本文
「ユー様、おはようございます。」
「おはよう、ナビー。今日は、キトル山へ向かうぞ。先導してくれ。」
「了解しました。キトル山はこっちです。」
俺はブレイオを召喚し、ナビー先導の元、北上を始めた。ブレイオにもいろいろ経験させられたと思うし、そろそろ、1回目の進化と行きたい。
「N2 キトル山に入りました。」
そうして歩いていると通知が入った。まだ道は平だが、領域としては、ここからがキトル山なようだ。
「ナビー。この山について、ギルドで得た情報を説明してくれ。」
「はい。これから進むのは、山の頂上に向けて敷かれた山道になります。山道の道幅は10メートル程度あります。その外側の道は整備されておらず、まばらに木々や石柱があります。その地帯からは、木材や山菜、鉱物などが採集可能ですが、モンスターもその領域に住み着いています。」
「そうか。山道はまっすぐに続いているのか?」
「いいえ。山道は蛇行しつつ頂上に続いています。蛇行する原因としては、開拓が困難な地域であったり、モンスターの群生地であったり、途中に存在する川を超えるための橋を設置するためであったりする、と記録されています。」
「山道から外れて歩く際に注意することはあるか?例えば、地面が滑りやすいとか、川や谷があり、落下したら大変だとかな。」
「はい。山道から外れて移動する際には、土が柔らかいため滑りやすいことが注意されています。この山に谷はありません。また川は、流れは穏やか、且つ、浅井ため、落下しても致命的な問題は起こらないそうです。」
うん。川でびしょぬれになるとか、まんがいち溺れて死ぬとかについては自己責任というやつだろう。そもそも、住民すら死に戻りのある世界だから、その辺りの認識が軽いのかもしれない。
とりあえず、深く考えないなら、山道に沿って進んで行けば問題無さそうだ。とはいえ、今回はレベル上げと探索も兼ねているので、低層を徘徊して狩りの予定だ。
では、必要なことも聞けたことだし、さっそく進んで行こう。なお、この山で出現するモンスターは以下の通りだ。
ポイズンスネーク: 毒持ちの蛇。ルーカスと挑んだ「植物と爬虫類の坑道」で出て来たヤツの正式な出現地域。
さまよう茸: 同じく「植物と爬虫類の坑道」で遭遇した、毒の胞子を持つ歩き回る茸。
マウンテンモス: 昆虫系に分類される拳サイズの蛾。吸血攻撃をしてくる。出現率が高いため、嫌なら虫除けの使用が推奨されている。
トレント: モンスター化した木。木に近づくと敵対化し、木や風属性の魔法で攻撃してくる。なお、自身は動けない。
山狼: 山に住んでいるだけのただの狼。第2マップだと1匹で飛び掛かってくる。
マッドフォッグ: 中層以降で出現する狐。木々の隙間から土属性の魔法で攻撃してくる。ブレイオは被弾注意。
キトルベア: 中層以降で低確率で出現する熊。パンチや詰を使った物理攻撃が主。
アースモンキー: 山の中腹以降で遭遇する猿。名前に「アース」と付いているが、まだ魔法を使えないため、ただの猿である。
少し進むと、道が緩やかな坂になった。そういえば、坂道を上るタイプの地形はここが初めてだったな。
「ブレイオ。モンスターを見つけたら挑んで良いぞ。俺も、こっちに来たモンスターを狩ろう。」
「わかった。狼、見つけた。行ってくる!」
「おくたんは、いつもの通り採集な。怪しい所を見つけたら、スコップをたたいてくれ。」
ここからは、しばらく別行動だ。
ブレイオには、一通りモンスターの特徴を教えてあるし、図書室で本も読んだ。危なくなったら戻って来るように言ってあるので、うまくやるだろう。
そして、おくたんにはいつも通りの採集を任せる。なお、キトル山にも隠しお宝はあるので、探してもらう。ただ、こっちは種のような大事なアイテムではなかったはずなので、見つからないならそれでも良い。
では単独行動… 山道から外れたらどうなるか… 探ってみるとしよう。
まず、山道から外れた所だが、「鋪装されていない土」のような感じだった。土の硬さはバラバラで、ふわっとした土もあれば、ガシっとした土もあった。前者は腐葉土なのかもしれない。
それから、生えている木々は、ヒッツの森のように密集はしていなかった。触鑑定の結果も「キトルの木」というものだったし、普通に、木の後ろに回り込むこともできた。
「グルル!ガー!」
おっと、狼が飛びついてきた!
