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翌日… 俺たちは、本格的に山を登り始めた。昨日は、夕方近くまで狩を続けて、夜は村に戻ったからな。
キトル山の低層では、レベル4~6のモンスターしか出ないので、レベル10になると、ほとんど経験値がもらえなくなる。なので、中層を目指すか、ダンジョンを見つけて入る必要がある。
とはいえ、襲ってきたモンスターは普通に狩る。今も、ブレイオがマウンテンモスを落としたようだ。マウンテンモスを正確に視認できるためか、俺と違って、的確に魔法で撃ち落としていた。
おっと、後ろから狼の声がする。こっちに来るなら俺が狩るとしよう。
「主人。狼来てる。狩る!」
どうやら、その必要が無いようだ。
若体になったことで、能力もレベル7程度の水準になったわけだが、攻撃力に限れば、レベル10近い水準はある。技能レベルはさらに高いので、第2マップのモンスター程度では相手にならないのだろう。
そんな感じで、山道に侵入したモンスターを狩りながら進んでいくと、水の音が聞こえて来た。山の低層と中層とを隔てる川があったはずなので、その音だろうか?
さらに進んでいくと、水の音は大きくなった。とはいえ、緩やかな小川と言って良い感じの音だった。
「ナビー。川は見えるか?」
「はい。川が見えています。近くにある橋を渡ることで、奥へ進むことが可能です。」
「そうか。川の深さはどのくらいだ?」
「冒険者ギルドの記録では、川の深さは60cm~90cm程度とされています。流れも緩やかであるため、遊泳が可能であれば、川に飛び込んで探索することも可能です。」
どうやら、ちゃんとした川であるらしい。では、一度おくたんを呼び戻し、川に潜らせてみよう。おくたんなら、流されて行方不明になっても何とかなるからな。
おくたんの召喚をやり直し、川の探索を命じた。おくたんは川へ突っ込んでいき、水の音に紛れて聞こえなくなった。水泳を始めたのだろう。
「主人。一休みする?」
「そうするか。近くにモンスターはいるか?」
「いない。モンスター、感じない。」
「そうか。そういえば、この先には狐が出る。もし気配を感じたら、近づかずに広雷を使え。ヤツの魔法は転がってでも避けろ。」
「土魔法、危険。わかった。」
この先から出現するマッドフォッグは、土属性の魔法を使う。ブレイオは種族的に特効であるため被弾厳禁だ。たぶん、土球が直撃すると、最低でもHPが8割は消し飛ぶだろう。
そういえばダンジョンを探っていなかった。ダンジョン発見機を使いつつ、ナビーに問い合わせてみよう。
「ナビー。この辺りからダンジョンへ行けるか?」
「はい。青色の光が差す方向にダンジョンがあります。先導可能です。」
青ということは、通常のランダムダンジョンか。ブレイオのレベル上げにもなるし、種が出れば俺の強化もできるだろう。
「わかった。もう少ししたらダンジョンへ向かう。先導してくれ。」
「了解しました。」
その後、俺たちはナビー先導の元、ダンジョンへ向かった。
ダンジョンは、端を超えた後、少し進んだ山道から外れた所にあった。
「ダンジョンの入り口に到着しました。入り口はここです。」
ダンジョンの壁に触れて内容を確認した。その結果…
粘体の沼地:
種別: ランダム生成ダンジョン
階層数: 6
残り時間: 38:11:47
残念ながら、ダメなやつだった。
俺たちの物理は打撃に偏っているので、粘体との相性が良くない。レベルのごり押しは可能だが、最下層に到達するまでにMPが溶けるだろう。
また、沼地とブレイオは相性が最悪だ。土属性が特効のブレイオが沼の中に入るとスタミナ消耗が重く、下手したらスリップダメージまで受ける。仮に霊体からの浮遊でやり過ごすとしても、今の技能では雷属性が沼の中にいるモンスターに届かない。
「ダンジョン 粘体の沼地 に入りました。現在1層です。」
ただ、せっかくだから、入り口付近で下見をすることにした。
「主人。沼地、スライムがいっぱい。」
「いっぱいというのは、スライムを感じ取っているのか?それとも、間近にたくさんいるのか?」
「近くにもいる。スライム、沼の中を泳いでる。」
ダンジョンの入り口付近は安全地帯なので、攻撃をしない限り襲われることはない。それに、ダンジョンに入った瞬間、沼にずっぽりということも無い。
ということで入り口から眺めてもらったのだが、スライムはしっかり沼の中を泳いでいるようだ。
沼地系ダンジョンの特徴は、地面の所々に大きな沼が存在していることだ。普通に道を塞いでいることもあるため、沼をかき分けて進むことは必須になる。
なお、「毒沼」や「底なし沼」もある。ただ、この世界には技能やステータスがあるため、対策することは可能だ。まとめウィキでは以下の対策が紹介されていた。
