06-08 第3回ゴーレム相談

改定:

本文

「ユーさん、み~つけた。って、草!何、草いんだけど!」

夕方になり、アヤがログインしてきたのだが、第一声がこれだった。

「臭い」のではない。「草い」のだ。

「あぁ、これか?空き時間で薬草の仕分けをしていたら、雪崩事故があってな。」

「あぁ、なるほど。とにかく草って感じになっているよ。洗いなさいよ!」

「水浴びはしてきたんだけどな。実の所、俺にも原因がわからないんだ。」

「わからない?ん、ちょっと待って。小さいのがあちこち付いてるよ。たぶんそれじゃないかな?」

どうやら、まだまだ草が付いていたようだ。雪崩事故の時、武道着の隙間に絡まったのだろう。

「よし。これでだいぶ取れたね。でもまだまだ草いから、店で洗ってもらったがいいよ。」

「まさか、毒消しポーションで落ちるとは思わなかったな。」

「うん。住民に聞いたんだ。たぶん、アルコールみたいな成分が入っているんじゃないかと思うよ。」

「なるほど。その考えには至らなかったな。」

「それにしても、よくそんなになるまで仕分けできるよね。貢献度が美味しいのはわかるけれど。」

「お、ユーさん、ここにいたか。って、草の臭いすげぇな。」

「草いよね。薬草の仕分け依頼をずっとこなしていたらしいよ。」

「そんな依頼もあるのかよ?」

「薬師や調合師からの依頼だそうだ。冒険者は薬草や、そこから作られるポーションの世話になっているからな。」

「あぁ、そういう繋がりなら納得だぜ。だが、仕分けって何するんだ?」

ルーカスもやってきたが、薬草の仕分けに興味があるようだ。普段から似たようなことはしているので、楽に稼げるとでも思っているのだろうか?

「大量に納品された、種類、品質のばらばらな薬草を整理する作業だな。薬草を見分ける能力が無いと受けられないぞ。」

「なるほどな。だが、それなら俺にもできそうだぜ。見たことない薬草はわからねぇが、名前を知らなくても分けることはできるぜ。」

「そう言われるとそうだよね。同系統、同品質の薬草に分ける作業だから、名前わからなくてもいけちゃうんだ。」

さて。こうして集まったのには理由がある。ダンジョンで手に入れたゴーレムコア、第3号についてだ。

「というわけでユーさん。私、ゴーレムをどう作ったらいいかな?」

「アヤさん自身は、ゴーレムにやらせたいことは無いのか?」

「やらせたいこと?」

「自分のゴーレムだからな。やりたいことができなければ不便だろう?」

「確かにな。まぁ俺も決め切れなかったからユーさんに決めてもらったけどな。」

ゴーレムには可能性が多い。実質、キャラクリをしているようなものだから当然だろう。

「ユーさん、何か良い案は無いのか?」

「そうだな。3つほど案はあるぞ。」

「あるのかよ!」

「それは、どんな感じなの?」

1つめは、挑発と防御or回避でモンスターを引き付けるタンクだ。役割は、アヤをモンスターから守ると共に、アヤが攻撃できるように、場を整えることだ。

印術師の利点は、印と魔力さえあれば、魔法を多段発動できることだ。この利点を生かすためには、必要な数の印をあちこちに刻んで準備、そして一斉発動するまでの間、モンスターを引き付けてくれる存在が必要と言える。

この型は、一撃の威力を重視したソロプレイヤーに好まれている。そして、印術師関係のプレイヤーが作る大量殲滅系動画では、こうした役割の仲間が陰で活躍しているのだ。

2つめは、やや近接戦闘寄りではあるが、全体的には攻撃と防御をバランスよく配分する持久型だ。役割は、アヤの支援を受けつつ連携してモンスターを対処することだ。

この場合の印術師の立ち回りは支援や遊撃になる。本来、ゴーレムをバランス型にすると終盤の能力不足が厳しくなるのだが、そこを印術による手厚い支援でカバーする、というコンセプトだ。

この型の特徴は、ゴーレム自身も戦闘してくれるので、展開する印の数を節約できることにある。この性質から、ダンジョンや高難易度マップをソロで踏破する時のお薦めビルドとも言われている。

3つめだが、ゴーレム自身を印術の触媒とする型だ。役割は、文字通りの意味で「アヤの手」となることだ。

「召喚主の能力を劣化複製した上で分身を展開する」という仕組みを利用することで、大規模印術を高速転回したり、空中や遠隔地に印を直接描いたりするなど、ロマンに溢れることが可能だ。なお、この場合のゴーレムは自走不能になるため、アヤ自身が制御する形になる。

なお、俺がこの提案に行きついた理由は、描画の「縮画」や、彫刻の「空刻」、「水刻」などが原因だ。彼女は、空中や水上にも印や魔法陣が描けるし、本来よりも小さく描くことも可能だそうだ。つまり、ゴーレムを活用することで、遠く離れた空の上だろうと、望む物を描けると考えたのである。

「な なんじゃそりゃ?タンクやバランス型はわかるが、最後のって、ゴーレムって言わないだろ?」

「そうだ。ゴーレムと名が付いているが、実態はアヤさんの指示通りに動くインテリジェンスソード、あるいは、リビングソードだな。」

「どっちも俺は見たこと無いが、話は聞いているぜ。剣に魂が宿っていて、空を飛んで突っ込んでくるヤツでいいんだよな?」

「そうだ。ただしアヤさんが扱う場合は、魔法や印術が剣から放たれると思うぞ。」

「それは凄そうだが、リビングソードを使役すれば同じことができるんじゃないのか?」

「半分は正しいぞ。だが、普通に使役しても、モンスターには意思があるから、手足のようにという感じじゃないんだ。あと大事なのは、劣化とはいえ彼女の能力を再現できることだな。」

