07-05 蜂蜜出荷と塔への挑戦

改定:

本文

「ユーさま、おはようございます。」

「おはよう、ナビー。食堂へ向かうから先導してくれ。」

ダンジョンから戻ったら22時を過ぎていたので、ギルドに戻りログアウト。そして、ゲーム内時間 7:33 にログイン。

昨晩は飯を食べずにログアウトしたので満腹度がピンチ。ということで、食堂で腹ごしらえをしていたのだが…

「おはようございます、ユー様。」

「ん?えぇと?」

「あぁ、今は食事中でしたか。食後で良いので、また浄化をお願いできますか?」

また浄化依頼のようだ。しかも、目を付けられたのか、指名されてしまった。

「早朝だと思うのだが、こんな時間に呪われた装備を持ち込むってどういうことだ?」

「そこについては特に詮索はしていないんです。気になるのでしたら、直接聞いてみて下さい。」

そんな話をしつつ、1階受付へ…

幸いなのか、前に出会った人がまた浄化に来るようなケースが見られないので、皆勉強している…

「す すんません、旦那。またやっちまって!」

ということも無いようだ。「解呪代は安くないようなので注意しておけ」と言っておいた。

その後も、数名の依頼があった。途中で、なぜこの時間帯に来たのかも聞いてみた。それによると、以下に挙げるような理由が多いらしい。

  1. インベントリーに入れて持ち運ぶことには成功したが、酒の席で、肴として出してしまい被弾。フラフラで浄化どころでなく…
  2. 呪われていたことに気づかずに装着、そのまま帰って、宿で寝る直前に装備解除できないことから発覚。夜も遅いので我慢。
  3. 寝泊まりして早朝から探索、と思ったら呪われた上に都に死に戻り。

わりとありそうな理由だった。呪われた装備を引き当てる人が多いのは、どうしようもないだろう。冒険者1000人くらいが活動しているらしいので、10個や20個くらい出てきてもおかしくないからだ。

あと、別の意味で困った事例もあった。「呪われた胸当てを装着してしまった女性冒険者」にも遭遇したことだ。

職員経由で「使用している浄化の特性上、触れないといけない」ことには了承してもらえたので事なきを得たが、この人が学習する人であることを祈ろう。なお、相手の外見は見ていないし、親しいわけでもないので、淡々とこなしたぞ。

「今日もありがとうございます。こちら、後程依頼処理しておきますね。」

朝から一仕事あったわけだが、今日は塔に挑もうと考えている。昨日はレベル上げにはならなかったからだ。

その後俺は、アステリアさんの錬金術店に向かった。蜂蜜を含めた素材を卸すためだ。総合生産職の彼なら、役立ててくれるだろう。

「いらっしゃい。あぁ、昨日の。」

「俺はユーな。昨日出現していた闘技場に出向いて、虫系の素材が入ったから持って来てみた。」

「闘技場ねぇ。飛び切りのレア素材でも出たのかい?正直、質が普通なら量が欲しいから1匹じゃ微妙だよ。」

まぁそうだろう。1対1の闘技場で期待されるのは、現在地域では出ないレア素材の方だからな。ただ、1年も経過したゲームなら、主要な素材は流れてくるルートが確立されているだろう。

「停滞の嬢王蜂に会ってな。蜂蜜、毒腺、毒針、羽がそこそこ出たぞ。」

「ん?あぁ、蜂の巣の方か。まさか、腐り蜂の群ドロップかな?」

「そうなる。蜂蜜は170個超えているぞ。」

「狩り尽くしたってわけか?それなら欲しいね。ちなみに嬢王蜂のドロップは?」

「蜜玉だな。こっちは3個だった。」

「あ、うん、普通だね。でも、君が欲しがっていた自然回復の素材にはなるから、グッドタイミングではあるよ。」

どうやらお眼鏡には適ったようだ。避雷針への自然回復付与も適うようだし、言うこと無しだな。

「なるほどな。避雷針に自然回復が付くなら、ボスのソロ狩もちょっと見えて来たな。」

「ボスというのは、執行者でいいのかな?雷から察しは付いていたけど。」

「その通り。フィールドボスのトマだな。」

「なるほどね。でも、雷だけじゃダメじゃないかな?」

「ネックはマヒ対策と雷だったんだ。ほかはクリアできている。」

E4のフィールドボス、それは、塔の最上階にいる「裁きの執行者トマ」だ。こいつがいるからこそ、ダンジョン、さらに、都の名前すら「トマ」になっている。

こいつは雲のようなもやのかかった人型のボスだ。長杖による接近物理と光、闇属性の魔法を使ってくる。また後半戦では、雷属性の魔法や、槌系統の技、光や闇を用いた範囲攻撃も使い始める。というのが、まとめウィキと、実況動画の聴取から把握していることだ。

ただ、トマには2つの弱点がある。1つめは、遠距離だと魔法、逆に近接すると物理一辺倒になる習性があることだ。2つめは、他の第4マップのボスと比べると攻撃力が少し低いことだ。

つまり、物理、または魔法いずれかの受けに特化したメンバーを用意すると、安定して戦うことが可能だ。一般的には物理受けのタンクを用意して攻撃を受け止めさせ、他メンバーが中・遠距離攻撃で狩る方法が用いられている。

