本文
「森の安息地 イスタールに入りました。」
俺は E3 イスタールに転移した。
今日やるのは、ブレイオの知識方面の育成だ。図書館に個室があったと聞いているので、そこで本が読めるかを試してみる予定だ。あと、ここに来たのにはもう一つ理由がある。
「やぁ、ユーさん。久しぶり?ってほどでもなかったね。」
「その声は、アステリアさんか?」
そう。ウィキ住民としてフレンド登録をした総合生産職 アステリアだ。
石板入手後、チャットを飛ばしていたのだが、ようやく会うことができた。生産とお店の活動、それと、雷霊鬼に関する調査で忙しかったらしい。
「いや、あのチャットとSSには驚いたよ。何度ウィキを見返したことか… いや、鬼関係の動画まで見ちゃったよ。」
「俺はウィキだな。正直、E4に未発見モンスターなんているわけないと思っていたんだが…」
「あぁ、それなんだけど、トマの塔っていう場所が良くないっぽいね。」
どうも、トマの塔の3層や6層の幻影については、いろいろな手で検証されたが、結局わからなかったらしい。幻に特化した看破を用いてもわからなかったため、「ダンジョンギミック」扱いになったようだ。
なお、検証や看破の上級、特級持ちがいたら違ったかもしれない。が、「第4マップにそんな技能が必要だったら、中級でも反応くらいするはず」という判断なようだ。確かに中途半端でもある。
そして、「真理」は、中級看破よりも格上の技能らしい。「特質」に分類されているだけのことはある。
「なるほどな。それで、今日は予定していた図書館に行こうか。」
「そうだね。例のモンスターも見たいから。」
本当は街中でもブレイオを呼びたい。だが、刺激が強いとモンスターが暴れたり、引き付けられるものが多すぎて迷子になったりするそうだ。だから、今はまだ召喚は見送りだ。
「そういえば真理について、面白い情報があったよ。過去に習得者がいたらしいけれど、地雷技能扱いされていたんだ。」
「地雷?あぁ、デメリットか?」
「そう。斥候技能や幻影系が死ぬって。 納金じゃないと使えない! だってさ。」
「その理論で言うと俺は納金になるのか。」
「う~ん。君の技能、識別してもいいかな?」
「かまわないぞ。」
どうやら、真理の習得者自体は俺以外にもいたようだ。だが、その人たちはシナジーにしていた技能が潰されたせいでリビルドしてしまったらしい。
「う~ん。これは、近接戦闘特価?って感じだね。魔法もあるけど、魔力拳だから近接だね?回避じゃなく正面からの戦闘… 確かに納金と言われてもおかしくないや。」
「そうか。なら、これからは納金を名乗るとしようか。そういう称号もあったはずだ。」
「マッスルファイターだっけ?でも、知性が高過ぎて厳しいんじゃないかな?」
「体力、筋力、防御の総和が200以上、且つ、魔力、精神、知性の総和の3倍以上だっけか?ちょっと厳しいな。」
「あぁ、そんな感じだった気がする。まさか、本気で検討したのかい?」
「検討したことはある。だが、ソロだとゴーストや魔法系で詰むと知ったので止めた。」
そんな雑談をしていると図書館に到着した。なお、俺はアステリアの腕を掴んでおり、先ほど彼も鑑定させてもらった。
名前: アステリア
種族: 山エルフ
職業: 造形師, 錬金術師
性別: 男
称号: 中級生産者, 中級測定師
レベル: 35
体力: 27
魔力: 135
筋力: 49
防御: 9
精神: 108
知性: 99
敏捷: 18
器用: 162
技能:
適性: 中級木工13, 中級皮革13, 中級裁縫13, 中級錬金12, 中級調薬12, 中級測定7, 描画14, 彫刻13, 魔杖術3, 生産槌術4, 魔法(土25, 水25, 風25, 炎25, 光25, 闇25, 雷25, 氷25, 木25, 治療25, 付与25)
