08-01 修正のお知らせと石板の調査結果

改定:

本文

「ユー様。おはようございます。」

「ん?えっと?」

今日もログインしようとした所、ナビーではない男性から挨拶をされた。ナビーの性別が変わったのだろうか?

「あぁ、私は運営の者です。少々お時間宜しいでしょうか?」

「あぁ、ナビーの性別が変わったわけじゃないんだな。」

「おっと、ナビーの挨拶とかぶっていましたか。それは失礼。それで、お時間を頂いても?」

「時間はあるぞ。で、いったい何か?」

「先日のE4フィールドボス戦を受けて、 真理 の効果を一部修正することになりました。ユー様のフィールドボス攻略を取り消すことはありませんが、今後に影響する可能性があるため報告を差し上げるものです。」

「真理か。聞かせてくれ。」

先日の件で考えられるのは、「真理の枷」だろう。スタック値が +25 になったのは悲しい事故だった、ということにしたいらしい。

「はい。結論としては、 真理 技能を所有する者同士で効果が発揮された場合、抵抗した側の効果のみが発揮されるようになります。」

「つまり、あの時だと、相手にかかる 真理の枷 の最大スタック値が、俺のレベルを参照して +10 になる、ということで良いか?」

「その通りです。なお、その他の効果については変更はされません。」

この話から、おそらく、今後も「真理」を持つ敵と対峙する場面があるのだろう。その時に悲しい事故が起こらないようにする… といった意味合いか。

「わかった。他に修正が無いなら俺としては問題無い。」

「はい。正直言えば、 盲人+鈍感+正々堂々 の組み合わせには一部が頭を悩ませておりましたよ。なおここだけの話ですが、鈍感のデメリット効果を極大から絶無に変えました。」

「えっと、絶無とは、感覚強化も感知も直感も生える可能性が潰える、という理解で良いか?」

「その通りです。他の鈍感持ちには岩内で下さいね。」

「そ そうか。まぁ、そもそも鈍感を持っている人に会ったことが無いんだが…」

どうやら、俺の存在は運営に認知されているらしい。ただ、盲人と正々堂々の仕様はそのままで良いということがわかったのは安心材料だ。たぶん、それが変わったら、俺の旅行はしばらく欠航だろう。

「ハハ。ところで、本日は召喚石を開放しますか?」

「それはわからないな。とりあえず、今回手に入れた素材を持っていく予定だ。」

「そうですか。では、一つ助言をしましょう。召喚獣を育てる予定なら、 モンスターと戯れる者 をセットしておくと良いでしょう。」

「そういえば、そんな称号生えていたな。確かに使い時か。感謝する。」

「ハハ。用件は以上になります。それでは、アドベントファンタジアをお楽しみください。」

そして、俺はログインした。

「ユー様、おはようございます。」

「おはよう、ナビー。」

うん。いつものナビーでほっとした。

ただ、男性版ナビーで遊ぶのも一興かもしれないな。丁寧語だと、仕事を思い出しそうになるから、口調は変更したい所だが…

「まずは、ナザ島へ素材を卸しに行くぞ。転移ゲートへ先導してくれ。」

「転移ゲート経由でナザ島ですね。了解しました。こっちです。」

ナビーの先導に従い、ナザ島へ転移… そして、冒険者ギルドに入った。

「いらっしゃいませ。こちら、ナザ島の冒険者ギルドです。」

「俺はユーだ。そちらにいるカイムさんに合わせて欲しい。預けていた召喚石などの状況を確認したい。」

「え?あの、アポイントは?」

「一週間前にリーネさん… ソルットのサブマスターと用件を伝えに来てな。」

「なるほど。承知しました。あちらでお待ち下さい。」

「あちら、って、どこだ?」

「はい。あっち… あ、すみません。連れて行きます!」

盲人に「あっち」や「そっち」は通じない。具体的な場所を説明する必要がある。

ただ、場所を教えられても一人で行けるか?というと微妙な所だ。この職員が想定しているであろう椅子か済っこの辺りは、喋らないし音も出していないし、特別な匂いがあるわけでもない。もちろん、俺も触ったことが無いと思う。アヤたちと来た時にあるかもしれないが、連れられるがままだったので、把握していない。

