09-02 N3D 鳥の広場、13時間の狩り

改定:

本文

「N3 キトル山 北部に入りました。」

舞踏集団「スピリットフォース」と俺の6人は、ノンノリアの北出口から外に出た。

現在の時刻は17時…

本当は、この後は観光をして終わりにする予定だった。

そして、明日から街で依頼をこなしつつ、ソルットの浜辺で水泳と走り込みの予定だった。ブレイオが遊泳を獲得できるか試したかったこともあるが、それ以上に、俺自身の技能が進化に近かったからだ。

とはいえ、その辺りはこの狩が終わってからでも良いだろう。観光も浜辺も逃げないが、狩場ダンジョンは消えてしまうからな。

「猿と熊の臭いだ!あっちから来るぞ!猿は複数、熊は1匹だ!」

「見えたぜ。猿3匹だな。リンクとイシュターは猿を抑えろ、俺たちで熊をやるぞ!」

前方からそんな声が聞こえて来た。

犬獣人のリンクは嗅覚を用いた索敵技能を習得している。正確な数はまだわからないらしいが、霊体のような特殊なモノ以外は、ほぼ完治できるとのこと。

「ブレイオ。お前はモンスターの気配は感じていたか?」

「4匹がこっち来ていた。犬の人が臭いで見つけたモンスター。あと、離れた所に3匹いる。でも、動いていない。」

「なるほど。その4匹を、見るのではなく、電磁感応で感じ取ってみろ。何か違いはあるか?」

「それ、必要?もう見えている。」

「将来のために必要だぞ。今は前の彼らが戦ってくれるが、ずっと一緒ということは無いからな。」

目の前の戦闘に関しては、5人でボッコボコにして終わるだろう。先ほど、鑑定をさせてもらったが、5人ともレベル相応には育っているし、装備も第3マップ仕様だった。しかるべき準備さえすれば、N3フィールドボスだって狩れるはずだ。

なので、この機会に、ブレイオには観察や感知技能の育成をしてもらう。どうせ、戦闘技能は、この後のダンジョンで育つからな。

「違い、わかった。猿は、細くて小さい。熊は、太くて大きい。」

「それは、電気の流れのようなものか?」

「そう。電気の流れ。」

「なるほどな。その感覚と同じものが、まだこっちに来ていない3匹のモンスターにはあるか?」

「1匹は熊と同じ。残り2匹は、違うモンスター。」

「合格だ。あとで、残り2匹が何者か、会ってみような。」

「会う。倒す。」

索敵や感知は、危険やモンスターを事前に知るために役立つ技能だが、「何かある」だけでは不十分だ。「天敵のマッドフォッグがいる」とか、「毒ガスの罠がある」のように、危険である理由が考えられるための情報とセットであることが望ましい。

索敵や感知系の技能を育てていくためには、こうした考え方の転換が必要になる。実際、この考え方に至らないと、索敵や感知技能は一定のレベルから上昇しなくなることが報告されている。

「主人。別の猿が2匹、こっち来てる!」

「他のモンスターも連れたか。なら、俺たちで倒そう。」

キトル山の北部で出現するモンスターは、俺たちが登って来たキトル山南部とほとんど同じだ。もちろん、レベルは上がっているが、戦い方に違いは無いため、倒すのは容易い。

その代わりに、エンカウント率自体が上がっている。複数体で襲ってくるし、戦闘中に乱入されることもある。このため、処理にもたついていると物量でやられる場合があるのだ。

「キーヤーッ!」

「モンスターの群れを倒した。ブレイオは経験値78を手に入れた。」

どうやら、猿3匹+熊の方も終わったようだ。

なお、6匹も狩ったのにブレイオが得た経験値が低いのは、現在6人パーティなためだ。獲得経験値が通常時の25%に下がっている。

「ダンジョン発見。確か、ここだったはず。」

「鑑定できたぜ。鳥の広場、残り時間は13時間だ。」

そんな話をしながら進んでいたら、ダンジョンに到着したらしい。ナビーもダンジョンの近くに到着したと言っているので、例のダンジョンで良いだろう。

それにしても13時間か。ノンノリアから2時間もかからなかったのは良いが、現在18時。ログイン時間のリセットは必須として、そこからサバイバルというのは、気張る必要がありそうだ。

