本文
「ナビー。図書館へ向かうから先導してくれ。」
「了解しました。図書館はこっちです。」
ルーカスと別れた後、俺とアヤは図書館へ向かっていた。当然、ナビーの表示共有を許可しているので、ナビーはアヤにも見えている。
「相変わらずそんな感じで歩いているんだね。そういえば、ナビーの視覚を開放して、何か変わったの?」
「いろいろ変わったぞ。露店巡りがまともにできるようになったし、道端の石段や花畑のような、フレイバースポットも活用できるようになった。」
「ん?露店巡りができない?そんなの歩いていればできるじゃん。」
まぁ見えていれば無意識にできることだから仕方ない。では、気づいてもらうとしよう。
「アヤさんは、露天を見つけたら、まず何をする?」
「売ってある物を確認するよ。」
「確認するためにどうする?露天の人に聞くのか?それとも鑑定するのか?」
「買う予定のモノならそうするかもしれないけれど、露天じゃそんなことほとんどしないよ。お店の人に興味あると誤解されたら面倒じゃん。」
「なら、どうやって確認するんだ?」
「歩きながら、視線に入った所だけ見るんだよ。お店にも捕まらないで済むし、露天の商品はだいたい台の上に置いてあるから、ジャンルくらいはそれでわかるでしょ?」
予想通りの返答だったが、アヤは、ちゃんと説明してくれる人なようだ。話がスムーズで助かる。
「ナビーの視覚を開放しないと、その視線で確認するとやらができないんだ。もちろん、俺も視線とやらは持ってないぞ。だから、その選択肢は無かったな。」
「そうなの?他の方法だと… 匂いとか、声かな?」
「ならこいつだな。匂いわかるか?」
俺は、先日見つけた露天で手に入れた果物「ジューシーベリー」を取り出した。中に甘い果汁がたっぷり詰まっているのだが、外側に染み出さない構造をしているのだ。
「あ、これ甘くておいしいヤツだよね。私も食べたよ。」
「で、匂いでわかるか?俺はわからんぞ。」
「え?えと… うん、私も無理!」
「こんな具合に、匂いも露天の判別には約二立たないこともあるんだ。おまけに、ポーションなどは瓶入りだから無臭だぞ。」
「そっか。あとは声だけど… お店の人が宣伝していないんじゃダメだよね?」
ようやく、アヤは俺が詰んでいるという状況に気づいたようだ。
「だな。ナビーのおかげで、その辺りが自由になったんだ。」
「そっか。良かったじゃん。」
「図書館に到着しました。扉は閉まっています。受付はこっちです。」
そんな談話をしていたら、図書館に着いたようだ。ナビーの先導に従い、俺たちは扉を開け、中へと入って行った。
図書館の中は、始まりの街より一回り小さい印象だった。また、住民たちが談話しているようで、うるさくはないが無音でもないようだ。
「いらっしゃいませ。こちらは初めてですか?」
「あぁ。いくつか探している本があってな。彼女に読み聞かせを頼む形で、二人で読みたいんだが、可能か?」
「そうでしたか。読み聞かせは、他の方の迷惑にならないようにしてもらえれば大丈夫ですよ。もし必要でしたら、奥にある個室を使って下さいね。それと、飲食はかまいませんが、本を汚さないよう注意して下さいね。」
「わかった。消音魔道具は無いみたいだが、合っているだろうか?」
「静かに本を読みたい方向けの部屋には消音魔道具がありますよ。でも、この管内であれば、どこで読んでもらってもかまいません。」
どうやら、規制は緩いようだ。問題の消音魔道具もなくてよかった。
「ねぇ、消音魔道具って何?」
「簡単に言えば、自分の声も含めて、あらゆる音が小さくなる部屋だな。あとで体験してみると良いぞ。」
「へぇ~、そういうのもあるんだ。それで、読みたい本って何?」
「そうだな。森とか自然をテーマにした童話、始まりの街ができるまでの歴史、北地域の地理、最近の娯楽、それと冒険者向けのサバイバルの手引き 辺りだな。」
「いろいろあるんだね。でも、その辺って、ウィキにあるんじゃないの?」
「現地の本にどう書いてあるかに興味がある… ということにしてくれ。メタな話をすると、世界知識の条件になっているから本を読む必要があるんだ。」
「あぁ、そういうことだったんだ。それで、いろいろなジャンルがあるんだね。」
ということで、二人で本探しを始めた。幸い、始まりの街と同様、ジャンル毎に棚で分かれていた。
最初に読んだのは「森に住む魔法使いが、村人の困りごとを解決する」という趣旨の本だった。
森で道に迷った子供の前に現れた魔法使いが、魔法の小鳥で道案内。子供は無事に帰り着いた。
だが、その事実を知った強欲な大人が、魔法使いを捕獲するため森へ侵入。すると、普段は迷いやすいだけのただの盛だったのが、危険なモンスターが沸きだすようになり、大人たちは撃退されてしまった。
しかし、その撃退された大人の子供たちが、大人の支えを失ったことで苦しいことに。魔法使いに許してもらえるかを相談しに再び森へ入った。しかし、襲ってくるモンスター。
モンスターに食べられる直前で、件の魔法使いが出てきてこれを収めた。モンスターが出て来たのは強欲な人類に引き寄せられたせいであり、もう、元に戻すことはできない。魔法使いも森に住めなくなったので、子供のお世話を買って出て、一緒に村で過ごした…
