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時刻は15時を過ぎた。
「ナビー。この街の施設について教えてくれ。」
「ノンノリアには冒険者ギルド、武具屋、雑貨屋、調薬所、錬金術店があります。また各所に露店も出店しています。」
ノンノリアで変わったお店と言えば「調薬所」だ。主な機能は「ポーション専門店」であり、復活薬などの貴重なポーションが購入可能だ。
また、素材を持ち込むことで、店に無いポーションを作ってもらうこともできる。当然ながら、調薬系のプレイヤーがいれば不要なのだが「伝手が無いならNPCに依頼できる」施設ということだ。
なお、俺はそれとは違う理由でもここには行きたいと考えている。まぁ、何も無くても訪れるだろうけれど。
上記を踏まえた上で、今回やることのリストを作ってみた。
- 召喚関連で資金が溶けたので、資金稼ぎ。ダンジョン探索や依頼をこなすべきか…
- 周辺でブレイオのレベル上げ。目標レベルは18、できればダンジョンで20まで。
- 店舗や露店をめぐり、掘り出し物を探す。調薬所には用事がある。
- ブレイオが育ったら、約束をしていたので、アステリアさんと「E4 トマの塔」へ登る。
- 山を下り、北の第4マップへ向かう。
25万まで貯めた資金は、ブレイオ入手の代金に消えている。第5マップで装備更新を予定しているので、同じくらいまで戻したい所だ。
このため、第1優先事項に資金稼ぎを持って来ている。現在の資金だと、掘り出し物があっても買えない可能性があるからな。
「なぁ、そこのあんた?ちょっといいか?」
当面の目標を考えていたら、男に肩をたたかれた。
「ん?なんだ?」
「あんた、拳士でいいよな?」
「職業か?それなら、武僧だから間違ってないな。」
「そりゃいい。ちょっと腕相撲しようぜ!」
「腕相撲?」
「腕っぷしを見たいんだ。腕が良ければ、狩場ダンジョンへ誘うぜ。」
どうやら、近くにあるダンジョンへのお誘いらしい。腕っぷし確認の手段として腕相撲をする理由は不明だ。
ただ、狩場に関しては、ちゃんと戦える相手が出てくる場所なら、資金稼ぎという意味でとても魅力的ではある。
「場所と、名称は何だ?」
「そこに掲示されてるぜ。場所は、北に少し降りた所で、名称は鳥の広場だ。」
(ナビー。冒険者ギルドに、ダンジョンの情報は掲載されているか?)
(はい。キトル山 北部に、ランダムダンジョン 鳥の広場 が出現中と掲載されています。また、明日中には消えてしまうようです。)
どうやら、本当にギルドに張り出されていた狩場ダンジョンらしい。思考入力でナビーに問い合わせて、情報を得ることもできた。
そこで考えてみる。「鳥の広場」なので、出現するモンスターは鳥尽くしになるはずだ。
出現が考えられる鳥は、ラッシュバード、ヌーンアウル、プヨどり、ミドリガラス、ウィンドファルコン、チックシーフなどだ。西の洞窟にいるコウモリ系も出現する可能性はあるか…
うん。とても安定して狩ができるだろう。第3マップ仕様なら、一番多いのはラッシュバードとヌーンアウルになるはずだ。その他の鳥も、はっきり言って危険なヤツはいない。
「なるほど。確かに良さそうだな。あとは分配だが…」
「特になしで良いんじゃねぇか?誰が何匹倒したとか考える暇が無いぜ。」
「それもそうか。俺としても、その方が気楽で良い。」
「取り分を決めない」というのは、「パーティを組んでいる時のドロップルールに従う」ということだ。パーティを組んでいると、モンスター討伐時のドロップ判定は全員にある代わりに、人数に応じて一人当たりのドロップ率が低下していく。その確率判定に任せ、偏りがあったとしても文句を言わない、と解釈できる。
「じゃ、行くぜ!腕っぷしを見せてみな~!」
「おっと、もうやるか。腕相撲の強さはあまり関係ないと思うけどな。」
話が進んだと思ったら、腕相撲が勃発した。確か、腕相撲は「体力」と「筋力」で勝負が付くんだったか…
そうやって5人と腕相撲した結果、普通に競り勝った。理由は、レベル差だった。
拳士 A:
レベル: 20
種別: 獣人・熊
性別: 男
職業: 拳士
称号: 下級拳士
説明: キトル山を拠点に活動している冒険者。
識別:
筋力: 54
上の人が一番レベルが高かった。だが、武僧である俺よりも筋力が低い。おまけに、俺と彼とでは、称号に差がある。
俺がセットしたのは「中級拳士」だ。こうなると、少々のベースの差ならひっくり返せてしまうのである。
なお、レベルも同じ、且つ、称号も同じになると、普通に負けるだろう。武僧は拳士より筋力の基礎値が低いのだ。おまけに、熊獣人は体力と筋力がヒューマンより高いのが普通なのだから。
「あんた強いじゃねぇか。俺の腕が負けるのは久しぶりだぜ。」