- 「魔法(水)」の中級で習得できる「水守」を使う。水の膜を張り、水中での活動に伴う影響をシャットアウトできる。
- 「遊泳」技能を習得し、筋力を30程度まで育てると、沼中でも水中と同程度の活動が可能になる。
- 視力強化や索敵系技能を習得することで、沼中でもモンスターに備えることが可能になる。
- 「毒抵抗」があれば、毒沼の影響を軽減できる。「毒耐性」まで育てれば無効化が可能。
- 沼探索用の装備(水着の一種)を用意する。沼を超える時にパージすれば良いし、沼地ダンジョンなら、そのまま最下層まで水着で駆け抜けるのも有効。
ただ、残念ながら今回は上に挙げた備えは不十分だ。特に、ブレイオはまだ水泳を経験させていないので、沼に入ったら詰むだろう。
ということで、今回は入り口からの下見と、ちょっとした実験を行なうことにした。
「ブレイオ。俺が熱縛をかけるから、広雷を使ってみてくれ。スライムへの効きを調べるぞ。」
「わかった。」
熱縛は、味方に使うと筋力、精神へのバフ効果になる。そこで、魔法による強化を加えた上で、最大火力の広雷を沼に放ってみよう。
そうやって、ズドーンと雷を落とした結果…
「主人。スライムたち、あまり効いてない。こっちに近づいてきてる!」
「やはりか。ブレイオ、近づいてきたやつから魔法で迎撃だ。沼には入るな。」
「わかった!」
残念ながら、威力の大半を沼に吸われてしまったようだ。おまけに、周辺のスライムを敵対状態にしてしまった。
ただ、沼の外で待ち狩りするなら問題は無い。所詮は第2マップのダンジョンだからな。
なお、このダンジョンで出現するスライムたちは以下の通りだ。
グリーンスライム: S2で踏んづけたことのある小さなスライム。
スライム: S3で踏んづけたことのある普通サイズのスライム。
クリアスライム: 透明なスライムで、ボーナスモンスターの類。倒すと多めの経験値や貴重な素材が得られるが、透過していて見つけにくい上、基本的に逃げようとする。今こっちに来ているスライムには間違いなく含まれていないだろう。
戦法としては、ブレイオが沼から上がってきたスライムを雷で迎撃。それでも近づいてきたスライムを俺が対応した。
スライムがくっついてきたら、陣気で吹き飛ばすか、纏炎からのパンチで倒していった。レベル6とか7とかのスライムなので、相手にならなかった。
スライムの殲滅を終えた後は、沼地を少し体験することにした。
俺は、ソルットでお世話になっている水着にパージして沼地に入り、遊泳を試した。結果、海水より粘土は感じるが、全く問題無く泳ぐことができた。
ここが、スライムの沸くエリアでなければ、良い訓練場にしたかもしれない。天然の沼地が存在するマップは、確か第7マップだったはずなので、当分はお預けになりそうだ。
なお、ブレイオも、少し沼地で遊ばせてみたが、やはり、思うように動けなかった。筋力がまだ20に届いていないし、水泳技能も持っていなかったため、膝の辺りまで沼にはまると、脱出することが困難になったからだ。おまけに、スライムが寄ってきているという話も聞いたので、撤退も止む無しだった。
「主人。狐見つけた!」
「見つけたということは、あっちも気づいているだろう。やれ!」
その後、俺たちは山登りを再開。時より、ゴロゴロ、ドッカーンという音を出しながら、襲ってきたモンスターを薙ぎ払っていった。
なお、音のわりには、一撃で倒せたモンスターは、マウンテンモスだけだったりする。アースモンキー、マッドフォッグ、トレントは雷に耐性があるし、その他のモンスターは体力が高いものが多いので、今のブレイオの精神では火力が足りない。
「ブオォォ!」
おっと、この声は、キトルベアか?動画で聞いたことのある声だ。
「ブレイオ、戦ってみるか?」
「わかった。挑む。」
「魔法も使って良いぞ。アイツは硬いからな。」
「わかった。」
キトルベアは肉弾戦特価で、防御力も高い。ブレイオが物理で挑むなら、相性は微妙な所だ。
なので、必要に応じて魔法も使うように指示した。
「ブオォォォォォ!」
「キトルベアを倒した。ブレイオは経験値19を獲得しました。」
殴る音やバチバチとした音が聞こえたが、どうやらブレイオが勝利したようだ。
なお、ブレイオも残りHP17%まで減っていた。どうも、キトルベアに接近されて、距離を離すのがうまくいかなかった様子。
そんな戦いをしながら、山を登って行き、夜が近づく頃…
「キトル山、頂上が近づいてきました。」
ナビーから、この山のフィールドボスとのバトルが近いことが通知された。
「ブレイオ。今日はここで休んで、明日、先へ進むぞ。」
「わかった。主人、テント張る?」
「もちろんだ。寝込みを襲われたら大変だからな。」
ただ、残念ながら夜も近い。正直、フィールドボスは相手にならないと思うが、油断せず、朝まで休んでから挑むとしよう。どうせ、今から倒して街に入っても、食堂が混雑して使えないなら意味も無いからな。