08-06 N1 始まりの草原で戦闘訓練

改定:

本文

「ユー様、おはようございます。」

「おはよう、ナビー。今日は、北の出口から始まりの草原に向かう。先導してくれ。」

「了解しました。始まりの街 北出口から草原に向かいます。こっちです。」

今日からは、いよいよブレイオの実戦。向かう場所は、始まりの街の北だ。

「N1 始まりの草原に入りました。」

というわけで、ナビーの先導に従いやってきた。ゲームを始めた時、このマップからスタートしたんだったか。

「ナビー。この地域について説明してくれ。」

「始まりの草原 北部は、始まりの街と、キトル山とを結ぶ地帯です。キトル山までは安全に移動できる交通路が敷かれており、交通路から外れた領域にモンスターが生息しています。また、そのエリアには、疎らに木々や石碑があり、薬草や鉱物が採取できるようです。」

「なるほど。南や東と同じと言って良いのか?」

「はい。始まりの街を囲んでいる領域は、大きく違いは無いと記録されています。」

やはり第1マップ。シンプルな構造をしているようだ。

なお、まとめウィキによる出現モンスターの分布は以下の通りだ。

狼: 俺がゲーム初期によく戦っていたモンスター。

プヨどり: 南エリアで戦ったことのある、太っていて飛べない鳥。クチバシでつついてくる。

プチラビット: 東にも少しいたが、俺はエンカウントしていない。追い詰めると体当たりしてくるが、基本的には逃げるモンスター。

ビッグアント: 狼くらいの大きさのある蟻。体当たりや噛みつきで攻撃してくる。

スネーク: ただの蛇。草の中を這って移動しているため、索敵などが無いと見つけられない。おまけに、人が近づくと逃げる。「よく踏まれるから」という考察がされていた。

ということで、新種のモンスターはいない。一応、プチラビットが新種ではあるが、逃げる性質のため、俺は一度も触ったことが無い。

少し北へ進んだ所で、俺はブレイオとおくたんを召喚した。

「ブレイオ。モンスターの出現するエリアに入る。霊体化してついてきてくれ。おくたんは、いつも通り採集な。」

(ついてく)

「それとナビー。今回はプレイヤーや住民、モンスターなどが視界に入ったら知らせてくれ。」

「了解しました。」

今回は、近づいてきたモンスターを狩るわけだが、もしかすると住民やプレイヤーに遭遇することもあるかもしれない。彼らは、基本的に狩場が重なると不便だから近づいて来ないはずだ。だが、避けられる事故は避けるべきでもある。

そんな予防線も張りつつ、モンスターの出現するエリアに侵入し、徘徊を始めた。

そして、程なくして、第一モンスターをナビーが発見してきた。

「ビッグアントを発見しました。近づいてきます。」

「よし。ブレイオ。初戦闘だ。霊体のまま、思うがままにやってみろ。危なくなったら戻って来い。」

(戦う)

その数秒後、ビッグアントと思われる方向から打撃音がした。どうやら、浮遊して接近し、魔棍生成した棍でぶん殴っているようだ。

狩り効率を考えるなら、実態化してから棍で殴るべきだ。実態化しないと筋力、つまり攻撃力が低くなるし、魔棍の維持にはMP消費が必要だからだ。

ただ、今は安全第一で運用するべきだ。ブレイオはレベル0、且つ幼体だから、防御面が紙なのだ。正直、正面からの打ち合いだとビッグアントには勝てないだろう。

「ビッグアントを倒した。ブレイオは経験値を3獲得しました。」

ということで、物理無効を十全に生かし、5分ほど時間をかけつつビッグアントを殴り続けるブレイオだった。なお時間がかかったのは、魔棍生成の影響だ。MPが枯渇するので、回復を挟む必要があった。

何はともあれ、初勝利だ。レベルが上がるまでは、この地味な狩を続けるしかないので、淡々とこなしていくとしよう。

「プヨどりを倒した。経験値を5獲得しました。」

「ブレイオのレベルが3に上がりました。」

そうして、4時間ほど狩を続けた結果、ブレイオはレベル3に上がった。経験値にすれば89、モンスター換算で25匹ほどなのに、この状態。さすが幼体である。

なお、ブレイオが直接戦っていた数は12匹程度だ。残りは、俺の方に来てしまったので、こっちで処理した。

一応、ブレイオは俺の召喚獣… 一緒に戦闘した扱いにはなるので、俺が倒しても、ブレイオに経験値は入る。ただ、それでは戦闘経験や技能が育たない。「幼体」の効果も考えると、今は時間をかけてでもブレイオ自身に戦わせるべきだろう。

「どうだ、ブレイオ。戦い方は慣れて来たか?」

(理解 できた だが 弱い)

「そうだな。そろそろ行けるかもしれないか。ここからは、実態化して戦ってみるぞ。モンスターの攻撃を受けるようになるから注意な。」

(霊体 無敵 でも 実態化 必要?)

「確かに、ここなら実態化しなくても良い。ただ… そうだな。」

俺は、魂掴を使用して、ブレイオを捕まえた。

「俺は今、お前を掴んでいる。もちろん、攻撃することもできるぞ。引き離せるか?やってみろ。」

(捕まった! 腕 力 強い! 離せない!)

