本文
「S4 迷宮の浮島 ナザ島 に入りました。」
「ここが迷宮の眠る島か?だが、小さいな。」
「でも、冒険者がいっぱいいるよ。島民は少ないのかな?」
「ここは地下迷宮があるから、たまにモンスターが出てくるんだよ。だから、冒険者の拠点にはなっているけれど、島民はいないんだ。」
ルーカス、アヤが疑問を口にし、リーネさんが解説した。
俺は、E4のトマと同様、ダンジョンがメインの場所なので、必要な施設だけが詰まっているのだろう、と思っていた。が、島民がいない、モンスターが出てくるという話は初耳だった。
「モンスターが出てくるというのは、いわゆるスタンフィードということか?」
「誰もいなくなって放置されれば、そうなるかもしれない、というのが冒険者ギルドの見解だね。ユーさんはトマの塔に行ったんだよね?あそこも、同じような理由で冒険者を絶やさないようにしているんだよ。」
「放置されれば… か。サンバードやイールのような都市を生み出さないように、といった感じか?」
「そういうことになるかな。まぁ、とても昔の話だから、今だとあそこまではならないんじゃないかな?」
「サンバード?イール?」
「アヤさんに言うならS6やE6だな。ルーカスたちは知っているようだが…」
「昔、モンスターに滅ぼされた場所だろ?そういや、冒険者になると、いずれは直接見られるかもしれないのか…」
このナザ島からさらに南へ向かった先にあるのが、「S6 海戦の跡地 サンバード」だ。そして、現在俺が挑んでいるトマから東に進んだ先にあるのが、「E6 草木に飲まれた地 イール」だ。
ソルットはやや特殊だが、第5マップの街は全て過去の歴史で前線基地、そして、第6マップはその原因、あるいは戦地となった場所なのだ。ちなみに、トマの東には「ヒマラン大草原」が存在し、その中心部に「草原の守都 ヒマラン」、が置かれている。
あと、そうだ。この島に来たなら、例の名所には通っておこう。
「ところでリーネさん。この島、ダンジョンの裏に滝があると聞いた。今度、浸かっても良いだろうか?」
「滝の心かな?やるのはかまわないと思うけれど、必ず習得できるとは限らないよ?私、キトル山で修行したけれど、結果が出なかったんだよね。」
「ん?もしかして、護衛が何かやらかしたのか?」
「護衛が必要というのは、装備を外すから無防備になるということだよね?それくらいなら、滝の中からでも察知できるし、あそこのモンスターなら、近づいてきた辺りで投擲か飛剣で倒せるから問題無かったよ?」
「ん?それ修行の仕方が間違ってるぞ。」
「え?」
「無心で滝に打たれ続ける、というのは、他に気を取られてはいけない、ということだな。つまり、滝の中に入ったら、感知も索敵も攻撃も防御もアウトだ。だから、露払いをしてくれる護衛が必要だぞ。」
「うわぁ~、そうだったのか~。あっ、もしかして、海の心も?」
「滝とは違うが、海中で狩をするだけではダメだな。簡単なのは観光用のビーチで過ごすことだ。一人の時も、アヤやルーカスといた時も通っていたのは、そういう理由がある。」
「あぁ~、ユーさんほどの人が、なんで観光用ビーチに通っているのかな?って思ったことはあったけれど、そういうことだったのか~。というか、アヤさんもルーカスさんも海の心持ってるのって、ユーさんの仕業だったのか!」
リーネさん、滝修行の失敗経験者だったらしい。あと、海の心も狙っていたが、そっちも失敗気味だった様子…
「なんだ?滝修行って、大事なものか?」
「遊泳と似たようなものだ。無心で滝に打たれ続けていると技能が生えるぞ。精神が増えるから、魔法がちょっと強くなるな。」
「マジか。俺も混ぜてくれよ。」
「滝か~。私も体験してみようかな?あ、でも、裸でだよね?どうしよう?」
「裸でなくていいぞ。むしろ、滝は冷たいから、水着のような装備を着用するのが普通だ。それでも気になる人は盛り土や木でバリケードを組むそうだ。」
「あぁ、水着はそんな時にも使えるのか。良い物を買っておいて良かったぜ。」
「う~ん、でも、そんなバリケードでいいのかな?魔法で土を集めても小山くらいにしかならないし、木材もあんまり持ってないよ。あと、壊されたりしないかな?」
「集土なら、複数人で繰り返し使えばそれなりの量になるぞ。そもそも、常識的なヤツは、滝にいれば、何をしているか察してくれるから問題無い。非常識なヤツは、最初から考えるだけ無駄だし、そもそもナザ島の滝は有名なスポットだから、下手なことはできないな」
「ん?あ、そっか。悪いことしたら見つかっちゃうのか。」
そんな話をしつつ歩いていたら、冒険者ギルドに到着した。
そして、俺たちはさっそくギルドに入っていったのだが…
