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「トマの塔 3層の入り口に到着しました。」
翌日の昼… 俺は、トマの塔を進んでいた。今回の目標は、塔内の4層~5層でレベル上げだ。なお、最上層まで行く準備自体はしているので、行けそうなら攻略もしたいと考えている。
え?3層はどうするのか?だって。見えない足場なんて、杖で足元を確認しつつ、ナビーの先導に従って歩けば問題無いのだ。ナビーは通路を知っているのだから。
もちろん、事故で落下した時のために「落下耐性ポーション」を飲んでおく。落下すると、下層の対応する地点に移動した上で、HPが4割ほど溶けるらしいからだ。
「落下耐性ポーション」は、飲用から半日経過するか、1回効果が発揮されるまでの間、「高所からの落下」による影響を無効化する。なお「10メートル以上の落下」が対象であるらしく、爆発で吹き飛んだり、ぶん投げられたりしても、10メートル以上上空まで飛ばなければ効果は出ない。
ということで、一通りの回復、それからおくたんの送還を済ませた上で落下耐性ポーションを使用。味は、オレンジとサイダーの風味を感じるものだった。いわゆる「ブルースカイ」あるいは「ブルーハワイ」と呼ばれるシロップの味だろうか…そして、俺は初めての3層へ上っていった。
「トマの塔 3層に入りました。」
「条件を満たしたため、フィールドが変化します。」
たぶん、「見えない足場なんて幻影は許しません!」と真理がお怒りなのだろう。足場が見えるようになったのだと思うが、俺には関係ない。最初から見えてないからな。
と思ったら、前方からゴロゴロとした音が近づいてきた。あれ、ここって何もいなかったはずでは?
とりあえず、ゴロゴロとした物は、モンスターで良いと思う。音が雷っぽいし、そんなダンジョンギミックがあるなんて、聞いたことが無いからだ。いや、このゴロゴロも動画で聞いただろうか?
俺は、防御と知性を強化して構えた。すると、上からぽふってなった。俺はそれを掴もうとしたが、弾き飛ばしたらしく、間に合わなかった。やはり正面のゴロゴロはモンスターらしいが、まだ音源からは離れている。
とりあえず、もう少し近づいて、ゴロゴロしている所に触れてみよう。そうして歩き出した所、横からぽふってなった。また掴み損ねたようだが、振り払いもできるらしい。
さらに近づくと、上からバチバチとした音がした。それ、上から降ってくるヤツか?いつ来るかわからないけれど… あ、その音が遠ざかったということは…
俺は、転がるように横へ移動。ポーションもあるから落下しても大丈夫だろう、との判断だ。
すると、予想した通り、俺がいた位置に、ドシーンという衝撃音と、バチバチとした音がした。転がって避けたが、余波で28%もダメージが入る程度に強い衝撃だった。あれだけ音がしていたら、不意打ちでもなんでも無いからな。
起き上がり、ゴロゴロした所へ駆け寄る。しかし、掴むことができなかった。その間に、また上からぽふってなった。
ゴーストか?俺は、霊掴を使用。それで掴むことができたので振討、続いて聖拳をたたき込んだ。そして、ようやく招待判明。
雷霊鬼:
種別: モンスター・エクストラボス・霊体
レベル: 30
HP: 97%
状態: 敵対・真理の枷+4
説明: その昔、東地域を荒らしたモンスターの霊体。当時の記録では、雷を振りまきながら、その手に持つ金棒で人々を蹂躙していたことが記されている。
真理: トマの塔に刻まれていた記憶の一つ。これまで、雷の力で空気に干渉することで旅人を惑わしてきた。だが、それを看破する者が現れた。鬼は実態を取り、これを滅ぼさんとしている。しかしこれは、隠されていた弱点に干渉できる機会でもある。
識別:
体力: 1500
魔力: 600
筋力: 150
防御: 45
精神: 135
知性: 45
敏捷: 45
器用: 30
属性: 雷,闇
どうやら、真理が隠しボスの類を招き寄せてしまったらしい。しかも、レベルが第5マップ相当だし、霊体なのに筋力値が異常だ。ただ、ボスとして考えるとHPは高くなさそうだ。
その後、俺と雷霊鬼とのバトルは進んでいった。
雷霊鬼の攻撃で特に危険なのは、さっきも余波でダメージを受けた、雷を纏った何かのたたきつけだ。必ず、大きく振りかぶって、地面に打ち下ろしてくるようなので、アレは転がってでも避けなければならない。
ただ、それ以外の攻撃は不意打ち判定になるため、全く問題が無かった。おそらく、例の金棒を使っているのだろう。むしろ、「真理の枷」が貯まっていくため、戦闘は徐々に優勢になっていった。
あと、雷霊鬼の弱点は、土属性魔法だった。フィールドボスもそうだったが、電気に地面って効果抜群なんだよな。
また、ゴーストでもあるためか、浄気を使った状態で殴るとダメージが増えていた。
そんな調子で、残りHPが5割を切った瞬間、雷霊鬼が俺の前から消えた。と思ったら、遠くの方で雷音が…
その音を動画で聞いたことのあった俺は、インベントリーから魔引板を取り出して設置、横に走って、もう一つ設置…
さらに走った所で、雷の音が聞こえ、次に、体に衝撃を感じた。なんで、音が先でダメージが後なのかわからないが、そういう攻撃なので仕方ない。
結果、雷でHPを20%ほど削られたが、耐えることはできた。フィールドボスが1分置きに使ってくる雷、お前も持っていたか… しかも、真理の枷が +10 まで積もって、この威力である…
その後は、再び雷霊鬼が接近戦をしてきたので応戦。纏土+浄気+聖拳で、HPが7%も溶けるようになっていた。
そして、残りHPが10%を下回ったので、纏土+浄気+滝落。投落が入ることを確認できたので、行けるか?と思ったら行けちゃった。
空中から地面にたたきつけて、ゴーストなのにドシーンという音を立てた雷霊鬼は、「ギャオーーー」という声を挙げながら消えていった。お前、鳴き声あったんだな。それとも、悲鳴だけあるパターンか?
