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ギルドを出た所で、ブレイオを召喚。その上で、ナビー先導の元、武具屋へ向けて歩き始めた。
早朝の村の中は、やはり静かだった。人はいるのだと思うが、話声の類は聞こえていない。一人で畑を耕したり、村の外へ向かっていたりするのだろう。おかげで、時より拭く風の音や、鳥の声がよく聞こえる。
「ユー様、武器屋に到着しました。入り口は開いています。こっちです。」
歩き出して1分かからなかった。まぁ、村だし、当然ではあるか。
そのまま、ナビー先導の元、武具屋へ入った。入り口は確かに開いており、踏み固められた土から1段上がった木床になっていた。
しかし、中は静かだった。鍛冶の音も聞こえていない。
「誰かいるか?」
「ここは武具屋だ。」
横から声が聞こえた。人はいたらしい。
「この店で扱っている武具は鉄や山の木材で良いか?」
「合っている。」
やはり、第2マップの武具屋。装備の置き換えに至る物は無いようだ。あったら皆買うだろう。
ただ、一つ試しておきたいことはあった。
「わかった。鉄のメイスを1本欲しい。」
「勝手に選べ。」
どうやら、ぶっきらぼうなおっちゃんのようだ。
「ブレイオ。鉄のメイスがあるらしいぞ。使えそうか見てみろ。」
「主人。武器、探す。」
ひとまず、探すのはブレイオに任せる。俺には探せないからな。
「それと、武具の耐久度回復はできるか?」
「必要無い。」
「それは、俺の装備は回復不要ということで良いか?」
「合っている。」
どうやら、回復不要なようだ。考えてみると、始まりの街からまっすぐこっちに来て、ボスを掴んで投げただけだったな。耐久度が減るような要素が無かったか。
その後、ブレイオが1本のメイスを持ってきたので、それを購入した。
鉄の短メイス:
種別: 武器・メイス
説明: 全鉄製の打撃武器。シンプルな構造故、頑丈。柄が短い。
価格: 2000p
槌術の適性のあるブレイオは、「槌」系統の武器の装備が可能だ。普段は魔棍の生成をしているが、魔力を割けない場合には物理的な武器を持つことも一考の余地がある。使わない時は俺のインベントリーに入れておけば良いからな。
ただ、今回はどちらかと言うと、槌術の育成のために使いたいので、頑丈で安価な鉄製メイスを選択した。本物の武器に対する理解を深めることも、技術の育成に必要だからだ。
なお、ブレイオに聞いた所、鉄のハンマーや長メイスについても観察したようだが、持ち上げるのは難しかったとのこと。「幼体」のため、まだ筋力が低い影響だろう。
「ナビー。雑貨屋に向かう。先導してくれ。」
「了解しました。雑貨屋の入り口は閉まっています。こっちです。」
続いて雑貨屋… と思ったら、武具屋の斜め前だったらしい。まぁ、楽なのは良いことだろう。文句は無いぞ。
そのまま近づいて行き、扉に杖で触れた。こちらは、勝手に開くタイプではなかった。取っ手を横に引くタイプだった。
「いらっしゃい。」
中に入ると、横から声がした。店員だと思われるが、あっちから声をかけてきたので、武具屋のおっちゃんよりは話をする人かもしれない。
「冒険者のユーだ。キトル山を登るために必要な物資を揃えたい。」
「各種ポーション類、テント、非常食、煙玉辺りで良いかな?」
「だいたい合っているぞ。それと、山で採集できるのは、茸や薬草、木材、あと川で魚や石材だったか?」
「そうだね。君は川にも入るのかい?」
「俺は入らないが、採集のできるゴーレムがいてな。水泳も付けているから、入れると思っている。」
「ゴーレム?あぁ、ダンジョン産の。それなら大丈夫かもね。」
ちゃんと話ができる店員で良かった。いや、武器屋のおっちゃんも受け答えはまともではあったけれど。
その後、登山に必要な物資を買い揃えた。結果、インベントリーは以下の通りとなった。
インベントリー (通常アイテム):
ポーション X 20
MPポーション X 40
毒消しポーション X 20
安定ポーション X 10
魔払いポーション X 10
高級携帯食 X 10
串焼き X 10
ドライフルーツ X 10
テント X 4
煙玉 X 10
脱出の札 X 1
採取用手袋 X 4
松明 X 20
魔除けの葉 X 100
修復効果付き魔引板 X 4
布マスク X 3
浄水筒(小) X 1
発熱コップ X 2
冷却コップ X 2
乾燥扇 X 1
ダンジョン発見機 X 1
木製テーブル&チェアセット (3人用) X 1
盛り土用砂入り袋 X 10
インベントリー (貴重品):
冒険者証 X 1
旅人の鍵 X 1
ゴーレムコントローラー (おくたん) X 1
解放の証 (視覚) X 1
契約の証 (ブレイオ) X 1
インベントリー (装備品):
ゴブリンキラーグローブ X 1
炎の鉄拳 X 1
魔弾鋼のナックル X 1
白木の杖 X 1
樫の杖 X 1
鉄の短メイス X 1
雷の杖 X 1
耐海武術着 X 1
甲羅ヘルム X 1
とりあえず、俺とブレイオが4日間活動できる量を想定した。場合によっては、ダンジョンに2日ほどこもる可能性もあるからだ。
なお、他にも山で使うための敷物や松明、水なども売られていた。だが、ナビーは山の中でも問題無く使えるし、テントを張った後はログアウトするので、そこまで多くの用意は要らないだろう。
その後は、用事も済んだので冒険者ギルドへ移動した。入ってからナビーに問い合わせた所、薬草の仕分けと雑草刈りが復活していた。