技術: 直感21, 魔力感22, 中級並列思考12, 魔力制御18, 高速解体6, 鑑定27, 精神統一10
支援: 生産術32, 視覚強化(暗、魔), 聴覚強化, 嗅覚強化, 触覚強化, 世界知識, 看破, 識別, 剛魔, 剛精, 剛護, 繊細, 森の心, 滝の心, 薬草知識, 素材知識
耐性: 毒抵抗, マヒ抵抗, 睡眠抵抗, 精神異常抵抗, 幻影抵抗, 暗闇抵抗, 沈黙抵抗
特質: 妖精人
さすが、ガチな生産職ビルドだ。防御と敏捷が壊滅している代わりに、魔法や器用など、生産技能に必要な能力がすさまじい。
そして、アステリアは「山エルフ」だったらしい。「森エルフ」よりも魔力系は低いが筋力や体力があるのが特徴だ。「皮革」や「木工」を取りたかったらしいので、そのためと思われる。
なお、ユニークな技能として「生産術」を持っていた。これは、各種生産技能の性能を向上させる効果があり、生産技能なら何でもOKというのが良い。例えば、今持っていない「鍛冶」を育てる際にも役立つだろう。
ただし、この技能の習得には5つ以上の生産技能が必要、且つ、レベルは、習得している生産技能をレベル順に並べて、5つめの技能レベルと同じになる特性を持っている。従って、この技能を生かすためには、5つの生産技能をバランス良く育てていく必要がある。彼が先日まで「錬金」に集中していた理由の一つだろう。
「ユーさん。本持ってきたよ。これでどうかな?」
「どうかな?と言われてもな。」
「失礼。墓嵐と鬼の物語、トマの塔の歴史、大陸地図帳、西の観光名所、最後に、槌術の基礎だね。」
「なるほど。俺は読んだこと無いが、良いチョイスじゃないか?」
「僕も無いよ。とりあえずジャンルだけ決まっていたのと、君が西地域まだって言ってたからさ。」
「だな。では、召喚するぞ。」
そして、俺はブレイオを召喚した。
(主人 ここは どこ? この 男は?)
「え?これが、例の鬼かい?」
「ブレイオ。ここは図書館だ。今日は本を読んで、いろいろ覚えられるか試そう。前の男はアステリアさんだな。」
(アステリア? 本 必要?)
「この人は、いろんな物を作れるんだ。今回は、一緒に本を読むのに協力してくれている。本を読むと、いろんなことがわかるから、外に出た時に役立つぞ。」
(わかった 本 読む)
「えっと… ユー。言葉がわかるのかい?」
「あぁ、伝信で、考えを伝えられるようだ。副音声が出る感じだな。」
「あぁ、なるほど。つまり、まだこっちには使ってないと?」
「ブレイオ、アステリアさんにも話しかけて良いぞ。あと、俺にも聞こえるようにできたよな?」
(わかった アステリア 仲間)
「うわ!頭にダイレクト!伝信って、動画で見たけど、リアルだとこうなるのか?」
「動画で見えるものなのか?」
「確か、吹き出しが出るんだったか。あぁ、環境設定の切り替え式ね。把握した。まぁ今は副音声で良いや。」
どうやら、伝信は副音声の代わりに吹き出し表示もできるようだ。話によると、マンガのように、声を発した人の頭上に文字が出てくるらしい。俺が選ぶ意味が無いので放置で良いか。
「それでブレイオ。これが本な。いろいろ書いてあるが、自分で読めるか?」
(文字 わからない)
「だろうね。僕が読もう。これくらい知性のあるモンスターなら、読み聞かせで言語が生えるはずだから。」
そして、アステリアは音読を始めた。ブレイオの隣で本を見せながらやっているようだ。
「どうだい?面白いかい?」
(お墓 荒らす 罰 当たる)
「そうそう。」
(鬼 味方? 敵?)
「お墓を荒らしている悪いヤツを退治しているのだから、鬼は味方寄りだね。」
(味方寄り?)