ただし、2つ厄介な問題がある。1つめは、幻影や暗闇、それから不意打ちに完全耐性があることだ。このため、基本的に正面からの打ち合いを制する必要がある。

もう一つが問題児、1分毎にフィールドに落ちる雷だ。威力はそれほど高くないが、基本的に逃げ場が無く、落ちるタイミングも一定なので、何かしらの方法で備えるしか無いのである。また、これはボスの能力ではなくフィールドギミック扱いなため、絶対に止めることができない。

そこで役立つのが、今回の自然回復付きの避雷針だ。こいつを壁沿いに配置して雷を吸わせてしまえば、俺が受ける被害は少なくできるだろう。そして、自然回復があれば、1分煮1回の雷では壊れなくなるのである。

「へぇ~、やるね。まぁ対策すれば狩れるってまとめられているのは僕も知っているけどさ。」

「何となく思っていたが、あんたもまとめウィキの住民か?」

「僕は総合生産職のトップを目指そうと考えているんだ。目標は、神の生産者さ。そのために、使えるモノは使うよ。」

「神の生産者」とは、この世界の歴史で示されている生産者の称号の一つだ。5つ以上の生産技能を「超級」の上「神級」に上げると取得できるらしい。

「らしい」と記すのは、習得したプレイヤーがいないからだ。現在のプレイヤーが持つ各種技能の最大は「超級(レベル80)」であり、総合生産職に至っては、「いくつかが特級(レベル60)を超えた上級生産者」止まりだ。なお「上級生産者」とは、5つ以上の生産技能がレベル40以上であると得られる称号だ。

それなら「特級生産者」でも良くない?と思う所ではある。だが、「神の生産者」の方が響きが良いのは間違いないだろう。そしてアステリアさんは、現在の最前線にいるプレイヤーが神級に至ること、つまり、第11マップ以降に踏み込めると信じているようだ。

結局、アステリアさんに闘技場の全ての素材が買い取ってもらえた。散在した資金も50000p近く戻せたぞ。

その後俺は、本来の目的地であるダンジョンへ向かうことにした。例のダンジョン発見器も試したが、今日は反応が無かったからだ。

「ナビー。トマの塔に突入するぞ。先導を頼めるか?」

「了解しました。トマの塔はこっちです。」

今更だが、トマの都は砂利が敷き詰められたような場所だ。踏み固められた土の地面も所々にあるが、それは荷車が通る道なのだそうだ。

そして、ダンジョンであるトマの塔の周辺は、冒険者が行きかっているため、集中していれば、他パーティの会話が聞こえてきたりもする。ただ、混雑しているという感じは無いので、変な所で立ち止まっていなければ、ぶつかるようなことは無いだろう。

「トマの塔に到着しました。」

「入り口横の柱に先導してくれ。」

「了解しました。こっちです。」

そんな塔の入り口に近づいてきたので、突入… の前に、入り口の柱に接近。杖が引っかかってくれたので、触鑑定を行なった。

トマの塔:

種別: 固定ダンジョン

階層数: 7

説明: トマの都に出現した塔型のダンジョン。冒険者の実力を試すと共に、彼らを育てる場でもある。

鑑定を行なうと、やはりダンジョンであることが通知された。

では、突入するとしよう。俺は、そのまま入り口に入った。

「ダンジョン トマの塔 に入りました。現在1層です。」

入り口に入ると、そこは石の床だった。そして、足音は少しは響くようだが、遠くまで… という感じではない。天井はあるが、3メートルくらいはあるだろうか?

そして、今の所は静かだ。モンスターが動いている音は聞こえない。階層の入り口は安全地帯だからだろう。

まとめウィキによると、このダンジョンは、パーティ毎に空間が用意されるそうだ。だから、こうしてじっとしていても冒険者が現れることは無い。

「ナビー。ギルドにあった塔の地図はわかるか?」

「はい。この階層の地図は検索可能です。」

「この塔は一本道なのか?」

「いいえ。6つの通路があり、その内3つが次の階層へ通じています。その他の通路は行き止まりに通じています。」

「そうか。宝箱の位置はわかるか?」

「いいえ、わかりません。現在の視界範囲内にも確認できません。」

「遠くにモンスターは見えるか?」

「いいえ。現在は視界範囲内に生物の姿は見られません。」

ここは、冒険者ギルドに完全な地図がある、つまり、システム的に「道」が敷かれているダンジョンだ。ランダムなのは出現する宝箱やモンスターだけなのだ。故に、ナビーは、最上階までの正確な道を知っている。

「わかった。今日は、1層を歩き回りながらモンスターと戦っていく。だから、行き止まりも含めて、全ての道を通ろう。右側の道から順に先導してくれ。」

「了解しました。モンスターの通知は必要ですか?」

「いや、必要無い。ただ、宝箱については、視界に入ったら通知してくれ。」

「了解しました。道はこっちです。」

俺はいつも通りおくたんも召喚した。塔なのに採取ポイントがあるのか?というと… あるらしいのだ。

そして、ここで気づいた。イスタールなら、ゴーレムの強化用メモリーが一般店に並ぶことを…

ふむ。後でアステリアさんに聞いてみよう。一応、ゴーレムの作成には錬金が必要なため、通常だと錬金術店で扱っているものだからだ。プレイヤーメイドだと無いかもしれないけれど…

では、さっそく、塔の中を探索&狩と行こうか。