その後、俺は客室とやらに連れて行かれた。カイムさんがいるらしい。

「手間をかけた。二人で話をする。帰りは俺が送るから、戻って良いぞ。」

「あ、はい。わかりました。ユーさんをよろしくお願いします。」

カイムさんは入り口で待っていたようだ。そして、そのまま俺は彼の部屋と思われる場所に連れて行かれた。

部屋は、畳12畳分ほどのサイズだった。

「よく来たね。用件だが、召喚石の調査の結果で良いかい?」

「あぁ。あと、トマの塔を超えたから、素材の追加もある。使えそうなものがあればと思ってな。」

「超えたというのは、執行者を一人で倒したのか?」

「そうだ。ちなみに報酬でこれを手に入れたぞ。」

俺は、「広雷の技本」をインベントリーから出して、テーブルに置いた。

「広雷の技本… か。まさか、習得させるのかい?」

「そのつもりだ。まぁ、無理ならダンジョンでゴーレムコア探しでもするさ。」

「そうか。だが、これなら儀式のピースに使える。」

「儀式?というと、カイムさん、召喚士じゃなくて、呪術師だったのか?」

「リーネのやつ、大事なことを伝えていなかったのか。俺は古式召喚を持っていて、先日彼女からも頼まれた所だ。」

「古式召喚か… 聞いたことはある。というと、解放の儀式ができるのか…」

「古式召喚」とは、「召喚士」から研究者寄りに派生したルートで、上級技能、レベル40相当に当たる。ちなみに、カイムさんのレベルを聞いたら50だった。

このルートの特徴を一言で言うと、「ブリーダーの側面を持つ召喚士」だ。召喚できるモンスターは基本的に幼体である代わりに、育成や進化を通じて好みのモンスターへと育て上げることができる。育成の手間がかかるため数を揃えるのは難しくなるが、質の高いモンスターが作り出せるのである。

「そうか。なら、儀式について説明しよう。その上で、解放のやり方を決めて欲しい。」

「いや、それなら解放の儀式で良いぞ。育成の手間がかかってでも、強いモンスターが欲しい所だからな。」

「即答か。そうまでして、君はモンスターに何を求めるんだい?」

「俺が求める役割はモンスターの殲滅だな。特に、近づいてきてくれないモンスターをどうにかしたい。」

俺は、トマの塔の中で考えていたことについて、改めて話した。

今まで、幸運にもそんな事態は引かなかったが、閉じ込め罠で遠距離から動かないモンスターと追いかけっこになったら、詰むしか無いのである。

「リーネから聞いていたが、ユーは軍師でもやっていたのかい?」

「軍師か。言われてみると、異人として軍師の真似事はしてきたかもな。この世界について、半年ほどは調べたし、その上で、俺は旅の準備をしてきたぞ。」

「なるほど。よくわかった。それで、話を戻すが、儀式に使用するアイテムを決めたい。」

「確か、儀式の時に、アイテムを選んで糧にすると、召喚されるモンスターに影響するんだったか。」

「その通りだ。5個まで選べるから、考えて… いるんだろう?」

「いや、さすがに解放の儀式は初耳だったからノープランだったぞ。少し考えさせて欲しい。」

まさかの儀式召喚ができることになった。確か、装備を与えるとその装備を身に着ける、あるいは、性質を受け継ぐんだったか。あと、技能書や技本なら、初期から習得できたり、将来の習得を予約できたりしたはずだ。