「皆、少しだけ待っていてもらえるか?すぐに戻る。」

「待つ?かまわないぜ。腹ごしらえをしたいからな。」

「助かる。」

俺は、いつものスモークテントを展開して、いったんログアウト、そして、ログインをやり直した。これで、ログイン時間をリセットできたぞ。

「待たせたな。」

「5分も経ってないぜ。テントを出した時は、何か準備かと思ったが」

「まぁ準備と言えばそうだな。このダンジョンで、限界まで戦い続けるための準備だ。」

なお、テントから出る前に携帯食を食べるなどして、満腹度も満タンまで戻してある。13時間の戦闘だと、途中でさらに補充が必要になるだろうけれど…

「よっしゃ。突撃だ!」

ディーンの声に続き、俺たちはダンジョンへと突入した。

「ダンジョン 鳥の広場 に入りました。」

「うぉー!見渡す限り鳥だ!」

「狩るぜ、狩るぜ!突撃だー!」

そして、スピリットフォースの拳士たちは突撃していった。彼らのプランは、中心部に魔除けの葉で丸く囲んだ陣を形成し、隙間から入った鳥を迎撃したり、緊急避難場所として使ったりするそうだ。

「ブレイオ。周辺を魔除けの葉で囲んで、正面からしか来れないようにしてくれ。」

「わかった。」

一方の俺はブレイオに指示。素早く魔除けの葉を配置して、進路を限定しておく。

「主人。置いた。」

「よし。まずは広雷を一発打ち込んでやれ!その後はいったん俺の後ろな!」

そして、まずは一発ドカンとやってみよう。

そんなことを考えていると、正面に何かが落ちて来た。さっそくのラッシュバードなようだ。

ただ、地面に落ちた鳥の処理はブレイオに任せて、俺は前方から来る鳥に集中しよう。俺が動くと、後ろのブレイオに被害が出かねないからな。

そして、ここで広雷が炸裂!

「モンスターの群れを倒した。ブレイオは経験値406を獲得しました。」

どうやら、20匹以上の鳥が一撃で吹っ飛んだようだ。

鳥系モンスターは雷が弱点な上、紙耐久なものが多い。おそらく、俺の予想通りのモンスターしかいないなら、この数も納得である。

「ピー!ピー!」

おっと、いつの間にか正面にウィンドファルコンがいた。あれを耐えて突っ込んできたらしい。掴んで触鑑定したらHP51%と微妙だったので、掴撃と振討で倒しておく。

その後、肩をつついてきたチックシーフや、正面から突進してボイ~ンってなったプヨどりなどを倒していった。

「主人。広雷使える!」

「よし。もう一発だ!」

そして、クールタイムが開けたら再び広雷炸裂。ブレイオのレベルが目標に達するか、MPが切れるまではこれを続けてもらう予定だ。

一方、こちらはスピリットフォースの面々…

「すげぇ雷だぜ!鳥たちがボトボト落ちていくぞ!」

「定期的に落とすと聞いていたが、マジでアレ連発できるのかよ!」

「ユーさんたちには負けていられないぜ。リンク、イシュターは落ちたヤツをやれ!俺たちはポップした鳥だ!」

「おぅ。梟に気をつけろよ!」

ブレイオが定期的に雷を落としてモンスターを殲滅してくれる。これにあやかりつつ、自分たちも狩を進める必要はある。

雷を受けて地面に落ちたモンスターは、瀕死であったりマヒしていたりする。だが、HPが残っていることには違わないため、それらは倒さなければならない。倒さないと、新たなポップが起こらないのである。