「雷霊鬼を倒した。経験値を6300獲得しました。」
「レベルが26に上がりました。」
「技能 魔法(雷), 剛体 を獲得しました。」
「称号 ジャイアントキリング を獲得しました。」
「E4 エクストラボスの討伐に成功しました。特別報酬が授与されます。」
「称号 記憶に近づく者 を獲得しました。」
魔法(雷):
説明: 電気や雷を生み出し、操る魔法の技能。
剛体:
説明: 鍛錬の結果、身体が獲得した力の一種。体力が上昇(小)、スタミナ消費を軽減(小)
ジャイアントキリング:
説明: 強大な敵に挑み、下した者の証。格上、またはボスモンスターとの戦闘時に能力上昇(大)。
記憶に近づく者:
説明: ダンジョンに隠された記憶に触れた者の証。
「魔法(雷)」については、観察したり、打ち込まれたりしたので、得るべくして得た称号だ。塔の最上階に行けば、勝手に生えると思っていたので、特に感想は無い。
「剛体」については、体力のベースが増える技能だ。「鍛えていれば生える」類だったので、いつかは欲しいと考えていた。鬼相手にスパーリングみたいな状態になっていたことが影響したか…
「ジャイアントキリング」は、格上の敵を一定数、あるいはボスを倒せば習得できる称号だ。「レベル縛りをしないと習得できないのでは?」と思うだろうが、 W5 にある闘技場で格上冒険者相手に挑んでいれば、勝手に生えてくる。故に、習得者は意外と多い。
なお、補正値「大」は優秀なのだが、これに頼っているとモンスターが弱すぎて技能が育たなくなるため、常用は避けるべき、と言われている。では有効なシーンとはいつか?ということだが、「相手が強すぎて勝負にすらならない」時や、「ボス素材を集めるため周回したい」時、あるいは、「公式イベントなどで出てくるボスラッシュやレイドボスに挑む」時などである。
「記憶に近づく者」については効果不明だ。変なデメリットの類は見受けられないし、何かのフラグと思っておくのが無難だろうか…
あと、報酬なのだが、以下のアイテムだった。
雷隕石:
種別: 素材・隕石
説明: 雷と共に飛来した隕石の一部。雷の魔力を宿している。
雷憑依の棍:
種別: 武器・メイス
説明: 雷の魔力を帯びた棍棒。持ち主が魔力を注ぐことで、望むままに収縮する性質と共に、霊体に干渉できる性質を有する。なお、延長時の棍を扱うには相応の筋力と魔力が必要となる。
識別: 魔力を注いでいる間の拡張効果、並びに、雷属性の攻撃、または、雷の力を奪う能力を有する。
纏雷の鉢巻き:
種別: 防具・頭
説明: 魔法の鉢巻き。防御力は低いが、雷を吸収する力を有している。
識別: 雷属性の攻撃を引き付けると共に、それを吸収、無効化する。また、吸収から15秒以内に使用した攻撃に雷属性を付与する。
デメリット: 装備中、土属性に対する耐性が低下(大)
幽鬼の召喚石:
種別: 召喚
説明: 幽鬼が封印された召喚石。召喚技能を持つ者が適切に使用、契約することで、持ち主を助けてくれる。
鉢巻きについては、雷を扱うボス戦で活躍するだろう。それこそ、塔の最上層のボスとかな。
その他のアイテムは、情報不足なので後で調べるとしよう。ただ、棍も召喚石も、俺に使えるものか?というと否だろう。対応する技能を持っていないからだ。
とりあえず、塔から出よう。死に戻りで失うには大きすぎる貴重品が出てきてしまったからな。
その前に、せっかくなので、この空間を歩き回ってみよう。一度しか来られないかもしれないしな。
その後、俺は、この層を歩いて回った。
結果、この層は半径50メートルほどの円形で、上下に移動する階段以外には何も無かった。床や壁についても、塔の1層や2層で触れたものと同じ触感になっていた。なお、ナビーいわく、床に穴は一切空いていないとのこと。
そうなると、なぜ、3層は見えない足場に穴まで開いていたのだろうか?特に穴の仕掛けについては気になる所だ。
気になったので、ナビーに、ギルドの地図で穴のあった場所に連れて行ってもらい、床に触れてみたのだが、その結果は「塔の床」だった。ワープ罠が隠されているなら真理が許さないだろう。この結果を元に、俺は一つの結論を出した。
通常は、落下地点に指定された場所に立った時に、あの鬼が何かを仕掛けたのだろう。方法として有力なのは、2層の天井付近へワープさせ、プレイヤーを自由落下させたことだ。
まとめウィキの検証によると、2層から上を見上げると、落ちてくる場所が吹き抜けになっているように見えるのだが、飛行能力を使ってそこから3層に上がることはできないのだという。また、もし、落下地点に立った時に鬼が攻撃を仕掛けるなら、落下耐性ポーションでは説明の付かないダメージを受けてもおかしくない。
うん。自分なりに満足の行く答えが出た。ちょうど満腹度も減ってきたし、時間も良くなった。俺は、脱出の札を使用したのだった。