などの称号が付いた状態で街を出歩くと、好感度が下がっていくのだ。

「ギルドとして認めてくれたこと感謝する。」

「いえ、冒険者を守るために当然のことをしただけですよ。それにしても、彼らは不憫ですね。」

「不憫?そうだな。本当にダンジョンで死に戻ったのだとしたらだな。」

「アハハ、そうかもしれないですが、そもそもあなたに挑んだことがですよ。」

「俺にか?何だ?技能の格差か?」

「真理の枷ですよ。実の所、彼らが犯罪者であり、ユーさんに言いがかりをつけていることはずっと見えていたんですよ。」

そういえば、認識できる距離まで近づいていれば、普通に鑑定や看破ができるんだったな。つまり、俺と語り合っている間に、彼らは丸裸にされていたのか… それはそうと、真理がどうしたって?

「あぁ、ユーさんは盲人でしたね。真理の枷が付くと、見えるようでして。」

「あれって、外から見えちゃうものなのか?」

「毒などと同じ状態異常に反映されるようですね。一般的な鑑定技能を用いれば、他者にも見ることができるようです。」

「そうか。見えたということは、その効果もわかるのか?」

「もちろんですよ。もともと能力の差もかなりあったのに、目に見えて下がっていくんですよ。正直、あなたのパンチ一発で彼らが死ぬのではないかと、ヒヤヒヤしていたくらいです。」

どうやら、真理がやらかしたようだ。俺につっかかったせいで「真理の枷」が貯まってしまい、他人からも嘘つきであることを見抜かれてしまったようだ。まぁ見抜くまでも無かっただろうけれど。

「ふむ。ちなみに、さっきの喧嘩で殺めていたらどうなる?」

「彼らが犯罪者、且つ、あなたへの言いがかりであった以上、結論は変わりませんよ。ただ、死に戻る場所へ迎えを派遣する必要があるので、その過程で逃げられると手間がかかるな、と。」

「そうか。状況によっては、本気で戦う必要もあるかと思ったので、その判断が聞けて良かった。」

「ハハハ。そうならないことを祈りますよ。まぁ今回のようなケースだと、祈ってもどうにもならないでしょうけどね。」

「そうだろうな。ランクBくらいまで上がれば… とも思ったが、そういう問題ではないか。」

「えぇ。残念ながら、Sランク冒険者に喧嘩をふっかける愚か者がいるくらいですから。ちなみにその時は、犯罪者が爆散するか、周りの冒険者に取り押さえられますよ。」

「そうか。冒険者仲間を増やせるよう心掛けるとしよう。良いヒントを感謝する。」

さて。一悶着あったわけだが、まだ時間もあるか。薬草の仕分けでもしよう。