「まだ、敵か味方かを判断するには早いということだよ。それに、墓嵐のことを知らない人が見ると、鬼が人をただ襲っているようにも見えるのさ。それは、人にとって、鬼は敵になる場合がある、ということでもあるんだ。」
(まだ 早い? 人 複雑)
「そうだね。君が迷った時は、主人に聞くといい。主人なら、どうするか教えてくれるだろう。」
(主人 従う)
現在読んでいるのは童話だ。
墓嵐をして大金を得た愚か者が、欲望のままに次の墓へ挑んだら、墓守とされていた鬼の怒りを買って撃退される… という単純な話だった。
要約すると一言で完結するほど、鬼に対する描写が薄かった。むしろ鬼じゃなくて良いだろう?と言えるほどに。
そんな読書を昼まで続けた結果、ブレイオは自力で本が読める程度に知識を獲得していた。もちろん、世界知識も生えたぞ。
習得がスムーズだったのは、幼体としてのボーナスや、昨日の指導が生きていたこともあるだろう。
午後は、ソルットのプライベートビーチに向かった。やるのは、肉体系の技能訓練と、検証だ。
「ブレイオ。霊体になって、浮遊の訓練だ。早く飛べた方が良いからな。塔で追いかけまわされただろう?」
(追いかけられた 浮遊 早く飛ぶ)
「それじゃ、ブレイオは僕が見ておくよ。機材の準備と調整に時間かかるからね。」
そして、俺とブレイオは訓練に興じた。疾駆する俺に半霊体で捕まって飛んだり、シャトルランのように往復して、端にある砂を棍で叩かせたりした。
なお、アステリアが付いてきたのは、いわゆる見張り役だ。俺一人だと、霊体になったブレイオがどこにいるかわからなくなるからだ。
それと、ある道具を使ってもらうためにも彼にはついて来てもらっていた。
「では、ブレイオ君の適性測定を始めようか。」
これから行なうのは、「中級測定」と「魔力制御」複合で習得できる技「属性適合性測定」だ。要は、「習得が容易な魔法属性が何かがわかる」というものだ。
「では、ユーさん。魔法をブレイオに観察させるんだ。それを測定する。」
「了解だ。ブレイオ、見ているんだ。ただし、危ないから触らないようにな。」
(魔法 見る)
では、測定開始!
俺は、纏土から順に、現在使用可能な属性魔法を使っていった。なお、槍や波なども使えるものは見せたぞ。その結果…
「ふむ。雷意外だと… 闇が若干あるけど、残りは… 素養が無いレベルだね。闇も、かなり低いから、明確な理由が無いなら雷に絞るべきかな。」
「雷の精霊らしく、雷に特化白!ということか。」
「そうだね。幼体が取れたら結果が変わるかもしれないけどね。モンスター戦はまだなんだろう?」
「まだだな。必要な技能の準備が整ったら、N1で慣らす予定だ。」
残念ながら、ブレイオは雷と棍で暴れるスタイルになりそうだ。
「あとは技能か。今伸ばしている浮遊… あと、疾走と跳躍はいるか?」
「実態のまま自営するなら必要かもね。なら、ここで両方狙えるね?」
「というわけで、ちょっと走ったり跳ねたりしてくるな。」
その後、夕方まで訓練したことで、無事に「疾走」と「跳躍」を得ることができた。これで戦っていけるだろう。
「アステリアさん、今日は助かった。」
「いや、いいよ。有意義だった。それに、今度塔に連れて行く約束も取れたしね。」
「あぁ。こいつが20超えたらだから、少し時間かかるとは思うが。」
「かまわないよ。今はW5で生産技能育成中さ。できれば上級まで上げたい所だね。」
アステリアもがんばっているようだ。俺も、育成をがんばるとしよう。
名前: ブレイオ
種族: 雷の幼鬼精
レベル: 0
体力: 3
魔力: 7
筋力: 6
防御: 4
精神: 7
知性: 4
敏捷: 3
器用: 4
技能:
適性: 槌術4, 体術2, 魔法(雷4)
技術: 伝信15, 魔力操作6, 魔棍生成3, 浮遊4, 投擲2, 受け身3, 危険感知4, 疾走2, 跳躍2, 安定移動2
支援: 言語(人類), 世界知識
耐性: 吸収(雷)
特質: 精霊(雷), 半実半霊, 執着者, 幼体
槌術: 強撃, 受槌
体術: 強撃
雷: 雷球, 通電, 雷槍, 広雷2