だが、その前に確認しておくべきことがあるだろう。それが知りたいから、ここに来たという側面もあるのだから。

「ところで、調査結果の方を知りたい。儀式で選ぶアイテムの参考にもしたいからな。」

「ふむ。なら、話をしよう。」

「雷霊鬼」が現れたのは、この大陸の四方に国家があり、ダンジョンで栄えていた時代の頃。

当時、トマのあった地域には、地下墳墓のようなダンジョンがあったそうだ。出現するモンスターは、スケルトンやゴーストが多かったが、オーガなどのア人種も混じっていたらしい。

しかしある時、落雷によってダンジョンの入り口が破壊… 中からモンスターが沸き出てきた。そして、落雷を吸収して現れたのが、雷霊鬼の当時の姿、「雷鬼」と呼称すべきものだった。

雷鬼は、吸収した力を存分に扱い、人々を蹂躙していった。また、当時の上級や特級冒険者が、これの討伐に動いたそうだが、撃退までしかできなかったらしい。

だが、ある時、以前よりも強大な雷が降り注ぎ、雷鬼はこれを吸収し切れずに滅んだそうだ。多くの書籍では天罰と表記されていた。

理由は、その後のダンジョンだ。地下墳墓だったのが地上にせりあがり、最終的に現在の塔型になってしまったからだ。なお、ダンジョンが異空間であることもそうだが、地下への入り口の類は一切見つけられなかったという…

その後、雷鬼については、歴史の一節には刻まれたが、当時の情報の大部分は失われてしまったらしい。というのも、ゴブリンやオーガの子供を雷属性に派生させていくと、それっぽい成長をすることがわかってきたからだ。

「話は以上だ。どうだ、参考になったかい?」

「地下墳墓か。なんで、無いんだろう?と思ったことがあるが、昔はあったんだな。」

「ん?地下墳墓ならサンバード海峡の先にあるぞ。君は、まだ行けないだろうが…」

「あぁ、もっと前には無いのか?ってな。迷いの森にゴーストは出るし、ヒッツのランダムダンジョンでスケルトンたちと戦ったこともある。だから、疑問に感じてな。」

「そうか。まぁダンジョンについては、正直よくわからない部分はある。」

「あとは天罰か。雷鬼なんて名前が付いていて、なぜ、雷で滅びたのか… だな。」

「読み取れる話だと、光であった、というのが有力だ?」

「その可能性も否定はできないか。だが、おかげで方向性は定められそうだ。」

俺は、入手した素材の名称や効果を思い浮かべながら、考えをまとめていった。その結果は…

  1. 「雷霊鬼」のボスドロップの中で1個しか出ていない「雷霊鬼の霊珠」。他に得られた素材としては角や霊粉などがあったが、たぶん、一番有効な素材だ。
  2. 今回持ってきた「広雷の技本」。対遠距離モンスターの決定版にしたいので、その素養を強く発現させるべきだろう。
  3. 報酬で出た「雷隕石」。単純に雷属性を強化してくれるはずだ。
  4. 同じく報酬の「雷憑依の棍」。「鬼に金棒」的なシナジーも期待しているが、プラズマスナイパーのような雷耐性持ちを処理するために使えるだろう。
  5. 同じく報酬の「纏雷の鉢巻き」。「ここまで雷に寄っているのに耐性装備って必要?」とは思ったが、落雷や天罰の話を聞いて、コレが無いと致命的な問題を引き起こす気がした。

「なるほど。では、儀式の場所だが… トマの塔の3層だったか?一緒に入って、そこでやるのはどうだ?」

「俺はかまわないぞ。あそこなら広いし、人にも見られない。あと相性も良いかもな。」

「それもある。あと、古式召喚の儀式は、あまり人に見せたい技術ではない。ユーさんは見たことが無いかもしれないが、けっこうハデなんだ。」

「そうか。ところで、報酬はいくら出せば良い?正直、素材を売り捌いても25万が限界だぞ。」

「Cに近いDランクだったか… ならば、その25万で引き受けよう。素材持ち込みであるし、有意義な研究にもなった。」

「感謝する。」

こうして、俺はカイムさんとトマの塔へ向かうことになった。