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「ほ~ら、こっちだよ~。どうやったら追い付けるかな?」
(リーネ 早い)
ブレイオの召喚が完了した。
そして、俺たちは今、未だに塔の3層にいる。理由は検証のためだ。
なお、環境設定から、「副音声が有効な場合主音声を小さくする」をブレイオに対して適用している。ミニゴブリンと言うべきギャッギャとした声には飽きた… のではなく、単純に声が重なっていて分け分からなくなることがあったからだ。俺の耳はそんなに万能にはできていない。
「おぉ、伸ばすのは良いね。でもね、そんな大振りだと当たらないよ?」
(リーネ 消えた?)
「後ろからど~ん!」
(やられた~)
現在は、リーネさんと模擬戦… をしているのだと思う。能力差がひど過ぎて、じゃれているようにしか聞こえないけれど。
なお、ブレイオが体を張って追いかけているのには理由がある。リーネさんのような早過ぎて無理な相手を何とかするための決定打 広雷2 を使うMPがまだ無いからだ。「幼体」の能力低下がかなり大きいようだ。
(主人 リーネ 強い)
おっと、こっちに走って来たか。なら、主人として手を貸すとしよう。
「リーネさんはとても素早いんだ。ここにいるモンスターなんか置き去りにできるくらいにな。」
(リーネ 強い どうすれば 追い付く)
「追いかけても追い付けない時の対策は2つあるぞ。」
(二つ 方法)
「一つめは、相手が近づいてくるのを待つ方法だ。リーネさんも、近づかないといけないのだから、その時にやり返せば良い。だから、立ち止まっていても良いから、相手を見失わないようにするんだ。」
(リーネ 後ろから 来た)
「それは、ブレイオが追いかけるのに夢中だったからだな。訓練すれば、後ろ側に誰かいないかがわかるようになるぞ。」
リーネさんを追いかけて何とかするのははっきり言って無理だ。敏捷もそうだが、縮地や超反応など、素早く動くための技能をたくさん備えている。
よほどスピードに自信があるならともかく、今のブレイオには無理だろう。俺もブレイオにそんな戦い方は求めていない。
なお、「近づくまで待つ」も、リーネさん相手だと悪手だろう。リーネさんは手加減しているようだが、相手が動かないなら遠距離攻撃で狩るか、狩れなくても集中を乱して、そこに飛び込めば良いからだ。
「ユーさん。私相手に待ち狩を提案しちゃっていいのかな~?それができるのは君だけだと思うんだよね~。」
「近づいて来ないなら遠くから攻撃すれば良い、というやつだな。つまり、リーネさんはまだまだこんなもんじゃないんだ。何十年も戦っている大ベテランだぞ。」
(リーネ 最強 でも 強く なって やり返す)
「ところでユーさん。2つめの方法って、何かな?まさか、私より早くなる、なんて言うのかな?」
「そうだな。リーネさん。ちょっと離れた所に立ってくれるか?」
「おや?まさかユーさん。私に遠距離攻撃を当てるのかな?そんな技能無かったよね?」
「それは試してみないとわからないな。」
俺はインベントリーから砂の入った袋を取り出した。
「ん?何かな?それは?」
「この前の滝行の時に用意した盛り土だぞ。毎回魔法で集めるより、袋に詰めて出し入れするのが楽だと気づいてな。」
「ふ~ん。それでそれで?」
「リーネさん。砂を投擲するから、避けてみてくれ。」
「まさか、それ私に投げるの?それ、女の子にやって良いことじゃないと思うんだ!」
「俺も悪いとは思っている。が、敏捷的に頼めるのはリーネさんしかいない。それに、ブレイオのためだな。」
「う~ん、まぁいいや。でも、私に当てようだなんて無理だと思うな。ユーさん、自分の器用と技能を見てから言わなきゃダメだよ?」
