本文
「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日は、北の出口から始まりの草原に向かう。先導してくれ。」
「了解しました。始まりの街 北出口から草原に向かいます。こっちです。」
今日からは、いよいよブレイオの実戦。向かう場所は、始まりの街の北だ。
「N1 始まりの草原に入りました。」
というわけで、ナビーの先導に従いやってきた。ゲームを始めた時、このマップからスタートしたんだったか。
「ナビー。この地域について説明してくれ。」
「始まりの草原 北部は、始まりの街と、キトル山とを結ぶ地帯です。キトル山までは安全に移動できる交通路が敷かれており、交通路から外れた領域にモンスターが生息しています。また、そのエリアには、疎らに木々や石碑があり、薬草や鉱物が採取できるようです。」
「なるほど。南や東と同じと言って良いのか?」
「はい。始まりの街を囲んでいる領域は、大きく違いは無いと記録されています。」
やはり第1マップ。シンプルな構造をしているようだ。
なお、まとめウィキによる出現モンスターの分布は以下の通りだ。
狼: 俺がゲーム初期によく戦っていたモンスター。
プヨどり: 南エリアで戦ったことのある、太っていて飛べない鳥。クチバシでつついてくる。
プチラビット: 東にも少しいたが、俺はエンカウントしていない。追い詰めると体当たりしてくるが、基本的には逃げるモンスター。
ビッグアント: 狼くらいの大きさのある蟻。体当たりや噛みつきで攻撃してくる。
スネーク: ただの蛇。草の中を這って移動しているため、索敵などが無いと見つけられない。おまけに、人が近づくと逃げる。「よく踏まれるから」という考察がされていた。
ということで、新種のモンスターはいない。一応、プチラビットが新種ではあるが、逃げる性質のため、俺は一度も触ったことが無い。
少し北へ進んだ所で、俺はブレイオとおくたんを召喚した。
「ブレイオ。モンスターの出現するエリアに入る。霊体化してついてきてくれ。おくたんは、いつも通り採集な。」
(ついてく)
「それとナビー。今回はプレイヤーや住民、モンスターなどが視界に入ったら知らせてくれ。」
「了解しました。」
今回は、近づいてきたモンスターを狩るわけだが、もしかすると住民やプレイヤーに遭遇することもあるかもしれない。彼らは、基本的に狩場が重なると不便だから近づいて来ないはずだ。だが、避けられる事故は避けるべきでもある。
そんな予防線も張りつつ、モンスターの出現するエリアに侵入し、徘徊を始めた。
そして、程なくして、第一モンスターをナビーが発見してきた。
「ビッグアントを発見しました。近づいてきます。」
「よし。ブレイオ。初戦闘だ。霊体のまま、思うがままにやってみろ。危なくなったら戻って来い。」
(戦う)
その数秒後、ビッグアントと思われる方向から打撃音がした。どうやら、浮遊して接近し、魔棍生成した棍でぶん殴っているようだ。
狩り効率を考えるなら、実態化してから棍で殴るべきだ。実態化しないと筋力、つまり攻撃力が低くなるし、魔棍の維持にはMP消費が必要だからだ。
ただ、今は安全第一で運用するべきだ。ブレイオはレベル0、且つ幼体だから、防御面が紙なのだ。正直、正面からの打ち合いだとビッグアントには勝てないだろう。
「ビッグアントを倒した。ブレイオは経験値を3獲得しました。」
ということで、物理無効を十全に生かし、5分ほど時間をかけつつビッグアントを殴り続けるブレイオだった。なお時間がかかったのは、魔棍生成の影響だ。MPが枯渇するので、回復を挟む必要があった。
何はともあれ、初勝利だ。レベルが上がるまでは、この地味な狩を続けるしかないので、淡々とこなしていくとしよう。
「プヨどりを倒した。経験値を5獲得しました。」
「ブレイオのレベルが3に上がりました。」
そうして、4時間ほど狩を続けた結果、ブレイオはレベル3に上がった。経験値にすれば89、モンスター換算で25匹ほどなのに、この状態。さすが幼体である。
なお、ブレイオが直接戦っていた数は12匹程度だ。残りは、俺の方に来てしまったので、こっちで処理した。
一応、ブレイオは俺の召喚獣… 一緒に戦闘した扱いにはなるので、俺が倒しても、ブレイオに経験値は入る。ただ、それでは戦闘経験や技能が育たない。「幼体」の効果も考えると、今は時間をかけてでもブレイオ自身に戦わせるべきだろう。
「どうだ、ブレイオ。戦い方は慣れて来たか?」
(理解 できた だが 弱い)
「そうだな。そろそろ行けるかもしれないか。ここからは、実態化して戦ってみるぞ。モンスターの攻撃を受けるようになるから注意な。」
(霊体 無敵 でも 実態化 必要?)
「確かに、ここなら実態化しなくても良い。ただ… そうだな。」
俺は、魂掴を使用して、ブレイオを捕まえた。
「俺は今、お前を掴んでいる。もちろん、攻撃することもできるぞ。引き離せるか?やってみろ。」
(捕まった! 腕 力 強い! 離せない!)