「あともう一つだが、このゴーレムって、どうやって操作するんだ?それに、難しいんじゃないのか?」

「確かに操作は難しいな。アヤさんが念じる必要があるから、慣れるまではゴーレムに集中していて、他が厳かになることはあるだろう。ただ、何とかなると思うぞ。じゃなきゃ提案しないからな。」

そんな俺とルーカスの話を、アヤは黙って聞いていた。

きっと、無難に1か2が欲しいと言う良心と、遊び心に抗えない3で割れているに違いない。

「だが、3の型って、アヤさんが危険に晒されるんじゃないか?」

「あぁ。守りについては今までと変わらないことになるな。もちろん、ゴーレムで描画しながら周囲にも気を配れるようになることが前提だから、使いこなすまでは大変だと思うぞ。」

「だが、選択に挙がってるんだろう?それだけヤバいのか?」

「俺は画家じゃないからわからないが、アヤさんならキセキを起こすかもしれない、と思っているぞ。まぁ失敗したら、腕の良い錬金術師に作り直してもらえば良いだろう。」

「作り直しってできるのか?」

「できるぞ。ただ、素材や金がかかるし、じっくり考えて作ったゴーレムを戻す人はそんなにいないけどな。ルーカスも、スパイクに満足しているだろう?」

「あぁ、確かに。スパイクを戻したいとは思わない。」

ここで、ようやくアヤの考えがまとまったようだ。

「うん。その、3つめのゴーレムにしようと思う。」

「その心は?」

「ユーさんは、私に似合うと思っているんでしょう?」

「そうだな。似合うかどうかは正直わからんが、鑑定した能力や、アヤさんと一緒にいて感じた辺りで、これは試してみても良いと思っているぞ。」

「そっか。」

「ただ、ゴーレムコアは他のダンジョンでも手に入る。だから、直近でもっと困っていることがあるなら、それを解決するゴーレムを持つべきだな。」

「いいよ。私も、面白そうだと思ったんだ。」

「そうか。納得できる理由があるなら、それがベストだと思うぞ。」

俺は、用意しておいたレシピをアヤに説明した。紙に書けないのだ、我慢して欲しい。

その日は解散とし、翌朝、ゴーレムの作成と試運転を行なうことにした。なお、俺が渡したレシピは以下の通りだ。

形状: 霊体

職業: 複製師

ベース:

体力: 1

魔力: 20

筋力: 1

防御: 1

精神: 16

知性: 1

敏捷: 20

器用: 20

技能:

魔道人形: 魔道生物としての特性の一つ。呼吸、食事、飲用、睡眠不可。身体系、精神系状態異常無効。MPを動力源として使用し、MPが切れると行動不能。

霊体: 霊体生物の特性の一つ。一定の高さまでの飛行が可能になる。物理攻撃無効。体力低下(極大)、光属性耐性低下(中)

魔力極回復: MPの回復速度上昇(極大)、体力低下(極大)

憑依: 霊体生物の特徴。指定した素材に取り付き、操ることができる。取り付いていた素材が有している能力、特性の影響を受ける。

主従: 行動特性の一つ。離れていてもなお、主の意思に忠実に従おうとする。自己判断能力低下(極大)。

複製: 主が所有する適性技能、及び技術技能を劣化複製し、使用できるようになる。魔力を注ぐことで、その劣化度合いを軽減。

分身: 魔力を用いて自身の能力を複製した分身を生み出し操る。分身にいくつかの技能が継承される。闇属性耐性低下(中)。

感覚共有(触覚): 憑依体が受けた触覚刺激の一部を持ち主に還元する。

「おはようございます、ユー様。」

「おはよう、ナビー。先日、武具屋に預けた物を取りに行くから、先導してくれ。」

俺は、ログイン直後、武具屋へ向かい、依頼していたアイテムを受け取った。30000pも要したが、期待通りに仕上げてくれていた。

あと、「草い」と言われていた武道着も、昨晩の内に預けていたので、その引き取りも兼ねている。

「ナビー。錬金術店に向かうから、引き続き先導を頼むな。」

「了解しました。錬金術店はこっちです。」

そして本命の錬金術店に向かった。ここで待ち合わせをしていたからだ。

「おはよう、ユーさん。」

「ルーカスか。早いな。」

「農家の朝は早いって言うだろ?」

「すまないが、俺は農家じゃないし、ヒッツの文化にも詳しくないんだ。それで、アヤさんは?」

「あぁ、遠くからこっちに走ってきている人がいるぜ。たぶんアレだ。」

そんな話から30秒もしない内にアヤも到着した。

「ふ 二人ともおはよう。なんでそんなに早いのかな?」

「農家の朝は早いのだそうだ。」

「それ、ユーさんもなの?」

「俺は武器屋に用事があったから、早めにインしたな。」

「あぁ、耐久度回復か?だが、ユーさんいつも夕方に行ってなかったか?」

「いや、武道着の洗浄だな。どうだ?」

一応、武道着を確認してもらった。

「あぁ、昨日は草かったね。うん。もう問題ないと思うよ。」

「そうだな。まぁ、この後森に入るから、また草くなるかもだけどな。」

「ハハハ。あるかもな。だが、あっちは草より葉っぱじゃないか?」

そんな話をしつつ、錬金術店に突入した。