「わかっているさ。」
ということで、盛り土から砂を掴むと、拡散するようにリーネさんに投擲し始めた。
「フフフ!ユーさん、方向合ってないよ~。ほ~ら、こっちこっち~」
(砂 投げる)
「お、ブレイオも投げるか。盛り土はこっちな。」
「あ!え!増えた増えた!そっちからも飛んでくるの!というか、ブレイオちゃんって砂は投げられるの!」
「おぉ、面白そうだ。混ぜてもらおうか!」
「いやいや!なんでカイムまで加わるのかな!それってずるくないかな!」
そして、ほどなくしてリーネさんは盛大に被弾。なお、リーネさんが対処できなかったのには、俺やブレイオに投擲系の技能が生えていなかった影響もあるらしい。無害な砂が舞い上がる砂漠のような扱いになったため、感知系技能が狂わされたようだ。
「うぅ、ユーさん、やっぱり頭おかしいよ。盛り土って、こんな使い方するなんて聞いてないよ?」
「それは悪かった。だが、砂がかからないようにするだけなら、正面に壁を出すとか、風の膜で包むとか、やりようはあっただろう。」
「あ… そうだよ!なんで私気づかなかった?」
「冒険者は、生きるために戦っているから、使える物は使うべし、と教わったぞ。砂だって、ダメージは与えられなくても隙を作るのには役立つ。それに、技能は有用だが、全てじゃない。その当たりも本に書いてあったと思うんだ。」
「そんな本… あれ?」
「読んだ記憶がある。だが、記憶が正しければ、それは冒険者向けの本ではなく、モンスターや動物の生態の本だったはずだ。」
「なら、生きるために知恵を活用しているという点では同じだな。ちなみに、砂袋はあと9つほどあるぞ。」
「ねぇ、カイム。ユーさん解体して、頭の中分析しようよ。きっと、素晴らしい研究材料が取れると思うな~。」
「以前、物理的に解体されたけどな。いや、解体される前に死に戻ったんだったか…」
「ハハハ、ユーの考え方の源泉には関心はあるが、それは許可できない。そもそも、この塔への同行を申し出たのはリーネ自身だ。それが招いた結果なのだから受け入れろ。」
その後、俺は砂を片付けた。集土を使えば、散らばった砂を山にすることができるのだ。そして、集水で少し水をしみ込ませれば、袋詰めも簡単である。
なお、同じ原理で、手などに付いた砂も取り払うことができる。リーネさんも、これを使って被弾した砂を落としていた。
「話を戻すな。ブレイオ。逃げる相手を何とかする方法の2つめは、逃げられないようにすることだ。逃げ道を塞ぐか、さっきみたいな物量で、逃げる意味をなくしてしまえば良い。」
(物量 強い 砂 必要)
「砂でなくても良いぞ。今回は砂を使ったが、砂を防ぐ手段を持っていると効かなくなる。だから、別の方法を考えるんだ。そうやって、いろいろ試すことが大事だ。」
(わかった いろいろ 試す)
そうして、昼から始まった俺たち3人によるブレイオ育成は夕方まで続いた。
名前: ブレイオ
種族: 雷の幼鬼精
レベル: 0
体力: 3
魔力: 7
筋力: 6
防御: 4
精神: 7
知性: 4
敏捷: 3
器用: 4
技能:
適性: 槌術4, 体術2, 魔法(雷4)
技術: 伝信11, 魔力操作6, 魔棍生成3, 浮遊2, 投擲2, 受け身3, 危険感知4
耐性: 吸収(雷)
特質: 精霊(雷), 半実半霊, 執着者, 幼体
槌術: 強撃, 受槌
体術: 強撃
雷: 雷球, 通電, 雷槍, 広雷2
装備:
幽鬼の魔棍, 幽鬼の腰巻, 幽鬼の鉢巻
昼から夕方までの訓練で、ブレイオは大きく成長した。正直言えば、技能増え過ぎである。
特に伸びたのは、対話に関わる「伝信」だ。レベルが上がると、語彙が豊かになってくるようだ。あとは知識を身に着ければ、具体的な対話もできるようになるかもしれない。