「そうだろう。世界は広い。霊体は無敵ではないんだ。それに、実態化した方が動きやすいはずだ。」
(理解 実態化 必要)
では、実態からの実戦だ。正直、幼体なのでかなり厳しいだろう。負けることもあると思う。
その1時間後…
「ピー!」
「召喚獣 ブレイオが戦闘不能になったため送還されました。」
ビッグアントは問題無く倒せていた。筋力が増えて、攻撃が素早くなった影響が大きいだろう。
だが、先ほどプヨどりにやられた。鳥のクチバシって、頭突きと同じようなモノだから、近接状態からだと受けにくい、と聞いたことがある。
とりあえず、そのプヨどりは向かってきたので倒して、俺は引き上げることにした。召喚獣の蘇生アイテムを持っていないし、持っていたとしても、「始まりの草原」で使うには出費が高過ぎる。本来は第3マップから店に並ぶ物だからな。
「実態化の戦闘訓練中にプヨどりにやられた… か。」
「そのようだ。レベル3だから仕方ない感じでもあるが。」
「そのようだ?はっきりしないのかい?」
「近くにいたのはプヨどりだけだから、おそらく間違ってはいないと思っている。」
「あぁ、認識外の何か?というより、ユーは見ていないからわからない… といった所か。だが、近くにいて巻き込まれていないのなら、その可能性は低いだろう。」
「たぶんな。異人はいなかったはずだ。」
俺は、ナザ島の冒険者ギルドにやってきた。始まりの街でも復活はできるが、ナザ島にはカイムさんがいて頼みやすかったからだ。
「ブレイオ。どうだ?調子は?」
(調子 好調 次は 負けない)
「その意気だ。だが、相手は選ぼうな。」
「そうすると良い。倒される経験も大事だが、無謀ではいけない。」
(カイム 感謝)
そんな話をしつつ、俺はブレイオを復活させてもらった。なお、復活料金は レベル×100p だ。ブレイオの場合 300p になる。
「ハハ。名を覚えられたか。ところでユー。幼体が外れるまで霊体で戦闘させる予定は?」
「無いな。霊体のままでは育たない技能もあるし、霊体が無敵だと勘違いされても危険だからな。」
「確かに。霊体は独特な特性だが万能じゃない。そもそもユーは、基本的に実態化させるって言っていたか。」
「その予定だ。俺が期待しているのは遠距離モンスターの殲滅だからな。そして、雷が効かない相手は直接倒すわけだが、そこで求められるのは、遠距離からの魔法に注意しつつ、懐に飛び込む速さと火力だ。そのいずれも、霊体では育たない。」
「殲滅と切り込み… か。そういう召喚獣は俺も扱うが、うまく決まると心躍るものだ。」
(主人 それ 楽しい?)
「楽しいと思うかどうかはブレイオが決めることだぞ。まぁ、いずれ、そういうことも経験させる予定だ。」
(わかった 主人 従う)
その後は、ソルットのプライベートビーチにやってきた。時間が15時を過ぎていたので、狩をするには微妙だったからだ。
そして、無限循環する特性を生かして、夕方までビーチを走り続けたのだった。
ブレイオは、俺について一緒に走ったり、浮遊でどこか飛んで行ったりしていた。自由に遊んでいたというなら、それはそれで良いだろう。幼体なのだし。
翌日も、同様に始まりの草原にやってきた。
「ブレイオ。モンスターを見つけたら、狩って良いぞ。鳥や兎は、まず魔法な。」
(棍 使わない?)
「鳥と兎については、近づいて戦うのは厳しいようだからな。蟻と狼は棍で戦ってくれ。」
(理解 戦う)
今日は、ブレイオ自身にモンスターを探させることにした。昨日はナビーに探してもらっていたが、考えてみれば、視界5メートルのナビーより、ブレイオの方が遠くまで見えているはずだからだ。
(モンスター 発見 狼 こっち来る)
程なくして狼を発見したブレイオは突撃。棍でぶん殴ってキャイーン言わせていた。
なお、「索敵」技能の取得も検討したのだが、今は見送りとした。基本的に襲ってきたモンスターだけ倒せば良いのと、たぶん成長の過程で生えるだろうからだ。
その4時間後…
「プチラビットを倒した。経験値を3獲得しました。」
「ブレイオはレベル5に上がりました。」
「ブレイオの技能 伝信 が規定レベルに達しました。」
「ブレイオの技能 伝信 が、 念話 に進化しました。」
「条件を満たしたため、ブレイオとの人語対話が可能になりました。副音声設定が変更されます。」
モンスターを100匹近く倒しただろうか… ようやくレベル5になった。
そして、対話していたらメキメキと上がっていた「伝信」がレベル20になった。
「主人、倒した!話せるようになった!」
ブレイオが人語で話ができるようになった。なお、これまで伝信で聞いていた声ではなく、押さなくて少し濁った感じの声だった。もともと「ギャーギャー」言っていた名残だろう。
「そうか。これからもよろしくな。」
「がんばる。強くなる。」
それと、進化した「念話」は、声を用いずに相手に語り掛ける技術技能だ。この技能を持っていると、「伝信」よりも高度な情報の伝達が可能だ。
ただし、相互通信をするためには、俺にも「念話」が必要だ。ただ、使役職以外で習得するのは難しかったはずだ。ダンジョン産の技能書が当たると良いが…