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「召喚石より 雷の幼鬼精 が誕生しました。」
召喚されたモンスターは、「雷の幼鬼精」というらしい。この表記、精霊種になったのだろうか?
そんなことを考えつつ、俺は中央へと歩いて行った。
「ギャギャ!ギャー!」
(主人 蘇った 解放)
「は?」
こいつ、喋った…
いや、違う。トマの塔の最上層であったような、声が直接聞こえて来たパターンだ。
「あれ?ユーさん、どうしたのかな?」
「ん?リーネさんには聞こえなかったのか?」
「ギャギャー!」
(主人 言葉)
どうやら、俺にだけ言葉が伝わるような技能を使っているようだ。思い当たるのは… いや、鑑定するのが早いか。
さらに歩いていくと、手に触れる感触。人ではない、パサパサした何かだった。
「ギャー!」
(主人 こっち)
どうやら、雷の幼鬼精の腕のようだ。俺は触鑑定を試みた。
名前: 雷の幼鬼精
種族: 雷の幼鬼精
種別: モンスター・精霊・鬼
レベル: 0
状態: 正常
説明: 雷の力を司る精霊の眷属。幼い鬼の姿を取っている。
真理: ある夜、世界を夢見て地上へ登った鬼は、雷に打たれて絶命した。しかし、残された執念は雷を食らい、形を取り戻した。しかし、それは歪んだ形であり、最後には過ぎたる力によって再び地に眠った。正しき探求者により花開くことを夢見て。
体力: 3
魔力: 7
筋力: 6
防御: 4
精神: 7
知性: 4
敏捷: 3
器用: 4
技能:
適性: 槌術1, 魔法(雷1)
技術: 伝信1, 魔力操作1, 魔棍生成1
耐性: 吸収(雷)
特質: 精霊(雷), 半実半霊, 執着者, 幼体, 召喚体
槌術: 強撃
雷: 雷球, 通電, 広雷2
装備:
幽鬼の魔棍, 幽鬼の魔腰巻, 幽鬼の魔鉢巻
伝信:
説明: 対話することなく、自らの意思を相手に伝える技術。レベルに応じて、精度が向上。
魔棍生成:
説明: 魔力で棍を練り上げ、武器とする技術。レベルに応じて攻撃力や制御能力が向上。
吸収(雷):
説明: 耐性の一種。電気や雷に接触すると吸収し、自らの体力、魔力を回復する。
精霊(雷):
説明: 雷属性の化身。雷属性魔法の効果増幅(極大)、一部の技の効果変化、土属性特効、マヒ無効、MP自然回復増幅、HP自然回復縮小
半実半霊:
説明: 実態化と霊体化の特性を複合できる存在。必要に応じて実態化、霊体化が可能。
執着者:
説明: 思考特性の一種。高い集中力、精神力を有する半面、束縛を嫌う。
幼体:
説明: 成長特性の一種。基礎能力値が低下する代わりに、学習や成長が早まる。
「なるほど。伝信が使えるのか。なら、俺の言葉はわかるか?」
「ギャ?ギャー」
(伝信 わからない 言葉 わかる)
「わかった。これから、外の世界を旅していけば、わかるようになるぞ。」
「ギャー!」
(外 旅 したい)
「そうだな。俺の名はユーだ。そして、お前の名は、ブレイオでどうだ?」
「ギギャッギャ!」
(名前 良い ブレイオ)
「雷の幼鬼精 の名前が承認されました。」
名づけだが、ちゃんと承認プロセスがあるらしい。なお、「ブレイオ」は、「勇気」を意味する「Brave」から付けた。
こうして、俺は新しい仲間を手に入れた。では、さっそくではあるが、協力者の二人にも状況説明と、協力を願おう。放置しているしな。
「ユー。そろそろ良いか?その子、ブレイオ?についてだが。」
「待たせた。説明はするが、その前にブレイオ。この二人は協力者だ。話はできるか?」
「ギャ!」
(話 できる)
「わかった。俺はまず彼と話をするから、そっちのお姉さんと遊んでいてくれ。」
「ほほ~、私をお姉さんと呼ぶ?間違ってないけど。」
「ギャギャ!」