また、霊体化や実態化についても検証をした。
結果としては、「特別な理由が無ければ実態のままでいるのが好ましい」ということがわかった。霊体になると物理無効と浮遊特性が得られるのだが、浮遊の移動速度が遅いのと、武器による受けや体術が使えなくなるため、相手に魔法持ちがいるとサンドバッグにされるからだ。
あと、一種の装備制限があることもわかった。現在装備しているのは、ブレイオが霊体の時でも使えるよう、自身の魔力を練り上げて作ったものであるらしい。つまり、普通の武器や防具を装備させると、霊体になれる利点を潰すことになる。
「今日は助かった。多くの技能が学べたから、これからじっくり育ててみる予定だ。」
「そうすると良い。こちらも、良い資料が得られたから研究する予定だ。」
「そうだね。私もいろいろ参考になったよ。ちょっと頭も痛いけどね~。」
「ところで、ユー。育成が落ち着いたらどうする予定だ?」
「キトル山にでも行ってみようかと考えている。ブレイオを育てるなら、その辺りから始める予定だ。」
「そうか。もし、ナザ島の地下迷宮に挑むことがあれば、その時に経過報告を頼みたい。」
「わかった。」
トマの塔から出た所で、俺はカイムさん、リーネさんと別れた。
なお、ブレイオは現在帰還させている。塔のモンスターの経験値が高過ぎて、急速に育ってしまうからだ。幼体は、レベルが上がると消えてしまうはずなので、もったいないことになる。
その後、俺はギルドで食事を取り、ログアウトした。時間としては、まだ18時と早いが、俺には、やるべきことがある。
開いたのはまとめウィキ。自身のプレイスタイル決定のために使役・召喚系ルートは調べたことはあった。だが、現在のプランを選んでからは、モンスター育成は切り捨てて来たので、調べなおしが必要なのだ。
雷系の精霊や棍操作に関する技能… それから、古式召喚されたモンスターの進化と… あと、何かあるか?いや、召喚の基本も読み返すか…
その後、まとめウィキを漁った結果、「雷の幼鬼精」というモンスターのデータは見つけられなかった。「ゲーム内発見済モンスターリスト(イベント限定含む)」には載っていなかったので、誤記でない限り、俺の探し方の問題ではないと思う。ただ、類似したモンスターの情報から、以下の推測ができる程度には情報が集まった。
- 「幼体」が外れるのは、レベル10。
- 幼体を含む妖精、精霊系統の進化は、10,25,45,70まで確認。
- 雷属性の魔法は、威力や速度に優れるが、消費MPが多く、且つ、制御能力が未熟だと味方を巻き込むリスクが高い傾向がある。故に、MP増加と消費削減、魔力操作能力の育成が必須。
- 雷以外の魔法習得が可能なら、感電を期待できる水、ついで愛称保管になる氷。それ以外はお好みで。
- 近接戦闘の素養があるなら、育てた方が良い。実際に使う場面が無くても、進化させればベースが増える。ただポジションが安定しないのであれもこれもやるのはお薦めできない。
- 「槌術」は、短槌から長槌、大槌まで扱える。なお、伸縮する棍の使用や受けにも使うなどを考慮するなら、進化ルートは「中級槌術」安定。伸縮棍や受けが強い派生ルートはあるが、器用が低いと腐る。
- 土属性特効を持つ種族なら、最低でも跳躍、できれば浮遊か飛行は使いこなした方が良い。魔法の大半が地面から出てくるので、地面に足を付けるより被害を少なくできる。
- 雷属性の適性が強いと、索敵や空間把握の技能で、体表や大気中の電気を感知できるようになる。「感知型」に分類されるため、相手に逆探知されにくい。また幻覚や暗闇状態でも使用可能。
- 雷属性は水中での運用NG。理由は、効果範囲が広くなる代償として、本来の強みである威力が死ぬため。なお、当然のように味方も巻き込む。