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俺は、ナビーへ思考入力し、ギルドまで先導してもらいながら歩いて行った。
キトル村は、第2~第3マップに対応する巨大な山「キトル山」の南側の麓にある村だ。山越えをする旅人が準備をするための場所とされている。
村の中は、小鳥の声がよく聞こえる程度に静かだった。ブレイオが言うように通行人はいるのだろうが、たぶん、ミーミやヒッツのように、まばらにしかいないだろう。
そういえば、また畑の雑草刈りクエストがあるかもしれないな。畑の中央で広雷… は止めておこう。そういう動画があった記憶はあるが、今のブレイオの制御能力だと、他の畑が巻き込まれそうだ。
おや?金づちで何かを打つ音がする。鍛冶屋だろうか?
「キトル村 冒険者ギルドに到着しました。入り口は閉じています。こっちです。」
周囲の音を感じながら歩いていると、ギルドに到着したようだ。
「ブレイオ。いるか?」
「いる。建物、いっぱい!」
「畑や人はどうだったか?」
「見た。畑、長い草、いっぱい。」
「そうか。では、まずはこの建物に入るぞ。ついて来い。」
「わかった。ついてく。」
では、冒険者ギルドへ突入…
杖で触れた入り口は木の扉だった。ただ、杖で触れただけで扉が内側に少し動いた。ちょうど、出てくる人でもいたか?
そう思ったので、少し下がって様子を見たが、出てくる人はいなかった。あっちも遠慮しているのか?なら、先に通るとしよう。
俺は、扉に手で触れた。それでわかったのは、出てくる人がいたのではなく、この扉自体が軽い力で開閉できるものだった!ということだった。手や体で押せば、押した方向に開く、そして、手を離すとゆっくりと閉じていく。錘でも仕込まれているのだろうか?
「えっと… いらっしゃいませ?こちら、冒険者ギルドです?」
扉を開けたので直進した所、声をかけられた。たぶん職員だと思うのだが、疑問形だった。何かおかしなことでもあっただろうか?
「何かあったか?」
「えぇと?本日は、依頼でしょうか?」
「俺は冒険者のユーだ。図書室と食堂の利用、あと素材を卸したい。」
「あ、そう… でしたか?えっと、案内しますね?」
どうやら、盲人がやってきて何用?という感じだったようだ。
「えっと、素材の買取りは右奥でやっていますよ?それから食堂は左側です?」
「わかった。それで、図書室は使って良いか?」
「え?その、図書… は、希望する本があればお持ちしますよ?」
「あぁ、悪いが図書室は直接行きたいんだ。」
「え?でも、こちらには、その、読める本は無いと思うのですが…」
どうやら、このギルドでは、図書室の本を建物内限定で持ち出し可能であるらしい。
ただ、残念ながら、俺に用があるのは図書室そのものだ。目的は本を読むことではなく、ナビーをアップデートすることだからだ。
あ、そうだ。俺が読むのではない理由があれば良いか…
「あぁ、後ろのこいつに本を読ませたいんだ。言語も知識も問題無いぞ。」
「え?あぁ、従魔でしたか?それでしたら、利用してもらってかまいません?ですが、本は大事にして下さいね?」
もしかして、この人は、とりあえず疑問形で返したくなる人なのかもしれない。あるいは新人さんだろうか?
その後は素材の買取り、図書室、そして最後に食堂に入ることができた。結局、ナビーの先導に従って自分で行ったわけだが…
なお、今日の素材買取りの代金は、930pほどだった。始まりの街から、まっすぐ北上してフィールドボスを倒しただけだったからだ。ブレイオ育成中は、一日で8000p以上稼いでいたので、今日の稼ぎが少なくても問題は無い。
「ブレイオは、食べたい物はあるか?無いなら、今日も同じ物を食うぞ。」
「よくわからない。主人と同じが良い。」
「そうか。まぁ俺もよくわからないから、一緒に食ってみようか。」
召喚獣であるブレイオは、食事はしなくても活動可能である。理由は、召喚時や大気中の魔力を糧にしているからだ。
ただし、一日につき、 満腹度換算100% に相当する食事を与えることは可能だ。満腹度は無いが、HPやMP、スタミナなどの回復を促進したり、食事に含まれるバフを得たりすることができるのだ。食べた物が、魔力などに変換されているらしい。
また、特定の食事を一定量与えるなどの条件が、モンスターの進化先を増やすことに繋がる場合もある。あとは数値化されている情報ではないが、モンスターからの好感度、あるいは、親密度も変動しているらしい。
ということで、ブレイオを召喚するようにしてからは食事も与えている。ただ、ギルドの食堂でブレイオを出すのは今回が初めてなので、それまでは携帯食や、ソルットで買い貯めしていた串焼き等を与えている。
今夜の食事は、茸と野菜の天ぷら、それから厚焼きパンだ。茸料理があるのは、この先の山で取れるからだろうか?
