07-03 アステリアの出張錬金術店

改定:

本文

武具屋のお隣、錬金術店に入った。なお、手に触れた扉はガラス扉の感触だった。珍しいな。

「いらっしゃい。出張錬金術店だよ。」

入り口の扉を開けて入ると、男の声で、そんな言葉が返ってきた。

「えぇと、あなたはプレイヤー?」

「おや?君もプレイヤーかな?」

「あ、うん。えぇと…」

「僕はアステリア。総合生産職だけど、今は錬金のレベリングに力を入れているんだ。」

どうやらプレイヤーメイドの店らしい。

アヤがすぐに気づいたのは、彼がプレイヤーアイコンの表示を許可しているためなようだ。

「そして、隣の君は… えぇと、盲人?NPCじゃなくてプレイヤーの?」

「そうだな。珍しいか?」

「そうだね。僕は会ったこと無いよ。」

「そうか。ところで、出張錬金術店と言ったが、露天じゃないんだな。」

「ここは携帯店舗キットだよ。ナビーに店判定してもらうために面倒な手続きが必要だったし、設備の制限もあるから、購入することにしたんだ。」

「携帯店舗キット」とは、街中に一時的に店舗を出現させる魔道具だ。アステリアさんが言う通り、ナビーに「店」判定をしてもらうのに有効な他、露天よりも高度な設備が設置できる特徴がある。

ただし、最低グレードでも単価は500万p。もちろん、配置する設備は別売りなので、彼が総合生産職であることも考えると、2000万ほどのお金はつぎ込んでいるだろう。

扉がガラスっぽい素材だったのも、この魔道具の影響のようだ。木製の扉でも良いと思うのだが、思い切っている。

「それで、用件は何かな?一応、今は錬金術やっているから、そっち方面の用事だとうれしいな。」

「俺の目的は塔超えだから、そこで使う消耗品の補充だな。ちなみに錬金のレベルはどれくらいだ?」

「なるほどね。レベルは、中級錬金術1だよ。ちなみに称号は中級錬金術師をセットしているから、リクエストには答えられると思う。」

「わかった。それと、ここにはいつまで店は出る予定なんだ?」

「そうだね。レベルと素材しだいだけど、あと1週間はいるんじゃないかな。」

なるほど。それなら、この街でレベリングする理由としても納得だ。また、しばらくいることについても安心できる材料だ。明日にはいなくなるのなら、必要アイテムの早期買い占めが必要になるからな。

「わかった。なら、今日はポーション類の補充だけで良さそうだな。あと、E2で見つけた妖精の狩場の素材があるぞ。」

「E2?第2マップ仕様の妖精なんていたっけ?」

「いないから第4の妖精種の素材だな。プチ系、職業系が多いぞ。あと、悪戯系もある。」

「おぉ、それはいいね。特に職業系妖精は塔には出ないから、買い取りたいよ。もちろん、他の素材も欲しい。」

妖精系の素材は錬金での使い出が多いのだが、数を集めるのが難しい。出現する地域でも、まとまった数が出てくるケースが少ないからだ。逆に狩場だと多すぎて圧死する。俺も、あと3分あったら死んでいただろう。

「わかった。それと、落下耐性ポーションと、自然回復付きの避雷針は作れるか?」

「避雷針… あぁ、魔引板のことか。両方ともレシピは持っているから、作れると思うよ。あ、でも、自然回復を付与するのは素材が足りないかも。」

落下耐性ポーションは、塔攻略のために必須のアイテムだ。なぜなら、この塔にはコンシューマーゲームで見られる「上層の特定の位置から飛び降りないと次の層に行けない」ギミックと、「一定以上の高さから落下するとダメージを受ける、高過ぎると即死する」ギミックが混在しているからだ。

それと「魔因板」は、特定の魔法を誘引して無効化できるスポットアイテムだ。なお、E4フィールドボスの雷対策として有名なため、「避雷針」という別称が付いている。

俺は、妖精素材を卸し、塔で必要なアイテムを補充することにした。

その間に、横でアイテムを眺めていたアヤからの相談にも答えていった。

「浄水筒って、どんな水でも入れると飲み水になるんだよね?」

「なるぞ。沼地の水でも、海水でも、水魔法の水でもな。」

「アレ?でも、コップが付いてないね。横にあるのを買えば良いのかな?」

「そうだね。石制、木製、あと冷却と発熱コップがあるよ。冷却は10℃、発熱は50℃くらいまで温度を変えてくれるよ。」

「あ、本当だ。あと描いてある絵がキレイ。これもアステリアさんが描いたの?」

「一応ね。初級だけど、ちょっとくらいできたが良いと思って、描画と彫刻を取っているんだ。」

発熱コップもあるのか。冷却はヒッツで手に入れたが、発熱は無かった。俺も後で購入するとしよう。

「あ、ダンジョン発見機あるじゃん。ダンジョンの方向がわかるってあるけど、複数ダンジョンがあったらどうなるのかな?」

「ん?君はプレイヤーだよね。ナビーに聞けばダンジョンは見つけられるはずだけど、これ必要なのかい?」

「あ、うん。そっか。これって、住民用なんだね。」

「基本はそうだよ。ただ、いわゆるロールプレイにこだわっているプレイヤーなんかは買っていくんだ。それに、ダンジョンの種別によって、光の色が変わるから、ナビーを使うよりちょっとだけ優秀なんだよ。」