なお、巻末に、この本が作られた大人向けの説明があった。それによると、「子供を大切に」、「勇気と無謀、正義と欲を見間違えるな」などの意味が込められた話であるそうだ。実際に、そんなことがあったのかについては触れられていなかった。
次に読んだ本は、「始まりの街」に関する歴史だった。
この大陸にはかつて、東西南北に4つの国があった。その原住民が開拓を推し進めていった結果、生まれたのが「貿易都市トネブダ」であり、始まりの街の元祖だそうだ。
なぜ、4つの国があったのか?それは、各国の中枢都市に存在していたダンジョンから集められる資源があったからだ。ダンジョンは、このゲーム基準で異世界に当たるため、さまざまな恩恵があったという。
しかし、ある時、ダンジョンからモンスターが沸き出したり、ダンジョンが急拡大して地表を飲み込んだりしたことで国が崩壊。多くの難民がトネブダに集結し、復興と解決に動いた。
結果、ダンジョンに関わる案件は解決されたが、トネブダを含めた各地の拠点が相応に力を身に着けたことで、合衆国のような体裁になった。そして、トネブダは、「各国の人々が出会い、集結し、歴史を動かした始まりの場所」と呼ばれ、「始まりの街」という通称が付けられるに至ったそうだ。故に、今でも「トネブダ」という呼称は有効であるらしい。
3つめの本は、北地域、つまり北マップの地名や特徴などが記された本だった。そして4つめの本は、観光名所や娯楽所に関する本だった。
なお、この世界のマップを大雑把に示すと、南は海や島、北は山や雪原、西は洞窟や砂漠、そして東は森や草原に関するマップが多いようだ。もちろん、細かい所では例外があったりするし、ダンジョンにおいてはランダムなので考えるだけ無駄である。
最後に読んだのは、「冒険者が身に着けるサバイバルの基本」だった。まとめウィキにもある「旅で持つべきアイテム10選」の類や、倒したモンスター素材の扱い方、ダンジョン探索の心得などが書かれていた。
基本的に、俺は動画やまとめウィキで情報を得ていたので、知っていた情報を再確認しただけだった。ただ、絵付きで紹介されていたため、読んでいたアヤは楽しそうだった。まぁ、俺は絵じゃなくて文字で理解しているからな。
「技能 世界知識, 看破, 識別 を獲得しました。」
「技能 看破 が 真理 に統合されました。」
よし。今回の本命「識別」が生えたぞ。
「識別」の習得条件は、「200種類のアイテムを鑑定する」と「世界知識の習得」である。故に、世界知識習得がネックになっていたのだ。
また、「看破」も生えて「真理」に統合されたらしい。
「看破」の習得条件は、「鑑定約2000アイテム」、「自身が看破による鑑定を受ける」、「世界知識の所持」、「幻影系の攻撃を使われる、且つ、使用者を自力で倒す を50回」である。こっちも世界知識がネックだった。
なお鑑定の回数がヤバいことになっているが、「種類ではなくアイテム」なので、薬草の仕分けや本棚の本でもOKだ。それと、幻影系は、野道や妖精の狩場で満たしているはずだ。無効化したとしても、使われた事実は変わらないからな。
世界知識:
説明: この世界に関する知識への理解を支援する技能。
識別: 鑑定時に得られる情報の質が向上する。採集やモンスタードロップの有効範囲が拡大する。
看破:
説明: 鑑定に対する虚偽を見破る技術。鑑定時、対象が持つ鑑定に対する偽装、妨害等の技能を無効化する。
識別: 自身の 鑑定 のレベル以下の「鑑定無効」、「鑑定妨害」、または、「鑑定偽装」を無効化できる。
識別:
説明: 鑑定から読み取る力を拡張する技術。鑑定時、使用者が望めばより詳細な情報の閲覧が可能になる。
真理2:
説明: 真実を看破し、虚偽を滅する資格を得た。対象の偽装能力に対し抵抗する。自身に対して偽りを与える干渉を無効化する。知性、精神上昇(小)
デメリット: 自身も偽装に関わる能力を発揮できなくなる。
識別: 虚偽、偽装、不意打ち、幻影、鑑定時干渉、及び、精神に干渉する効果を無効化する。真理の効果発揮時、対象者に「真理の枷」が+1付与される。
真理の枷:
種別: その他状態異常
効果: 対象者に、スタック値に応じた能力値低下を与える。付与から一定の時間はスタック値が自然回復しない。
識別: 対象者の攻撃、防御能力を、 (39/40) ^ スタック値 に低下させる。スタック値の上限は 真理のレベル×5。この状態が付与されてから1分間はスタック値が自然回復しない。
うん。識別を得たことで詳細がわかるようになった。「真理の枷」の効果も正確に把握できて満足だ。
ただ、「看破」が「真理」に統合された際に、無効化の範囲が「鑑定時干渉」に広げられている気がする。例えば、「知識の呪い」という鑑定行為に対して働く反撃技能があるのだが、これを通り抜けてしまうのだろうか?
とりあえず、横にいたアヤに無許可鑑定を試みたが、普通にアヤに通知がされただけで、その他の変化は無かった。これ以上は試しようが無いか…
その後は、ナビーが本を読めることを確認したり、アヤの希望で消音魔道具を体験したりして、夕方、二人で図書館を出たのだった。
なお、ナビーはちゃんと本を読むことができていた。そしてアヤは、「声が出ないなんて経験初めてだよ!」と興奮しながら話をしていた。