「それにしても、ユーさん硬いな!鳥の突撃を正面から弾いているぜ!」

「おぅ。さっきぶつかられたが、あの鳥、勢いと攻撃力は本気だぜ。ユーさんの真似は無理だ。」

「ポロロがそんな感じなら、俺たちじゃ吹っ飛ばされそうだな。まぁ、避けてしまえば良いだろう?」

「違いねぇ。むしろ、打ち返してやるぜ!」

そうして、時より雷が鳴り響くフィールドでの狩は進んでいった…

だが、途中からおかしなことに気づいたのだった。

まず、例の鬼だが、雷が途絶える気配が無いのだ。

あれほどの魔法を使うと、MPが足りなくなる。もちろん、MPポーションを飲んでいる様子が見られたので、回復もしているのだろう。だが、それにしても雷を落としまくっている。

そして、それ以上に不思議なのはユーだ。ラッシュバードの突撃でさえ、全く効いていない。先ほど衝突されたパニが瀕死になったというのに…

もちろん、俺たちとユーとでは、レベルも強さも違う。それは、腕相撲の結果からも明らかだ。拳士より腕っぷしが強い武僧とは、すなわち、明らかな格上であろう。

とはいえ、今は喜ぶべきことだ。なぜなら、これだけ戦えれば俺たちも成長できるし、素材もたっぷり手に入るからだ。

戦い始めて8時間ほど経過した時…

「主人。疲れた~。」

「そうか。また休んでいろ。」

「わかった。帰還して休む!」

ブレイオは、レベル18まで上昇した。

休憩を挟みつつ、広雷を60回くらい落として、鳥の群れを殲滅しまくったからな。少なくとも、ブレイオだけで1000匹は狩っているだろう。

そこから30分後… 鳥の勢いが増して来た。どうやら、さすがの拳士軍団も全滅したらしい。ブレイオの広雷が、それだけ猛威を振るっていたと言える。

そうなると、周囲がピーチクパーチクと賑やかなことになる。でも、俺のやることは変わらない。突っ込んできた鳥をひたすらに狩っていった…

「ダンジョン消滅まで残り1分です。」

ついに、ここまで生還できてしまった。

なお、ブレイオも復帰してさらに広雷を連射してくれた。結局、レベル19まであと半分… といった所まで上がった。

その後は物理でがんばっていたが、さすがに被弾が重なって退場してしまった。

「鳥の広場が消滅します。ダンジョン出現地点へ転移されます。」

「称号 戦闘狂、サバイバーを獲得しました。」

「N3 キトル山 北部に入りました。」

戦闘狂:

説明: モンスターの群れに臆することなく戦い、全てを下す狂気を称える称号。

常時効果: 恐怖耐性(微)。

セット効果: モンスター発見時に挑発効果、HP、MPを回復(微)。

サバイバー:

説明: 長時間を超える連続戦闘で生き残った知略を称える称号。

常時効果: 回復アイテムの効果上昇(微)。

セット効果: 回復系技能の効果上昇(小)。

たくさん狩った。素材は… 1000個以上も入っていた。これなら、資金を大幅に戻せそうだ。

その影響で、「戦闘狂」なんて称号が生えてしまった。狩場ダンジョンで暴れる時に使えばそれなりに効果が見込めるだろうか…

なお、ナビーに数えさせた結果、今回俺たちが狩った数は3000匹超だ。数だけ示すととても多いが、世の中、上には上がいるものだ。

まとめウィキにある「狩場での最大討伐数」は、約20万匹なのだ。「潤沢なMPリソースを用意したゴーレム軍団が、広域殲滅魔法を連発して、15秒毎にフィールド中のモンスターを一掃する」という方法が用いられたらしい。当然、そんなプレイングをすると「殲滅者」という称号がもらえるぞ。