(お姉さん 話す)
「え?な 何これ。この子喋れるの!」
「伝信で、相手に考えを伝えられるようだ。だから、リーネさんも対話はできるはずだ。」
「え?あ~、そういうこと。わかったよ。」
ブレイオは、足音を立てながら駆けていった。俺がわかるように、あえて音を出しているのかもしれないな。
では、相手はリーネさんに任せて、俺はカイムさんに状況を説明するとしよう。
「カイムさんは鑑定はしたか?」
「いや、まだだね。解放されたばかりの召喚獣を最初に鑑定できるのは主人と決められている。名づけの兼ね合いだろう。」
「なるほど。結論から言うと、雷の精霊になっていた。幼体だが、既に雷吸収まで備えているから、上位精霊なんだろうな。」
「吸収… か。石板から、こんなモンスターに繋がるとは…」
「あと、そうだ。真理を持っていると、隠された歴史みたいな情報が得られるようでな。」
俺は、真理によって追加されたテキストを話した。
「そんなことが。雷鬼は本当に偶然の産物で、そして、今回導かれたのは、その時の執念が形を変えたものか。」
「少なくとも、ダンジョンに刻まれた記憶はそう言っているんだろう。尤も、いろいろな記憶が混ざっている可能性もあるけどな。」
「なるほど。古式召喚は、モンスターの方向性を定められる。だが、幽鬼の石板は、最初から、解放できるモンスターの方向性が定まっていた、とも考えられる。」
正直、精霊になるとは思っていなかった。個人的には、昨年のイベントで有名になったレイドボス「ライトニングオーガ」の子供だったら将来が楽しみだ… くらいに考えていた。
「それでユー。あの子を、どう育てるつもりだ?」
「当初の予定通り、俺が求めている役割をこなせるように育てる。ただ、レベル上げは少し後回しだな。幼体の内に地盤を整えろと言われているようだからな。」
「なるほど。召喚士として助言をするなら…」
「おっと。助言はうれしいが、実際にカイムさんとブレイオが交流してからにして欲しいな。話が通じるようだし。」
「ふむ。それもそうか。リーネ。代わってくれるかい?」
「え?ブレイオと話するのかな?いいよ。私も、ユーさんから詳しいこと聞きたいし。」
ということで、カイムさんをブレイオと話させることに。では、リーネさんにも状況説明を…
「ねぇ、ユーさん。なんで、技能があんなことになっているのかな?おかしくないかな?」
「何がおかしいんだ?」
「広雷2 だよ。もしかして、そこまで確認していないのかな?」
「未確認だったな。カイムさんとリーネさんの時間も借りているのだから、一人になってから確認しようと思っていた。」
「じゃ、言っちゃうけど。クールタイムを考えなければ最強最悪の攻撃魔法だよ。大威力の全体攻撃をして、自身の体力と魔力を回復だってさ。」
「は?」
俺は、広雷2の詳細を確認した。そして納得。
広雷2:
効果: 広域を包み込む雷を呼び起こす。敵と見なされた者は、そこから離れない限り、避けることは適わない。
デメリット: 使用時、自身にも雷属性のダメージを与える、または、味方に対しても雷属性のダメージを与える。前者の効果を選択すると、効果範囲に含まれる敵の数に応じて、受けるダメージが増加。この効果は装備による耐性を無視する。
どうやら、威力が増している代わりに、自身に雷が落ちるか、盛大なフレンドリーファイヤーを引き起こすようだ。
後者は、その辺の住民を巻き込みかねないので論外。あと俺が巻き込まれると、おそらく真理の枷が動く可能性もある。
なので、基本的に自身に雷が落ちる方を受け入れるわけだが、ブレイオには「雷吸収」がある。これは防具ではないので有効。つまり、デメリットを踏み倒すどころか、回復してしまうようだ。
