07-10 ナザ島へ上陸、召還石の中身

改定:

本文

「S4 迷宮の浮島 ナザ島 に入りました。」

「ここが迷宮の眠る島か?だが、小さいな。」

「でも、冒険者がいっぱいいるよ。島民は少ないのかな?」

「ここは地下迷宮があるから、たまにモンスターが出てくるんだよ。だから、冒険者の拠点にはなっているけれど、島民はいないんだ。」

ルーカス、アヤが疑問を口にし、リーネさんが解説した。

俺は、E4のトマと同様、ダンジョンがメインの場所なので、必要な施設だけが詰まっているのだろう、と思っていた。が、島民がいない、モンスターが出てくるという話は初耳だった。

「モンスターが出てくるというのは、いわゆるスタンフィードということか?」

「誰もいなくなって放置されれば、そうなるかもしれない、というのが冒険者ギルドの見解だね。ユーさんはトマの塔に行ったんだよね?あそこも、同じような理由で冒険者を絶やさないようにしているんだよ。」

「放置されれば… か。サンバードやイールのような都市を生み出さないように、といった感じか?」

「そういうことになるかな。まぁ、とても昔の話だから、今だとあそこまではならないんじゃないかな?」

「サンバード?イール?」

「アヤさんに言うならS6やE6だな。ルーカスたちは知っているようだが…」

「昔、モンスターに滅ぼされた場所だろ?そういや、冒険者になると、いずれは直接見られるかもしれないのか…」

ソルットから続く水晶の洞窟を抜けた先、そこにあるのは「S6 海戦の跡地 サンバード」だ。そして、現在俺が挑んでいるトマから東に進んだ先にあるのが、「E6 草木に飲まれた地 イール」だ。

ソルットはやや特殊だが、第5マップの街は全て過去の歴史で前線基地、そして、第6マップはその原因、あるいは戦地となった場所なのだ。ちなみに、トマの東には「ヒマラン大草原」が存在し、その中心部に「草原の守都 ヒマラン」、が置かれている。

あと、そうだ。この島に来たなら、例の名所には通っておこう。

「ところでリーネさん。この島、ダンジョンの裏に滝があると聞いた。今度、浸かっても良いだろうか?」

「かまわないと思うけれど、滝の心かな?でも私、キトル山で修行したのに結果が出なかったよ?」

「山でやるのは護衛が必須だぞ。だが、リーネさんが結果出ないなんて変だな。」

「護衛が必要というのは、装備を外すから無防備になるということだよね?それくらいなら、滝の中からでも察知できるし、近づいてきた辺りで投擲か飛剣で倒せるから問題無いんだよ。」

「いや、それダメなやつ。無心で滝に打たれ続ける、というのは、他に気を取られてはいけないということだぞ。つまり、滝の中に入ったら感知も索敵も攻撃もアウトだ。だから、リーネさん以外の誰かが露払いをする必要があるぞ。」

