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「次が3層か。」
「ユーさん、どうかな?モンスターのいない塔を悠々と歩く感覚は?」
「いないではなく、ここまで来れない… だけどな。」
俺とカイムさん、そして、なぜかリーネさんまでついてきて、トマの塔に突入した。ちなみに、カイムさんのステータスも鑑定させてもらった。
名前: カイム
種族: 獣人(狐)
職業: 召喚士, 魔導師
性別: 男
称号: ギルドマスター
レベル: 50
体力: 108
魔力: 204
筋力: 78
防御: 60
精神: 186
知性: 132
敏捷: 78
器用: 90
技能:
適性: 上位古式召喚11, 上位戦杖術7, 戦脚巧術17, 魔法(土39, 水42, 風44, 炎34, 光53, 闇54, 月48, 木29, 治療32, 付与47)
技術: 広域索敵魔法18, 直感47, 危険感知38, 受身37, 魔力一体8, 定駆9, 心身安定8, 上級並列思考5, 鑑定53, 冒険者指導45
支援: 嗅覚強化, 握力強化, 視力強化(暗,遠,魔), 聴力強化, 森の心, 滝の心, 山の心, 獣の心, 剛体, 剛魔, 剛精, 世界知識, 看破, 識別
耐性: 柔軟, 毒耐性, マヒ耐性, 睡眠抵抗, 気絶抵抗, 精神異常耐性, 沈黙耐性, 石化抵抗, 凍結抵抗, 魔耐性, 即死抵抗, 物理抵抗, 魔法耐性
特質: 森の狩人, 覇者
レベル50ということは聞いていたが、やはり強い。
まずヤバいのは魔法能力。大量の魔力を必要とする古式召喚でも十全に扱えるだろう。また、属性魔法についても一通り収めているが、中級~上級の魔法がいろいろ揃っている。
そして、欠点でもある近接戦闘能力だが、わりとある。さすがに同レベル帯のガチな近接職相手だと厳しそうだが、自営としては十分だろう。脚技に特化した体術と、戦杖術を使い分けるスタイルらしい。
あと、称号が「ギルドマスター」だった。リーネさん、軽い乗りでギルマスを呼び出すとは…
なお、「仕事は大丈夫なのか?」と聞いたら、「ナザ島でも同様の事例が考えられるかもしれない、それはギルド的に放置できない」と言われた。もしかすると、リーネさんと似たような軽い人なのかもしれない。まぁ、儀式を頼む立場なので、止める理由は無いわけだが…
「トマの塔 3層に入りました。」
「条件を満たしたため、フィールドが変化します。」
そして、3層に入ったのだが… 何やら懐かしいゴロゴロとした音が聞こえる。
「アレが雷霊鬼か。」
「何あの筋力!直撃したら私即死だよ。」
「なるほど。確かに驚異だ。攻撃が大振りだから、確実に避けて倒せ… といった系統だろう。」
どうやら、挑んだことの無いパーティメンバーがいるためか、リーダーが俺じゃなくカイムさんになっているためか、また出て来たようだ。
「とりあえず、リーネさんは、これを四隅に置いてきてもらえるか?その後は、警戒しつつ遊撃で…」
「あ、魔引板かな?わかったよ。」
「ひとまず、お手並み拝見と行こうか。アーススライム召喚!ハイオーガマギファイター召喚!」
というわけで戦闘開始。
まず、この中で最速であるリーネさんには、途中から使われる雷に備えて避雷針設置を頼んだ。
そしてカイムさんは、土属性のスライムと、魔法戦士系のハイオーガを召喚した。ハイオーガの方は、さっきから塔の中で暴れまくっている強個体だ。
「ガァァァー!」
召喚されたハイオーガは、ドシンドシンと足音を立てながら、雷霊鬼に突撃していった。アーススライムの方も、ねちょねちょとした音を立てながら進んでいるが、足は遅そうだ。
では、俺も向かうとしよう。正直、あの2匹の方が格上なので負ける通りは無いと思うが、じっとしていてもただ雷を浴びるだけだからな。
一方、こちらはカイム…
話に聞いた雷霊鬼が目の前にいる。
鑑定の結果からも、ダンジョンに眠る記憶が再現されたものであるとわかる。もしかすると、雷鬼が天罰を受けて滅んだが、その時の未練のようなものが、こうして表面化しているのかもしれない。
鑑定したレベルは確かに30。だが、攻撃力だけ見れば、上級冒険者に迫る。
敏捷や器用が低いので、オーガ系統で見られる、力に任せた大振りを得意とするモンスターなのだろう。
なお、霊体の特性を持っている影響か、体力や防御力が低い反面、魔法攻撃力が高いようだ。
そして、雷鬼の金棒と、ハイオーガの斧が激しくぶつかった。やはり、あの金棒には実態があるようだ。
その後、ハイオーガは斧に魔力を込めて切りかかった。やはりレベル相応らしく、ダメージはしっかり入っている。
そして、スライムも到着。打撃と雷に強い耐性があるので、攻撃の要は潰せるだろう。
しかし、さっきから、ハイオーガ側が微妙に押し負けている。レベル差が20もあって、相手が肉体の無いモンスターであることを考えると異常だろう。
ユーから受け取った棍は、魔力で長さが変わる性質を持っていた。もしかすると、物理と属性の複合攻撃なのかもしれない。
おや?雷を纏って振り上げた。あれは!