「なるほど。となると広雷は、執行者トマのように、定期的にぶっ放しておいて、そうでない時は普通の魔法や棍でぶん殴る… というのが標準スタイルになりそうだな。複雑な指示が不要なのは都合が良い。」
「いやいや!幼体が執行者と同じ、というかそれ以上のことしているっておかしなことだよ!」
「じゃ、どうしろと言うんだ?俺は近づいて来ないモンスターの殲滅がしたいから広雷を選んだんだ。それを活用しない戦略を考える意味が無いだろう?」
「えぇと… それは、ほら、もっとマイルドな方法あるでしょう?」
「それに、リーネさんだって、同じ運用方法が思いついたんだろう?上級技能を扱うほど精通している先輩がベストだと思う方法なら、信じても良いと思うんだ。」
「確かにそう思ったよ。それにユーさんの役に立つというのもわかる。でもね?受け入れたくないことだってあるんだよ!」
「そういう時の解決策は 実線で試してみる だな。特定の技能が強いからと言って、それはブレイオ自身が強いことにはならないぞ。実際に戦ってみれば、いろいろ課題も見えてくるだろう。」
「的は得ているんだけど、それ、思考放棄って言うんじゃないかな?」
「それはそうとリーネさん。ブレイオと話をして、何か感じたことはあるか?特に、旅の仲間としてのことな。」
「えっと、急だね。」
「大事な育成計画だからな。先輩の実戦経験に基づいた感想は貴重だぞ。」
「そこまで持ち上げちゃうか~。う~ん、外の世界に興味があるから、あちこち見せてあげるべきだと思うよ。目立ってしまうだろうけれど、できれば街中でも召喚して同伴させるのが良いかな?」
「今は幼体だから、レベル上げよりも知識や体験が大事だと思っている。技能を育てるのも今の内っぽいしな。」
「幼体だと、そんな効果あったね。あぁ、でも、そうだ。住民を襲わないでね。」
「注意しよう。俺は旅を楽しみたいのであって、敵を作りたいわけじゃないからな。戦いたければ外をうろつけば良い。あっちから寄ってくるしな。」
「ユー。そろそろ良いか?」
リーネさんの話も聞いて、やはり、ブレイオにはいろいろな体験をさせるべきだと思った。まぁ俺の場合、最低限の注意事項だけ守ってくれれば放置することになるだろうけれど。
そして、カイムさんに呼ばれたので話を止める。
「カイムさん。どうだったか?」
「そうだね。助言についてはほとんど必要無さそうだが、召喚する場所については慣らしが必要だ。いきなり街中で放流すると、刺激が強過ぎて暴れる場合もある。」
「なるほど。つまり、 個室 → 周りに誰もいない広い場所 → パーティ単位で入れるダンジョン → 森 → 平野 → 街… といった感じか?」
「それが理想的だろう。尤も、モンスターによっては、途中はもう少し緩くても問題無いと思う。」
「わかった。ところで、召喚や送還について教えてくれ。召喚石は無くなったのだろう?」
「おっと。ブレイオ、主人にこれを渡してくれるかい?」
「ギャ!」
(貰い物)
とたとたと音を立てながら走って来たブレイオからアイテムを受け取った。
契約の証(ブレイオ):
種別: 大切な物
説明: 召喚モンスター「ブレイオ(現 雷の幼鬼精)」との契約の証。所有者は、対象モンスターの召喚、並びに送還を行なうことができる。
識別:
召喚: 対象モンスターをパーティメンバーとして召喚し、共闘させる。
送還: 召喚中のモンスターを強制的に送還する。一度使用すると、ゲーム内30分間、再召喚ができない。
帰還: 召喚中のモンスターに送還を促す。対象モンスターが従った場合に使用可能。
どうやら、儀式の過程でできたらしい。
説明通りなら、これで、俺は召喚や送還が行なえるようになった。また、ブレイオが帰還に応じてくれた場合であれば、クールタイムなしで再召喚ができるようだ。おそらく、一時的に引っ込めないといけない時の用途だろう。