「うわぁ~、そうだったのか~。あ、もしかして、海の心も?」

「そんな感じだな。俺が観光用ビーチに通っていたのはそのためだぞ。」

「あそこか~。ユーさんほどの人が、なんで観光用ビーチに通っているのか疑問だったんだよ~。」

リーネさん、滝修行の失敗経験者だったらしい。あと、海の心も狙っていたが、そっちも失敗気味だった様子…

「なんだ?滝修行って、大事なものか?」

「遊泳と似たようなものだ。無心で滝に打たれ続けていると技能が生えるぞ。精神が増えるから、魔法がちょっと強くなるな。」

「マジか。俺も混ぜてくれよ。」

「私もやりたい。あ、でも、裸でだよね?どうしよう?」

「裸でなくていいぞ。滝は冷たいから、水着のように、耐水と耐寒の付いた装備を着用するのが普通だ。それでも気になるなら盛り土でバリケードだな。」

「あぁ、水着はそんな時にも使えるのか。良い物を買っておいて良かったぜ。」

そんな話をしつつ歩いていたら、冒険者ギルドに到着した。

そして、俺たちはさっそくギルドに入っていったのだが…

「冒険者ですね?本日はどのような… え?えっと、リーネさん?」

「私にかまうより、用件を聞こうね?」

「あ は はい!申し訳ございませんでした!そ それで、本日はどのようなご用件で…」

「後ろの3人はソルットを超えて来た冒険者だよ。私はその付き添いでね。カイムはいるかな?」

「は はい。いらっしゃいます!呼んできますので、少しお待ちください!」

「あぁ、呼ぶのはいいけど、地下訓練所に呼んでもらえるかな?私たちも行っているから。」

ギルド職員、仰天のようだった。リーネさん、サブマスターだもんな。「なんでここにいるんだ!?」といった所だろう。

「リーネさん。その、カイムさんとやらは誰なんだ?」

「あぁ。彼は召喚士だよ。せっかくだから、合わせておこうと思ってね。」

「なるほどな。わかった。だが、アヤさん、ルーカスはどうする?やりたいことがあるなら、そっち優先でかまわないと思うぞ。」

「いいよ。私も興味あるし、一緒に行くよ。」

「そうか。召喚ってやつに興味はあるから、俺も見るぜ。」

「召喚石を見せて話を聞くだけだぞ。たぶん話だけだと思う。」

その後、俺たちはリーネさんの先導で、地下訓練所に降りて行った。

なお、ギルドには図書室もあるとのことで、後で行ってみようとは考えている。

「久しぶりだね、カイム。元気していたかな?」

「リーネか。ソルットのサブマスがこんな所に来るなんて、何やってんだかね。」

「まぁ、こっちの人に頼まれてね。私はその護衛だよ。」

「護衛ねぇ。本当だか…」

程なくして、男性がやってきて、リーネさんが声をかけていた。彼がカイムというものだろうか?

「えぇと、カイムさんでいいか?」

「ん?君は… 盲人か?」

「そうだな。時間を取る形になってすまないが、見てもらいたいものがある。」

俺は、例の召喚石をインベントリーから取り出した。

「召喚石… それは、ダンジョン産か?」

「トマの塔で手に入れたものだ。俺自身には召喚技能が無いから使うことは無いだろうが、何かわかることがあればと思ってな。」

「トマの召喚石… だと?執行者からの報酬か?」

「中腹の幻影に潜んでいた雷霊鬼だな。昔、周辺を荒らしていたモンスターなのだそうだ。」

「トマの塔の歴史関係か。少し調べてみる必要があるな。悪いが、数日ほど、召喚石を借りられるだろうか?」

「俺には使い道が浮かばないのでかまわない。急ぐ必要も無いぞ。」

ということで、召喚石は、カイムさんに託すことにした。

「強力感謝する。それと、現時点でわかる解析の結果は伝えておこう。」

そうして、カイムさんは、召喚石について教えてくれた。召喚士系統の技能「召喚」に含まれる技「召喚石解析」から得られる情報とのことだ。

「なるほどな。あ、そうだ。素材なんだが、この辺りは使えるか?俺には使い道が無いが、雷霊鬼のドロップや報酬だな。」

「なるほど。装備も含めて、確かめる価値はあるな。不要だったら返すから、貸して欲しい。」

俺は、鉢巻きも含めた一通りの素材をカイムさんに預けることにした。そもそも、鉢巻きが無くてもトマの塔のボスは倒せるよう準備してきたからな。

「リーネさん、いろいろ世話になった。」

「そうだよね。ありがとうございました。」

「いいよいいよ。面白い物も見られたしね。私は帰るけど、皆はダンジョンだね。がんばってね。」

「俺はやりかけのダンジョンがあるから、滝行の後は東に行くけどな。」

「あ、滝行か、すっかり忘れてたよ。明日、朝からやるんだよね?私も参加しようかな。」

「ユーさん。俺にもやり方を教えてくれ。」

「えっと、じゃ、私もいいかな?」

結局、明日も集まることになった。一人の方が楽なんだけどな。まぁいいか。

その後、俺は、ギルドの食堂で夕食を取ってからログアウトした。なお、選んだのは、芋とチーズのグラタンだった。