「ダンジョン発見機」は、本来は第6マップ解放後に店に並ぶ商品だったはずだ。

だが、レシピ自体の必要レベルは低めなので、アステリアさんなら作ることができる。故に、こんな所で売り出されているのだろう。

「へぇ~。あ、説明に書いてあるね。狩場だと赤、闘技場が黄色、その他が青だって。あれ、闘技場ってどんなタイプなの?」

「闘技場も特殊なダンジョンだな。入った人数と同数のモンスターがポップして、倒すと次の層が出てくる。それを5回やればクリアだ。ただ、出てくるモンスターが格上だったり、フィールドボスが複数ポップしたりするから、理不尽にやられることもあるそうだ。」

「その通り。平たく言えば、この3系統のダンジョンは通う目的が明確に違うから、魔道具で識別できるように工夫してあるんだ。それと、マップ内で複数のダンジョンが出てきたら、それぞれ光るよ。起動してみようか?」

アヤの辺りから、ブオンという音がした。どうやら、アステリアさんが魔道具を起動したらしい。

「本当だ!黄色いのが出ている。あれ?でも、塔の方向じゃないよ?」

「あぁ、この都の中、たまにランダムダンジョンが沸くんだよ。この魔道具は、固定されたダンジョンは検索されないから、塔は出ないのさ。」

マジか…

例のランダムダンジョンが沸いているらしい。しかも、先ほどの話通りなら闘技場ということになる。

(ナビー、黄色い光は見えるか?)

(見えています。)

(ダンジョンがあるらしいのだが、案内可能か?)

(可能です。光は、ダンジョンの方角を指しています。)

その後、アヤは以下の魔道具を購入していった。

浄水筒(小): ユーがソルットで購入したものと同じ。

石のコップ: 石制の普通のコップ。

魔法のトリオ: 画材の一種。魔力を注ぐことでマゼンタ、シアン、イエローのトリオが出てくる。トリオの品質は低いが、魔力がある限り無限に出すことができる。

ダンジョン発見機: マップ内のランダムダンジョンを探せる魔道具。ダンジョンの系統に応じて光の色が変わるおまけ付き。

しれっと「魔法のトリオ」が入る辺り、さすがというか何というか…

なお俺も、追加で発熱コップとダンジョン発見機を購入した。ナビーが見えるなら、俺にも利用価値はあるからだ。なお、索敵は育てる予定が無いので要らない。

「ありがとう。助かったよ。」

「そうか。ソルット遠征がんばってな。」

錬金術店を出て、俺たちは転移ゲートの近くへやってきた。アヤともお別れだ。

「あ、そうだ。今更だけど、フレコ交換しようよ。」

「フレコ… あぁ、フレンドコードか?言われてみれば、今更だったな。」

このゲームでは、同じプレイヤー同士でフレンドコードを交換することができる。

フレンドになると、ログインしている時に、チャット等で連絡を取り合うことが可能だ。主に、離れたマップにいる相手と合流する時に用いられる。

なお、フレンド登録にはいくつかの安全対策が取られている。まとめウィキに挙がっていたのは以下の3つだ。

  1. 登録時、脳波判定付きの相互承認が必要。このため、恫喝して無理やりフレンドにすることは不可。
  2. 犯罪者系の称号を持っていると、同じ系統の称号を持つプレイヤーとしかフレンドになれない。なお、途中で犯罪者ルートになると、フレンドが強制解除される。
  3. フレンド登録した後に、迷惑などの理由で相手をブロックすると、相互に干渉できない状態になる。これにより、基本的に追及されることはなくなる。そこから、リアル事情を持ち込むなどして追及を続けると運営に粛清される。

そんなフレンドだが、よく考えたら一人も登録していなかった。現地であれこれ楽しみながらぶらり旅行する予定だったので、一期一会で問題無かった、というのが理由だ。

「フレンドか。だが、俺でいいのか?」

「いいよ。ユーさんは良い人だから。一緒にパーティを組んだ方が良い時に誘うくらいだと思うけどね。」

「良い人ね。わかった。」

「プレイヤー アヤからフレンドの申請が届きました。これを受理した場合、あなたのフレンドコードを開示する必要があります。」

「神聖を受理しました。アヤからの応答を待っています。」

「アヤの承認が得られたため、双方にフレンド登録が行われました。」

ということで、まさかのフレンド第1号がアヤになった。とはいえ、これからお互いにマップ開拓やらダンジョンやらで忙しくなるだろうけどな。

その後、アヤはミーミの村へと転移していった。では、俺もダンジョンへ挑むとしよう。