「俺はトマの塔を登っていたからだな。それ以上強くなりたければ、北の試練に挑むことだ。」
「違いねぇ。だが、あんたなら合格だ。一緒に狩場へ行こうぜ!」
なお、この5人、触鑑定によって、全員が拳士だと判明している。きっとこだわりがあるのだろう。
「それにしても、なぜ俺を誘うことにしたんだ?」
「そりゃもう、あんたが拳士に見えたからだぜ。枠の方は、今日は急用で来れなくなっちまってな。」
「来れなくなった人が拳士だったので代わりを探していたと?」
「そういうことだぜ。俺たちは拳士パーティだから、できるだけ同じ系統で揃えたいのさ。」
拳士パーティ宣言しちゃった。スライムの洞窟とかで盛大に詰みそうだが、まぁ俺の知ったことではないか。
鳥の広場共闘戦:
種別: 突発クエスト
依頼主: ディーン (冒険者パーティ: スピリットフォース)
内容: ディーンたちと共に、「N3D 鳥の広場」に挑み、可能な限り多くのモンスターを倒す。
報酬: モンスタードロップ率増加(小)
納期: 不定
注意: なし
そして、上の突発クエストが発生した。
ただダンジョンに潜って狩り続けるだけなので、問題になるような条件は無い。「納期」が不定なのは、ダンジョンの残り時間と、入るタイミングしだいだからだろう。
なお、報酬にある「モンスタードロップ率増加(小)」は、「パーティメンバーの人数に応じて低下するドロップ率が緩和される」というものだ。本来の6人パーティでのドロップ率は「一人当たり 25%」になるが、これが「一人当たり 35%」に増える。
こうなると、できるだけ大量に狩ることが望ましいだろう。幸い、ブレイオが大量殲滅に適した魔法を覚えているからな。
「わかった。同行しよう。」
「さすがだぜ!よろしくな!」
「あぁ。だが、準備や作戦は大丈夫か?すぐにやられたら得られる物も少なくなるぞ。」
「回復手段はたんまりあるぜ。俺たちのパーティーにヒーラーはいないからな。」
「そ そうか。あと、作戦はどうする?」
「作戦?倒れるまで個人で狩まくるでいいんじゃねぇか?群れも分散してくれた方が動きやすいしよ。」
分散させて狩るのは確かに大事だが、深くは考えていないようだ。というか「回復手段たんまり」というのも、わりと納金な思考だろう。理解はできるが…
いや、全員が拳士なので、考えてもどうにもならないか。相手が鳥である以上、上空からも突っ込んでくるし、レベル的に、走り回ってトレインするのも厳しいだろう。
あと、俺としても個人プレイの方が気楽である。ブレイオはともかく、俺は放置してもらった方が安定もするからな。
「なら、これを使おう。モンスターの侵入経路を絞れば狩りやすくなるからな。」
「ん?魔除けの葉か!だが、そこまで甘えて良いのかい?」
「俺は、今資金不足気味でな。どうせ挑むならしっかりたっぷり稼ぎたい。それとも、時間無かったか?」
「そういうことなら良いぜ。俺たちも、たくさん狩りたいからな!」
ということで、急遽、拳士5人というパーティに誘われて、ダンジョンで暴れることになった。
ただ、資金稼ぎという点では、とても美味しい狩になるだろう。それに、鳥に雷はよく通るので、ブレイオのレベル上げが捗る。
「おっと。こいつは拳士じゃないが同行させて良いか?どちらかと言うと魔法で一掃する担当だな。」
「そいつは?従魔か?良い面してるじゃねぇか。」
「ん?主人、この人たちは?」
「おい、しゃべれるのか?すげぇな!」
実は、ブレイオは休憩のため一度帰還させていた。ギルドの外に出たら召喚を… と考えていたのだ。
そして、ブレイオの周りに5人の拳士が!という状況を作ってしまった。やはり、外に出てから召喚するべきだったか…
「ブレイオ。近くのダンジョンでモンスターの大群と戦うぞ。物凄い量が出るから、最後まで生き残るのは難しいが、相応に経験が積める。」
「わかった。それで、この人たちは?」
「そのダンジョンに誘ってくれた人たちだな。方向が同じだから一緒に狩りしよう、といった所だ。」
「わかった。たくさん狩る。」
とりあえずブレイオにも話を付けた。では、さっそくダンジョンへ向かうとしよう。
ちなみに、彼らのパーティ名は「スピリットフォース」だった。てっきり「拳士集団」とか「マッスルファイターズ」とか付けていると思った。尤も、今回の狩において、パーティ名は意味を為さないので、どうでも良い話ではある。
メンバーは、熊獣人拳士のディーン、狼獣人拳士のリンク、象獣人拳士のパニ、ヒューマン拳士のイシュター、山ドワーフ拳士のポロロだ。なお、今回不参加の人は、山エルフの拳士らしい。
拳士系統であれば、人種も性別も特には気にしないとのこと。とはいえ、6人全員がこのキトル山で活動して意気投合した関係なので、当面は固定メンバーで行くらしい。当然だが、俺は山以外にも行きたい場所があるのでこのパーティに参加する予定は無いぞ。