攻撃を受け止め、爆拳で迎撃!したら終わった。なお、触鑑定の結果は以下の通りだった。
山狼:
種別: モンスター・獣
レベル: 5
HP: 100%
状態: 敵対
説明: 山に生息する狼。足場の悪い地面でも柔軟に動き回ることができる。
さらに散策をしていると、虫の羽音が聞こえて来た。推定マウンテンモスだろう。
その音を観察していると、羽音が近づいてきた。なので、爆拳を振るってみたのだが、普通に避けられた。
それどころか、出した腕に何かが触れた。刺そうとしたが、刺さらなかったようだ。
俺は、陣気を発動。俺に密着しようとしていた何かを弾き飛ばした。結果、「マウンテンモスを倒した」というログが流れたことで招待判明。
それにしても、拳を避けるか。捕まえるのは難しいかと思っていたが、予想以上に厄介かもしれない。確かまとめウィキで推奨されていた対処法は「範囲魔法か、範囲攻撃に巻き込めば楽勝」だったか。どちらも持ち合わせが無いな。
ただ、陣気で処理できるなら、問題は無いだろう。もし、どうしようも無くなったら虫除けを探しておこう。
そう思っていたら、2匹目の羽音が聞こえた。そういえば、けっこう出るんだったか。
そういえば、吸血は直受けに… ならなかったな。さっき刺さらなかったのは、正々堂々の効果だろう。
とりあえず、まだ転回していた陣気をそのままにしてみた所、その羽音は勝手に近づいて勝手に弾け飛んだ。陣気が抜けるまで… は待てなかったのだろう。
「ブレイオがレベル8に上がりました。」
おっと。今のマウンテンモスの経験値かどうかはわからないが、ブレイオも順調なようだ。この辺りだと、1匹で20近い経験値が入るし、先日のアーマーアントも経験値をくれたからな。
その後も山の低層を徘徊しながら狩を続けていた。なお、山道から100メートルほどずれると、ヒッツの森のように通れない壁に行きついた。木々が密集していたり、大きな岩が地面に突き刺さって壁を形成していたりした。
「主人。毒消し、尽きた!」
「おっと。持たせていたのを使い果たしたか。これ、毒消し草な。」
「感謝。また行ってくる。」
ブレイオは時々毒になったため、毒消し草が役に立った。先日の仕分け依頼で大量にもらっていたし、おくたんがたまに採集してくるので、在庫切れの心配はしなくても良さそうだ。
この調子だと、その内「毒抵抗」が生えるかもな。確か、「毒を50回受ける」だったか…
「主人。疲れた~」
「たくさん戦ったようだな。一休みするか。」
「休む~」
時間が昼を過ぎた頃、さすがに疲れたブレイオが戻って来た。軽く串焼きでも食べようか…
そう思っていると、スコップをたたく音が聞こえて来た。おくたんが何か見つけたらしい。
音の方に近づいていくと、そんなに風が無いのに木の葉が揺れているような音が聞こえて来た。この音は、トレントの特徴だったはずだ。
「オォォー」
さらに近づいていくと、唸り声のような音が聞こえて来た。その後、何かがぽふぽふと体に触れた。トレントの魔法だろう。おくたんのいる方向とはずれているので、たまたま通りがかってしまったらしい。
とりあえず、音のする木の幹には近づいたので、纏炎からのパンチを打ち込んだ。
「トレントを倒した。ブレイオは経験値を21獲得しました。」
「ブレイオはレベル9に上がりました。」
弱点を突いたこともあり、一撃で倒したらしい。異様に音を出していた木は消えていった。幹が残るとか、そんなことは無かった。
それはそうと、おくたんはまだスコップを鳴らしているので近づいていった。結果、例によって隠し通路を塞いでいた木を発見。