天ぷらは、潮をかけただけの味付けで、わりと塩が強めだった。温熱コップで温めた水と一緒に食べると、ちょうど良い感じになった。
その後は、このN2での予定を検討してから、ログアウトした。以下のことをやる予定だ。
- 薬草の仕分け、及び、畑の雑草刈りの依頼が出ていたのでこなす。
- 茸の洗浄依頼が出ていたので、こなすのに問題無ければそれもこなす。
- キトル村の店 (武具屋、雑貨屋) を観光し、キトル山攻略の準備をする。
- キトル山で、ブレイオの進化を目指す。目標レベルは 11~12 辺り。
- 条件が良いダンジョンがあれば突入、踏破する。
- N2フィールドボスを倒して、次のマップへ進む。
「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日は依頼をこなす予定だ。貢献度はいくらでも欲しいからな…」
ということで、依頼の受注処理をしようとしたのだが…
「ユー様。薬草の仕分け、畑の雑草刈り、そして、茸の洗浄依頼ですが、現在は受注できないようです。」
他の冒険者が受注してしまったのだろうか?それも、けっこうピンポイント気味に…
まぁ、そういうことがあってもおかしくはない。貢献度稼ぎ、特定の技能の育成などだ。俺が、実際にそれを期待していたわけだし。
とりあえず、ギルドの受付に行って状況を聞いてみよう。としたのだが…
「おや?昨日の兄ちゃんか。」
「えぇと… 素材買取りの?」
「そうそう。突然現れたってことは、兄ちゃん異人だったか。」
昨日、素材の手続きをしてくれたおっちゃんに声をかけられた。まぁこっちとしても都合が良いか。
「あぁ。今日受けようと思っていた依頼が受けられないという話を聞いてな。」
「おっと、すまねぇが、依頼だったら、あと2時間くらい待ってくれ。今、村中を周って依頼の確認をしているはずだ。」
「なるほど。この時間帯で依頼の確認をして回っているのか。」
「いや、普段はもっと早いぜ。だが、担当のやつが寝坊しちまってな。」
どうやら、今は受注手続きそのものが止まっているようだ。ギルド職員と思われるNPCでも、寝坊することってあるんだな… いや、もしかして常習犯のパターンか?
「なるほどな。なら、ひとまず村中を観光するさ。」
「そうか。と言っても、ここにあるのは山超えのための武具や、雑貨を扱っている店だけだぜ。」
「かまわない。俺も山越えは予定しているからな。」
「山に挑むなら、一つ忠告だ。茸を採取するだろうが、スライム茸に注意してくれ。素手で掴むと溶けるからな。」
「スライム茸か。ゴーレムに採取させる予定だが、気をつけるとしよう。」
スライム茸とは、毒茸の一種だ。粘性のある表面に触れていると、手に溶解ダメージを受けてしまう。ただ、おくたんなら「再生」技能持ちなので大丈夫だと思う。
では、予定の前倒しになったが、村中の観光を始めよう。と言っても、ここにある特殊な施設は、冒険者ギルド、武具屋、雑貨屋、旅人用の大型宿の4種類だけだ。残りは民家と畑、それと生産職用の施設である。
なおまとめウィキ情報では、宿についても、「寝床がある」だけの施設らしい。冒険者ギルドから直結しているため食堂も無く、純粋に個室がたくさんある作りなのだそうだ。「モンスターと戯れる者」のような個室が必要な技能や称号の習得には役立つが、今の俺には要らない。