「あ、昨日の人?えっと、本日は、どのようなご用で?」
「薬草の仕分け依頼を受けたい。鑑定はあるから対応できると思う。」
「え?あ、仕分けですね?えっと… 少々お待ちください?」
受付は、昨晩と同じ疑問形の多い職員だった。とりあえず待てと言われたので待つ。
「お待たせしました?こちらの方に連れて行ってもらって下さい?」
「私が仕分け担当だよ。じゃ、連れていくから、あとは宜しく。」
仕分けの人は、若い男性だった。そして、俺とブレイオは奥まで連れて来られた。
「それで、君は仕分けは初めてかな?」
「他の冒険者ギルドでは受けたことはあるが、ここは初めてだ。分け方に何か違いはあるか?」
「経験者ね。品質はどの程度まで鑑定できるかな?」
「10段階だな。」
「了解。なら、 1から3, 4から7, 8以上 の3つに分けてよ。」
「わかった。分けた薬草はどこへ入れる?」
「薬草の近くに箱があるから、そこに入れといて。今は全部の箱が空っぽだから、好きに使って良いよ。」
ひとまず、薬草の分け方は他と同じで良さそうだ。
「了解だ。他に注意することはあるか?」
「そうだね。もし、鑑定できない薬草が混じっていたら、それは別に分けておいてよ。」
「薬草知識を持っているから、たぶん識別できるぞ。とりあえず、そういうのは別に分けておくな。」
「あぁ、持っているんだ。でも、分け方はそれでお願い。どうせ、そんな特殊な薬草はお薬には使わないし。」
必要な確認もできたので、俺はさっそく仕分けを始めることにした。薬草の山、箱を確認したので作業開始だ。
「ブレイオは、まずは薬草を眺めていてくれ。いろいろな薬草があるのを知ることは必要だからな。」
「わかった。手伝うこと、無い?」
「そうだな。なら、観察していて何か発見したら教えてくれ。あと、山からこぼれた薬草があったら、山に戻すんだ。」
「わかった。手伝う。」
そうして、ブレイオにこぼれた薬草の処理をさせつつ、仕分けを進める。
「薬草知識」が生える前にも、鑑定不能な薬草がいくつか出てくることはあった。こうした薬草が出てくるのは、採集した冒険者の間違いであったり、価値ある物として別途持ち込まれたりするからだ。別途買い取ったはずの薬草が山に紛れているなんておかしな話でもあるが、品質判定の都合もあるため、結局ここに持ち込まれる… などの事情もありそうだ。
「主人、変な草見つけた。」
「ん、どれどれ?あぁ、これは… 渇き草だな。素材として使う草だ。1つだけか?」
「他には見えない。」
「なら、別に分けておくか。」
そんな話をしながら、2時間ほどかけて、薬草の山を4つ捌いた。
途中で、「呪われた水〃草」が出てきて、ブレイオが掴んでしまった時には驚いた。しっかりブレイオの手に吸い付いたので、浄化して落としたぞ。なお、件の薬草は「清水草」という素材に変化したので、別枠に分けておいた。
「今日は助かったよ。特殊薬草も出て来たみたいだね。」
「そうだな。ところで、1つ呪われた草もあったぞ。浄化しておいたが、何か呪われるような出来事でもあったか?」
「う~ん… どうだろう?山に出てくるダンジョンで採取した草じゃないかな?」
「なるほど。それなら仕方ないか…」
「そうだね。報酬だけど、この辺りでどうかな?」
「渇き草、清水草、温か草か。これ、混じっていた草3点セットじゃないか?」
「そうとも言う。回収してくれると、ちょっと助かるなぁ… ってさ。」
「俺は生産職じゃないから、素材をもらっても、すぐに売り払うと思うけどな。」
「それと、魔力草と毒消し草を15本付けるよ。どうかな?」
「まぁ、良いか。ただ、このギルドで薬草を売ることになっても文句は言わないでくれよ。」
そういえば、これらの薬草の引き取り先に都合の良い相手がいたな。今度、彼に会った時に押し付けておこう。「1つだけあっても…」とは言われそうだが…
なお、もらった3つの草素材は、買うと600pほどするので、薬草を束で渡されるより高額だったりする。特に、「呪われた水〃草」からできた「清水草」は、ちょっと特殊な素材として使えるだろう。
続いて畑の雑草刈り。受注手続きをして、さっそく畑に向かった。
「ブレイオ。ここにある雑草を刈り取るぞ。」
「雑草?どうやって?」
「とりあえず、思うがままに雑草を攻撃してみると良い。それで刈れるはずだぞ。」
「わかった。」
「あ、ただ、広雷は勘弁な。他の植物も巻き込んでしまうから。」
ということで、俺、おくたん、ブレイオで手分けして畑に突撃…
俺とおくたんは前回と同様、駆け回りながら切り刻んでいった。実は、こういう雑巾がけは少し癖になっていたりする。
一方、ブレイオは、魔法や鉄のメイスでぶん殴って破壊していた。雑草とはいえHPがある世界。斬撃の方が効くが、打撃でも雷でも、がんばれば滅ぼせるのだ。
「主人。疲れた~」
「お疲れ様だ。休んでいて良いぞ。もしくは、畑の中を散歩してみると良いかもな。」
ただ、まだまだ幼体のブレイオには、畑の雑草刈りは厳しかったようだ。2面目に入ったのだが、スタミナ切れとのことで、休憩してもらった。
「ブレイオ。どうだったか?」
「疲れた~。でも、楽しかった~。」
「そうか。明日は山登りだ。」
「山、楽しみ!」
畑3面を処理したら夕方になっていた。なので、食堂で飯を食って、本日はおしまい。なお、労働の後に食したのは、鶏肉、野菜、山菜を煮込んだ鍋だった。