おくたんに伐採してもらうと、宝箱があった。中身だが、「果樹の元」という肥料アイテム10個だった。一応、第4マップの街で買えるアイテムなのだが、俺には不要なものだ。あとで売ってしまうとしよう。
そんなお昼を過ごしてから2時間後…
「ブレイオがレベル10に上がりました。」
「ブレイオの進化が可能です。進化先を選択して下さい。」
ついに、ブレイオが進化できる時が来た。
俺は、進化ルートについてメニューから確認した。結果、いくつかの分岐が存在していた。
雷の若鬼:
種別: モンスター・鬼
説明: 雷を取り込んだ若き鬼。雷の力を身体エネルギーに展開することで、若くして強靭な肉体を操ることを覚えた。
雷の若鬼霊:
種別: モンスター・鬼・精霊
説明: 鬼と精霊との性質を併せ持つモンスター。幼体で培った経験を継承し、成長を続ける。
雷の若霊:
種別: モンスター・精霊
説明: 若き雷の化身。雷、並びに天候に干渉できると伝えられている。
どうやら、鬼、精霊への特価ルートと、現状維持のルートがあるようだ。
「ブレイオ。進化の希望はあるか?」
「わからない。主人に従う。」
「それなら、雷の若鬼霊だな。精霊は魅力的だが、肉体も欲しい。今まで通り、強くなろう。」
「わかった。それでいい。」
俺は、思考入力で進化先を決定した。すると、ブレイオのいた辺りから何かエネルギーが噴き出すような音がしてきた。動画で聞いたことのある進化の演出だろう。
噴き出したエネルギーは、足元から頭へ巡り、それから取り込まれていくような音に聞こえた。動画だと流れ込むというような印象だったが、ゲーム内で聞いてみると、上下に移動しているような変かも聞き取ることができた。3D音声もしっかりあったんだな。
「ブレイオは、雷の幼鬼霊 から 雷の若鬼霊 に進化しました。進化に伴い、能力値の再計算、並びに、技能が変化します。」
名前: ブレイオ
種族: 雷の若鬼精
レベル: 10
体力: 12
魔力: 24
筋力: 19
防御: 13
精神: 27
知性: 13
敏捷: 10
器用: 16
技能:
適性: 槌術13, 体術6, 魔法(雷13)
技術: 念話3, 魔力操作14, 魔棍生成11, 浮遊11, 投擲4, 受け身9, 危険感知11, 疾走18, 跳躍10, 安定移動15, 観察5, 電磁感応1
支援: 言語(人類), 世界知識, 視力強化(魔)
耐性: 吸収(雷)
特質: 精霊(雷), 半実半霊, 執着者, 若体
槌術: 強撃, 受槌, 振払, 連撃, 回転
体術: 強撃, 足払, 投落
雷: 雷球, 通電, 雷槍, 電縛, 雷波, 広雷2
電磁感応:
説明: 索敵技術の一種。体表に流れる電気から、存在の位置を感じ取る。
視力強化(魔):
説明: 「魔力視」とも呼ばれる。魔力の違いから物を見分けることができる。
若体:
説明: 成長途中の体。能力低下と引き換えに成長を促進する。
「主人!進化した。これからも一緒に旅する!」
声は、幼いゴブリンから普通のゴブリンくらいになった。ただ、身長はそれほど変わっていないように思う。
なお、あちこち行って確信したことだが、ブレイオは実態がある時でも無臭のようだ。汗をかかない… というよりは、実態がなくなる時の都合なのだろう。そして、その特性は進化しても同じだった。「鬼」ルートにしたら匂いが付くのだろうか?
それはそうと能力だ。
幼体から比べると、能力値は大幅に上がった。ただ、まだ成長途中であるようだ。
技能面では、新たに「電磁感応」と「魔力視」を習得した。
正直、開幕で「広雷」をぶっ放すなら、どちらも要らない節はある。ただ、そればかりすると他の技能が育たないので、通常時にはお世話になるだろう。