「ハイオーガ送還!」
俺は急いでハイオーガを送還した。アレは受けてはいけない!
振りかぶった棍は、アーススライムに直撃… HPを60%も削り取っていた。
やはり、ハイオーガの送還は正しかった。スライムの耐性を貫通してあのダメージというと、ハイオーガなら武器で受けても即死するだろう。
ひとまず、創刊したモンスターの再召喚はコストが重くなる。なので、別のモンスターを召喚するか…
こちらはユー…
どうやら、あのバチバチとする金棒の打ち下ろしは、レベル50のハイオーガでも受け切れないらしい。幸い、転がって避ければ、そんなひどいことにはならないと知っている。
とりあえず、何かの手違いでカイムさんが標的にされたら大変だ。俺は、鬼に突撃し、攻撃を開始した。
戦闘の手段としては、前回と同じだ。時々ぽふってなるものを感じながら、浄気や纏土からのパンチをたたき込んでいく。ちなみに、魔弾鋼のナックルは用が済んだのでパージ済だ。
再びカイム…
目の前で、理解できないことが起こっている。だが、合点も行った。
ユーは、正面から雷霊鬼に挑み応戦している。金棒が直撃してもいるのだが、何だか、押し返すような力が生じており、効いている様子が見られない。
そして、雷霊鬼に浮かんでいる状態「真理の枷」が徐々に増えている。筋力や防御力が低下していくらしい。
リーネから説明を受けた時、「何を言っているんだ?」と思ったが、リーネも「理解はしたくない」といった顔つきだった。そりゃ、今目の前で起こっていることを受け入れるのには時間がかかるだろう。
雷霊鬼が振るう金棒には、よく聞くと風切り音が聞こえている。だが、本体の近くにいると、聴取するのは難しいだろう。聴力強化を使ってこの状態なら、ユーが聞き取るのは不可能かもしれない。
不意打ちとは、相手が認識できない攻撃だ。認識阻害ができるなら、正面からナイフを突き立てても成立する。その理論で言うと、盲人であるユーにはあらゆる攻撃が不意打ちになる。そして、それを技能で無効化しているのか…
おっと。思考も大事だが、こちらにもするべきことがある。目の前の鬼を倒して、儀式をすること、それが彼との契約だ。
この状況なら、回避能力と光属性のセイントバットが吉か。リーネが地上から遊撃しているので、上空から攻めないとぶつかるだろう。
その後、雷霊鬼は討伐された。検証が終わってしまえば、もはやレベル差の暴力だった。
そして、リーネさんとカイムさんにはエクストラ討伐報酬が出た。だが、3人だった影響か、はたまた初回ボーナスでないためか、報酬はそれぞれに2個ずつしか出なかった。
カイムさんが手に入れたのは、「幽鬼の召喚石」と「雷鬼の怨念」だった。「雷鬼の怨念」は、耐性を犠牲にする代わりに攻撃力を増すという尖ったアイテムだ。
一方、リーネさんが手に入れたのは、「幻幽の帯」と「雷隕石」だった。「幻幽の帯」は、装着すると幻を生み出す効果があるようだ。
「ふむ。必ず召喚石が手に入るということではないようだ。だが、ある程度は、素養に合致した報酬が選ばれるのかもしれないか。」
「それはあるのかもしれないね。金棒や召喚石が出たらどうしよう?って思っていたんだよ。」
さて。ここまで長かった気がするが、本命… 雷霊鬼の召喚だ。
そうだ。称号を「モンスターと戯れる者」にしておこう。
「ユー。確認だが、雷霊鬼の霊珠、広雷の技本、雷隕石、雷憑依の棍、そして、纏雷の鉢巻きを使って解放の儀式を行なって良いか?」
「そうだな。ドロップを確認したが、その5つを置き換えるようなものは無かった。それに、失敗した時は、ダンジョンでゴーレムコアでも探すさ。」
「では。解放の儀式を始める。リーネ。悪いが、ユーを端まで連れて行ってくれ。」
「ほ~い、ユーさん、こっちね~。」
「では。召喚石に眠る魂を開放する!」
カイムさんがそう宣言した後… 中央から音がした。
鋭い金属が突き刺さり、その後帯電した何かがうねうねと動いているような音になった。そして、そのバチバチうねうねしながら、何かが貯まっていくような音になり… いや、次元でも歪んだか?そんな感じの音になった。
その後、音は小さくなって行き、完全に聞こえなくなった。
「ギャギャ?」
そして、聞こえて来たのは、ゴブリンの子供?のような、甲高い感じの声だった。
「召喚石より 雷の幼鬼精 が誕生しました。」