「そうだろう。世界は広い。霊体は無敵ではないんだ。それに、実態化した方が動きやすいはずだ。」

(理解 実態化 必要)

では、実態からの実戦だ。正直、幼体なのでかなり厳しいだろう。負けることもあると思う。

その1時間後…

「ピー!」

「召喚獣 ブレイオが戦闘不能になったため送還されました。」

ビッグアントは問題無く倒せていた。筋力が増えて、攻撃が素早くなった影響が大きいだろう。

だが、先ほどプヨどりにやられた。鳥のクチバシって、頭突きと同じようなモノだから、近接状態からだと受けにくい、と聞いたことがある。

とりあえず、そのプヨどりは向かってきたので倒して、俺は引き上げることにした。召喚獣の蘇生アイテムを持っていないし、持っていたとしても、「始まりの草原」で使うには出費が高過ぎる。本来は第3マップから店に並ぶ物だからな。

「実態化の戦闘訓練中にプヨどりにやられた… か。」

「そのようだ。レベル3だから仕方ない感じでもあるが。」

「そのようだ?はっきりしないのかい?」

「近くにいたのはプヨどりだけだから、おそらく間違ってはいないと思っている。」

「あぁ、認識外の何か?というより、ユーは見ていないからわからない… といった所か。だが、近くにいて巻き込まれていないのなら、その可能性は低いだろう。」

「たぶんな。異人はいなかったはずだ。」

俺は、ナザ島の冒険者ギルドにやってきた。始まりの街でも復活はできるが、ナザ島にはカイムさんがいて頼みやすかったからだ。

「ブレイオ。どうだ?調子は?」

(調子 好調 次は 負けない)

「その意気だ。だが、相手は選ぼうな。」

「そうすると良い。倒される経験も大事だが、無謀ではいけない。」

(カイム 感謝)

そんな話をしつつ、俺はブレイオを復活させてもらった。なお、復活料金は レベル×100p だ。ブレイオの場合 300p になる。

「ハハ。名を覚えられたか。ところでユー。幼体が外れるまで霊体で戦闘させる予定は?」

「無いな。霊体のままでは育たない技能もあるし、霊体が無敵だと勘違いされても危険だからな。」

「確かに。霊体は独特な特性だが万能じゃない。そもそもユーは、基本的に実態化させるって言っていたか。」

「その予定だ。俺が期待しているのは遠距離モンスターの殲滅だからな。そして、雷が効かない相手は直接倒すわけだが、そこで求められるのは、遠距離からの魔法に注意しつつ、懐に飛び込む速さと火力だ。そのいずれも、霊体では育たない。」

「殲滅と切り込み… か。そういう召喚獣は俺も扱うが、うまく決まると心躍るものだ。」

(主人 それ 楽しい?)

「楽しいと思うかどうかはブレイオが決めることだぞ。まぁ、いずれ、そういうことも経験させる予定だ。」

(わかった 主人 従う)

その後は、ソルットのプライベートビーチにやってきた。時間が15時を過ぎていたので、狩をするには微妙だったからだ。

そして、無限循環する特性を生かして、夕方までビーチを走り続けたのだった。

ブレイオは、俺について一緒に走ったり、浮遊でどこか飛んで行ったりしていた。自由に遊んでいたというなら、それはそれで良いだろう。幼体なのだし。

翌日も、同様に始まりの草原にやってきた。

「ブレイオ。モンスターを見つけたら、狩って良いぞ。鳥や兎は、まず魔法な。」

(棍 使わない?)

「鳥と兎については、近づいて戦うのは厳しいようだからな。蟻と狼は棍で戦ってくれ。」

(理解 戦う)

今日は、ブレイオ自身にモンスターを探させることにした。昨日はナビーに探してもらっていたが、考えてみれば、視界5メートルのナビーより、ブレイオの方が遠くまで見えているはずだからだ。

(モンスター 発見 狼 こっち来る)

程なくして狼を発見したブレイオは突撃。棍でぶん殴ってキャイーン言わせていた。

なお、「索敵」技能の取得も検討したのだが、今は見送りとした。基本的に襲ってきたモンスターだけ倒せば良いのと、たぶん成長の過程で生えるだろうからだ。

その4時間後…

「プチラビットを倒した。経験値を3獲得しました。」

「ブレイオはレベル5に上がりました。」

「ブレイオの技能 伝信 が規定レベルに達しました。」

「ブレイオの技能 伝信 が、 念話 に進化しました。」

「条件を満たしたため、ブレイオとの人語対話が可能になりました。副音声設定が変更されます。」

モンスターを100匹近く倒しただろうか… ようやくレベル5になった。

そして、対話していたらメキメキと上がっていた「伝信」がレベル20になった。

「主人、倒した!話せるようになった!」

ブレイオが人語で話ができるようになった。なお、これまで伝信で聞いていた声ではなく、押さなくて少し濁った感じの声だった。もともと「ギャーギャー」言っていた名残だろう。

「そうか。これからもよろしくな。」

「がんばる。強くなる。」

それと、進化した「念話」は、声を用いずに相手に語り掛ける技術技能だ。この技能を持っていると、「伝信」よりも高度な情報の伝達が可能だ。

ただし、相互通信をするためには、俺にも「念話」が必要だ。ただ、使役職以外で習得するのは難しかったはずだ。ダンジョン産の技能書が当たると良いが…