「冒険者ですね?本日はどのような… え?えっと、リーネさん?」
「私にかまうより、用件を聞こうね?」
「あ は はい!申し訳ございませんでした!そ それで、本日はどのようなご用件で…」
「後ろの3人はソルットを超えて来た冒険者だよ。私はその付き添いでね。カイムはいるかな?」
「は はい。いらっしゃいます!呼んできますので、少しお待ちください!」
「あぁ、呼ぶのはいいけど、地下訓練所に呼んでもらえるかな?私たちも行っているから。」
ギルド職員、仰天のようだった。リーネさん、サブマスターだもんな。「なんでここにいるんだ!?」といった所だろう。
「リーネさん。その、カイムさんとやらは誰なんだ?」
「あぁ。彼は召喚士だよ。せっかくだから、合わせておこうと思ってね。」
「なるほどな。わかった。だが、アヤさん、ルーカスはどうする?やりたいことがあるなら、そっち優先でかまわないと思うぞ。」
「いいよ。私も興味あるし、一緒に行くよ。」
「そうか。召喚ってやつに興味はあるから、俺も見るぜ。」
「召喚石を見せて話を聞くだけだぞ。たぶん話だけだと思う。」
その後、俺たちはリーネさんの先導で、地下訓練所に降りて行った。
なお、ギルドには図書室もあるとのことで、後で行ってみようとは考えている。
「久しぶりだね、カイム。元気していたかな?」
「リーネか。ソルットのサブマスがこんな所に来るなんて、何やってんだかね。」
「まぁ、こっちの人に頼まれてね。私はその護衛だよ。」
「護衛ねぇ。どうせ、リーネが勝手について来たんだろう?冒険者を導くのは良いが、過度な介入は止めた方が良いぞ。」
「この人たちは能力的に問題無いよ。実際、戦艦クラゲは出て来たけれど、私、やること無かったからね。」
程なくして、男性がやってきて、リーネさんが声をかけていた。彼がカイムというものだろうか?
「えぇと、カイムさんでいいか?」
「ん?君は… 盲人か?」
「そうだな。時間を取る形になってすまないが、見てもらいたいものがある。」
俺は、例の召喚石をインベントリーから取り出した。
「召喚石…」
「トマの塔で手に入れたものだ。俺自身には召喚技能が無いから使うことは無いだろうが、何かわかることがあればと思ってな。」
「トマの召喚石… 初めて聞いたね。執行者からの報酬か?」
「中腹に潜んでいた雷霊鬼というモンスターからの報酬だな。昔、塔の近くにいて、周辺を荒らしていたのだそうだ。」
「トマの塔の歴史関係か。少し調べてみる必要があるね。悪いが、数日ほど、召喚石を借りられるだろうか?」
「俺には使えないから問題無い。急ぐ必要も無いぞ。」
「いや、そんなことは無いよ。この召喚石なら、きっと君の助けにもなるだろう。」
ということで、召喚石は、カイムさんに託すことにした。
「強力感謝する。それと、現時点でわかる解析の結果は伝えておこう。」
その後、カイムさんは、召喚石について教えてくれた。
- 「召喚石」とは、そこから繋がる特定のモンスターとの契約、召喚の補助、媒体となるアイテム。俺のように召喚技能を持たない者でも、モンスターとの契約、召喚や共闘ができる。なお、「召喚士」系列の技能を有していれば、更に発展的な使い方ができる。
- 召喚石からのモンスターの解放、及び、初回の契約等には、召喚士の助力が必要。カイムさんなら、それができる。
- 今回の召喚石から解放できるモンスターは「雷霊鬼」の幼体である可能性が高い。容姿は、園児サイズの子鬼である可能性が高いが、「霊」表記があるため、最終的な結果はわからない。
「なるほどな。あ、そうだ。素材なんだが、この辺り、研究に使えるか?俺には使い道が無いが、雷霊鬼のドロップや報酬だな。」
「なるほど。装備も含めて、確かめる価値はあるね。不要だったら返すから、それらも借り受けたい。」
俺は、鉢巻きも含めた一通りの素材をカイムさんに預けることにした。そもそも、鉢巻きが無くてもトマの塔のボスは倒せるよう準備してきたからな。
「リーネさん、いろいろ世話になった。」
「そうだよね。ありがとうございました。」
「いいよいいよ。面白い物も見られたしね。私は帰るけど、皆はダンジョンだね。がんばってね。」
「俺はやりかけのダンジョンがあるから、滝行の後は東に行くけどな。」
「あ、滝行か、すっかり忘れてたよ。明日、朝からやるんだよね?私も参加しようかな。」
「ユーさん。俺にもやり方を教えてくれ。」
「えっと、じゃ、私もいいかな?」
結局、明日も集まることになった。一人の方が楽なんだけどな。まぁいいか。
その後、俺は、ギルドの食堂で夕食を取ってからログアウトした。なお、選んだのは、芋とチーズのグラタンだった。